俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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前回のラブライブ!

悪戦苦闘しながらpv撮影を終えた俺たちスクールアイドル部。日も暮れだしてそろそろ解散という頃合いに、俺のもとに編集さんから電話が……。母さんの身に何かが!?

(たぶん)ないです。



第42話

 ホテルオハラの広めの食堂。その端の方でテーブルにつく3人の男女。そのうちの1人は俺、凪沙涼である。

 

「そんなんだからぁ、あんたはいつまでたっっっってもぉ」

 

 その後の言葉はなく、上下ジャージ姿の女性はテーブルに突っ伏した。テーブルに敷かれた結構お高そうなテーブルクロスに、ワインが溢れる。あーあ。お恥ずかしながら、我が母親である。

 彼女の手がおしぼりを取ろうと多少伸びたのだが、途中——こぼれたワイン溜まりにて力尽きる。中途半端に開いた手は、何かを指差しているようにも見えなくない。

 

「せんせぇ、のみすぎでふよぉー」

 

 何故か頭の中に"希望の"という言葉が流れたあたりで、別の女性が声を上げる。我が母の隣。真っ赤っかな顔で、ヨレヨレのスーツを着た女の人が虚空を指差している。見てわかる通り、完全に酔っていらっしゃるこの女の人は、編集さん。我が母は作家であり、その担当者がこの人だ。

 この状況、一言で言おう。カオス。何やってんだよとも言いたくなる。というか言っていいのでは? さんはい、何やってんだ母ァ!! 

 実は今日は母さんが1つの作品を書き上げたとかなんとかで、記念に食事会を開催したらしい。急に呼ばれて来てみればただの飲み会である。初めはもっと人がいたのだが、みんな帰ってしまった。まあ、正直こんな酔っ払いたちにだる絡みされるのは身に堪えるので、帰って正解だろう。

 場違いというか、なんというか。俺らがこの高級ホテルにいること自体が変、そんな感じ。

 

「本当に、ご迷惑をおかけします」

「いえいえ。たまには羽目を外すことも大切ですからね」

 

 食器の片付けに来たホテルの人に謝っておく。もう一度言うがここはホテルオハラ。リゾートホテルである。TPOってものをもうちょい考えるべきだろうに。

 というかそもそも、母さんは普段からこんな感じである。羽目を外しているわけではない。

 

「後の片付けは私どもでやりますので、涼殿はお部屋にてごゆっくりお休みくださいませ」

「いいんですか?」

「はい。明日も学校がありますでしょうから」

「すみません、ありがとうございます」

 

 お言葉に甘えて、自分の部屋に向かう。実は今日はこちらに泊まることになったのだ。もう夜も遅いし、これから本土の方に帰るのもというのが理由。

 ……なのだが、どういうわけか無料らしい。え、高級ホテルでしょ? 無料ってどういうこと。飲む前に聞いたが、母さんが払っているわけでもないらしいし。

 タダより高いものはない。そんな言葉が頭をよぎった瞬間、視界が真っ暗になる。目を中心とした顔の上部が、温かくて柔らかい手のひらの感触に包まれる。レモン系だろうか、良い香りもする。

 

「えっと?」

「クエスチョン! だーれだ?」

 

 背後から囁かれた声。なるほど、どうやら後ろから目隠しされたらしい。まあ、独特なイントネーションと場所を考えれば、誰かなんてすぐにわかるんだけれども。

 

「理事長でしょう?」

「ノンノン! ハズレよ」

 

 いや、声色・口調からしてそれ以外ありえないんですが。

 塞いでいた手を無理やり剥がし、後ろを振り返る。白のワンピースを着た金髪の女子、小原鞠莉。俺らが通う浦の星女学院の理事長である。俺(男子)の通う女学院とか、なんてパワーワード。

 

「あってるじゃないですか」

 

 ちょっとムッとして言う。すると彼女は綺麗な金色の髪を払いのけクールに答える。

 

「マリーって呼んで、って言ったでしょ。ここ、学校じゃないし」

 

 ウィンク。もともとマリーさんが美少女だから仕草自体は可愛いけれど、でもなんか違う。

 

「……じゃあ、自分は寝ますんで」

「ちょ!? ウェイトウェイト! 待ちなさいってば!」

 

 踵を返すと、腕を掴まれる。いや、だってすごい面倒オーラが放たれてるんですもん。逃げたくもなる。

 

「何ですか」

「ちょっと私、今夜は酔いたい気分なのよね」

 

 どこからともなく取り出したワインボトルとグラス。艶っぽい言葉とグラスを眺める鞠莉さんの憂いた表情とが相まって、少しだけドキリとさせられる。いや、少しだけど。

 

「未成年ですよ」

「ジョークよ、ジョーク。これもただの葡萄ジュースだし」

「そうですか。悪いですけど、ジョークもジュースも腹一杯——」

「いったい誰のおかげで今晩、無料で泊まれるのかしらね〜」

「……卑怯ですよ」

「何のことかしら?」

 

 呆けるマリーさん。いや、口元ニヤついてますから。バレバレですから。まさに無料(タダ)より高いものはないってことですか……。

 

 

 *

 

 

 半ば無理やり連れ去らられた鞠莉さんの部屋。ホテルの装飾とは打って変わり、色合いはシンプルな落ち着いた部屋だった。もちろん、置いてある家具は机もベッドもどれも高そうだし、なんなら海を一望できる大きい窓があるし、そこからバルコニーもついているしで普通の部屋ではないけれども。

 というかね、こんな夜遅くに男子を部屋に連れ込むなんて。小原家の皆さん、おたくの娘さんの貞操教育は大丈夫なんですか。相手が梨子一筋の自分じゃなかったらどうなってたことか。

 

「それで、話ってなんですか?」

 

 促されるまま椅子に座り、向かいのベッドに腰かけた鞠莉さんに問う。二人の手には葡萄ジュースを入れたグラス。

 

「そうね。別に大事な話ってわけじゃないんだけど。うちのシェフが腕を奮ったコースはどう?」

 

 身構えていたら、本当に大したことないことを聞かれる。なんだろう、フィードバックか何かを返すことになっているのだろうか。

 

「美味しかったです。まあ、ちょっと味を楽しむような場ではなかったですけど……」

 

 料理人にも若干失礼であったような。

 

「だいぶエンジョイしてたわね」

「すみませんでした」

「謝る必要はナッシングよ。お母さんもきっと嬉しかったのでしょうし」

「しばらくの間は締め切りに追われませんしね」

「これはガチョウと同じね……」

 

 鞠莉さん、深いため息。いや、なぜ。というかガチョウってなんですか。

 

「学校はどう? 楽しめてるかしら?」

「……はい?」

「学校はどう? 楽しめてる?」

「いや、質問は聞こえてたんですけど……」

「あら、そうだったの」

 

 これでも耳は良い方だ。

 

「どうして鞠莉さんがそんなことを気にするのかな、と」

「んー。どうして、ねぇ」

 

 しばらく首を傾げながら鞠莉さんは目を閉じる。ジュースを飲んで湿った唇は部屋の明かりを受けて妖しく光る。

 こんなシチュエーション、梨子とできたらどれほど良かったか。

 

 

 

 薄暗いルームライトが点く部屋で、タイトスーツ姿の梨子がベットに座り込む。

 

「はあ……。今日も疲れちゃったな」

「お疲れ。飲む?」

「わぁ、ありがとう!」

 

 そんなお疲れ気味の梨子に俺はワインを注いだグラスを渡す。もちろん、自分の分もある。

 

「乾杯」

 

 カラン。2人だけの静かな部屋に、ガラスの音だけが響く。その音の余韻に浸りながら一口ワインを飲むと、梨子はすでにグラスを空にしている。

 

「ははっ、早いね」

「そう?」

 

 空になったグラスを名残惜しそうに見つめる梨子。ワインで湿った唇は妖艶、その憂うような視線には哀愁。心の奥の方がくすぐられる。

 ベッドに深く腰掛ける梨子が脚を組む。白くて適度にむっちりとした太腿がスカートの裾から覗く。慌てて目線を上げると、梨子はクスリと笑う。

 

「美味しいね」

「それは良かった。急に飲みに来てって言われて急いで用意したから、チョイスが少し心配だったんだ」

「ふふっ。正直者だね、涼君は。そんなことわざわざ言わなくていいのに」

「ご、ごめん」

「それにね、美味しいのはきっと物がいいからだけじゃないの」

「それってどういう……?」

「だ・か・ら!」

 

 ぐいっ。梨子に腕を引かれベットに連れ込まれる。睫毛の一本一本まではっきりと見えるほど間近に迫った梨子の顔。まっすぐ俺を見つめる瞳に吸い込まれるようで。

 

 

 

「人の話聞いてる?」

「ふえ?」

 

 瞬きをすれば、目の前にいるのは鞠莉さんだった。……ああ、そうか。そういえば鞠莉さんといたんだっけ。

 鞠莉さんも真っ直ぐ俺をみていた。けど、その目は奥にギラギラとした炎のようなものが見えそうなくらい、鋭くなっている。

 

「人に質問しておいて、聞いてないとは何事かな〜、んん?」

「痛だだだだだ!?」

 

 鞠莉さんに頬をぐいぐい引っ張られる。いや、痛い。体罰ですよ、体罰反対。

 

「ふ、ふみまへんでした! はから、はめへくだはい!」

「まったく」

 

 パチン。最後に軽くデコピンをして、鞠莉さんは手を引っ込める。いまだにズキズキと痛む頬をさすりながら、部屋に置かれた姿見を覗き込む。大丈夫か、これ。めちゃくちゃ痛かったし、顔の形変わってたりしない……? 

 

「どーせ、ガールフレンドちゃんのことでも考えてたんじゃない?」

「ははは……」

 

 図星だ。乾いた笑いで対応せざるを得ない。

 

「その様子だと、学校でも大した問題はなさそうね」

 

 真面目に心配して損したわ。盛大なため息とともにそんなことを言われる。

 

「すみませんでした」

 

 しかしたしかに、人の話を聞いてなかったのは悪かったと思う。こんなんでは千歌や曜に人の話を聞けなんて言えないな。

 

「あ、でも。問題ってわけじゃないですけど、困ってることはあります」

「困ってること?」

「はい。実はスクールアイドル部でPVを作ってるんですけど、なかなかうまくいかなくて」

「ふーん、PVねぇ」

 

 一応形にはなった。宴会の始まる前に善子ちゃんから電話がかかってきて、そのような報告は受けた。けれど、あまり声のトーンが良くなかったし、納得のいく内容ではないのだろう。

 

「どうしたらいいと思います?」

「だいぶアバウトな質問ね……」

「すみません」

「まあこのマリーに任せればPVのひとつやふたつ、チョチョイのチョイよ。とりあえずそうね、明日あたり理事長室に見せに来てもらってもいいかしら?」

「いいんですか!」

 

 グッ。サムズアップで応える鞠莉さん。ヤバイ、なんだか急に鞠莉さんが頼もしく見えてきた。特段具体的な解決策を現時点で示しているわけではないのに、なぜか心強く感じる。自信ありげな彼女の態度が原因なのだろうか。

 

「あ、それでですね。結局どうして心配してくれるんですか?」

 

 先程答えを聞きそびれた質問をもう一度投げてみる。鞠莉さんはニヤニヤと笑いながら。

 

「今度はちゃんと聞く?」

「はい」

「そうね……私も一応理事長であるわけ」

「……え、それで?」

 

 いまいちピンとこない。首を傾げるしかない、そんな俺の様子が面白いのか、くすくす笑いながら鞠莉さんは部屋の中を歩き、窓際へと向かう。

 そして窓の外の何かに気づいたようで。

 

「あら?」

「鞠莉さん? どうかしましたか?」

 

 鞠莉さんに続いて外を見てみる。窓の外のバルコニー、そこには誰かが立っていて、ええええええ!?!? 

 いや待って! ここって本土から少し離れた島の上でしょ?窓の外明らかに海広がってるじゃん! なんで人がそこにいるの!?

 

「ま、まさか泥棒!?」








!ネタバレ注意!



いったい誰なのか なんてね。

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