俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第38話

「破廉恥ですわ!」

 

 黒澤ダイヤ。この浦の星女学院の裏から仕切るドン(大嘘)、つまり生徒会長は思いっきり机をたたく。生徒会室の一辺に並ばされた俺とAqoursのみんな、そしてゲストの善子ちゃんはたじろぐ。

 

「ふざけているんですの?」

「違います、私たちは真剣に」

「真・剣っ! なおさらたちが悪いですわ。この動画のどこがスクールアイドルだというんです?」

 

 生徒会長激おこぷんぷん丸。彼女は自身のパソコンを開き、件の動画を再生する。

 流れたのはルビィちゃんのシーンだ。

 

『ヨハネ様のリトルデーモン4号、黒澤ルビィです。一番小さい悪魔……可愛がってね!』

 

 上目遣いもじもじからの決めポーズ。か、かわいい……じゃなくて、あざとい。さすがアイドル好き。人の心を射抜く術を会得しているようだ。コメント欄にも『ルビィちゃんかわいい』とか『ルビィちゃんと一緒に堕天する!』だとか。とりあえずルビィちゃんのことばかり。

 俺は右隣のルビィちゃんに囁く。

 

「あれは自分で考えたんだっけ? すごい可愛いよね」

「あっ、ありがとうございます」

「……」

「や、その、梨子さん?」

 

 突然左隣の方から冷たい視線を感じ、振り向くと梨子。なんだろう、微笑んでいるんだけど目が笑ってない。いや、別にルビィちゃんを口説こうとかそういうわけではないのでそんな目で見ないでください、怖いです。

 ……まあ、梨子のはあれはあれでひどかったけど……。

 撮影現場で直に見たが、梨子はガチガチに緊張してたな。声は上ずってたし、肩に力が入ってたし、体は固まって棒立ちだし。

 

『リトルデーモン3号、桜内梨子。ピアノを奏でる悪魔よ。私のメロディーでみんなメロメロ〜!』

 

 ……もう少しましな口上はなかったのか。せっかく衣装は可愛かったのに。さらにいえば梨子自身はとても可愛(ry

 でも過ぎたことは仕方ない。黒歴史を生み出した梨子は一旦置いておき、ダイヤさんの方に向き直る。彼女は俺らを一瞥した後、ゆっくりと話し出す。

「おおかた、個性を出して人気になろうとしたのでしょう?」

 生徒会長のダイヤさん。ルビィちゃんの姉で、黒澤家は地元では有名な家らしい。育ちもよく、頭の回転も速い。

 

「おお! 生徒会長の名推理!」

「……高海さん?」

「っ、すみません」

 

 千歌がペコペコ頭を下げる。その様子を見て、生徒会長は溜息。

 

「とにかく、こういうのは頂けませんわ」

「でも」

 

 曜が口を挟む。

 

「スクールアイドルランキングは上がったんですよ?」

 

 そう。登録当初は4000位台だったランキング。しかし、この動画をあげてから、ランキングは1000位よりも上に上がった。これはまぎれもない事実。そしてそれが意味することは。

 左の方、一列に並んだなかの1番端。先程から硬い表情で生徒会長の話を聞いている女の子。

 津島善子。通称ヨハネ。自らを堕天使と名乗り、けれども一方で普通の女の子として学校に馴染みたいとも思ったりしている女の子。

 そして先日、俺は彼女に告白されて。梨子が好きな俺は「今回の動画でAqoursの人気が上がったら」という条件付きで返事をしたのだ。

 

「浮かれるのはよしなさい。そんなもの、一時的なものに決まってますわ」

 

 生徒会長はノートパソコンを少しいじり、Aqoursのランキングのページを開く。順位は1500位を下回っており、今なお、下がり続けていた。

 

「これが現実。あんな色物の動画1つで人気になれると思わないことですわ」

 

 生徒会室に沈黙が訪れる。

 

 

 *

 

 

「生徒会長の言う通りだったね」

 

 放課後。簡単な基礎練習を終えてから、善子ちゃんを含めたみんなでバス停近くの桟橋まで来た。そこで各々がただ何をするでもなく座っている。水面に映るメンバーの表情は暗い。

 それもそのはずで、あの後、スクールアイドルランキングはみるみる下降。ついには3000位を下回るほど。登録当初よりかは高いけれども、この順位では動画のおかげで人気が出たとは言いづらいのも確か。

 

「ごめんなさい」

 

 唐突に善子ちゃんが謝った。誰にというわけでもなく、彼女は空を仰いでいた。夕日に染まる空には、鳥が一羽飛んでいる。

 

「やっぱり、高校生にもなって堕天使なんて、通用しなかった」

「そんなこと……!」

 

 千歌が立ち上がる。善子ちゃんは首を振る。

 

「ううん、いいんです。本当はわかってるんです。変だって。普通じゃないって。こういうの、本当はもう終わりにすべき年齢(とし)なんだって」

 

 善子ちゃんが立ち上がる。バス停の方へ数歩進み、そして振り向く。

 

「付き合ってもらって、ありがとうございました。これで明日から、普通の女の子に戻れます」

「スクールアイドルは?」

「……やめときます。迷惑かけちゃいそうですし。というより、迷惑かけちゃってごめんなさい」

 

 儚く微笑んだ彼女は、そのまま去っていった。残った俺らはしばらくの間、黙っているしかなかった。

 

「どうして堕天使だったんだろう……?」

 

 ポツリと梨子から呟きがもれる。答えたのは善子ちゃんの幼馴染であるマルちゃん。

 

「わかる気がするずら……自分が普通なんだけど、本当はそうじゃないって、思いたい気持ち。善子ちゃん、幼稚園の頃からずっと言ってたな、『自分は本当は天使で、いつか羽が生えて天に帰るんだ』って」

「そっか……」

「別に変なことじゃないと、俺は思うけどな」

 

 誰だって、小さい頃は叶わない夢をみる。仮面ライダー(正義のヒーロー)になりたいとか、スーパーマンになりたい(空を飛びたい)とか。けれど、歳を重ねていくごとに現実を知っていく。自らの限界を知って、身の程知らずなことは決して口に出さなくなる。

 

「私もそう思う。みんな小さい頃はそういう何かに憧れるものでしょ」

 

 曜の言葉に梨子が頷く。

 

「私も小さい頃は変なこと言ってたな。人魚さんになりたいって」

 

 人魚? それって。

 

「……スリーマーメイド?」

「違うから!」

 

 真っ赤に染まった頬を膨らませた梨子。悔しそうにこちらを睨むと、仕返しとばかりに、

 

「涼君だって小さい頃、とっても恥ずかしいこと言ってたじゃない」

「そうなの?」

「んー、覚えてないなぁ」

 

 とぼけつつ。けれども、頭の中には鮮明にあの日の記憶が残っている。あれはそう、小学校1、2年の頃だったか。

 その当時、梨子は髪を短めのツインテールに結んでいた。世界のアイドル、YAZAWAを思い出してもらえば分かりやすいだろう。あの世界的アイドルと同じ髪型。それはもう、可愛かったんだ。そして小学校低学年程度の男子なんて、可愛い子には手を出す(物理)もので、髪を引っ張ったりするわけ。

 その日も同じ教室の男子(俺以外ね、ここ重要)から髪を引っ張られ、梨子は泣いていたっけな。

 

『なかないで、りこちゃん』

『だって……』

『おれ、りこちゃんのヒーローにぜったいなるから! そしたらいつも、まもってあげるんだ!』

『ほんと?』

『もちろん! ずっとそばにいてあげるね!』

 

 思い返すだけで赤面したくなる。恥ずかしい。

 

「……ふーん、そう」

 

 少し残念そうに梨子は言う。ふっ、残念だったな、仕返しがうまくいかなくて。一方、千歌なんかは興味津々な様子。

 

「ねえ、なんて言ったの? 気になるー!」

「覚えてないって。それよりも今は善子ちゃんの話」

「はぐらかしたね?」

 

 千歌の視線に背を向け、なんとか話題をそらす、じゃなくて戻す。

 

「本当は自分は普通じゃない。特別な存在なんだって。その特別な存在というのが、善子ちゃんにとっては堕天使だった」

 

 その気持ちが痛いほど身にしみる。普通だ、地味だ、なんの取り柄もない。そう思っていても、それでも心のどこかでは特別な存在になりたくて。特別な存在だと思いたくて。

 だから俺は、彼女を振ることができなかったんだ——。誰かと付き合えば、その人にとって特別な存在になれるから。そしてそれは逆もまた然りで。




遅くなりました…汗
もう話の内容忘れてる方がほとんどかと思われますが……。
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