ゼロの悪夢   作:BroBro

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今回、全く中身が無い気がします


A:メイドの危機《後編》

 

昼食を取り終え、次の授業へと向かうルイズは、とても緊張していた。

 

ルイズはダークライを信用している。だからダークライがシエスタを連れて戻ってくると確信している。今までの経験上、ダークライの言動に嘘偽りは殆ど無い。だから、ダークライがモットを"眠らせる"と言ったのならば、本当に実行するだろう。

 

ダークライは証拠を残さないと言った。だが、もし残ってしまったらどうなるのだろうか。貴族としても、学園からも追放され、追われる身になるのだろつか。実行したのはダークライの独断だと言えば自分にお咎めは無いかもしれないが、それはルイズ自身が許さない。

 

それに、ルイズは見て見ぬ振りをする事になる。自分は行かずに、全てを押し付ける様な形で、自分の使い魔だけが戦いに行く。失敗した時の責任も、全てダークライが負うかもしれない。

 

無責任な自分に腹が立った。本当なら、ダークライと共について行き、手助けをしたい。しかし、今のルイズには"世間の目"と言う厄介な物が付きまとっている。共に貴族に殴り込みに行くのは難しい。何も出来ない自分が、とてつもなく歯がゆい。

 

 

『ルイズは自分の事を気にしていればいい。私にしか出来ない行動がある』

 

 

お昼時にそうダークライは言っていた。

 

ダークライの能力は、まだ全貌が明らかにされていない。更に、この世界でも見たことのない力を使う。それに学園外にはダークライの詳細は公開されていない。それらを上手く利用すれば、ルイズの使い魔と悟られること無く、眠りの力で制圧する事が出来るだろう。

 

『私にしか出来ない行動』とは、そう言う事だ。主人には主人の役割があるように、使い魔には使い魔の役割がある。この場合、色々と違う気もするが、言っている意味は間違っていないだろう。

 

だから、自分のやるべき事をしっかりやろう。今はそれが、シエスタを助ける手助けになる。

 

そう心に決め、ルイズは次の授業へと乗り込んだ。

 

 

「ミス・ヴァリエール、貴女の使い魔はどうしたんですか?今日の授業は使い魔がいなければ意味がありませんよ」

 

「……ダークライは体調が悪く、私の部屋で休んでいます」

 

「体調が悪いなら保健室に連れて行ってはいかがです?」

 

「私の使い魔を、他の者の傍に寄せていいと言うのならばそうしますが」

 

「それは……」

 

「それにダークライは私の部屋を気に入っています。私の大切な使い魔が離れたくないと言っているなら、無理に引き剥がすのは無粋ではないですか?」

 

「……分かりました。ですがミス・ヴァリエール。今日の午後の授業分は減点とします。よろしいですね?」

 

「……はい、元より覚悟の上です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂から出て直ぐにルイズと別れ、ダークライはタバサに教えてもらった道を進んでいた。既に数十分程影に入りながら進んでいる。聞いた話では、もうすぐ着くはずだ。

 

 

(気付かれない様に侵入し、モットを眠らせる。後はシエスタを連れて出口まで行く。見える敵は全て眠らせる。そして帰る)

 

 

作戦とも言えない単純な作戦を頭の中で繰り返す。行きは影入りで侵入出来る。行きで眠らせて行けば良いじゃないかと思うが、帰りだけだと倒れている仲間を見つけた敵が、増援を呼ぶ可能性を少なく出来る。帰り際に増援を呼ばれて囲まれたなんてなったら、シャレにもならない。

 

ダークライは全然対処出来るが、シエスタに何かしらの害が及ぶ可能性がある。能力制限もされている以上、無駄な戦闘は避けるべきだ。

 

そうこうしている間に、道の形が変化していた。

 

少し舗装された道の先には、いかにも高そうな巨大な豪邸が一軒立っていた。予想以上に広そうだ。

 

 

(シエスタを探すのに一苦労しそうだな)

 

 

そんな感想が出てくる。それほど大きな屋敷なのだ。

 

柵の下に空いている数mmの隙間から侵入したダークライは、影に入った状態で屋敷に近づいた。

 

出入口と思われる所には、警備兵と思われる槍で武装した人間が2人いる。裏にも回ってみたが、勝手口らしきものは存在しない。行きは窓の隙間から侵入出来るとして、帰りはこの大きな出入口から出るしか無いだろう。

 

そのためには、あの2人の警備兵を片付けなければならない。今なら簡単だが、交代の人間が来たら厄介な事になる。

 

帰りにどうにかしようと適当に考えて、ダークライは侵入のために窓に近づく。

 

しかしここで、警備兵の一人が短い大声を上げた。

 

 

「か、影が!!」

 

「賊か!?」

 

 

完全にバレた。一瞬でダークライの目論見が崩れ去った瞬間である。

 

なぜバレた?と考える。ダークライは気づいていないが、影が薄い所で影に入って移動すると、ダークライの影が濃くなって分かりやすくなってしまう。

 

先の戦闘で、影に入って動いている最中でもピカチュウに的確に攻撃されたのは、そう言う理由があるからだ。本人はまぐれ当たりだと思っていたらしく、気にしていなかった。

 

それが今回、仇となった。あの時気づいていれば、対処作を作れたかもしれないのに……。

 

 

(仕方ない)

 

 

ゆっくりと影から出てくる黒い物体。それを見た警備兵は恐怖し、威勢のいい声を上げるのを止め、後退りした。

 

 

「な、なんだ……?」

 

「化け物か!?」

 

(化け物、か……)

 

 

ここでそう呼ばれるのも、何度目になるだろうか。皆一様に化け物呼ばわりしてくる。化け物である事に変わりはないが、それでも言われていい気持ちはしない。

 

という訳で、一先ず言ってた人間から喰らわせてやることにした。

 

小さなダークホールを一握り作り、放つ。すーっと直線で進んでいったダークホールは警備兵の男に命中し、一言も発する事なく倒れた。

 

 

「うわあぁぁぁ!?」

 

 

いきなり攻撃され、相方が一撃で倒された様を見て、もう一人が悲鳴を上げる。持っていた槍を落とし、腰を抜かした。

 

丁度いいと、ダークライはその男に近付く。引けた腰は戻ること無く、尻を地面に付けたままジリジリとダークライから逃げる様に下がる。

 

しかし、そんな亀の様なスピードにダークライが追い付けないはずもなく、呆気なくダークライは男の顔面に掌をかざした。

 

また男は小さく悲鳴を上げた。

 

 

「シエスタ……いや、モットは何処にいる?」

 

「た、頼む!命だけは助けてくれ!」

 

「……モットは、何処にいる?」

 

「助けてくれぇぇえ--」

 

 

プツンと糸が切れた様に、男は動かなくなった。

 

 

「役に立たん」

 

 

吐き捨てるようにそう呟いて、ダークライは騒がしくなり始めた邸内へと影に入りながら侵入した。

 

大きな二枚扉の下から中に入り、顔だけ出して辺りを見回すと、異常を感知した警備兵らしき男達がロビーに集まっていた。屋内には殆ど日が入っていなく、様々な家具や装飾がある為にシャンデリアで作られた影が多い。その影の間を通っていけば、バレずにシエスタの元まで行ける筈だ。

 

しかし見つかってしまった以上、悠長にスニーキングをしている暇はない。モットが逃げる可能性は充分ある。それも、シエスタを連れて逃げるのは間違いない。迅速に、早急にモットの元に向かい、シエスタを連れ出す必要がある。

 

考えてみれば、隠れて必要最低限の実力で特定の人物を救出するなんて得意な戦いじゃない。ルイズは出来るだけ安全に救出してこいと言っていた。だが戦う以上それは無理な話だ。

 

わらわらと集まってくる警備兵は、既に10人を超えた。しかしまだ誰もダークライの居場所にまだ気付いていない。"やる"には丁度いいだろう。早い決断も必要だ。

 

 

(一人)

 

 

影に入りながら一人の警備兵の男の背後に周り、影から飛び出してダークホールを放つ。男はダークライの存在に気付くことなく崩れ落ちた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

警備兵が一斉に仲間の方を見る。そこにいた仲間は倒れ伏し、ダークライの眼だけが輝いていた。

 

 

「て、敵だ!攻撃しろ!」

 

 

一人だけ防具の色が違う男が叫んだ。間違いなく、あの男が警備兵の長なのだろう。奴を先に片付ける必要があるが、その前に数体は沈める。

 

長槍を構えて突撃してくる警備兵が4人。それをダークライは上空に浮かぶ事で回避し、上空からダークホールを4発放つ。それら全ては外れること無く警備兵に吸い込まれていき、遺体と言っても差し支えないものが4つ出来上がった。

 

槍が武器である彼らは、ダークライの高度まで槍を伸ばすことが出来ない。ここにいる兵は平民であり、魔法を使う者もいない。フライも出来なければ、遠距離魔法も使えない。

 

加えて豪邸独特の天井が高い玄関の為、天井付近まで近づけば誰の攻撃も届くことは無い。

 

つまり、ダークライの独壇場である。

 

全ての困惑している警備兵をロックオンするように一瞥し、ダークライは再びダークホールを放った。

 

このダークホールも全て命中し、地上で立っている者はいなくなった。

 

 

(呆気ない)

 

 

余りにも簡単に制圧出来てしまい、少しつまらなかった。ダークライにとってはただのウォーミングアップでしか無かったが、久し振りにしっかりと攻撃出来ただけマシと考えるべきか。

 

 

(さて……)

 

 

ゆっくりと地上へと降りていき、ダークライは数ある扉の内の扉が開け放たれている所へと向かう。その先の廊下からは、微かだが走る様な足音が聞こえた。

 

倒れている警備兵の数は、最初に集まっていた数よりも一人足りない。その1人は先程の防具の違う男である。4人を先に眠らせ、天井付近まで上がった時には居なくなっていた。危機管理能力が高いと言うべきか、弱虫とでも言うべきか。

 

どちらにしても、ダークライにとっては都合が良かった。

 

 

(道案内でも頼もうか)

 

 

男の足音を追って、ダークライは扉を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、モット伯は自室の高級なソファに腰掛けて優雅にワインを味わっていた。

 

モットからしたらシエスタは久方振りの上物。体つきも良く、顔も整っている。

 

 

(さて、どう楽しもうか……)

 

 

そう考え、一気にワインを煽った。中味の無くなったグラスにまた新しくワインを注ごうと、机にあるボトルに手をかける。

 

その時、モット伯の部屋に軽いノック音が響いた。続いて若い娘の声が響く。

 

 

「シエスタでございます」

 

「入れ」

 

 

シエスタの声に間髪入れずにそう命ずる。ゆっくりとモット伯の自室の扉が開くと、かなり際どい格好を着たシエスタが入室して来た。

 

メイド服の様だが、普通より妙に露出度が高い。業務に支障がきたすレベルだ。

 

シエスタの体が小刻みに震えていた。顔も青くなっている。少なくとも服のせいで寒いと言う訳では無い様だ。

 

 

「おお来たか。待っておったぞ、こっちだ」

 

 

シエスタの体調とはお構い無しに、モット伯は嬉しそうに手招きした。シエスタも覚悟を決めてモット伯に近付く。

 

すると、また部屋にノック音が響いた。今度は静かな軽い音ではなく、激しいノック音だ。

 

 

「なんだ!」

 

 

楽しみを邪魔されたモット伯が、不愉快さを隠そうともせずにドアを見る。

 

モット伯の声を聞いた者が慌てた様に部屋に入って来た。ここの警備を任せている衛兵隊長だった。

 

 

「大変です!化け物が…!あ、悪魔が邸内に侵入しました!」

 

「悪魔だと?状況を説明しろ!」

 

 

男の報告では、黒い化け物が衛兵や使用人達を攻撃して回っていると言う。多くの衛兵を向かわせたが、見たことも無い魔法で尽く殺られ、こちらに進行しているとの事だった。

 

 

「ダークライさん……?」

 

 

その中の、「黒い化け物」と言う単語を聞いて、シエスタが呟いた。

 

黒い化け物なんて言葉が当てはまる者は今の所一人しか知らない。そして見たことも無い魔法と言う点も、ダークライと一致していた。

 

しかし、ただの使用人である自分になぜ……。

 

そうシエスタが俯いて考えていると、モット伯の狼狽した声が隣で聞こえた。

 

 

「早く何とかしろ!化け物を食い止めるんだ!」

 

「しかし衛兵隊は壊滅状態です!アレを止める術はもう……」

 

「それをどうにかするのが貴様らの仕事だ!」

 

 

そう言い放ち、モット伯は立て掛けてあった杖を取った。モット伯自身も戦闘態勢を整える。

 

そして、衛兵に更なる命中を下そうと男を見た時、男の影が揺らいだ。

 

瞬間、男が崩れ落ち、動かなくなった。しかし、男の影が男を追う様に小さくなることは無く、その場に残り続けた。

 

それは形を崩し、異形の様を呈し、青い光を宿す。ゆっくりと浮かび上がった影は形と色をハッキリとさせ、倒れた男を見下した。

 

 

「ご苦労だったな」

 

 

そう思ってもいない事を呟く異形。その名を知っているのは本人以外、この場でただ一人だった。

 

 

「ダークライさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け物と言うのは貴様か!何者だ!何をしに来た!?」

 

 

目の前にいるダークライに向けてモット伯は叫んだ。シエスタの声は聞こえていなかったようで、ただダークライだけを見ている。その目には怯えが宿っていた。

 

 

「私の名は、既にシエスタが言った筈なのだがな」

 

 

阿呆なのだろうかと思ったが、気にせずに本題に入る事にした。

 

 

「お前には永らく眠って貰う事になる。すまないな」

 

「な、なんだと!?貴様、貴族である私に手を上げようと言うのか!」

 

「そう言っている」

 

「戯言を!そう簡単に殺される様な私では無いぞ!私の二つ名は『波濤』!『波濤』のモット!トライアングルのメイジだ!」

 

 

「永らく眠る」の言葉を「殺す」の隠語(あながち間違ってはいない)と捉えたモットは、杖の周囲から水を生み出した。

 

その行動を見て、ダークライは身動き一つせず、ただじっと浮いているだけ。

 

モット伯から見たら好都合だ。多数の水が龍の如く舞い上がり、ダークライへと殺到した。

 

 

「これで終わりではないぞ!」

 

 

更にモット伯は追撃する。水を氷の矢ほと変貌させ、ダークライに向けて発射した。

 

幾重にも重なる氷の矢。それらは全てダークライへと向かっていく。何発か外れているのか、ダークライの背後にある壁へと突き刺さり、大きな音を立てて崩壊していく。

 

土煙が舞い、ダークライの姿は確認出来ないが、それでもモット伯は撃ち続けた。

 

 

「ダ、ダークライさん……」

 

 

トライアングルのメイジと言うのは、メイジの中でも上級に位置する。それをまともに受けては無事ではいられない。

 

シエスタは未だ撃ち続けられるそれを見て、あまりの衝撃に気絶した。

 

 

「ハァハァ……幾ら化け物であろうと、これ程の攻撃を受けて無事ではいられまい!見たか、これが私の力だ!」

 

 

息を整えながら、モット伯は言い放った。

 

未だ土煙は消えないが、直ぐに消えて無残な化け物の姿が見えるだろう。モット伯はそう思っていた。

 

しかし、土煙の中から出てきたのは死体ではなく。

 

 

「やはりこの程度か」

 

 

傷一つもない、ダークライの姿だった。

 

 

「ば、バカな!あれほどの攻撃を受けてなぜ平気でいられる!」

 

「水タイプや氷タイプは苦手ではないからな」

 

 

そう言ってダークライはモット伯に近付く。そしてダークライが右手にダークホールを生み出し、右手を突き出した。

 

 

「く、来るな!」

 

 

あまりの恐怖に目を瞑る。そして、我武者羅にダークライに対して魔法を放った。魔法はダークライの頭部を貫通し、瓦礫へと突き刺さる。ダークライは静かに霧散した。

 

やった!と歓喜した。しかし同時におかしいとも思った。倒したにしてはあまりにも手応えがない。まるで霧に向けて撃ったかのような……。

 

そう考えていると、自分の影に違和感を覚えた。

 

妙に大きい。それに、とてつもなく不気味に揺らめいている。何処かで見た事のある光景だと記憶を探っていると、その影が段々と大きくなっていき、モット伯の足元に大きな穴を生み出した。

 

底が見えない。下は暗黒の世界だ。

 

穴の淵に捕まろうと手を伸ばす。なんとか捕まる事が出来たが、両足に何かが捕まってきた。

 

それは体の無い、頭と手のみの紫色の化け物だった。よく目を凝らして見てみると、穴の中では無数の化け物が蠢いている。

 

落ちたら死ぬと直感した。何としてでも落ちない様に手に力を入れるが、淵がどんどんと変形して行き、紫色の粒子となって消えていった。

 

捕まる所を失ったモット伯は、誘われるがままに穴の中へと落下していく。中で蠢いている者は化け物だけではなく、今まで自分が手玉にしてきた人間も混じっていた。

 

終わることの無い闇の中へと、モット伯は消えていく。

 

これはまだ、悪夢の始まりでしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィッ…と、モット邸の門が開く。中から出てきたのは、シエスタを背負ったダークライだ。

 

邸内の全ての人間の全滅を確認したダークライは、シエスタを連れて元来た道を戻る。既に日は落ちかかっており、夕焼けが辺りを紅く染めていた。

 

帰り道で人に出会わない様に、注意を払ってダークライは学園に戻る。

 

ダークライのナイトメアの特性は、気絶しているシエスタにも効果があり、シエスタはダークライの背中で魘されている。

 

なんとかしてやりたいとも思ったが、ダークライが連れて帰る以上どうする事も出来ない。学園までの短い時間だが、我慢してもらうしか無かった。

 

小道や獣道を用い、ダークライ達はゆっくりと学園に戻っていく。

 

 

「うぅん……」

 

 

数分経ったくらいだろうか、ダークライの背中から声が聞こえてきた。少女の声、シエスタの声だ。

 

 

「ここは……」

 

 

状況が分からないのか、辺りをキョロキョロと見回している。ダークライは背中からシエスタを下ろすことなく声を掛けた。

 

 

「起きたか」

 

「え……あ。だ、ダークライさん!?」

 

 

ようやく状況を把握したシエスタは、ダークライの背中で困惑しながらバタバタと手足を動かす。何発かダークライに蹴りやパンチが入ったが、効果は今ひとつの様で、ダークライは気にしなかった。

 

大体の人間がダークライの悪夢を見て起きた時、現実と夢の温度差で困惑する。恐らくシエスタは温度差があまりにも大きかったため、相当な困惑をしているのだろう。

 

しょうがないと一息ついた。

 

 

「一先ず落ち着け」

 

「は、はい……」

 

 

ダークライの言葉で冷静になったシエスタは、少し戸惑いながらも体をダークライの背中に預ける。

 

 

「ダークライさん、私はどうなったのでしょうか?」

 

「モットは長期休暇をとった。シエスタは学園に戻っていい」

 

「長期休暇、ですか?」

 

「あぁ」

 

 

あながち間違ってはいない。

 

 

「あの……助けに来てくれて、ありがとうございました」

 

「気にするな。私はただやりたいことをやっただけに過ぎない」

 

「ですが……嬉しかったです。私なんかを助けに来てくれて……感謝してもし切れません」

 

「……私には、嬉しいと言うものはよく分からない」

 

 

そう小さく呟く。自分の心とあまり向き合わないダークライは、嬉しいと言う感情がよく分かっていない。実は感じた事はあっても、それが嬉しいと言う感情だと気付いていないだけなのだが。

 

話は続いた。

 

 

「感謝するなら、私の主にするといい。ルイズが時間を与えてくれた」

 

「はい、分かっています。ですが、ダークライさんにもちゃんと恩返しがしたいです」

 

「恩返しなら、このまま洗濯の指導を継続してくれると助かる」

 

「……はい!」

 

 

何とか洗濯は継続できると、ダークライは安堵した。このまま帰ってルイズに報告して、明日からはまたいつもの日常が戻って来る。明日の朝からは、また忙しくなる。

 

 

「……ダークライさん。本当に、ありがとうございます」

 

 

そう、シエスタはダークライに聞こえない様に呟き、ダークライの背に顔をうずめた。

 

陽が沈んでいるにも関わらず、シエスタは自分の体に熱を感じた。何の熱だろうかと、分かっている事を考えて、今度は顔が熱くなった。

 

 

夕焼けを進む2人の長い影。重なり合う美女と夜獣の影に禍々しさは無く、親しい親子のようであった。

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『アンノーン』シンボルポケモン
タイプ:エスパー
高さ:0.5m
重さ:5.0kg
とくせい:ふゆう

『図鑑説明』
バトルに一切出せないポケモンNo.1。
覚えられる技が「めざめるパワー」のみであり、わざマシンでも技を覚えさせる事が出来ない。遺伝でも覚えられない。どういう訳かXYで弱体化すると言う死体撃ち。どう足掻いても「めざめるパワー」ゴリ押ししか出来ないと言う単純かつ明快、バトル向きのポケモンではないため、コレクションポケモンと言っても過言ではない。
アンノーンは全28種類おり、エスパータイプの水増しに貢献している。名前の通り色々な場面で「unknown」であり、ゲーム内で度々アンノーン型の文字が見られる。(余談だが、DPで筆者の母がアンノーンを全集集め、壁面の文字を解読した事がある)アンノーンは全てアルファベットに似た形をしており、壁面にもしっかりとした意味がある。
劇場版ではよく現れる。ダークライの映画でも、ディアルガとパルキアの交戦場所の時空間でアンノーンが飛び交っていた。他にも、エンテイの分身を生み出している。HGSSではアルセウスの周りに集まってきていた。
この事から、アンノーンは古代より存在し、神話や伝説のポケモンと深く関わっている事が分かる。そう考えると、「めざめるパワー」と言う技は意味がある様にも思える。アンノーンが様々な伝説でどのような役割を担っているのか、アンノーンとはどのような存在なのか、等を深く考えて見るのも、面白いかもしれない。

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