俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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あ、赤い……評価が赤いよ……!
これは現実なのか? 夢じゃないのか? 目の錯覚ではないのか?
ん? 『錯覚』……?


第8話

「お断りしますわ!」

「嘘ぉ⁉︎」

「やっぱり……」

 

 場所は変わって生徒会室。事務机の向こう側に座っているのは黒髪ロング・前髪パッツンの前時代的生徒会長、黒澤ダイヤ……先輩。

 しかし彼女が認められない系生徒会長だったとは。時代は認められない系から某穂むら看板娘や猫姉さんのようなイケイケゴーゴー系生徒会長に移りつつあると信じていたのに。

 というか渡辺さん。やっぱりって何ですか。だったら連れてこないでくださいよ、梨子との待ち合わせがあったのに。

 

「それに作曲の件はどうなったのです。それがクリアできなければ、どう頑張ったってスクールアイドルは成功しませんわよ」

「それは、その……いずれ、どうにかなります!」

 

 高海さんは俺の方を見ると……ぐっ。グーサインを出してきた。ああ、それは俺に梨子を何とかしろと言いたいんですか。

 

「……」

 

 明らかに生徒会長の機嫌が悪くなってきている。腕を組み、トントンと指を叩いている。そろそろ引き際だな、こりゃ。てか早く梨子と帰らせて。

 

「でも! ほら、三人になったんですよ⁉︎」

「私は五人必要だと言ったはずですが」

「高海さん……話聞いてなかったの」

「聞いてたけど! でももしかしたらって思って! ほら、u'sも最初は三人だったんですよね?」

 

 ……ん? 今、俺の耳は誤情報を受け取ってしまったのだろうか。あの騒がしいホテルの屋上でも聞き間違いを犯さなかったこの超万能耳が、まさかミューとユーを聞き間違えるなんてないよな? ないよな? おい、まさか。

 

「知らないんですか? 第二回ラブライブ!優勝、音ノ木坂学院のu's……」

 

 ガタッ!

 生徒会長が椅子から立ち上がった。ああ、やっぱり俺だけの聞き間違いではないっぽい。さすが俺の耳は有能(逃避)。

 

「それはまさか、μ'sのことを言っているのではないですわよね……?」

「え」

 

 固まる高海さん。高海さん……。

 

「あ、あれって……もしかしてミューズって読む……」

「お黙らっしゃあああいっ!」

 

 ガタガタと窓ガラスが激しく揺れるほど、生徒会長が怒鳴った。まあ気持ちもわかる。高海さん、さすがにそれはない。

 

「言うに事欠いて名前を間違えるですって⁉︎ ああん⁉︎」

 

 か、かいちょー。言葉遣いが、言葉遣いが……。

 

「μ'sはスクールアイドルたちにとって伝説、聖域、聖典! 宇宙にも等しき生命の源ですわよ!」

 

 べ、べた褒め。これは生徒会長、ガチなファンだったのか。やはりこの人も生徒会長というわけか(適当)。

 

「その名前を間違えるとは……片腹痛いですわ」

 

 胸ぐらでも掴むんじゃないかという距離まで高海さんに迫る生徒会長。怖い。

 

「ち、近くないですか?」

 

 高海さんの冷静なツッコミ。生徒会長は一旦距離をとる。

 

「どうせたまたまネットで見つけて、軽い気持ちで真似してみようと思ったのでしょう」

「そんなことありません!」

「どうだか。では聞きますが、μ'sが9人揃って初めて歌った曲は?」

「え? えっと……」

 

 答えられない高海さん。そんな高海さんの前に仁王立ちする生徒会長。ああ、これは生徒会長、怒りマックスで手が出るんじゃないか。高海さん、逃げて!

 

「ブー! ですわ!」

 

 ……あれ?

 

「この程度の問題にも答えられないなんて、やはり……。そこのあなたたちはどうなんですの。まさか彼女と同レベルの知識しかないとは言いませんわよね?」

「うぇ⁉︎ な、凪沙君、パス!」

 

 渡辺さんは慌てて俺の背後に隠れる。仕方ない、ここは凪沙涼様の出番かな!

 

「ぼらららだろ」

「そう。それがファンの間で呼ばれている略称ですわね。では次の問題。μ'sがラブライブ地区予選で歌った会場はどこ?」

「UTX学院の屋上。歌ったのは扉」

「まあ、正解ですわね」

 

 ふっ、なめてもらっては困る。俺は伊達にμ'sのメンバーに弄られていない! ……あれ、目から汗が。白熱のクイズバトルに感動してるのか。

 

「じゃあ次は俺のターンですよ。問題。μ'sのメンバー、矢澤にこの自己アピールはどのようなものか」

「そんなことは常識でしてよ。まさかこの私が分からないとでも思って?」

 

 髪を払いのけた生徒会長。俺らに背を向け、深呼吸。

 ——そして振り向いた。

 

「に(ry」

 

 

 *

 

 

「せ、生徒会長……」

「く……くく……」

「どう? 正解ですわよね」

 

 ドヤ顔の生徒会長。髪をさっと払い、腕を組む。

 

「ま、まあ……くく」

 

 まさか本当にやるとは思わなんだ。結構衝撃的でした。うん、どこの学校でも生徒会長はポン……くーるな人だということだね。

 ドヤ顔の生徒会長。まあ、本人が楽しんでおられるのなら何の問題もないよな、うん。やはりコレは笑顔の魔法だった。

 

「生徒会長、それ……ふふ、何ですかぁ? お笑いのネタ?」

 

 が、爆弾投下をする人が一人。た、高海さん。名前違い、9人揃った最初の曲分からない、その上これはさすがにない。

 

「はあァ⁉︎」

 

 機嫌の良さそうだった生徒会長は急変。ドスドスと音を立てながら高海さんに接近、部屋の隅の放送器具のところまで追い詰める。

 ガンッ!

 

「あなた……本気で言ってますの?」

「あ、いや、えっと……」

 

 追い詰められた高海さんが横目で俺を見て、パチパチパチ。意味深なウインク。まあ多分SOSを送ってきているのだと思われる。

 

「ま、まあまあ生徒会長。そこまで怒らなくても」

 

 とりあえず生徒会長を落ち着かせるため、二人の間に割って入る。どうどう。

 

「お黙らっしゃい! このような者を庇うとは、あなたも同罪ですわよ!」

 

 ど、同罪って。そりゃないでしょ。一緒にしないでほしい。

 

「じゃあこうしましょう。もう一問だけ問題を出して、それに俺が答えられたらここは見逃してやってください」

「っ……! ま、まあ。それなら許可いたしましょう」

 

 あれ、今生徒会長の口角が少し上がったような。なんか抑えようとしてる感じで、ぎこちなかったけど。もしかして、誰かとこんな会話をしたかったのか……?

 

「行きますわよ。μ'sが第二回ラブライブ決勝のアンコールで歌った曲は」

「はいはい! それなら知ってるよ! 僕らは今の中で!」

「ですが」

「ええ⁉︎」

「曲の冒頭でスキップしている四名は誰?」

 

 そう来たか。

 俺は頭の中であの伝説のライブの映像を早送りする。ちゃんと現地で見たんだぜ? あの熱気、すごかった。俺の前にいた夫婦(知人)なんかバルログ持ちだぜ、バルログ持ち。まあ俺も近くにいた親鳥さんにサイリウムを借りてブンブン振ってたんだけどね。え、誰かって? そりゃ理事長やってるおばさ……浦の星女学院の理事長と遜色ないくらい若々しい理事長ですよ、ええ。何だろう、背筋が冷たい。

 ってそんなこと考えている場合ではな——

 

「ブッブッブーですわ!」

 

 突然目の前に突き出された生徒会長の顔。驚いた俺は、つい反射的に後ろにのけぞってしまい……。

 

「うわあ⁉︎」

 

 後ろにいた高海さん諸共、放送用の機材に倒れこむ。ああ、背中に柔らかい感触が……って、高海さんの後ろでなんか変な音がしたけど、大丈夫かな……?

 

「まったく、この程度も知らないなんて……たかが知れますわ。正解は」

「ま、待って! 答えはいい、わかるから! 絢瀬絵里、東條」

「ダメですわ、時間切れでしてよ」

「ずるくない⁉︎ 最初設定してませんでしたよね⁉︎」

「これは基本中の基本の問題ですわ! かけ算九九と同じ、即答できて当然のものですわよ!」

 

 せこいでしょ……。

 

「だったら俺からも問題を出しますよ! にこ姉のバス——」

「いいよ、凪沙君」

 

 高海さんに止められた。なんでだよ! この問題だったら絶対生徒会長は間違えるのに……。

 

「生徒会長ってやけにμ'sに詳しいんですね。もしかしてファン?」

「ふんっ、私を誰だと思って……そ、そんなことありえませんわ! ただの一般常識、一般教養でしてよ!」

 

 いや、これが一般教養とかありえないだろ。……ありえるのか? 確かに有名なアイドルの振り付けは誰でも真似できるけど。

 

「とにかく、スクールアイドル部は認めませんっ!」

 

 生徒会長が高らかに宣言した。くっ、どうすれば成功するんだ。

 

「あのー……」

「渡辺さん?」

 

 さっきから一言も喋っていなかった渡辺さんが、おずおずと手を挙げた。そしてその挙げた手でゆっくりと放送器具を指差す。

 

「マイク」

「マイク……あ」

 

 マイクを確認したところ、スイッチが入っておられました。……つまりあれだよな、俺らの今の会話が全校生徒に筒抜け。もちろん、梨子も含む。……梨子?

 

「やば⁉︎」

 

 

 *

 

 

「梨子! ……って、もう帰ったよなぁ」

 

 急いで校門まで走ってみたがそこには我が幼馴染の姿はなく。

 まあ当然だよな。すぐ行くって言ったのに、それがなぜか生徒会室で生徒会長とμ'sの話をしていたのだから。俺ってサイテー。

 そういえば梨子は話があると言っていた。もしそれが大事な話だったらどうするんだ。

 

「凪沙くーん! どーしたの、急に走ったりして!」

「高海さん」

「一人で帰るの?」

「まあ」

「じゃあ一緒に帰ろ!」

「え」

 

 なにこの、梨子と帰れると思った? 残念、高海さんでした感は。いや、高海さんも可愛い子だとは思いますけどね。その瞳の色、綺麗だよね。

 

「あれ、でも高海さんって渡辺さんと」

「なあに言ってるの、三人で帰ろってことじゃん! 曜ちゃーん!」

 

 高海さんが後ろから走ってくる渡辺さんに向かって手を振る。三人。まあそれもそうか。俺らは現在、三人でスクールアイドル部を作ろうとしているのだから。

 ということは、これからも三人で活動することが多くなるのだろうか。三人で過ごす時間が増えるのだろうか。

 

「もう千歌ちゃん! 鞄忘れてるよ!」

「あれ? ああ、本当だ! ありがとー」

「鞄を忘れるって。高海さんって天然?」

「えへへ、そうかも。……あっ、そうだよ!」

 

 急に何かを思い出したらしい高海さんは、膨れっ面をする。

 

「凪沙君、じゃなくてりょー君! ねえ、名前で呼び合おうよ!」

「え? 名前?」

「千歌ちゃんいいね、それ! ほら、これから私たち一緒に部活を作って行くもんね。仲良くなるキッカケに!」

「まあ、別に構わないけど」

 

 μ'sのメンバーも下の名前で呼んでるからな。梨子も。

 

「じゃあ千歌と曜。これでいい?」

「うんうん! 仲間って感じだね!」

「涼君、よろしくね」

 

 なんだか、新鮮。梨子なんかとはもう出会った時から名前呼びみたいな感じだったからな。家族ぐるみの付き合いだと、名字で呼ぶなんて面倒なだけだったし。

 

「じゃ、帰ろっか。あ、そうだ! 曜ちゃん、さっきの衣装の続き!」

「わかってるわかってる。あ、涼君も見る?」

 

 曜がスケッチブックを見せてくれる。ああ、さっき教室で話してたやつだ。千歌をモデルとしたっぽい女の子がミリタリー系の服を着ているイラスト。

 

「可愛い絵だけど、これが衣装? なんか斬新」

「斬新っていうかさ……アイドルっぽくないよ。もっとフリフリの可愛い衣装ないの?」

「そう言うと思って、それも描いてきたよ!」

 

 曜がスケッチブックをめくって別の絵を見せる。いや、だったら最初からそれを見せればよかったんじゃ……。

 

「どれどれ〜? おお、可愛い! そうだよ、こういうのだよ!」

 

 覗き込む千歌のアホ毛越しに俺も見る。ああ、確かに可愛い衣装だな。脳内の梨子ちゃんにこの衣装を着せてみる。うん、似合う。可愛い。でも色は黄色じゃない方がいいな。何色が似合うんだろう。

 

「あれ。気になったんだけど、衣装って誰が作るの? 曜?」

「そうだよ」

「へえ、すごいな」

「でしょでしょ! 曜ちゃんはすごいんだよ! ほら、もっと褒めてもいいんだよ?」

「いや、誰もお前を褒めてるわけじゃないからな?」

 

 けど、絵が上手くて裁縫もできる。うん、ハイスペック。絵のセンスがあって家庭科もできるとか梨子みたいだ。梨子はどちらかというと裁縫より料理派だけどね。それに梨子は作曲もできる。ふっ、曜くん、君より梨子の方がスペックが高いようだぞ。

 

「それにね、曜ちゃんは高飛び込みも得意なんだよ! 強化指定選手にも選ばれてるしね!」

「え。マジですか」

「えと、まあ。人にそう紹介されると、なんか照れるね」

 

 この人も梨子と同レベル以上のスペックの持ち主でした。なんか、すごいな。

 

「……りょー君」

「……千歌」

 

 目を合わせただけで俺らの気持ちは通じた。

 

「「普通だなー、俺(私)たち」」

 

 二人揃って海岸堤防に座り込むと溜息。はぁ〜。なぜ世の中はこうも不平等なのか。おお、神よ。

 

「こんなんでアイドルなんてやっていけるのかなぁ」

 

 本当。こんなんで梨子と付き合える日は来るのだろうか。俺には何の魅力もない。取り柄もない。梨子の隣に立つ資格、俺にはあるのだろうか……。

 

「じゃあ、やめる?」

 

 俺たちと同じように堤防の上に座る曜。その質問、いい質問ですね(池感)。

 

「やめない! りょー君も、諦めないよね?」

「もちろん」

 

 諦めてたまるか。たぶん、普通な俺らが(まあ俺からみたら千歌も十分普通を逸脱してるんだけど)唯一誇れること、それは根気だろう。これは頑張れば、誰だって自慢できることなんだ。強がって、意地張って、足掻きもがいて、それでもいい。諦めない。その気持ちだけあれば、いつかは。






ぼららら〜僕らはラブライ部員 君もライバー〜
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