俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第6話

 その後、一応名前の紹介だけさせてもらえた。先生にはごめんね、ごめんねと何度も頭を下げられた。まあ、別にそこまで気にしてはないんだけどね。

 なぜならば、俺はこの学院初にして唯一の男子生徒である。もう客寄せパンダ状態。何も喋らなくても女子が寄ってくる、話しかけてくる。これが都会だったら女同士の熾烈な争いがあったのかもしれないが、ここは田舎。みんな仲良くのポリシー溢れる地域である。誰が先に話しかけるかみたいな変な駆け引きは一切ない。つまるところ、擬似ハーレム状態。なにこれ、超楽しい。

 

「凪沙君、凪沙君。どこに住んでるの?」

「えっと……ああごめん。土地名思い出せない」

「兄弟姉妹はいるの?」

「いや、いないよ。一人っ子」

「お母さんは美人?」

「さあ。俺はクマがすごい状態の母さんしか見たことないけど」

「どこ高校から来たの?」

「そんな言ってもわからないよ。東京の公立高校なんだけどね」

「好きな食べ物は?」

「卵料理かな」

「じゃあ嫌いな食べ物」

「パプリカ」

「あ、私もパプリカ嫌いなんだ!」

「へえ、同じだね。仲間だ」

「部活は? なにやってたの?」

「え……ちょっと恥ずかしくて言えない」

「恥ずかしい? あ、もしかして相撲とか!」

「なわけ」

「好きな女性のタイプは?」

「うーん、芸術の才能がある人かなぁ」

「はいはい! 私絵がうまいよ! ほら!」

「えっと……これは?」

「私の力作、みかん畑!」

「……えー、ピカソみたいだ」

「わぁ! 褒められちゃった!」

 

 別に褒めたわけではないんだけどなぁ。まあいっか。ピカソ、すごい画家らしいし。君もヤバい画伯だ。

 転校してきてしばらく経ち。今は昼休み。さっきから質問攻めにあってます。でも気分は高まってる。出だしの失敗からのこれ、まさに雨上がりの気分である。もう最初の躓いたことさえも笑い話になっちゃうね! とりあえず黒歴史にはならないでよかった。

 

「なーぎーさーくーん!」

 

 と、背後から大きな声で俺を呼ぶ人が一人。声で判別できる。高海千歌、我が天敵である。

 

「何でしょう」

「一緒にご飯食べようよ!」

 

 えっと……。正直にいえば、遠慮したい。そのにこにこ顔、何か企んでいそうだし。でもそう無下に断るのもちょっと……。

 躊躇していると、高海さんが俺の耳元に囁いてきた。

 

「梨子ちゃんも誘ったんだ〜」

「よし、食べよう。今すぐ食べよう」

「よしっ!」

 

 ガッツポーズをする高海さん。何やら策があるらしいけど、まあ構わない。正面突破で浦の星女学院トオォォタルッ! 嘘です、まず生徒会長に勝てません。

 一方で、ジト目の引き気味でこっちを見てるのが渡辺さん。その表情から察するに、『うわ、テノヒラクルーだ』って感じだろうか。いいんだよ、これこそが愛。愛こそ全て。

 

「じゃあ早速梨子ちゃんと一緒にお昼にしよう!」

 

 

 *

 

 

 ここ、浦の星女学院には食堂なるものがあるらしい。さすが、私立校は違うね。

 一つのテーブルに俺と梨子が隣り合って座り、反対側に高海さんと渡辺さん。二人は何やら作戦会議中らしく、こそこそと話し合っている。

 

「あの! 涼君はお弁当持ってきた?」

「いや。だからこれから何か買いに行こうかな、と」

「あ、待って! それなら、一緒にこれ食べない?」

 

 梨子が取り出したのはピクニックに持っていくんじゃないかというくらい大きいサイズの弁当箱。三重になってるやつ。

 蓋を開けてみると、中身はサンドイッチだった。おお、卵サンドもちゃんとある。

 

「随分と量が多いな……。梨子、これ全部一人で食べるつもりだったのか?」

「え⁉︎ う、ううん! もしかしたら、お弁当を忘れた涼君と一緒に食べられるかな〜、って思って用意したというか、えっと……」

「へえ。俺が弁当を忘れてくるのを予見してたのか。すごいな」

 

 まるでどこかの神田明神のバイト巫女さんみたいだな。タロットカードでも始めてみたらいいんじゃないだろうか。

 

「そ、そうじゃないんだけど……。まあ、いいかな。はい! 好きなだけ食べてねっ!」

「おっ、じゃあ遠慮なく」

 

 とりあえず卵サンドから。俺の一番好きなサンドイッチの種類だ。次点でBLTサンド。

 

「いただきます」

 

 一口、パクリ。

 

「どうかな……?」

「うん、やっぱり梨子の作るサンドイッチはおいしいな」

 

 マヨネーズが控えめで、卵の風味がしっかり出ている。茹で加減も良かったのか、卵の味も素晴らしい。毎日でも食べたい。

 

「良かったぁ。作った甲斐があったよ」

 

 嬉しそうに笑う梨子。うん、俺は生まれた甲斐があったよ。浦の星女学院、最高。

 片っ端からサンドイッチを食べていく。うまい。手が止まんない。

 

「? 梨子は食べないのか?」

 

 気付けばさっきから梨子は俺が食べるのを見ているだけで一つも食べていない。俺がよほど腹を空かせていると思って遠慮でもしているのだろうか。

 

「ほら、食べろよ。はい、あーん」

「え、え、え⁉︎」

 

 ちょうどつかんだ卵サンドを、梨子の口元へと持っていく。梨子はなぜか慌てている。あれ、ゆで卵って梨子の好物じゃないの?

 

「あ、あーん……///」

 

 恐る恐る口を開ける梨子。そっとサンドイッチを入れてあげる。

 

「い、いいね。うん、いい」

「な。おいしいよな」

 

 さすが梨子のサンドイッチ。

 

「あ、あの! 次は私が食べさせてあげる!」

「え」

 

 梨子が今の食べかけの卵サンドを俺の手から取ると、今度は俺に向けて差し出してきた。

 

「あーんして……?」

 

 な、何でしょうこの羞恥プレイ。ここ食堂ですよ? みんなが見てるじゃないですか。そりゃ食べたいけど、梨子に食べさせてもらいけど。あれ、俺ってさっきこれを梨子に対してやったのか。これは恥ずかしい。……もしかして仕返し?

 しかも。しかもだ。本人が気付いているのかどうか知らないけど、それ梨子の食べかけ。か、か、かかかか⁉︎ かんせつキス⁉︎ るてしキス⁉︎(錯乱)

 

「ねえ!」

「た、高海さん?」

 

 そこへ割り込んできた高海さん。渡辺さんと高海さんの作戦会議は終わったらしい。ニヤニヤしながらスマホを取り出した。

 

「スクールアイドルはね、すごいんだよ! 学校を救ったりもできたりして、すごく素敵で!」

 

 μ'sの話か。あのスクールアイドルは廃校に追い込まれた母校を救ったということで地元じゃ超有名。

 

「梨子ちゃんもどう?」

「ごめんなさい」

 

 梨子が頭をさげる。なんだ、スクールアイドルの勧誘か。たしかに梨子は可愛いからな、アイドルやるにはもってこいかもしれない。けどタイミングが悪い。俺と梨子の時間を邪魔するな。

 

「大丈夫、梨子ちゃんすっごく可愛いから!」

「ごめんなさい」

「お願いだから〜」

「んんっ、ごめんなさい!」

 

 梨子は席を立ち上がると俺に一言。

 

「ちょっと席外すね」

 

 そそくさと食堂を去っていく梨子。ああ、梨子に食べさせてもらいたかったな……。すべては高海さんの勧誘のせいか。

 

「何で邪魔したんだよ!」

「ごめんごめん。今度こそうまくいくと思ったんだけどなぁ」

「今度こそ?」

「実はね、千歌ちゃん昨日からずっと誘ってるんだ」

 

 昨日からって。なんて強い執着心。まあ俺なんてずっと前から梨子のことを想い続けているけどね! ストーカーっぽい? あれ、俺ってストーカーなのか……?

 

「私たち、スクールアイドルを始めたんだけど、作曲できる人がいなくて……」

 

 ああ、なるほど。だから作曲のできる梨子に頼もうとしていたわけだ。で、しつこく勧誘しすぎて嫌われちゃったと。

 

「ねえねえ、凪沙君は作曲できたりしないの?」

「できないよ。……あ、でも。知り合いに作曲できる人がいたな、そういえば」

 

 総合病院の跡取り娘。彼女に頼んだら作曲してもらえるんじゃないだろうか。無理だろうか。いや、あのお嬢様はチョロインだと音ノ木坂では有名だ。彼女なら、いける気がする!

 

「よし、じゃあ頼んでみるよ。乞うご期待!」

「おおー! ありがとう、凪沙君!」

「本当に大丈夫なのかなぁ……」

 

 喜ぶ高海さんとは対照的に、渡辺さんは心配そうである。そんなに俺が信用できないのだろうか。渡辺さんの俺の印象は……あっ、梨子キチか。そりゃ心配にもなるか、うん。

 よし、汚名挽回のチャンスだぜ!

 

 

 *

 

 

 放課後。俺は母親から送ってもらったノートパソコンを開き、音ノ木坂に住む作曲の才能のある子にメールを送ってみた。彼女はかのμ'sの曲を全て作曲している天才。そんな人と知り合いなんて、俺って結構すごい?

 すると、すぐに返信がきた。

 

『お断りします』

 

「ええ⁉︎ 何で⁉︎」

 

 断られた。そんな馬鹿な。俺と彼女の仲は、そんな無下に頼みを断るような浅いものではなかったはず。たぶん。メイビー。ベイビー。

 

『お願いです、かのスタダのような名曲を作ってもらえないでしょうか、この通り!』

 

『どの通りよ。土下座でもしてるわけ? 見えないんだけど』

 

 見えないと言われた。仕方ない、土下座した写真でも送ってやる。

 

『キモチワルイ』

 

『ひどくない⁉︎』

 

 見えないと言われたから、送ったのに。たしかにイケメンでもない男の土下座写真なんて送られたってアレだけどさ。あれ、でも土下座してるってことは顔が写ってないわけだからイケメン関係ない? ……もしかして本気で嫌われてるのか……?

 

『あのね、私は忙しいの。レポート課題は次から次へと出るし、にこちゃんと約束したからアイ活も続けてるし。あなたなんかのために力を貸してあげる余裕はないの!』

 

 にこちゃんにこちゃんって、のろけか。むかつく(棚感)。

 

『ツンデレ乙』

 

 しばらく返信はない。ふん、機嫌を損ねて文通終了だな。清々したぜ。

 と、思ったらボイスメッセージが届いた。え、何?

 

『あっ、ママ? そう、精神的に病んでる人がいて……静岡の内浦にいるらしいんだけど、どうも桜内梨子って人のことが好きすぎて頭がおかしくなったみたいなの。ええ、ベッドを一つ、開けておいてもらえるかしら?』

 

「俺は病んでねぇよ!」

 

 くそっ、これだから医者ってのは。すぐ人を病気だと決めつけやがって。俺がいつ、病気になったというのか。あっ、だいぶ前から恋の病にかかってたっぽい。

 メールが届いた。

 

『彼女がいるでしょ。彼女も作曲できるんだから、彼女に頼めばいいじゃない』

 

『それができないから頼んでるんじゃん……』

 

『だとしても、よ。自分たちで何とかする。それがスクールアイドルよ。それにμ'sにはμ'sの、その子たちにはその子たちの良さがあるものなの。何も知らない他人に作曲を頼んだりしてはダメよ』

 

 自分たちだけの良さか。何となくだけどわかるような。やっぱりわからないような。

 とりあえずわかっているのは、交渉に失敗したということだ。うそーん、あれだけ見栄を切っておきながら、失敗って。どうしよう。

 

 

 *

 

 

「すみません、ダメでした」

「ええっ⁉︎ ダメだったの⁉︎」

「やっぱり……」

 

 翌日の朝、即報告。ホウレンソウは大事だからね。でもおかげで渡辺さんからの評価がさらに落ちた気がする。これ、どこまで落ちるんだろう。

 

「曜ちゃ〜ん、どうしよ〜」

「うーん、やっぱり桜内さんに頼むしかないんじゃないのかな……」

「そうだよね……。あーあ、凪沙君がうまくいってればなぁ」

 

 本当、すみませんね。でもさ、協力してもらっただけでも感謝すべきだと思うんだ。だって、俺が高海さんに協力する義理なんてある?

 

「じゃあ凪沙君。梨子ちゃんの勧誘に協力よろしくね!」

「え、それまたどうして」

「期待させておいて失敗したから責任とってってこと!」

「まあ、そうだね」

 

 いやいやいや。だからと言って嫌がっている人を参加させるなんて芸当、俺にはできませんよ。

 

「大丈夫。凪沙君だったら、きっと説得できるよ」

「何を根拠に。渡辺さんも無理だと思うよね?」

「え? あー……いけそうな気もする」

 

 ええ? さっきまで俺のこと信用してなかったじゃん。何その急なテノヒラクルー。

 

「そ・れ・に! 私たちには秘策があるんだ〜」

「秘策?」

「そう! ふっふっふっ、転校生を捕まえる、とっておきの策が!」

 

 転校生を捕まえる? 梨子を捕まえる秘策か? 一体なんだろう、気になる。是非とも俺の恋に応用したい。高海式恋愛塾、開校しないかな。






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