俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第7話

 体育の授業。赤いジャージに着替え、俺ら生徒は外で軽い運動に励んでいる。

 授業開始直後のランニング。トラック五周がノルマなのだがそれを俺はさっさとクリアして、今は走っている梨子を目で追いかけている。

 

「スクールアイドルをねー!」

「ごめんなさーい!」

 

 そして体育の時間でも勧誘を続ける高海さん。すごい根性だな。全然相手にしてもらえてないが。梨子がペースを上げたことで置いてけぼりにされている。

 ところで話は変わるが、ジャージになると制服の時より体のラインがくっきり現れたりもする。というより、ランニングの最中だと揺れる揺れる。それで気付いたのだが、高海さんと渡辺さんが結構大きいのだ。どこがって? 聞くなよ、察しろ。

 音ノ木坂にいた頃、梨子は平均と比べればやや成長している方だった。それなのにこのクラスだと無い方に分類されてしまうのだが。どういうことだ。自然豊かな場所で暮らすと、自然と大きくなるとでも言うのか。ならば梨子と一生ここで暮らそう。暮らせたら。多分無理。

 

「ところで渡辺さん。秘策って何かわかる?」

 

 またまた話は変わるが、今俺の隣で高海さんを応援している渡辺さん。彼女、なかなか運動神経がいい。種目によっては俺よりもできたりしそう。普通じゃない。すごすぎるよ、この人。

 

「ううん。千歌ちゃん、教えてくれないんだよね。凪沙君は何か見当があったりする?」

「いや、何も」

「だよねー」

 

 渡辺さんも知らないらしい。一体どんな策なんだろう。なんか嫌な予感がする。いやむしろ嫌な予感しかしない。

 

 

 *

 

 

 ここは女学院。男子は俺一人だけ。というわけで、俺は一人だけ空き教室で着替えることになっている。だから体育の後はぼっちと化してしまうのだ。

 のハズなのだが、今は両隣に女子。えっ、両手に花だって? いや、俺的には梨子にいて欲しかった。梨子一人で十分。

 

「千歌ちゃん……それ、本気?」

 

 訝しげな目で友達を見る女の子、渡辺さん。俺の右隣を歩いている。なぜ高海さんの隣じゃないのかと聞いたところ、俺の逃亡を防ぐためだそうだ。怖い。

 

「本気だよ! 大丈夫、凪沙君なら絶対に説得できる!」

「何を根拠に」

「まあそれもわからなくもないけどさ〜、でもやっぱりこの人に頼るのはちょっと……」

「渡辺さん? 信用するのかしないのかはっきりさせてくれないかな?」

 

 高海さんが掲げた秘策。それは俺が梨子を勧誘するというもの。そんなんでうまくいくものなのか。そもそも梨子はスクールアイドルになるのを望んでいないのだろう? 俺は勧誘しないぞ。

 

「とりあえずまずは契約書にサインを、っと」

 

 高海さんに一枚の紙を渡される。契約書? そんなものもあるのか……って。

 

「これ、部活の創部申請書じゃん!」

「ほら、そこの部員名簿に名前を……」

 

 高海さんが指し示した部員の名前を書くところ。現在は高海さんと渡辺さんの二人だけ。す、少ないのな……。

 高海さん、なんて抜かりのない子。うっかりもう少しでスクールアイドル部なる部活に入れさせられるところだった。

 

「拒否する」

「どうしてもダメ?」

「ダメだ」

「じゃあ"アレ"、梨子ちゃんに言ってもいいの?」

「な⁉︎」

 

 そのアレっていうのは、もしかしてあの例の寄せ書きのことを言っているんじゃないだろうな……?

 

「あ、それとも梨子ちゃんだけじゃなくてクラスメイトみんなに見せちゃおうかな〜」

「た、高海さん? 何を言っているのかな?」

 

 いやいや、それはやばいって。

 思い出すのは小学生の頃の林間学校。その最後の夜、男子部屋。恒例(?)の告白大会が行われた。トランプで負けた奴から好きな子を告白していくというあれ。

 俺は初っ端から負けた。そこで潔く諦め、好きな人(梨子)の名前を言ったわけだ。するとどうなったか。

 

『うわぁ、マジか……』

『最悪……』

『涼、それはない』

『何なんだ、お前はよ』

 

 この反応である。俺、何か悪いことしたか? いや、してないはず。

 

『そこはさあ。本命を言うところだろ?』

『そういうとりあえず幼馴染の名前挙げとけばいいや、みたいなのいらないから』

『え? いや、これ俺の本……』

『嘘つくなよな、涼!』

『あんな地味子のどこがいいんだか』

「あ、お前今梨子のことを地味っつったな!』

『実際地味だろ。な、お前らもそう思うよな』

『そうだそうだ!』

『なんだとぉ!』

 

 そこから枕による大乱闘に発展、見回りの先生に見つかるまで殴り合った覚えがある。身体中にあざを作って、梨子の母親に大変心配されたっけ。

 しかし雨降って地固まるというもので、俺ら男子の絆は深まった。彼らは俺の恋を応援するとか何とか言ったり。泣いてる奴もいたな、そういえば。

 ただやり方がちょっと。梨子と俺が一緒にいるときにやってきては、『涼と桜内は両想い!』とか言ってくるのだ。その度に梨子は顔を真っ赤にしてどこか行ってしまった。おかげで一緒に過ごす時間が減った。とんだ迷惑だ、まったく。

 そして後になってわかったことだが、その男子たちの多くは以前梨子に告白してフラれていたらしい。あれ、それじゃあこれらのことってただの八つ当たり?

 なんか腹が立ってきたが、つまり男子の前で梨子が好きだと言っただけでこれだけ荒れたのだ。男子より陰湿と名高い女子の前でそんなことを明らかにされたらどうなるか。しかもあの雑コラつき。俺、社会的に死ぬんじゃないだろうか。

 

「一斉メール送信10秒前!」

 

 高々と宣言する高海さん。手にはスマホ。画面はクラス連絡網。いや、嘘だろ⁉︎ 転校生を捕まえる秘策って、梨子じゃなくて俺を捕まえる秘策だったのか⁉︎

 

「9、8、7」

「いや、本当に待って⁉︎ ゆっくり話そう⁉︎ な⁉︎ な⁉︎」

 

 何とかスマホを奪おうとするが、高海さんはスマホを持っている右腕を高く上げて、左腕で俺を近づけまいとガードする。おお、もしかしてバスケットボールが得意だったりするのか? いや、感心してる場合じゃなくて!

 

「6、5、4……うわぁ!」

 

 なかなかスマホを取れない。と思ったら、反対側から誰かが奪っていった。

 

「渡辺さん?」

「はい、消去」

「あああああ⁉︎」

 

 渡辺さんが高海さんが記入した本文及び添付写真を消した。あれ? 俺の味方?

 

「それからこっちもね」

 

 続けざまに写真ファイルを開き、慣れた手つきで例の寄せ書きの写真を削除。おお、グッジョブ。

 

「もう、千歌ちゃん。そういうことしちゃダメでしょ」

 

 少し怒り気味の顔で渡辺さんがそう言った。

 

「でも……」

「焦りすぎ。そういうやり方で成功させようとしても、うまくいかないのが世の常。それに仮に成功したとしても、千歌ちゃんはそれで喜べるの?」

 

 おお、そうだそうだ。こんなことやめちまえ。まあ、高海さんの諦めが悪いのは梨子の件を見て重々承知してるから、そう簡単には……。

 

「曜ちゃん……そうだよね。凪沙君、ごめん!」

「え? あ、うん」

「スクールアイドルをやるんだーってことに気持ちが向きすぎちゃって、周りの人のことを全然考えてなかったみたい。迷惑……だったよね。本当にごめんなさい!」

「いや、そんなことは……」

「アレのことも全部忘れる! あ、大丈夫だよ。私、頭あまり良くないし、絶対に忘れられるよ!」

「いや、別に……」

「千歌ちゃん大変! もうこんな時間、次の授業が始まっちゃうよ!」

「うわあ⁉︎ 本当だ! じゃあ、本当にごめんね、凪沙君!」

 

 二人が走り去っていった。チャイムだけが虚しく響く廊下で俺は立ち尽くす。

 何だろう、この感覚。厄介ごとがなくなって嬉しいはずなのに。高海さんはあの事を忘れると宣言したのに。拍子抜けというのだろうか。

 いや、少し違う気がする。

 

「って、俺も授業じゃんか!」

 

 

 *

 

 

「ちくしょう……。高海さんも渡辺さんも、俺を置いておくなんてひどいよ」

 

 放課後。授業に遅刻した俺は先生に指示されて職員室にノートを運ぶことに。最悪。

 腕いっぱいにノートを抱え、教室を出る。すると、クラス一の美少女(俺の独断と偏見にもとづく)、梨子に遭遇した。

 

「梨子」

「涼君、あのね。今日、一緒に帰れたりしないかな……? 少し、話したいことがあるの」

「話……?」

 

 何だろう。まさかの告白とか? いや、ほぼほぼないか。しかしその可能性がある限り、俺は諦めないからな!

 

「ダメかな?」

「いいよ。全然オッケー。むしろウェルカム、よし今日は一緒に帰ろう!」

「なんだか、テンションが高いね」

 

 梨子に苦笑いされた。オゥ……オゥ……オゥ……これはあの人のせいだ、たぶん。

 

「じゃあ私、校門で待ってるね」

「ああ。すぐ行くよ」

 

 そうと決まったら早速ノートを提出に行こう。廊下を走るぜ、ゴーゴー! ……やばい、割とマジであの人に毒されている希ガス。その可能性はアルゴン何つって。……早く職員室に行こ。

 

「今行こ、早く行こー。どこでも……はよくないな。職員室だけ、ど……あれ?」

 

 廊下を走っていると、ふと窓の外に気になる光景を見つけた。日が射す中庭で踊っている女子生徒が二人。うわぁ、スカートでダンスとか見えそうだな。惜し……じゃない、危ないぞ。

 と思ったら高海さんと渡辺さんだった。スクールアイドルのダンスレッスンか。頑張ってるな、まだまだお世辞にも上手いとは言えないが。

 でも。

 似ている。昔はよくクラスメイトと遊んだのだが、その帰り道に寄る神社で彼女たちが練習していたそれに、似ている。あの姉さん方だって、最初は下手だったんだ。穂乃果先輩なんて何回転んでいただろうか。

 

「……協力かぁ」

 

 あの頃はまだまだ俺はガキで。特にできることなんて何一つなかったけど。

 

 

 *

 

 

 職員室から教室に戻ると、まだ数人の生徒が残っていた。その中にはあの二人の姿も。

 

「曜ちゃん、衣装は考えてきた?」

「うん! ジャーン!」

「ううん……いいんだけど、スカートとかないの?」

「あるよ!」

「うーん……もっと可愛いのがいいなぁ」

「じゃあこれかな!」

「……曜ちゃん」

 

 二人は教室の端でスケッチブックを片手に話している。

 どうする、凪沙涼。言うなら今だ。今しかない。一度機会を逃せば、次はいつ勇気が起きるかわからないんだから。

 

「……よし!」

 

 パチン!

 両頬を叩く。校門で待っている梨子には悪いけど、少しだけ遅れるかもしれないな。

 俺は二人の座っている机に一直線に向かい、

 

「あの!」

「むぅ? 凪沙君?」

 

 話しかけた。さあ、逃げるコマンドはない。もう引き返せないぞ。

 

「えっとさ。さっきは拒否するとか何とか言ったけど……やっぱり手伝うよ。スクールアイドル、手伝うよ」

「ふえ?」

「どうしたの、急に」

「さっき、中庭で練習してたよね? 見てたんだ。いや、たまたま目に入ったというか。それでさ、二人とも本気なんだなぁって思って」

「ええっ⁉︎ それって今まで私たちが遊んでたように見えたってこと⁉︎」

「いや、そうじゃないけど! 改めて感じたというか、それで思ったんだよ。なんか特に理由もなく協力を断った自分って、何なんだろうって。それで……」

「手伝う気になった、と。ふーん……」

 

 なぜか渡辺さんが興味深そうに俺を見てくる。な、何でしょう。寝癖でもついてますかね?

 

「えっと、凪沙君? アレのことを気にしてるならいいんだよ? 私、もう絶対にそのことは言わないし」

「違うって。違う。そうじゃない。俺がやりたいから。そう、やりたいんだよ! 今まで遠かったスクールアイドルが、遠い場所で輝いていたスクールアイドルが今はこんな近くで、目の前で頑張ってるのを見て。俺も、俺も何かしたい。協力したい、そう思ったんだ」

「凪沙君……」

「まあでも……嫌なら嫌でいいんだ。二人って昔から仲良いんだよね? 見てて分かる。だからそれの邪魔になるっていうんだったら、俺は別に……」

「凪沙君!」

「は、はい!」

 

 いきなり高海さんが大声を出し、俺は反射で直立不動。思わず敬礼が飛び出してしまいそうだった。

 

「凪沙君……凪沙君……ありがとう!!」

「え、た、ぬわっ⁉︎」

 

 椅子から飛び跳ねた高海さんが飛びついてくる。勢いで俺は後ろにひっくり返る。な、なんて過激なスキンシップ。理事長よりもすごいんじゃないだろうか。

 

「ちょ、ちょっと高海さん。離れて!」

「あ、ごめんごめん。ついノリで」

 

 ノリって。女子校のノリみたいな? 女子同士だとこれくらい普通ってことなんでしょうか。ゆりゆり〜。

 とりあえずこの反応。オッケーらしい。少し信じられないけど。ドッキリだろうか。どこかにカメラがあったりするんじゃないのか?

 

「ほ、本当にいいの?」

「うん! いいよね、曜ちゃん!」

「もちろん!」

「これで三人目の部員! やったよ、曜ちゃん!」

「千歌ちゃん……!」

「「ばんざーい!」」

 

 大はしゃぎで抱き合う二人。ゆ、ゆりゆり?

 

「は! こうしちゃいられないよ! 早速生徒会室に出陣だ!」

「おおー!」

「え? 今から?」

 

 右腕を高海さん、左腕を渡辺さんにがっちりホールドされる。ちょ、俺は梨子との待ち合わせがあって、それは困るんですが。

 振り向いた二人は笑顔で。

 

「これから一緒に頑張ろうね、凪沙君!」

「それじゃあ行くよ! 全速前進、ヨーソロー!」

 

 だ、だ、ダレカタスケテ-!






ススメ→トゥギャザア
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