ゼロの悪夢   作:BroBro

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あけましておめでとうございます。
はい年内間に合いませんでした。申し訳ないです。
しかも今回少し短いです。申し訳ないです。


疑惑

ダークライ達がラ・ロシェールの宿、『女神の杵亭』へと到着したのはその日の夕刻の事だった。

 

陸路で二日かかると言われた旅路だが、ギーシュが道中で「君の速度で一緒に飛んでゆけば早く着くかもしれないね」と言う一言で、ダークライはしまったと頭を抑えながらサイコキネシスでギーシュを浮かしナビゲートしてもらいながら、最高速度で青空の下を駆けた。

 

結果、ワルドよりは遅かったものの、グリフォンよりも速いのではないかとも思われるスピードで目的地に到達した。しかしそれでもルイズがラ・ロシェールに到達したのは何時間も前である。今まで寝る時位しかまともにダークライと離れたことの無いルイズがこれ程の時間をダークライと離れた時はどうなるか。

 

 

「ダークライ!何してたのよ!ご主人様を待たせるなんて!もっと速く来れたでしょッ!」

 

 

涙声でダークライに駆け寄って来る元気なルイズを見て、ダークライは安心と呆れを覚えた。

 

たった数時間離れただけだと言うのにこの始末である。目を真っ赤にしている所を見るに今までどうしていたかは想像するにかたくない。申し訳ないと思いつつも、元々二日かかる距離なのだから相当な時間が掛かることは想像がつくはずだと呆れる。しかしここはダークライ、そんな正論を言っても主人には通用しないと分かっているため、素直に謝った。

 

 

「すまない。私が飛べば速いという事に気付かなかったミスだ」

 

 

そう言って小さく頭を下げた。

 

そこに、荷物の処理をしていたギーシュがやって来て、ルイズを宥める様に言った。

 

 

「ダークライ君を責めるのは御門違いと言うものだよ。彼は盗賊団を退け、さらに僕と僕よりも何倍も重い荷物を浮かせてここまで来たんだ。本当だったら二日はかかる距離を、たった数時間で辿り着いただけでも、賞賛されるべき事だと思うけどね」

 

「確かに…」

 

 

ギーシュの言葉は全くの正論である。徐々に落ち着きを取り戻してきたルイズは、キョロキョロと辺りを興味深そうに見回しているダークライに向き直った。

 

 

「ごめんなさいダークライ…勝手を言い過ぎたわ」

 

「ルイズが謝る事は無い。私に落ち度があった事は事実だ」

 

「ダークライ…」

 

 

抑揚のないいつもの声。どんな時でも機械の様に返してくるその声は、ルイズを少なからず不安にさせた。何しろ、内心でどう思っているか感じ取れない。人間ならば、少しは声に感情が入る。ギーシュがいい例だ。しかしダークライは感情どころか空気の振動すらも感じない。もしかしたら、心の中で怒りの火炎放射器が渦巻いているかもしれない。

 

まあ勿論、ダークライにそんな感情は一切なく、本当に自分の落ち度だと反省している。怒りの火炎放射器どころか、絶対零度に近い。ダークライは内心では、ルイズから聞こえたしおらしい声にどう対応しようかとオロオロしている。

 

そんな二人に思わぬ方向から救いの手が届いた。

 

 

「私はルイズの珍しい顔が見られたから満足だわ。だから彼が謝る必要ないわよね?」

 

「確かに、中々見ない表情だった」

 

 

宿の入口側から届いた二人の聞き覚えのある少女の声。その声にいち早く反応したルイズは、心底驚いた表情でバッと振り向いた。

 

そこに居たのは、嬉しそうな笑みを作ったキュルケと相変わらず無表情のタバサだった。

 

まるで当たり前のようにそこに佇む居るわけのない二人。その二人を見てしびれ状態の様にフリーズするルイズ。そして宿を物珍しそうに見渡すダークライ。

 

意味の分からない無音の時間が少し続き。

 

 

「…あ、あんた達なんでこんなところに居るのよ!?」

 

 

啖呵をきったのはルイズの怒号だった。宿泊客達が一斉にルイズに振り返り、周囲からの注目が集まる。そんな事などお構い無しに、ルイズはキュルケに詰め寄った。

 

 

「もう少し早く来ていればあなたの泣き顔が見れたと思うと残念でならないわ」

 

「な、泣いてなんかいないわよ!」

 

「分かりやすいわねぇ」

 

 

ギャーギャーと騒ぐルイズを終始軽く受け答えするキュルケ。その隣でダークライはタバサに近付いた。

 

 

「何しに来た?」

 

「 昨日約束した。今日、あなたの事を教えてもらうと」

 

「…確かに言ったが、それだけの為にここまで来たのか?」

 

「他にも色々とあるけれど、主な理由がこれ」

 

「…約束した私の責任か」

 

 

コクンと無言で頷く少女に、小さく溜め息を吐いた。急な旅だったとは言え、約束を破りかけた事は事実である。正直、上手く逃げたと思っていたのだが、この少女は予想以上に面倒臭いタイプのようだ。どこかのべロベルト男爵にも通ずる所がある気がする。

 

アレと同じとなると、何処までも追いかけてくるだろう。それでいて他の有象無象よりもそれなりに実力があるからタチが悪い。

 

仕方ないと割り切って、別の話をした。

 

 

「いつから来ていた?」

 

「あなた達が出発した直後。途中で追いついてたけど、あなたの飛行速度が速くて追いつけなくなった」

 

 

同じ所から来ているなら気配は感じるはずだと思った故の質問だったが、考えてみればルイズの心配ばかりをしていて全く周りの事を考えてなかった。もう少し危機感を持とうと心に決め、ダークライは別の質問に移る。

 

 

「私が何者かを答えれば、お前達は帰るのか?」

 

「まだ帰らない。あなた達と共にアルビオンに向かう」

 

「何故だ?我々の向かう場所は戦場。態々危険な場所まで行く必要がお前達にあるのか?」

 

「私にはある」

 

「…アルビオンにあるものか?」

 

「アルビオンにあるものかと言われれば否定はしない。私が求めるものはアルビオンにあるし、いつでもそこにあるもの」

 

「…うん?」

 

 

意味が分からないとばかりにダークライは首を傾げた。なぞなぞと言う奴か?と色々と思考を巡らせるが、答えは出ない。

 

何故そここまで遠回りに言うのかと疑問をもつ言い回しだ。何か隠しているのではと疑い始めて来た。

 

タバサに対しての警戒を密かに強めた。出来るだけタバサの目的を詳細に聞き出そうとさらに質問を投げかけようとするが、その声は別の男の声で遮られた。

 

 

「やぁ使い魔くん。随分と早かったね」

 

 

入口から聞こえた声はつい最近聞いた声であり、今ダークライが一番神経を尖らせるべき相手の声だった。

 

 

「…ワルドか」

 

「半日ぶりだね。半日で再会できるとは思わなかったけど」

 

「不都合な事でもあるのか?」

 

「まさか。ただ君の速度に驚いているだけだよ。まさか、途中まで馬の君達がこれ程の時間で来るとなると…僕のグリフォンよりも速度は上と言うことかな?」

 

「…そうかもしれないな」

 

 

終始笑みを崩さないワルドはダークライから視線を外し、いつの間にか軽い殴り合いに発展していたルイズとキュルケを止めに入りに行った。宥める様な声と共に、食事にしようと言う提案の言葉も聴こえてくる。

 

ワルドの一連の動作を見続けたが、特に怪しい動きはなかった。

 

 

「疑ってる?」

 

 

すぐ隣からタバサの声がかかる。

 

 

「…あぁ。奴は何者なんだ?」

 

 

普通ならば何故今頃そんな事を聞くのかと思うだろうが、タバサは全くの無感情でワルドの情報を話した。

 

 

「彼は女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵。魔法衛士隊とは全ての貴族の憧れの的。それも隊長ともなれば、貴族の中で知らない人はいない程の人物。あなたの主の婚約相手でもある」

 

「…強いのか?」

 

「風系統のスクウェアメイジであるワルド子爵は、『閃光』の二つ名を持つ。相当な実力を持っている」

 

「ふむ…」

 

 

ダークライは『すばやさ』では自信がある。戦闘では相手よりも先にダークホールを繰り出す事が第一に求められるため、ダークライ種族は総じて『すばやさ』が高い。そのためダークライの最高スピードを超えるポケモンは数える程しかいない。

 

先手を打つ自信はある。しかし、今回の相手はルイズの婚約相手であり、女王陛下お墨付きの私兵の様な相手だ。いくら怪しくても、手を出せばダークライだけの問題ではすまなくなる。

 

歯痒い事だが、ワルドがボロを出すまで根気強く待つしかない。

 

 

「…苦手なのだがな」

 

 

考えるより行動を優先するダークライにとって、この時間は好きじゃない。ルイズに牙を向くかもしれない敵が、ルイズのすぐ隣にいると言うのに手を出せないのだから、余計にだ。

 

しかし、散々本能のままに行動してきたダークライは思考の大切さを知っている。後先考えない行動は、後に惨事を招く。長年の経験で、ダークライは考えると言う事を重要視していた。出来ることならば、すぐにでもダークホールを食らわせてやりたい所だが、後のことを考えてグッと我慢した。

 

ふぅと、胸中のもやを取るように息を吐いた。そして一つ気になっていた事を思い出し、隣でダークライをずっと見ていたタバサに質問した。

 

 

「お前達はルイズの目的を知っているのか?」

 

「知っている。先程彼が教えてくれた」

 

 

そう言って、ワルドと共にルイズとキュルケの喧嘩を止めに入っているギーシュを指さした。

 

 

「奴か」

 

「彼はあなたに眠らされた時から少し変わった。彼に何かした?」

 

「ただ悪夢を見せてやっただけだ。どんな悪夢かは私にも分からない。ただ、私の記憶の中から上位に入る悪夢を見せた」

 

「…あなたが悪夢と思うものがあるとは知らなかった」

 

「言ってないからな」

 

 

そう言って、ダークライとタバサは未だに続いているキュルケとルイズの喧嘩を見物した。止めに入れば何故か悪化する喧嘩。ワルドも参ったと言わんばかりに帽子の上から頭をかく。そしてギーシュはルイズにアッパーを食らい、高く舞い上がった。

 

 

「あなたは止めに行かなくてもいいの?」

 

「…あぁ」

 

「…何かあった?」

 

 

ずっと一部を凝視し続けるダークライに、タバサが声を掛ける。しかしダークライは反応せず、ただ一点を見つめていた。

 

ワルドの黒い帽子、その装飾品の羽。光を浴びる度に七色に輝く三日月形のその羽に、ダークライは見覚えがあった。

 

 

「まさか、な…」

 

 

奴もここにいるとは。

 

その『みかづきのはね』の光は、ダークライの心を強く締め付けた。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『マイナン』
タイプ:でんき
高さ:0.4m
重さ:4.2kg
とくせい:マイナス
ゆめとくせい:ちくでん

『図鑑説明』
プラスとマイナスのマイナスの方。プラスマイナスのポケモン自体あまり記憶にない人も居るだろうが、一応ピカチュウポジション。バトルではプラスとマイナスを並べられないと言う謎状態になる。だからと言ってシングルだと余計に弱い。隠れ特性は優秀なのだが、パチリスが同特性を持っているのでパチリスの方が良くなる。耐久値も高いと言う訳もなく、じしん一発で即瀕死状態になる。
第7世代で少しは良くなるかと思いきや、追い討ちが待っていた。ライバルポケモンが増えたのだ。カプ・コケコなどのダブル向け特性を持つポケモンが増加し更に差別化され、マイナンの評価は更にマイナスとなった。ダブル向けポケモンとして登場したはいいが、他のポケモンに任せられてしまうため、バトルたでの使用者は少ない。

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