俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第5話

 ここは淡島という島のホテルの屋上、ヘリポート。風は強いし、背後からは編集さんがリバースする音も聞こえる。あっ、カモメも鳴いてるね。要するに騒がしい。

 だから聞き間違えたんだ。そうだ、そうに違いない。

 

「ぱ、ぱーどん?」

「浦の星女学院よ」

 

 なんだ、聞き間違いじゃなかったや。やっぱ俺の耳って超有能? こんな状況でも確実に聞き取れるんだなー。

 

「って、はああああああああああ⁉︎」

 

 待て。待て。待て。ステイ。俺は男子だぞ? 女子でもなければ、男の娘でもないんだぞ? それなのに女子校に転校?

 

「冗談でしょ?」

「ノー、これが本当なのよ」

「いやいやいや。だって女子校ですよ? 男の俺が入れるわけないじゃないですか。まず校長が許さない、そして理事長が許さないでしょ」

 

 やだなぁ、マリーさん。頭のネジが外れてるんじゃないかしらん。

 

「私、浦の星女学院の理事長なのでーす!」

「は……?」

 

 理事長だと……?

 唐突に浮かび上がってきたのはトサカ。ああ、親鳥か。いや、そうじゃなくて。

 

「どうやって理事長になったんです? マリーさん、どこからどう見てもまだ未成年」

「それは……シャイニー!」

「しゃ、シャイニー?」

「まあまあ。人からの善意は素直に受け取るべきよね!」

 

 パチン、とマリーさんが指を鳴らした。するとすぐに、屋上の入り口から執事っぽい人が現れて、俺にスーツケースを手渡した。

 

「これは?」

「浦の星女学院の男子用ユニフォーム、あなたのための特注よ!」

「……」

 

 まさかここまで進んでいたのか。恐るべし、理事長。ここの理事長はベリーアクティブだぞ(移った)。というか、善意って。悪意しか感じないんですが。

 落ち込む俺とは相対的に、かなり上機嫌なマリーさん。男を一人手玉に取るのが、そんなに楽しいのか。楽しいんだろうなぁ……。

 

 

 *

 

 

 再びヘリコプターに搭乗し、十千万前の砂浜まで送ってもらった。次からはフェリーを使えとのこと。やだ、金かかるじゃないですか。

 ついでに浦の星女学院へのアクセス方法を教えてもらった。ここからだとバスで行くのが一番いいらしい。明日からは高海さんと渡辺さんの二人と一緒に登校することになるのだろうか。それはそれでめんど……楽しそうだね、うん。どうせなら梨子と登校したかった。中学生の頃までは一緒に登校してたんだけどな。

 バスの中はガラガラだった。東京ではおしくらまんじゅう状態だったので、これはこれで違和感がある。まあ、座れるのはすごいありがたい。痴漢の疑いをかけられることもないし、先輩に遊ばれることもない。

 学校前のバス停で下り、長い坂を登る。すると浦の星女学院に到達するわけだが……。

 

「遅いですわよ。三分の遅刻」

「え、あ、すみません」

 

 校門前に立っていた黒髪ロングの生徒に怒られた。たぶん生徒会関係の人か何かだろう。見るからに規則にうるさいタイプの人間だ。というより、遅刻って何の話だ。別に待ち合わせしてない。

 

「あっ、涼君! おはよう!」

 

 その怖いお姉さんの影から顔を覗かせた、可愛い女の子。梨子だ。……なぬ?

 

「り、梨子⁉︎」

 

 くすんだ色のセーラー服。浦の星女学院の制服である。それを梨子は着ていた。つまり梨子は浦の星女学院に転入するということだろう。

 これは……きてる! 梨子と同じ学校に通えるなんて、これ以上の喜びがあるだろうか。いや、ない。この喜びは受け止めなくちゃ。やばい、これから最高の毎日が始まる鼓動がする。そう、俺と梨子の心がつながる日が絶対に来る。そう感じるんだ! これは理事長にマジ感謝。

 

「昨日ぶりだね」

「そうだな。……ねえ梨子。今日の放課後は暇?」

「放課後? どうして?」

「ちょっとカフェに行こうよ。今日は梨子と出か——」

「オホン。そこの男子。遅刻した身で、何をペラペラと喋っているのですか」

 

 邪魔が入った。ええい、なんてことをしてくれるんだ、この堅物生徒会長(っぽい人)! ここはバシッと言ってやらないとなぁ!

 

「悪いけど……」

「ああん⁉︎」

「すみませんでした、次からは気をつけます」

 

 怖い、怖いよこの人。逆らえない雰囲気が漂っている。腕を組み、坂の都合上こちらを見下ろすような立ち位置による、上から目線。めちゃくちゃ怖い。

 

「さあ、行きますわよ。私はあなたたちを職員室に案内するように言われてるのです。生徒会の仕事もありますから、早く済ませたいのですわ」

 

 それはお疲れ様です。生徒会の仕事、何があるんだろう。

 

「そうですわ。自己紹介がまだでしたわね。私は黒澤ダイヤ。ここ、浦の星女学院の生徒会長をやっておりますの」

 

 やっぱり。ということは三年生か。セーラー服のリボンの色が緑で、これが三年生の色なのだろう。梨子は赤だから、たぶん二年は赤。

 

「俺は……」

「いえ、結構ですわ。覚えておく必要ありませんもの」

「あ……はい」

 

 なんだ、冷たいな。別に自己紹介くらいよくないか?

 スタスタと先を歩いていく生徒会長を追いかけて歩く。すると、梨子が耳元で囁いてきた。

 

「実はね、私も断られちゃった」

 

 く、くすぐったい。梨子の甘い声が耳にかかる。その綺麗な赤紫色の髪が俺の頬に触れる。ち、近いっす。

 

「? どうかした?」

「い、いや。同じクラスになれるといいな」

「うん! そうだね!」

 

 ああ、このそっと寄り添うような笑顔。もうたまらん。でも目を逸らしてしまう。だってすごい顔が真っ赤になってしまってる気がするからな。照れる。

 

「なんで目をそらすの?」

「ち、近いからだよ」

「あ、そっか……」

 

 梨子も恥ずかしそうに少し離れる。ああ、でももう少し近くにいてもよかったなぁ……。

 職員室に着くと、生徒会長は生徒会室の方へ行ってしまった。り、梨子と二人きり……。

 なんだろう、何を話せばいいのだろう。梨子も梨子で、俺と目を合わせようとしてくれない。少し頬が上気しているような。やっぱり梨子もさっきの囁きは恥ずかしかったらしく、気まずい。

 でもこのまま話さないのはもったいない。せっかく梨子と二人きりなのだ。今は生徒会長(じゃまもの)はいない。

 

「えっと、元気にしてたか?」

 

 おい、俺。もっと気の利いた言葉はなかったのか。元気にしてたかって、実際昨日ぶりなんだぞ。そんな数年来の再開じゃあるまいし。

 

「そうだね、元気だよ。涼君は?」

「俺? ぼちぼちかな」

「そうなんだ」

「ああ」

「……」

「……」

 

 ど、どうしよう。会話が続かない。おかしいな、昔はもっとペラペラと言葉が出てきたのに。やっぱりさっきのあの距離を思うと、どうしても喋りづらくなってしまう。こう、窒息してしまいそうなくらい息苦しい。

 

「あっ、お二人さん! おはようございます」

 

 職員室の奥の方から、先生が一人歩いてきた。良かった、助かった。

 

「二人のクラスの担任です。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「ってことは、俺と梨子は同じクラス……?」

「はい、そうですよ」

 

 きたああああああああ! 内心でガッツポーズ! 勝利! これは青春が一気に色づいた。桜が咲いたよ!

 

「涼君、同じクラスだって。よかった……」

「だな。よろしく」

 

 ほっと胸をなでおろす梨子。そうだよな、梨子も知り合いが誰もいないクラスよりこっちの方がいいだろうしな。俺? もう最高。空に羽ばたけるんじゃないかってくらい浮かれてます、はい。

 

「それじゃあそろそろホームルームの時間ですね。教室に行きましょう」

 

 

 *

 

 

「じゃあ、名前を呼んだら中に入ってきて、そのまま自己紹介をしてね。少し時間がかかるかもしれないけど、よろしくね」

 

 担任の先生は俺らにそう告げると、騒がしい教室の中に入っていった。廊下には俺と梨子の二人だけ。

 

「あのね、涼君」

「梨子? どうした?」

 

 俺がまだ梨子と同じクラスになれたことの感慨にふけっていると、梨子が真剣な表情で話しかけてきた。うん、その真面目な顔付きも綺麗だ。あれ、なぜだろう頬が熱いな、あはは、あはははは。

 

「そんなに見つめないでよ、梨子」

 

 冗談ではない。本当に、じっと梨子が俺を見つめてくるのだ。え、えっと。俺、何かしたかなぁ?

 

「涼君って……好きな人、いるの?」

「すすすす⁉︎ 好きな人⁉︎」

 

 な、何だって⁉︎ 梨子の口から、す、すすす、好きという言葉が! こ、これは両想いなのか(錯乱)。

 

「い、いない。いないよ」

 

 おい、俺。何口走ってる。そこは『好きな人? ああ、梨子。お前だよ』って言うべきだろうが! 全国の女性の皆さん、今の告白はどうでしょう。キュンキュンしましたか? ……え? 俺じゃなくてイケメンだったらおk? ……でしょうね、ええ知ってますよ。世の中はイケメンのためにできている(真理)。

 

「いないの? 本当に?」

 

 今度は梨子ちゃん、ジト目で俺を見てきます。まるで『知ってるよ。いるのはわかってるんだから、白状しなさいよね』的な。やめて、そんな目で見ないで! 新しい扉が開いちゃいそうなの!

 

「いないって。まったく、梨子は疑り深いな。そんなに俺のことが信用できないか?」

「そ、そうじゃないけど……」

 

 今度は梨子が顔を赤らめる。ふっ、カウンターパンチ! この俺が放ったセリフ、梨子に対しては効果抜群だというのが今までの実験により証明されているのだ。たぶん真面目な梨子の、人を疑ったことを恥じる気持ちを攻めているのだろう。この程度で良心が傷付くなんて、もう本当梨子って可愛い。あっ、ちなみにこのセリフは梨子にのみ有効な模様。とある弓道部の先輩に実験的に言ってみたら、ラブレスアローシュートをいただきました。そこに愛なんてなかった。

 

「ところで梨子。急にどうしてそんなことを?」

「ぅえ⁉︎ え、えっと。それは昨日の夜……よ、夜、急に気になったの! 別に大声で誰かが叫んでからとかじゃないよ!」

「ふうん。そうなのか」

 

 まあ俺もあるよ、そういうの。ああ、梨子は今なにしてるんだろうとか、梨子って可愛いなぁとか、常にぽんぽん思いついてるもん。あれ、それってつまり常に考えてると同義?

 

「じゃあ逆に聞くけど、梨子は好きな人いるの?」

 

 ぴくっ、と反応した梨子。おや? 梨子の様子が……デッデッデッデッ……。

 梨子が振り向いた。ニヤリと笑いながら。梨子が進化した。ああ、こんな小悪魔っぽい梨子も可愛いな。なんて思った瞬間。

 

「ご想像にお任せします♪」

 

 ・・・・・・。ああ、そういえば梨子にはある噂があったな、そういえば。えっ、"そういえば"って二回言ってるって? そういえばそうだな、さっきもそういえばそう言ってた、そういえば。

 はぁ……。なぜ俺は忘れていたのだろう。俺がいくら梨子へ想いを募らせても、この壁がある限り絶対に俺には春は来ない。今春だけど。新春は来るけど。青春は来ない。リア充ライフは来ない……。

 

「りょ、涼君⁉︎ どうしたの、急にそんな四つん這いなんかになって……お、お腹痛いの? ど、どうしよう保健室……」

 

 何やら頭上の方で梨子が慌てている。はっ! このバカな俺! 梨子を困らせているぞ! そんなことはさせない!

 というわけで、パパッと起き上がり、梨子にサムズアップ。

 

「わっ! なーんちゃって! 騙された?」

 

 騙したつもりなんてなかったんだけど。てか内心かなりショックを受けてズタボロっす。

 

「うわぁ! な、なーんだ。もう、びっくりさせないでよぉ〜」

 

 この程度で驚く梨子さん、可愛いです。守ってあげたい。はぁ、でも梨子は……。

 

「それでは転校生を紹介します。まずは桜内さん」

「あ! じゃあ涼君、また後でね!」

「ああ」

 

 ばいばい、と手を振りながら梨子が教室に入っていく。廊下には俺ただ一人。

 梨子に関するある噂。それはいつから流れ始めただろうか。正確なことは覚えていない。けれど、結構前からあった噂だ。

 

『桜内梨子はレズビアンである』

 

 本当かどうか、それはわからない。本人が自白したわけでも、本人に聞いたわけでもない。というか怖くて聞けない。だってもしこの噂が本当なら、俺は……。

 これは本当に、ただの噂。でもこの噂にはこんなおまけ話までついてきている。

 

『桜内梨子は小学生の頃、たくさんの男子に告白されたが全て断ったらしい』

 

 これが、噂の根拠である。いや、正確にいうなれば噂ができた原因となる事実だろう。これに関しては俺も事実だと知っている。なぜなら小学生の頃、梨子がことあるごとに『〇〇君が私のこと好きなんだって!』と俺に報告してきたからだ。いらないよ、そんな報告。こっちはいつか梨子が誰かと付き合うのではとビクビクしていたんだぞ。

 でも……。そろそろケジメはつけないといけないのかもしれない。俺は梨子が好き。でも梨子が男を好きになれないのなら、この恋は一生叶わないだろう。だから、いつか……。

 

「ええええええええ!?」

「な、なんだ?」

 

 突然教室内から驚愕の声が聞こえた。この声、高海さんだ。間違いない。って、同じクラスなのか。知人がいて嬉しいような、騒がしくなりそうで少し鬱陶しいような。

 キーンコーン……。

 

「あれ? 鐘?」

「はい、じゃあ授業にしましょうね〜」

 

 どうやら朝のホームルームの時間は終わり、これから授業らしい。……って、ぅおい! ちょっと待ってくださいよ、先生! 紹介なしとか、ひどくないですか⁉︎






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