加法定理って Date(?) with 梨子
ピアノが置かれた部屋。その中央、特別に用意した小さい円卓につく俺。そして向かいの幼馴染、それも音ノ木小町と呼んでも差し支えないくらいの可愛い娘。
赤いさらさらな髪、透き通るような肌、綺麗な琥珀色をした瞳。横顔は俺と同い年のくせにどこか艶かしく、どことは明示しないが最近体つきも女性らしくなってきたせいで、いやでも意識させられる。全然いやではないのだが。
俺の真向かいに正座する幼馴染は、カリカリとシャーペンを走らせている。一方の俺は、カリカリと彼女の母親が用意したお菓子を食べている。
ふと、幼馴染が顔を上げた。
「涼君、勉強しないの?」
「するする」
俺——凪沙涼——は床に寝転がると、数学のノートを顔にかぶせた。
「……してないよね」
「だってさぁ」
むくりと起き上がり、再び菓子に手を伸ばし——パンッ!
「痛っ!」
「おあずけだよ」
手を叩かれる。そのまま幼馴染はお菓子入りの皿を持ち上げてしまう。ツンとすました顔にまた、俺は心臓が跳ね上がる。M?
「勉強しないと、ね?」
片目だけ開けて、彼女がこちらを見る。
「はぁ……仕方ないなぁ。梨子、教科書ってどこにある?」
「そこに並べてあるよ」
俺は机の脇の棚の、整理された教科書や資料集の中からお目当ての一冊を取り出す。我が幼馴染——梨子の教科書には至る所にカラフルなマーカーが引かれている。真面目だなと思いつつ、元いた位置に戻ってそれを読む。
「ふむ。ビタミンにも色々あるんだな」
「……なんで家庭科なの」
彼女がツッコんだとおり、俺の持ってきた教科書は家庭科の教科書。なんでって、一応理由はある。
「将来専業主夫になるため、かな」
俺はいつか、世界的に有名な美しすぎるピアニストと結婚する予定なのだ。名前を梨子というのだが。旧姓桜内。
ということは、俺は主夫に徹するべきだろう? そのための勉強を、
「……」
「ごめんなさい、ちゃんとやります」
梨子からの無言の圧力に屈した。へーへー、勉強しますよ。
俺には好きな人がいる。今俺らがいる家に住む女の子だ。彼女と初めて出会ったのは幼稚園の入園式。それから仲良くなり、一緒に遊ぶようになり、同じ小学校へ。毎年クラスも同じで、中学になった今も仲が良い……残念ながら、幼馴染として。
「でも、梨子はなんで勉強してんの? 俺は受験のためだけどさ」
現在、俺と梨子は中学三年生。受験生だ。夏休みももう終わり、受験まであと半年を切った。
ところで梨子はピアノが得意。それもかなり上手で、高校はその推薦で音ノ木坂学院という地域の名門校に合格が確定しているも同然の状態。特に受験勉強をする必要はないはずなのだが。
「涼君のためでしょ。こうでもしないと、勉強しないじゃない」
そうでした。俺が梨子がやるならやると言ったんでした。でも。
「そうはいってもなぁ」
勉強したくないし。
ふとカレンダーを見る。今日は祝日。敬老の日ってやつだ。老人を大切にする日。しかしそれ以上に大切な日でもある。勉強なんてしてる場合ではないのだ。
「なあ、梨子。たまには気分転換しない?」
「気分転換も何も、まだ何もしてないよね?」
「まあまあ。ほら、出かけるぞ」
*
やってきたのは近所の大型ショッピングモール。祝日ということもあり、結構賑わっている。敬老の日だからだろうか、子供、親夫婦、おじいちゃんおばあちゃんといった三世帯の御一行が多く見受けられる。その中で学生の男女というのは、思ったより目立つな。
隣の梨子。清楚なワンピースに薄手のブラウスを重ねている。足元は赤いハイヒール。出かけると決まったあと、少し待たされたと思ったらこれ。上品なことで。
自分の冴えない格好を見る。その辺の全国展開している大手実用衣料品店で買ったパンツとカジュアルシャツ。なんか不釣り合いだよな、梨子と。申し訳ない。
「さてと、梨子。どこに行きたい?」
「どこって……涼君が行きたかったんじゃなかったの?」
モールの自動ドアの内側、大きい見取り図の前で梨子と相談。見取り図を見ながら、梨子は髪を耳にかける。細い首筋が露わになる。
梨子ってそういえば、髪を切ったことがあったっけ? 腰よりも長く伸びた髪、小さい頃はツインテールにしていたが、今は特にまとめていない。邪魔にならないのだろうか。
「それでどこに行くの?」
「えっと、そうだな……とりあえず、本屋にでも行ってみるか?」
「本屋? いいけど」
「じゃあ、行こう」
俺は梨子に手を差し出す。梨子は首を傾げてそれを見る。やってはみたものの、恥ずかしくなって俺は目をそらす。
「手でもつなぐ? 混んでるし、はぐれたら困るだろ」
苦しい理由付けですね。ええ、そうですよ、梨子と手をつなぎたいだけですよ。まさかそんな理由でオッケーなんて、
「そ、そうね。そうしたらいいかも」
柔らかい感触。俺のより少しだけ小さくて、華奢なそれは。
梨子が手を俺の手に重ねていた。……え⁉︎
驚いて梨子を見ると、今も見取り図を見たまま。けれどその頬には赤みがさしている。
「いいのか?」
「は、はぐれたら困るから……」
「そ、そっか」
しばらく黙ったまま、手をつないで立ち尽くす。入り口を通る人から異様に見られてる気がする。自意識過剰? いや、爆ぜろとか聞こえたからたぶん、見られてる。
「涼君が言ったんだよ?」
「そうですね」
緊張でつい敬語になる。梨子がそれを笑う。笑うな。
やばい、くらくらする。残暑のせいだろうか。
*
そのまま手をつないで書店に向かったわけだが、どこをどう歩いたのかは全く覚えていない。気づいたら書店の前にいたわけで。
「じゃあ、中にはい……梨子?」
中に入ろうとすると、立ち止まっていた梨子に腕を引っ張られる。あ、手をつないだままだったな。
「どうかした?」
梨子の視線の先をたどってみる。白髪の老夫婦だ。仲が良さそうに手をつなぎ、にこにこと笑い合いながらモール内を歩いている。
「何年、一緒なのかな?」
「さあ? 75年くらい?」
たしかダイヤモンド婚だっけ? それくらい連れ添っていたりするのだろうか。だとしたら羨ましい。俺も梨子とあんな風になりたいな。なれるだろうか。……告白すらしてないくせに、何を言ってるんだか。
「あ、本屋だったよね? 行こう」
「ああ」
さすがにもう手を離し、俺と梨子は本屋の中へ。特に何も考えていなかった俺だが、梨子には目的があるらしく、本屋の中をずんずんと進んでいく。
それについていくと、やがてコーナーの名前が見えた。俺は思わず足を止める。参考書・実用書。
「え、ここまで来ても?」
「何言ってるの。私たち、受験生なんだよ?」
「いや、でも。今日くらいは別にいいじゃん?」
「毎日そう言ってるよね?」
梨子がジトーッとした目で見てくる。湿度高いな、この辺は。空調の調子が悪いんじゃないか?
「じゃあ何のために本屋に来たの」
「特に理由はない」
「……はぁ」
梨子が頭を抱える。ほ、ほら。やっぱり空調が悪いんだ。だから梨子は頭痛を……嘘です、冗談です、ごめんなさい。
「そ、そうだ! カフェにでも行こうよ。奢るから!」
「食べ物でごまかすの?」
「そういうわけじゃないけど」
「それじゃあカフェはあとね。まずは問題集選びから」
「ええ……」
俺を置いて、参考書や問題集の売っている本棚へと梨子が行ってしまう。俺とのお茶より勉強の方が大切らしい。や、それが普通の受験生なんだろうけどさ。というより、俺とのお茶って誰得なの、そもそも。
「えっと……数学と社会かな……」
「なあ、梨子」
問題集を探している梨子に声をかける。
「梨子って音ノ木に行くんだよね? なんでそんなに勉強をしてるんだ?」
「……知りたい?」
手にした問題集で顔の下半分を隠した梨子。少し恥ずかしそうに、上目気味で俺を見てくる。少しドキッとさせられたが、平然を装いながら頷く。
「涼君と同じ高校に行こうかな、なんて……」
「俺と同じ高校?」
俺の目指している高校は地元でもなかなか有名な進学校で、倍率は少子高齢化が進んでいる昨今でも高め。目指す動機はわからなくもない。大学進学を目指すにはいい場所だからな。
「どう思う?」
「どうって……俺が決めることじゃないだろ」
「んー、そうじゃなくて!」
焦ったそうに地団駄を踏んだあと、梨子は腰に手を当てる。頬を膨らませ、俺にぐいっと迫る。ち、近い。
「私と同じ学校に通えることが嬉しいとか、嫌だとか、そういう感想を聞いてるの」
なんとまあ、ストレートな。たぶんこのストレートさも幼馴染ゆえなんだろう。それが枷となっているからか、付き合えてないみたいなんですが、それは。
「それは嬉しいけど……」
「けど?」
「梨子は本当にそれでいいのか?」
好きな人と同じ高校に通えるのは嬉しい。あくまで俺としては。しかしそれは俺の都合であり、もともと梨子は音楽のために音ノ木坂学院に行く予定だったわけで。進学校に行くってことは……。
「音ノ木坂に行かないのはもったいないだろ?」
「……バカ」
パチン。
「痛っ」
梨子の手が動き、額に痛みが走る。デコピンをされた、そう気付いた時にはすでに、梨子はカウンターの方へと行ってしまっていた。
「バカってなんだよ、バカって」
その進学校を目指すくらいには勉強できるんだけどな。
*
「どう?」
麦わら帽子を被った梨子が、陳列棚の向こうから顔をのぞかせる。空調の風でほのかに揺れる赤髪。梨子は両手で麦わら帽子を押さえながらそう聞いた。俺の目には背景に海が見えた。青く澄んだ、綺麗な海。二人で海岸線を歩くのだ。現実になればいい、と思う。
ここは女性向けの帽子や髪留めのような小物・アクセサリーを売っているお店。値段は数百円からと、学生にも大変お求め安い価格。
「季節が違うような」
「じゃあ、ちょっと待っててね!」
再び棚の向こうに消えた梨子。数秒後にまた現れた。今度はカメリア色のベレー帽を被っている。
「どう?」
「似たものを持ってなかったっけ?」
「……もう、面白くない」
ふてくされた梨子はベレー帽を俺に押しやるとどこかへと行ってしまう。片せ、ということらしい。わがままな。
しかし惚れた弱みというやつで、俺は文句一つ言わずにそれを元あった場所に戻す。それに今日くらいは。
俺って、もし将来梨子と結婚したら尻に敷かれるのだろうか。……それはそれでいいかもしれない。
『ねえ、お仕事疲れたな。マッサージして?』
しょうがないなぁ。
『ん……えー? 全然気持ちよくない、弱すぎるよ。もっと強く』
わかったわかった。
『ん、んあ……! そうそう、そこっ! んんっ! 気持ち、いい……!』
ねえ、このあと俺もマッサージしてくれたりします?
『んー、疲れるから嫌かな。お小遣いなしでいいなら、してもいいけど?』
うーん、やっぱり困るかも。
梨子には大和撫子が合ってるのか? 割烹着を着て、髪を結いあげた梨子が、朝起きると待っているような生活。
ふわあ……おはよう。
『あ、おはようございます、あなた。朝食の用意はできてますよ』
ん。ありがとう。
『はい、お箸です』
ん、いただきます。
『どうぞ、召し上がってください』
……梨子? さっきからそこに正座して、ニコニコとこっちを見て、どうしたんだ?
『あなたが食べ終わるまで、待ってるんです』
へ、へえ。
『どうぞ、ごゆっくり。私のことは気にしないで、ね?』
……食べづらそうだな。
「涼君!」
ベレー帽を棚に戻し終えた時、梨子が駆け寄ってきた。ワインレッドの角縁の伊達眼鏡をかけている。
「どうかな?」
梨子はさっき本屋で購入した問題集入りの袋を小脇に抱え、角縁眼鏡をくいっと上げる仕草をしてみせる。得意げな顔が可愛い。
「なんだか、できるOLみたい」
「でしょ!」
嬉しそうに軽く飛び跳ねる梨子。『涼君に似合うメガネも探してくるね!』と言って走って行ってしまう。
それにしても、綺麗だったなぁ。あんな上司(同い年だけど)がいたら、即刻社畜になれるね。
はぁ。今日も残業か。
『お疲れ』
わっ⁉︎ 冷たっ⁉︎ ……先輩?
『頑張ってるんだね、涼君。はい、これ。缶コーヒー』
先輩こそ。こんな時間まで残ってるなんて。
『ふふっ、だって可愛い後輩が頑張ってるんだもん。私も頑張らないと』
可愛いって。男子に向かっていう言葉じゃないですよ。
『でも可愛いよ?』
どうですかね。先輩の方が可愛いと思いますけど。
『またまた。相変わらずお世辞が上手いんだから。……でも、そうだね。涼君には残業手当、出してあげないと……』
先輩?
『ねえ、目を閉じて?』
絶対社畜になれる(確信)。
格好次第で美少女にも美女にもなれる梨子。無敵だね。もうすでに凪沙涼他クラスメイト多数を陥落させてるもんね。
「涼君、こっち来て! これなんかどうかな?」
少し離れた方から、梨子の呼ぶ声。
「今行くよ」
伊達眼鏡の売り場に向かうと、丸眼鏡を用意した梨子が鏡の前で待っていた。
「かけてみて?」
「やだよ」
「どうして」
「そういうの、興味ないし」
俺は梨子みたいになんでも似合うような美少女じゃないんだから。かけたって、不恰好になるだけだ。
「絶対に似合うから!」
しかし梨子は無理やりにでもかけようとしてくる。俺は梨子の腕を掴んでそれを防ぐ。かけたくないもんはかけたくないんだ。断固拒否。
「ほら、かけて?」
「ちょ、梨子! 押すなっ!」
「ねえ、お願い!」
ぐいぐいと迫る梨子。柔らかい香りが鼻をくすぐるけど、それを堪能してる場合ではない。そろそろ背中を曲げすぎて、バランスが……!
「「あっ!」」
足が地を離れた感覚。とっさに梨子の体を自分の体の上に。そのまま何かを思考する暇もなく、すぐに背中に痛みが走る。押し合いへし合いの末、どうやら倒れたらしい。
「ご、ごめん。涼君、大丈夫?」
「ああ。なんと、……か⁉︎」
すぐ目の前に梨子の顔。ほんの数センチしか、二人の間に距離はない。触れそうで、ギリギリ触れない距離。それこそ、キスでもできてしまいそうなくらいに。ただ、梨子がかけ損ねたメガネが俺と梨子の間に挟まっていた。
状況を考えてみる。梨子と俺は向かい合った状態で倒れた。俺は仰向けに地に伏せている。視界の端に映る梨子の腕を見るに、梨子は俺の上に四つん這い。……なんだか、梨子が俺を押し倒したみたいな格好だな。そんなこと、ありえそうにはないんだけれど。
しばらく俺は動かない。いや、動けなかった。梨子が先に動いてくれないと、俺は動けないのだ。だって、どこに触れてしまうかわからないし。
と、昔から聞き間違いとかをまったくしない俺の耳が、幾つかの声を捉える。
「あらあら。若いわね〜」
「ふふっ、最近の若い子は大胆ね〜」
「くっ……リア充め!」
「こんなとこでやるなよ」
「破廉恥な子ね」
いくつか、というか大方誤認されている内容であったが、そんな認識をされたら梨子が困るだろう。
「えっと、梨子? どいてくれるとありがたいんだけど」
本当はこのままの方が嬉しいんだけど。でも梨子の名誉のためである、仕方ない。
「あ……ご、ごめんなさい!」
顔を真っ赤にした梨子が飛び退く。飛び退いた後、立ち上がった俺をおずおずと見てくる。
「ごめんね? 怒ってる、よね?」
梨子が俯く。はぁ。今日はテンションの上げ下げが激しいな。どうしたんだか。
俺は梨子に近づくと、ぽんと軽く手を梨子の頭に置く。
「涼君……?」
顔を上げた梨子。若干潤んでいる瞳で、俺を下から見上げてくる。
その梨子のおでこに、俺はデコピンをやり返す。
パチン。
「いたっ!」
「バーカ。怒ってないよ」
励ますつもりで言ったんだが。梨子は目を吊り上げ、頬を膨らませた。
「む。涼君ほどバカじゃない」
「どういう意味だよ、それ」
どう考えたって、梨子の方がバカじゃないか。だって俺の気持ちに長年気づいてないわけだし。
「そのまんま。わからないなんて、やっぱり涼君はおバカさん」
*
その後、本屋での約束通り、俺と梨子は喫茶店に来た。もちろん、俺の奢りで。なんだか損した気分。
手洗いに行くと言って少し席を外したあと、戻ってくると梨子は早速問題集を開いていた。
「真面目だな」
「だって、受けるなら受かりたいから」
「やっぱり音ノ木坂はやめるのか?」
「……わからない」
梨子は問題集を閉じた。
「ねえ、涼君が初めて私のピアノを聴いた時のこと、覚えてる?」
「ああ」
あれはたしか小学三年生くらいの頃だった。リコーダーが上手く吹けなかった俺は、梨子に相談してみたのだ。リコーダーだけに。
そうしたら、梨子の家に案内された。それで聴かされたのだ、彼女のピアノを。
綺麗だった。その音色は、俺が音楽の授業で適当に鳴らしてるピアニカの音とは全くの別物。いつまでも耳に残る心地よい音。どこか草原に立ち、風を受けているかのような爽快な感覚。とてもリコーダーすらまともに奏でられない自分と同い年が弾いているとは思えなかった。
もっと聴きたい。いつまでも聴いていたい。そう感じた。
「あの時言ってくれたよね、すごいって」
「言ったな」
むしろその時はそれしか言わなかった。小並感。いや、小学生だったんだけど。
「嬉しかったんだよ? 普段は上手い下手とか、指の動きとか、技術的なことしか言われなかったから。小さい頃は褒められることも多かったけど、次第にコンクールとか賞とかの話ばっかりで」
「嫌なのか?」
「ううん。そうじゃないけれど。でも、嬉しかったんだ。素直に私のピアノで、感動してもらえたんだなって。もちろん音楽で有名な音ノ木坂に行ってピアノも続けたいよ? けれどそれ以上に、私は涼君と同じ学校に行きたい」
そうだったのか。つまり、音ノ木坂に行くということはコンクールとかそういった話だけの世界になってしまうかもしれないということなんだ。俺みたいな素直……というか素人からの愚直な感想が欲しいということなのだろうか。
でも、それは。
「音ノ木坂に行きなよ」
「え?」
「やっぱりそれは梨子の可能性を消しちゃうんじゃないのか? そんなただの幼馴染のために志望校を変えるなんて、普通じゃないだろ」
「……そう」
「でもまあ、あれだ。俺の小学生みたいな感想が欲しくなったら、いつでも言ってくれよ。俺たちは幼馴染なんだから、すぐ聴きに行くよ。家も近いし」
「……そうだね。私たちはただの、普通の、幼馴染だもんね」
そうなんだよな……表面上は。梨子も、まさか俺が梨子に恋心を抱いているなんて思いもしないだろうし。
じゃあそれを伝えるのか。好きだと、今ここで。
偶然……ではないけれど、プレゼントなら用意した。今日は特別な日でもあるから。もし告白をするならば、絶好のチャンスなのでは。
俺はカバンから、さっき買っておいたモノを取り出した。
「梨子。突然だけど、誕生日おめでとう」
今日は九月十九日。桜内梨子の誕生日。
「えっ、覚えていてくれたの!」
「いや、覚えているも何も、毎年祝ってるじゃん」
「うわあ……! ありがとう!」
梨子はプレゼントの紙袋などには目もくれず、テーブル越しに俺に抱きついてきた。く、苦しい。首に抱きつかないで。いや、やっぱりそのままで。柔らかくて、いい香りがする。この店特有のコーヒーの香りとは違う、花の香り。
しばらくして離れた梨子は、少しだけ目に涙を浮かべていた。それも桃色に頬を染めた、満面の笑みで。
「ありがとう、本当にありがとう!」
「いえいえ。もう一度言うけど、誕生日おめでとう。それと」
「ねえ、開けてもいい?」
さっきまでのしんみりとした空気は何処へやら、嬉しそうにはしゃぐ梨子。それを前にして、もちろんノーなどとは言えず。
「いいよ」
「ありがとう! ……バレッタ?」
「ああ。ほら、梨子って髪をいつも下ろしてるだろ?」
「それはだって、涼君が……」
「俺が?」
「な、何でもない!」
頬を先ほどよりもさらに赤らめた梨子が、首を横に振る。
「と、とにかく。ありがとう。それじゃあこれからは毎日これをつけるね!」
「え? いや、別に毎日じゃなくても」
「ううん、毎日! 音ノ木坂に毎日、これをつけて通うから!」
「そ、そうですか」
まあ、なんだ。梨子がそうしたいなら、それでいいや。
……音ノ木坂。梨子はそこを目指すことにしたんだな。梨子は俺みたいな幼馴染のために将来を潰さずに済んだわけだ。
でも。やっぱり寂しいかもな。ましてや俺にとって梨子はただの幼馴染なんかではなく——
「り——」
「涼君も志望校、絶対に合格してね!」
「……っ、ああ。まかせとけ」
そうだな。俺らは受験生。この気持ちはあともう少しだけ。
*
「おはよう!」
翌日の朝。自宅の玄関にて、編集さんの用意したおにぎりを食べながら靴紐を結んでいると、梨子が入ってきた。あれ、鍵は?
「梨子、どうやって」
「ねえ、見て!」
制服姿の梨子がくるりとその場で一回転。思わず下の方、布がヒラヒラと舞うあたりを見そうになった目を、無理やり上の方へとずらす。
「あ、それって」
「そう! どうかな?」
昨日プレゼントしたバレッタ。さっそく今日からそれをつけた梨子。お嬢様結び、というやつだろうか。髪型は詳しくないからよくわからない。あとでグーグル先生にでも聞いておこう。
さて。感想か。
「困ったな」
「どうして?」
「こんな可愛い幼馴染、俺にはもったいないからな」
「か……かわいい⁉︎」
ボンッ。そんな音が聞こえた気がした。多分気のせいではないはず。昔から梨子はこの手の褒め言葉に弱いからな。
ショートしてしまった梨子を置いて、俺は玄関の外へと飛び出す。
「先行くぞ!」
「……え、あ、待ってよ、涼君!」
九月の街。申し訳程度の涼しさ。けれど、火照った頬にはこれくらいがちょうどいいかもしれない。
ふと、足を止める。道端に咲く桃色の花に目が止まった。
「綺麗だな」
それは——可憐な秋桜。
梨子ちゃん、お誕生日おめでとう!
これで1……あれ、何歳になるんだろ。
さて、アニメではAqoursが予選を突破しましたね、8人で。
……梨子ちゃんはいらない子なんですかっ!
あ、なしこだからか。(違
どうも、少しショックを受けたからっぽです。特別編、いかがだったでしょうか。後日、暇があれば活動報告にて没シーンを掲載する、かも。えっ、本編? ……が、頑張ルビィ(小声
μ'sの頃、ほのことうみのソロアルバムあったじゃないですか、デートドラマCD付きの。あれの梨子ver.が欲しいなと思う今日この頃。
あと、ついでにスクフェスの愚痴話。実は作者……未だに一度も、勧誘で梨子のSR以上を引いてない!(というか、なぜかこない!)
つい昨日くらいも、引いたらSSRが出たんです。50%で梨子(浴衣)のはずだったんです……。
何が『舞え、漆黒の羽!』だ!(ヨハネ推しの方、ごめんなさい)
ちょっと前に水着狙いで引いたら前逆(ryが出るわ、URがまだ4種しかなかった頃に引いたら水着ズラが出るわ(ちゃんと確率アップ時は避けた上で)。これは運がいいのか悪いのか。……悪いに違いない。
梨子はRとイベントしか持ってません。誰か、運を分けて……。
はっ! 特別ボイスを聞きに行かなきゃ!
何はともあれ、梨子ちゃんお誕生日おめでとう! (二回目)