俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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硬そうな人「評価が赤? そんなもの、一瞬に決まってるでしょう。試しに今、評価を見てみればいいですわ」


第9話

「あ、あの子。この間の……」

「ん?」

 

 千歌が指差した方向。道を歩く女子高生が一人。大人しめな印象を受けるその子は背は小さい。けれどその身長に似合わず随分と大きなものだこと。

 

「花丸ちゃん! おーい!」

「あっ、こんにちは」

 

 千歌が名前を呼んだ。花丸さんというらしい。彼女はこちらに気付くと丁寧に挨拶を返す。そしてその後ろの木の陰から、赤い何かが見えた。何だあれ。

 

「あれは何?」

「どれ? あ、あれは! ルビィちゃんもいる! おーい!」

 

 ルビィちゃん? あの赤いのは女の子の髪の毛だったのか。

 ルビィちゃんとやらに向かって走っていった千歌を眺めながら、俺は曜に尋ねる。

 

「二人とはどういう関係なの?」

「えっとね、二人は今年の新入生。入学式の日に勧誘をやってさ、その時に少し話したんだ」

 

 へえ、一年生か。確かに胸元のリボンが二年生や三年生とは色が違う。

 

「あれ? 勧誘の時に話をしたってことは、もしかして二人ともスクールアイドルに興味があるってこと?」

「うーん、どうなんだろ。なくはない気もするけど、なんとも」

 

 なるほど。それで千歌はこうも接触を試みているのか。確かにあと二人入れば、部活を作るのに必要な最低五人という条件は突破できる。それに二人とも、梨子には負けるけど容姿もそこそこに可愛いし。梨子にはかなわないけど。二人とも、スクールアイドルをやれば人気は出るだろう。梨子には絶対に(ry

 

「って、何してんだ千歌は」

 

 千歌はポケットから取り出した棒突きキャンディを餌に、木の陰に隠れたままだったルビィちゃんを外に誘い出そうとしている。いやいや、そんなんで釣れるかよ。……あれ、本当に出てきちゃったよ。

 

「あ、あはは……。まあ千歌ちゃんだし」

「どういう理由だよ、それ」

 

 わからないこともないけどさ。要はあれだろ、梨子が可愛いのはなぜかと聞かれたら『それは梨子だから』と答えるようなもの。違うか? 違うな。

 

「……何か?」

「ん? 何にもないけど?」

 

 曜の方から視線を感じたので聞いてみたけど、錯覚だったみたい。ん? 錯覚……? それでは聞いてください、さ(ry

 

 

 *

 

 

 その後、皆行きたい方向が同じということで同じバスに乗った。

 

「マルは国木田花丸です」

「マルちゃんね、よろしく。俺は凪沙涼。えっと、そっちは……」

 

 バスの中で、通路を挟んで反対側にいるマルちゃんと自己紹介。

 そして、その向こう側に座るもう一人の一年生は……。

 

「く、くくくくっ、くろっ、くろろっ!」

「だ、大丈夫? 呂律が回ってないよ……?」

「ルビィちゃんは人見知りの男性恐怖症ずら」

「ずら?」

「あ! いえ、男性恐怖症、です」

「ふーん、男性恐怖症か。それはまあ仕方ないよな。いいよ、無理しなくて」

「えと、あう……」

 

 ルビィちゃん涙目。

 

「え⁉︎ ちょ⁉︎ 泣かないで⁉︎」

「あー! りょー君、泣かせたなぁ!」

 

 バスの中、マルちゃんとルビィちゃんの後ろに座っていた千歌が俺を指差してきた。

 

「いや、俺のせい⁉︎」

 

 何で俺のせいなんだ。だって考えてみろ、ルビィちゃんが泣いた状況を。バスの中で、今日初めて会った男子と挨拶、その時点で涙目。あれ、俺のせい?

 

「よーしよし、いい子だからね〜」

 

 先程誘き寄せるのに用いたキャンディをあげて、千歌がルビィちゃんをなだめる。と思ったら、俺を膨れっ面で見てきた。『なんで泣かしたの!』と顔が言っている。いや、なんでって。

 

「これ、俺が悪いの?」

 

 俺の席の後ろに座っていた曜に尋ねる。ちなみに彼女もまだルビィちゃんとの心理的距離を完全には埋めきれてないようで、千歌みたいに後ろに座ったりはできないらしい。どうやらルビィちゃんとお近づきになるには棒キャンディが必要らなようだ。

 

「あはは……そうなのかもね」

「そこは否定してくれよ……」

 

 曜さん、意外と優しくないのね。涼、哀しい。

 

「ねえねえ、二人はスクールアイドルに興味ない?」

「スクールアイドル?」

「すっごく楽しいよ。興味ない?」

「あ、いえ。マルは図書委員の仕事があるずら、うぇ、あるし……」

「そっか。ルビィちゃんは?」

「うえぇっ、ルビィ? ルビィは……」

 

 ちらり。ルビィちゃんに見られた。え、話聞くのもダメですか。

 仕方ないので、曜とおしゃべりでもしてよう、そうしよう。

 

「曜……曜?」

 

 振り向いてみると、曜はジッと俺を見ていた。え、えっと……。

 

「何か用?」

「ん? いや、別に……バスの中、少し冷房が効きすぎかな?」

「そうか? ……べ、別にそういう意味で言ったんじゃないぞ⁉︎」

 

 曜に笑われた。なんか無性に悔しい。

 

「ねえ、りょー君! 今日の放課後って暇?」

「千歌? 何で?」

 

 千歌からの話によると、マルちゃんのクラスメイトが一人、不登校になっているらしい。その理由は詳しくは教えてもらえなかったが、入学式で少しやらかしてしまったそうだ。そしてノートをマルちゃんが届けることになった、と。

 

「で、どうして俺の放課後の予定を?」

「ほら、やっぱり女の子だけで行かせるなんて良くないでしょ? だから付き添いに」

「別に俺は構わないけど……」

 

 強いて言うなら、梨子の住所を特定して謝罪にでも行こうと思ってたんだけど。

 

「でも、彼女はいいの?」

 

 俺は赤髪のツーサイドアップの子を示す。くろ……くろなんとかルビィちゃん。苗字は未だ不明。男性恐怖症。俺が一緒に行くのは困るんじゃないのか?

 

「る、ルビィは……ルビィは、えと……」

 

 俺と目を合わせた途端、ルビィちゃんは顔を赤面させ、マルちゃんの影に隠れる。やっぱり無理なんじゃ……。

 すると、ルビィちゃんの代わりにマルちゃんが喋り始めた。

 

「ルビィちゃんは構わないそうです」

「え、そうなの?」

「はい。男性恐怖症、人見知りを克服したいって」

「じゃあ決定! 頑張ってね、りょー君」

「え? 千歌は行かないの?」

「ふふん、千歌ちゃんにはやるべきことがあるんですよ」

 

 自慢げに語る千歌。ええ……丸投げっすか。言い出しっぺのくせに。

 

「あ、降りないと!」

 

 気付けばバスはもう十千万の前まで来ていた。千歌はダッシュで出口まで行くと、バスから飛び降りる。こっちを振り向くと、大きく手を振る。

 

「じゃーねー!」

「じゃあねじゃないよ、まったく」

「でも、ちゃんと付き添ってあげるんだね?」

 

 千歌に手を振り返していた曜は、ニヤニヤしながらそう言った。

 

「べ、別に千歌に頼まれたわけじゃないから。ほら、もう夕暮れ時じゃん? やっぱり女の子を守るのは男の義務であり、えっと」

「おやおや〜? ツンデレかな〜?」

「違うよ!」

 

 曜とはなんか絡みづらい。つかみどころのないタイプなんだろうか。だとしたら、俺の苦手なタイプだぜ。

 ふと窓の外を見た。それは直感。なんとなく見た。流れていく景色の中、同じように千歌も振り向いていた。俺らの視線の先には……梨子。

 砂浜に立ち、海を眺める彼女。その姿を見て胸が痛む。ああ、俺はなんてことをしたんだろう。約束通り、すぐに校門に行かなかった。梨子との約束を破るなんて、今までは一度も……

 

「な⁉︎」

 

 梨子のスカートがめくれ上がった。風? 違う。人の手が上げてる。だ、誰だ! 梨子のスカートを捲るなんて羨まけしからんことをしてるのは!

 千歌だった。いや、何してんの。ここからじゃ角度的に中が見えな(殴、おい千歌そこかわr(殴、おいそんなことしていいのか、いやいい(殴、羨まし(殴、よし、帰ったら色を聞いておこ(殴、あれ、鼻血が……。

 トントン。

 

「曜? どうか——」

 

 プスッ。

 

「あはっ、引っかかった!」

 

 肩を叩かれたので振り向いたら、頬を指で突かれた。曜さんご満悦。俺は怒りメーター上昇中。

 

「……何?」

「そんな怒んないでよ。……実は、涼君に聞きたいことがあるんだけど」

 

 曜が小声で囁く。なんだろう、真剣な話だろうか。

 

「涼君って、千歌ちゃんのことが好きなんだね?」

「……はい?」

 

 え、聞き間違いか? いや、それはない。だって俺の耳は超有能。聞き間違いをしたことなんて一度もないぞ。

 

「だって、ずっと千歌ちゃんのことばっかり見てるよね? それにスクールアイドルを手伝おうと思ったのだって」

「いや、待って⁉︎ 仮にそうだとしても、いつ俺が千歌を好きになったと⁉︎ そんなきっかけ、一度も」

「だって旅館に住んでるんでしょ? ほら、同棲から始まる恋だよ!」

「……」

 

 まさか。まさか曜さんの思考回路がこんなに乙女乙女しているとは思わなかった。はたから見て、俺の言動って梨子スキーに見えなかったのだろうか。つまり俺の梨子への愛が足りない……?

 

「つまり三角関係……ああ、もうドキドキするね、こういうの!」

 

 曜が目を輝かせる。え、この場合の三角って……。

 

「三角? なんで?」

「あれ? 気付いてなかったの? てっきり気付いて接してたのかと。だからあんな言動してるのかな〜、って」

 

 ま、まじですか。まさかこの渡辺曜も()()()の人だったとは。俺の周り、多くないですか? 某先輩といい、梨子といい、曜といい。

 

「そっか……。そうだったのか」

「まあはっきりとはしてないけどね。でも涼君、無意識でああいう行動するなんて天然のたらしさんだ。彼女が可哀想だよ」

 

 彼女? 誰のことだろう。まあいいや。それより曜よ、自信ありげに語っているところ悪いんだが、それ全部違うんだろうな。つまり曜が全部知ってると錯覚してるのだ。ん? 錯覚? それで(ry

 

 

 *

 

 

「ここがその不登校ちゃんの家なの?」

「はい。津島善子ちゃんです」

 

 なるほど、津島善子ね。表札とも一致しているし、たぶん合ってるっぽい。

 やってきたのはマンションの一室の前。津島さん宅。

 

「で、どうして俺が?」

 

 しかし疑問なのはなぜか俺がノートを持たされていること。そしてドアの前に立たされていること。え、俺に渡してこいってこと? なんで?

 

「善子ちゃんが登校するきっかけになればいいかな、なんて。マル以外にも善子ちゃんのことを気にかけている人がいるって知ってもらえたら、もしかしたら学校にも来てくれるかもしれないずら」

「なるほど。確かに一理あるね。……ずら?」

「あ! き、気にしないでください!」

 

 少しだけ頬をピンクに染めるマルちゃん。可愛い。なんだろう、いじりたくなるというか。後輩っていいな。先輩たちの気持ちがわかる気がする。

 

「あれ、ルビィちゃんは?」

「ルビィちゃんはあそこに……」

 

 マルちゃんが指差した先、通路のずっと先、曲がり角。ああ、確かに赤い髪がはみ出てる。あれで隠れてるつもりなのか。それもそれで可愛らしいというかなんというか。微笑ましい。けれどね、それだと俺が一緒に来てる意味ないじゃん。ボディガード(笑)。

 

「ルビィちゃんはマルが見てますので、先輩は善子ちゃんにノートを渡してきてください」

「あ、うん。よろしく」

 

 マルちゃんは一礼すると、ささっと俺から離れてルビィちゃんの元へ。……俺から離れたかっただけですか? ひどい。いやでも、よくよく考えてみれば今日出会ったばかりの男子なんだから普通か?

 しかしそれだと善子ちゃんもそうなんじゃないの……?

 失敗しそうな予感を感じながらも、インターホンを押す。しばらくして、ドアが開いた。ただしキーチェーン付き。

 

「……誰?」

 

 目だけ覗かせた女の子。なんか不気味。

 

「あ、浦の星女学院の生徒なんですが、もしかして津島善子ちゃん?」

「人違いよ」

 

 バタン。

 

「……あれ?」

 

 マルちゃんを振り返る。彼女は頷いた。リトライ、という意味だろうか。

 なんか扉の向こうに人がまだいる気配がしたので、ノックをしてみる。

 

「……何?」

 

 やっぱり女の子が目を覗かせた。紫紺の瞳。

 

「ねえ、善子ちゃんだよね?」

「私はヨハネ。善子なんて名ではないわ」

「ヨハネ……?」

「そう。元々は天界に住んでいたのだけれど、ヨハネがあまりにも美しすぎるから神が嫉妬してこの下界に堕天させられたの。堕天使ヨハネよ」

「へ、へえ。ヨハネちゃんね」

 

 俺の顔、引きつってないだろうか。これはいわゆるアレだよな? そうか、そういうタイプか。

 

「あなたは誰? 何をしに、この魔に満ちた空間に迷い込んだのかしら? まさか私のリトルデーモンになりたい、とか?」

 

 なんか目が爛々と輝いてる気がする。え、リトルデーモンって何?

 

「よく分からないけど、これを渡すように頼まれてて」

「これは……」

 

 受け取ったノートをペラペラとめくるヨハネちゃん。中身を覗いてみる。数学だな。

 

「ふふふっ、ついに完成したのね、すべての男をヨハネの麗しい姿で魅了させることのできる魔導書が!」

「え、ただの数学のノー……そ、そうです、ヨハネ様。これでこの人間界ももう終わり……」

 

 俺、知ってるんだ。こういうタイプの人間は適当に話に乗ってあげれば即解決ってね。例えば、自分は宇宙ナンバーワンアイドルと宣言している先輩はとりあえず煽てておけば万事オッケー、みたいな。

 

「さすが、私のリトルデーモンだわ。さらなる魔を秘めた次の魔導書も待ってるわよ」

 

 一つウィンクをしてドアはゆっくりと閉められた。ついでに言っておくと、中から『ギィィィィ』というセルフ効果音も聞こえた。

 よく分からないけど、成功なのか、これは。

 

「というかリトルデーモンって結局なんなんだ……」

 

 俺は彼女のリトルデーモンになったらしい。






漆黒cross-lord
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