俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第36話

「あーもう! 俺も梨子と作詞が良かったなぁ」

「文句言わない」

 

 隣で楽しそうにミシンで作業しながら、曜が言う。今、俺は曜と一緒に堕天使衣装の作成をしているのだ。ちなみに二階の千歌の部屋では千歌と梨子が一緒に作詞をしている。俺には千歌が羨ましい。くぅ〜、千歌、そこを代わってくれ。

 

「曜だって俺なんかより幼馴染の千歌の方がいいだろ?」

「口ばっかり動かしてないで、作業は進んでるの?」

「もちろん。ほら、終わってる」

「はい、じゃあ次はこれを裁断してね」

「へーへー」

 

 曜から次の布地を受け取る。黒の生地の上、赤いチャコペンの線の脇には"梨子ちゃんのスカート"と書かれている。ふむ。これが梨子のスカートの生地なわけですね?

 裁ちばさみを線より少し内側に入れる。あと1センチでいい。それだけ短ければ、きっと梨子の恥じらいの姿が……。

 

「……何してるの」

「……あれ、ずれてるや。ちょっと目が疲れて」

 

 隣でミシン縫いをしている曜から、冷たい視線が飛来する。俺は目をこすりながら、苦笑いでごまかす。

 

「あのねー。長さが変わったら、こっちが大変なの」

「了解です」

「まったくもう。モテるからって、調子に乗らないでよね」

「すみません」

 

 しょうがない。ちゃんと指定された場所にはさみを入れよう。

 俺ははさみで布を裁断しながら、曜に話しかける。

 

「って。モテるってなに、嫌味?」

 

 ミシンの音がやむ。気になって顔を上げてみると、曜は顔をひきつらせながらこっちを見ている。

 

「それこそ嫌味だよね」

「いや、たしかに告白されたことはあるけれども」

 

 しかし一回である。つい先日、善子ちゃんから。それでモテると言われても。

 

「……はぁ、だからそれが嫌味なんだけどなぁ」

 

 曜はわかってないなぁ、とでも言いたげに首を振る。そして盛大にため息をつく。

 

「それで? 善子ちゃんはどうするの。付き合うの?」

「うーん……」

「まだ悩んでるんだ」

「そりゃ悩むさ」

 

 善子ちゃんに告白されて数日。告白された次の日に相手は匿名にして曜に相談したのだが、直後に早速バレる。でもしかたない。あれは善子ちゃんがあからさま過ぎたのだ。

 

 

 *

 

 

「な、なな凪沙先輩!? なんでここに!」

 

 曜を除くAqoursのメンバーに囲まれていた善子ちゃんが壁際まで退く。黒いローブ、魔法陣の描かれた風呂敷、手持ち式の燭台といった善子ちゃんの私物が辺りに散らかる。

 

「いや、なんでって」

 

 それはこちらの質問である。ここはスクールアイドル部の部室であって、俺はそこの部員。善子ちゃんは部員ではない。むしろ君がいる方が不自然なわけである。というか何その儀式用具一式は。いつからここはオカルト研究部になったのだ。

 

「あのね、涼君はうちの部員なの」

 

 梨子の説明に、善子ちゃんは口をあんぐりと開ける。はらりと、シニヨンに刺した黒い羽根が舞い落ちる。

 

「話してなかったっけ?」

「知らないわよ!」

 

 はい、ダウト。昨日屋上の練習を見ていただろうに。聞いてなくても、少なくとも知ってはいるはず。

 

「まあいいや。とにかく、俺はここの部員だぞ」

「ふ、ふーん。そうなんだ。ここで会ったが百年目ってやつね」

 

 善子ちゃんの言葉に、マルちゃんがつっこむ。

 

「善子ちゃん、それはちょっと違うような……」

「ズラ丸は黙ってる!」

「ず、ずら!」

 

 善子ちゃんの剣幕に、マルちゃんの背が縮む。続いて善子ちゃんは俺を見て、梨子を見て、そして再び俺を見て。

 

「そういうことね」

 

 納得顔でしきりに頷く。ねえ。今、俺が梨子目的で入部したと判断したでしょ? だいたい合ってるけども。

 

「ところで、どうしてりょー君にそんなに驚くの?」

「なんでって」

 

 千歌の質問に、善子ちゃんは目をそらす。まあ、言えないだろう。実は告白した相手なんです、なんて。しかも返事待ち。

 なんというか、顔を合わせるのが気まずい。その気持ちはよくわかる。だからこそ、これまで俺は告白もできないでいたわけで。

 

「嫌いなの?」

 

 善子ちゃんが首を振る。

 

「じゃあ好きなの?」

「そそっ、そんなわけ! す、好きじゃないし!? 私が凪沙先輩に告白するわけないじゃない!」

 

 カンカンカンカンカンッ! 今、脳内で試合終了のゴングが鳴り響いた気がした。裏返りすぎ、動揺しすぎ。あからさまなオーバーリアクション。これ、わかる人にはわかってしまうんじゃないの。例えば、さっきから人の脇を小突いてくる曜とか。または人の耳元で『へぇ、そうだったんだね』なんて呟いてくる曜とか。つまり曜にバレた。

 ——梨子は。

 彼女の方を見る。その瞬間、はっきりと視線がぶつかった。梨子がこちらを見ていたのだ。

 けれどすぐに梨子は目をそらす。

 

「とりあえず。堕天使アイドルを試してみるんですよね?」

「堕天使アイドル?」

 

 自分が喋っても大丈夫か不安なのか、おずおずと確認をするルビィちゃん。俺と曜は首をかしげる。いや、なんとなく想像はできるんだけども……。

 

「そう、堕天使!」

 

 千歌が両腕をパッと広げる。

 

「私たちって、"普通"でしょ? だから何か、インパクトのあるものが必要なんじゃないかって」

「インパクトねぇ」

「面白そうだね!」

 

 曜は乗り気。まあ、そういうのもたまにはいいのかもしれない。

 

 

 *

 

 

 部屋の隅にハンガーでかけられた黒を基調とした衣装。堕天使風アイドルのコスチュームである。現在完成しているのは四着。善子ちゃんは自前のものがあるから、残りは今曜が作っている一着のみ。

 最後の一着はルビィちゃんの衣装。他の四人より白の割合が多く、堕天使の衣装というよりメイド服。

 その最後の一着も滞りなく完成し、ハンガーにかけると曜は満足そうに頷く。

 

「なんだかコスプレ感があっていいね!」

「好きなの、コスプレ」

「そうだよ」

 

 あー、そういえばそんなことを以前聞いたような気もしなくもない。

 しかしメイド服か。メイドと聞いて思い出すのはかの秋葉原の伝説のメイド、ミナリンスキー。どうでもいいけど、最初はことり姉さんだとは思わなかったな。ほら、ミナリンスキーだし。みなりんすきー。みな、凛好き……くしゅん! 寒い、夏風邪でもひいたかな。あ、このことは絶対に凛姉さんには言ってはいけない。引っ掻かれるぞ。

 

「涼君もやってみる? コスプレ」

「誰得だ、それ」

 

 別段コスプレするのが好きなわけでもないし、梨子のような美少女ならまだしも俺みたいな男子がコスプレしたところで誰か得をするのか。

 

「得する人ならいるかもよ?」

「どこに」

「だって涼君は、梨子ちゃんのコスプレ見たいよね?」

 

 梨子のコスプレ……?

 パパッと思いついたメイド服と梨子の姿を合成。コンピューターも驚きの速度で画像を作成。

 ロングスカートの正統派メイド服。それを着た梨子は体の前で両の手の平を重ね、お辞儀をする。……控えめにいって雇いたい。

 いや、ミニスカメイド服も良いかもしれない。曝け出される梨子の肢体。白いそれとは対照的に恥じらう顔は紅く。そして彼女は困った様子でこう言うのだ。

 

『あ、あんまり見ないでね?』

 

 ごめん、凝視不可避です。

 

「もちろん見たいよ」

「でしょ。同じだと思うけどね」

「どういう理屈なの、それ」

「涼君は梨子ちゃんのことが好き。好きな梨子ちゃんのコスプレが見たい。でしょ?」

「ああ、そっか。善子ちゃんは俺のことが好きなのか」

「……なんでだろう、今すごく涼君を叩きたいと思っちゃった」

「曜、怖い」

 

 なんだか今にもハイライトの消えそうな目。二、三歩退いた俺を見て、曜はクスクスと笑う。

 

「かっこ悪い、チキンさんだね」

「うるさい」

 

 とは口で言いつつも、そんなことは自分でよくわかっている。長年、フラれるのが怖くて告白できていない俺を臆病と呼ばずしてなんというのか。しかも今、この臆病者は自分のことを好きだという女の子の返事を保留にしている。保険として。

 彼女は俺のどこが好きなんだろう。まったくもってわからない。

 

「ほんと、なんで好きなんだろうね」

「なんでなんだろうな」

 

 

 *

 

 

「ごちそうさん」

「あ、みかんあるよ。食べる?」

「じゃあ頂こうかな」

 

 日も暮れる時間となり、曜と梨子は帰宅。今日は志満さんは町内の集まり、美渡さんは残業だそうで。旅館には客がいないし、ここにいるのは俺と千歌だけ。言葉にすれば妖しいが、実態はぐうたら高校生がジュース片手に愚痴り合いである。

 

「もっとこう、華やかなものはないのかなぁ」

「ないなら作るしかないだろ」

 

 現に古い伝統しかない学校に新たな風をもたらした人たちはいる。

 

「それが難しいんだよね……」

 

 千歌がテーブルに突っ伏す。脇には真っさらなノートが一冊。

 

「歌詞、進んでないのな」

「うん。梨子ちゃんに怒られちゃった」

 

 千歌は身を起こし、梨子の声色を真似て続ける。

 

「『千歌ちゃん! 寝てないで考えてよ!』って」

「……寝てたのか」

「いやぁ、最近徹夜で考えてるからね? 授業中も寝ちゃうんだ」

「あのな……。いいか、千歌。それで成績落ちて、部活動停止なんてなったら、元も子もないぞ」

「うっ……だ、大丈夫! 『今夜は月が綺麗ですね』は『I love you 』!」

「それだけ覚えててもダメだろ」

「だよね……」

 

 再びテーブルに突っ伏す千歌。アホ毛も重力に逆らえず、ふにゃりと垂れ下がる。なんとなく彼女の頭にみかんの皮をのせてみたら、という好奇心が湧くが必死におさえる。そんなふざける雰囲気ではない。

 

「ほら、寝不足はお肌の天敵ともいうし。仮にもアイドルなんだから、そこらへんには気をつけないと」

「わかってるけど」

「わかっているのなら、実行する。いつまでもあーだこーだ考えてたって、しょうがないだろ?」

「それ、りょー君に言われたくない」

「うるさい」

 

 まあ、実際みんなそうなのだろう。わかっていても、すぐには行動に移せない。それが普通だ。たいてい、人はそうなのだ。俺を含めて。

 でも。それでも。

 

「千歌。お前は普通じゃない。だから大丈夫だよ」

「……それ、プラス評価?」

「もちろん」

 

 彼女は輝きたいと言った。そしてすぐに実行に移している。今こうして、必死に輝こうとしている。その時点で、彼女はもう普通じゃない。

 俺には千歌が眩しい。








EXQの梨子ちゃんはなんであんなにスカートをめくってるの。とてもすばらゲフンゲフン、けしからんと思います。
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