俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第40話

「漆黒に染まりし天の下、闇を纏いし最強の悪魔よ、その魔力を解放せよっ! いでよルカ! 我がリトルデーモン!」

 

 口上を唱え、黒いローブに身を包んだ少女が天高く手を振り上げる。すると、彼女の目の前に魔法陣が描かれ、そこから1人の人間が徐々に姿を表す。

 どこにでもいそうな、フツメン男子。しかし服装は世界でオンリーワンの浦の星女学院の男子生徒用制服。彼こそがリトルデーモン、ルカである。

 召喚された男子は周囲を見た後、真っ黒なローブ姿の少女と目を合わす。

 

「マスター」

 

 マスターと呼ばれた少女はルカの肩に手をかけ、彼の耳元に囁く。

 

「ルカ。敵が使役するのは天使よ、気をつけて」

「了解」

 

 ルカは相対する2人組に目をやる。教室の反対側、教壇の上には1人の少女が。ルカのマスターとは対照的に白いローブを着た彼女。被るフードからは宝石のルビーを彷彿とさせる真紅の髪がちらつく。

 そして、その白ローブの少女の前。純白の衣に身を包み、背中には穢れひとつない翼をつけた女の子。カメリアの、艶のある髪がふわりと風に揺れる。柔らかな姿形、慈愛に満ちた微笑み。一言で表すと美少女。二言で表すと、絶世の美少女。早い話が可愛い女の子である。

 

「なるほど……あなたが堕天使ヨハネのリトルデーモンなんですね」

 

 白ローブの少女が言う。冷静さを感じる言葉はしかし同時に、自信が感じ取れるほど力強い。

 

「でも属性相性はルビィのリコの方が有利。戦う前に棄権することを推奨します」

「ふっ、舐めた真似を。魔の頂点に立つこの堕天使ヨハネの使い魔、ルカが相性なんかで負けるわけないじゃない」

 

 ふんず、とルカのマスターであるヨハネが胸を張る。なお、成長途中のそれを張ったところで……ごほん、なんでもない。

 

「さあ、ルカ! あなたの底知れぬ魔力を解き放つ時が来たようね。あんなへんちくりんな天使、堕としてしまいなさい!」

「言われなくても!」

 

 ルカが地を蹴る。すると、摩訶不思議な力により彼の身体は宙を飛び、机の上を飛び越え、コンマ1秒でリコの懐に飛び込む。禍々しい輝きを放つルカの牙がリコの首に突き刺さる——直前。

 

 ちゅっ。

 

 目の前のリコの姿がブレたと思いきや、頬に柔らかい感触。優しくて温かくて。何をされたか理解するよりも先に、頭と顔が熱くなっていく。

 そして続いて、リコはルカの耳元に囁き攻撃をしかける。まるで鈴の音のような愛らしい声は、ルカの思考を溶かすには十分すぎる。

 

「キス、しちゃった」

 

 リコが距離を開ける。色白な彼女の頬には薄いピンク色に染まり、恥ずかしいのかはにかむ。ルカは思う。やばい、可愛い。

 戦意が消えたルカ。教室の中央にて立ち止まり、天使リコの姿を眺める。

 

「ちょっと!? ルカ! 何してるのよぉ!」

 

 微動だにしなくなった使い魔に、堕天使ヨハネは憤慨する。しかしルカのもとに彼女の声は届かない。ルカは今現在、頬に残る感触に浸っていた。ちょっと湿ってて、柔らかくて温かくて……。

 

「ルカってば! 目を覚ましなさいよっ!」

 

 しかしながら余韻も束の間、誰かに肩を揺さぶられる。おかげで目の前のリコの姿はだんだんぼやけていく。ああ、行かないでくれ、天使さん。もうちょっと、もうちょっとお話ししたいんですけど……!

 

「いつまで寝てるのよ、もう部活の時間!」

 

 心なしか、耳に入ってくる堕天使の声が大きくなっている気がする。

 部活? 部活って、つまり……。

 

 

 *

 

 

「むぅ……んん? あれ、善子ちゃん?」

 

 ゆっくりと目を開けると、目の前には夢の中の堕天使ヨハネと瓜二つの少女。ただし、浦の星女学院の制服を着ている。腕を組み、少しだけ赤く染まった頬を膨らませている。……怒ってる?

 

「善子じゃなくてヨハネ。ていうか、起きるの遅い!」

「ここ、2年の教室だよね?」

 

 善子ちゃんは頷く。

 

「なんでいるの?」

「いつまでたってもルカが部室に来ないから、このヨハネが迎えに来てあげたんじゃない。リトルデーモンなら垂涎ものの栄誉でしょ」

「ど——うもありがとうございました、ヨハネ様」

 

 ——どうせなら梨子が良かった。言いかけた言葉をグッと飲み込む。一応彼女は俺が梨子のことが好きだと知っているわけだが、さすがにこれを言うのは時期的に不謹慎というかなんというか。

 津島善子。堕天使ヨハネと名乗る、美しすぎるという罪ゆえに天界から堕とされた悲運の少女……という設定で日々、楽しんでいらっしゃるお方だ。

 そして俺はそのヨハネのリトルデーモン・ルカ……という設定。もちろん、彼女の中でだけである。リトルデーモンってニュアンス的に下僕みたいな意味だと思うし。さすがにそれは嫌である。

 しかし俺もこんな夢を見るなんて、そろそろ毒されているのではないかと思う。気をつけねば。ねばねば。

 

「感謝するといいわ、マイリトルデーモン」

 

 得意げに胸を張る善子ちゃん。なお、成長途中のそれを張ったところで、

 

「ねえ、なにか失礼なこと考えてない?」

「いや、気のせいだろ」

「……そう?」

 

 怪訝な目で見られる。なぜバレたし。

 とまあ、こんなやり取りをしていると、おバカちゃんに見えないこともない。けど、彼女は生真面目で、気が利き、そしてかなり精神的にタフである。

 数日前、俺と彼女とで互いに振って振られたのは記憶に新しい。にもかかわらず、こんなふうに今まで通り——というより、告白する前と同じ感じ——に接してきてくれている。これがかなりの上級スキルなのでは、と思うわけだ。

 果たしてもし自分が梨子に振られた時、それができるのかどうか。今まで通り幼馴染として過ごせるのか。

 

「ところでなんだけど、どんな夢を見てたの?」

「んー、魔法戦争」

「ダウト。あんなにだらしなーい顔でよだれ垂らして。どーせ梨子さんにキスされる夢でも見てたんでしょ」

「え、よだれ!?」

 

 慌てて口元を拭う。濡れてない。まさかカマをかけられた?

 

「ほーら、やっぱり!」

 

 ドヤ顔善子ちゃん。非常にムカつくが、何も言い返せない。

 というより、最近善子ちゃんのあたりがきつい気がする。敬語を使い、"先輩"と呼んでいた、あのしおらしい善子ちゃんはどこへ。

 

「ねえ、クラスメイトにもそんな感じで辛辣に接してるの?」

「まさか。マイリトルデーモン・ルカのために、特・別に振舞ってあげてるんじゃない」

 

 何その無駄な配慮。俺、別にM属性じゃないし。(なし)属性だし。

 

「こう見えて私、じぇーけー、だから!」

「こう見えてって、やっぱり普通のJKらしくないって自覚してるんじゃん」

「う、揚げ足を取らないでよ!」

 

 顔を赤くしてぷすんと怒る善子ちゃん。うんうん、こうしてみるとやっぱり年下感があって可愛らしいものだ。

 

「ところでさ、今後のために、なぜ夢の内容がわかったのか聞いておこうかな」

「……なんていうか、そういうところがMっぽいんだけど……。ルカ、相当ニヤニヤしてたもの。誰だってわかるわね」

「そんなに顔に出ていたのか……」

 

 想像してみる。冴えない男子がにへらと笑いながら寝ている。うん、気持ち悪いね。今後は気をつけないと。

 

「というより、何しても起きないんだもん。言うなら眠れる森のリトルデーモンってところかしらね。ま、このポンコツリトルデーモンはヨハネのキスなんかじゃ起きないのだろうけど」

「さすがにそれは起きるんじゃないか」

 

 キスって、あれだろ。あの夢の中でされてたやつ。まさか魚かなんかだとは言わないだろう。

 

「どうだか。梨子さんにすっかり堕天しちゃってるくせに」

 

 やれやれといった様子で善子ちゃんが手を振る。

 

「あ、あともう一つ質問。なんで善子ちゃんが迎えにきたの?」

「善子じゃなくてヨハネ」

「……なぜ堕天使ヨハネ様が直々に迎えにきてくださったのですか」

「梨子さんに頼まれたのよ」

「梨子に?」

 

 それは意外だった。幼馴染だから、そう言って梨子が迎えに来てもおかしくないと思ったのだ。もしくは、善子ちゃんをけしかけるなんてことをしそうなのは曜あたりだと。しかし予想は外れていた。

 梨子が自分で行かずに人に頼む……。何かやらなくちゃいけないことでもあったとか? そうでなかったら俺のことが嫌い以外の択が見えなくてつらみ。

 

「って、そんなこと気にしてる場合じゃなくって!」

 

 バンッ、と善子ちゃんが机を叩く。そんなこととは失礼な。もし梨子が俺のことを嫌いだとしたら、俺にとっては一大事である。

 が、善子ちゃんが告げたのは予想外の事実であった。

 

「廃校になるの、浦の星女学院が!」








次回の「のじゃぽい」は……

ついに始まるpv撮影。しかしやたらと梨子が善子ちゃんを俺に押し付けてくる。なんだ、一体何がしたいんだ?
まあ、梨子と会話できればなんでもいいよね。

※大嘘です

以前活動報告で適当にノリと勢いで略称募集とか書いてしまったら、なんと2つも素敵な略称案をいただきました。優柔不断系の作者はずっと決め兼ねていたのですが、足して2で割るという頭の悪い手法を知人に教わったので、試してみました。提供してくださった方々ありがとうございました。それから、そのままの形で採用できずすみません。

ひな祭りですね。さくら◯ちを食べたいです。
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