ゼロの悪夢   作:BroBro

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グダグダっぷりが半端ないです、ハイ


忠士なる悪夢

 

 

 

 

 

 

「この力は……間違いない、闇の力……」

 

 

とある街のとある城。その上空から透き通る様に美しい声が響いた。声の正体の姿は無く、ただ美しい黄色い三日月が登っているのみ。

 

---いや、そこにいた。月をバックに添えたその生き物に手足は無く、背に付いた、オーロラを纏っているかの如き羽衣の様な羽が美しく揺れている。

 

その姿は正に、三日月であるかの様に輝いていた。

 

 

「ダークライ……何処に行こうと、種族の因縁は付き纏うのね……」

 

 

そう言って、クレセリアは浅く溜息を吐いた。

 

 

「これも私の宿命……はぁ、あの庭のダークライ、今何しているんだろうなぁ……」

 

 

粒子を尾に引きながら、トリステインに向かって飛翔する。

 

悪夢を遮るダークライの宿敵が一歩、南へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

朝。

 

トリステイン魔法学校から少し離れた所にある倉庫でダークライは動き出した。

 

ダークライは周囲の生き物に悪夢を見させると言う特性を持っている。しかもその特性は自分で制御出来るものではなく、止めようと思っても止めることが出来ない。

 

そのため、ダークライは他人の安眠を妨げない為に、学校から離れた倉庫で眠るようにしていた。

 

学校とは少し彼の仕事に支障が生じる程の距離ではあるが、ダークライは影に入る能力を持っている。普通に移動するより速く進める移動手段である影入りは、わざわざ正面玄関から入る必要も無く、ルイズの部屋には窓から侵入できた。

 

 

(洗濯物……)

 

 

中に入って直ぐに目標物を探す。主が寝ているベッドの脇にあったソレを持ち出し、ダークライは広場へと向かった。

 

道中も、彼にとっては新鮮な物ばかりであった。同じように洗濯物を運ぶよく分からない個体の数々。浮遊する目玉だったりとか妙に長い真っ赤なワームだとか。

 

 

ポケモンとはどこか違うそれらを見ながら、ダークライは洗濯物を洗う場所へとやってきた。

 

 

(……何処デ洗エバイイノダ?)

 

 

周囲をキョロキョロと見回すも、それらしき洗濯場はない。そもそもダークライは洗濯という行為をした事が無いため、どれが何なのかも分からない状況なのだ。

 

実際は目の前にある水道が洗い場である。

 

探し物が足元にあるとは分からず、周囲をキョロキョロと見回す。すると、1人のメイド姿の少女が歩いているのが見えた。

 

 

(……聞イテミルカ)

 

 

洗濯物が入った桶を脇に抱えたダークライが少女に近づく。

 

 

「ひッ……!」

 

 

ダークライの接近に気が付いた少女は、ゆっくりと近づいてくる見たことも無い黒い生物に腰を抜かした。

 

距離が数メートルに縮まった時には足がカタカタと小刻みに震える始末。まあ、容姿が容姿なだけに無理もないと言えるが、余りにも典型的な反応なのでダークライも少し戸惑った。

 

 

「……洗濯場ハドコダ?」

 

 

しかしここはダークライ、口足らずのせいで余計少女を怯えさせてしまう。言葉の後に『教えないと祟り殺す』と加えても違和感のないその容姿と低い声に、ますますメイドは涙目になっていった。

 

脅迫ではないにしろ、怖いものは怖い。寧ろ目が青く光って全体的に黒く浮遊した生物が聞いたこともない位の声音で質問してくるだけで、もう脅迫は成立する。答えないと殺す。この姿は人間にとってそう言っている様なものなのだ。

 

だが一応彼の名誉の為に言っておこう。彼に悪気は一切ない。こう言う時の対処法を知らないだけなのだ。

 

 

「あ、え……せ、洗濯場は……その水道です……」

 

「……ソウカ、助カッタ」

 

 

しかし、流石は貴族に仕えるメイドと言ったところか。脅迫にしか聞こえない彼の質問を震えながら答え、撃退する事に成功した。

 

ふわふわと去っていき、水道の蛇口を捻る黒い生き物。ふわりと底面を地につけて洗い物に手を伸ばし、何だこれはと言わんばかりに白いシャツを見回す。洗い方も分からずに洗い場に来た神経は流石闇の支配者だ。

 

しかしその姿がメイド少女の恐怖心を和らげたのは彼にとっては嬉しい誤算だった。

 

 

「あの……手伝いましょうか?」

 

「……イイノカ?」

 

「あ……はい。貴族の方々のお手伝いをする事が私達の仕事ですから」

 

「私ハ貴族デハ無イノダガ……」

 

 

突然の申し出にダークライは更に混乱する。彼は少ししか出会って数分の人間に助けられた事がない。ルイズにも助けられたが、アレは召喚方法の都合上、仕方の無い事だと言える。

 

その為、彼にとって少女の申し出は少し答える事が難しいものであった。

 

だが、伊達に100年以上生きてきたポケモンではない。彼の友人であったアリシアと言う人間と、とあるポケモンにこう言う時の返答の仕方は教わっていた。

 

 

「……ヨロシク頼ム」

 

「あ、はい!任せて下さい!」

 

 

誰かに頼られると言う事は誰しもが喜ぶ事である。例えそれがさっきまで恐怖の対象だった者だったとしても……いや、普通はありえないか。おそらく、この少女の度量によるものだろう。

 

ダークライが少女に洗濯物の主導権を渡すと、少女はシャカシャカと手際よく洗濯物を片付ける。

 

数分で半分近くの洗濯物が洗い終えた時、少女は恐る恐ると言った様子でダークライに振り返る。

 

 

「あの……」

 

「……ドウシタ?」

 

 

少女の動きをマジマジと見ていたダークライは視線を少女の手から話す事なく返事した。

 

 

「もしかしてミスヴァリエールの使い魔の方ですか?」

 

「……ソウダ」

 

「やっぱりそうだったんですか!あの、最初は失礼な反応をしてしまい申し訳ありませんでした!」

 

「……気ニスルナ。アノ反応ガ普通ダ」

 

 

洗濯物を全て洗い終えた少女は、ダークライに向き直って深く頭を下げる。

 

謝られた事も少ないダークライである。こう言う時の自分の反応も分からなく、兎に角思った事を言ってみたが、今回に限っては模範解答であった。

 

ダークライの返答に一息付いた少女は、ダークライに洗い終わった洗濯物が入った桶を渡した。

 

 

「私はシエスタと言います。これから、宜しくお願いします!」

 

「シエスタカ。私ハ ダークライ ダ。マタ手ヲ借リル事ニナルダロウガ、ソノ時ハ頼ム」

 

「はい!私に出来る事があれば、お手伝いさせて頂きます!」

 

 

シエスタと名乗った黒髪の少女は、ぺこりと頭を下げて廊下の向こうへと走っていった。

 

 

「フム……礼ヲ忘レテイタナ……人間トノ生活……手強イナ」

 

 

一言自虐的に呟き、ダークライは主がまだ眠っているであろう部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、多くの本が乱雑に地面に置かれているこの部屋はルイズの私室である。そこのベッドでは部屋のぬしであるルイズが眠っていた。何かいい事でもあったのか、とても嬉しそうな顔で寝息を立てている。

 

しかし、次の瞬間にその顔は苦痛に変わり、悲痛なうめき声を上げた。

 

追い討ちをかけるように忍び寄る怪しい影が一つ。影は怪しく浮かび上がり、怪しく輝く蒼い瞳が余計に怪しい。もう何もかも怪しい。

 

影の正体は勿論、洗ったばかりの洗濯物を干し終えたダークライである。

 

眠っている主を起こす為に近寄ったのだが、ダークライ種の性質上、眠っている生き物に近づいたら無意識に悪夢を見せてしまう。ルイズが魘されているのはそのせいだ。

 

 

「マスター、朝ダ」

 

「うぅ……うん?」

 

 

ダークライに揺さぶられ、呻き声を上げながらもゆっくりとルイズは意識を現実へと戻す。

 

誰に起こされたのか分からず、起き上がってキョロキョロと辺りを見回す。ベッド脇を向いた時、真っ黒な化け物と目が合った。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

瞬間、小さな部屋に爆音が響き渡った。

 

それに紛れて小さな溜め息が零れた。

 

 

「マスター、私ダ」

 

「なッ……あ、そうだった。昨日私が召喚したんだっけ?」

 

「……シッカリシテクレ」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 

赤面で怒鳴りながら時計を見る。朝6半。恐らく他の生徒も朝の行動を開始するであろう時間帯である。丁度いい時に起こしてくれたと、素直にルイズは感心した。

 

洗顔、着替えを淡々とこなしていく。途中で服を着せろと言う要望があったのでサイコキネシスで服を浮かせて着やすくしてやった。

 

何かアクションを起こす度にルイズは驚く。ダークライの表情は常に読み取れないが、そんなルイズに呆れている事は間違いない。しかし、ソレを読み取れるほどルイズは賢くなかった。

 

 

「よし、行くわよ」

 

 

朝食を取るためにルイズはダークライを連れて部屋を出る。

 

同時に、隣の部屋の扉が開いた。ルイズの顔が嫌悪に染まったのも、それと同時だった。

 

 

「おはようルイズ」

 

「おはよう、キュルケ」

 

 

ルイズの部屋の隣人、キュルケ。褐色肌に燃えるように紅い髪。終始余裕そうな笑みを見せているその少女は、数回ダークライとルイズを交互に見る。

 

 

「それにしても、貴女には勿体無いぐらいの使い魔よねぇ。影の中に入る能力を持っているようだし、見た目怨念じみてるし」

 

「ふふん、そうでしょう?サラマンダーだか何だか知らないけど、私の使い魔の足元にも及ばないわ」

 

「確かに影に入る力は無いけど、貴方には無い可愛さはあるわよ?それに、恐らく私の使い魔の方が強いわ。そうよね、フレイム?」

 

 

キュルケが使い魔の名を呼ぶと、彼女の背後からどでかいトカゲが現れた。しかも、もうもうと熱気を放っている。

 

 

「見て、この立派な尻尾。ここまで鮮やかな炎の尾は間違いなく飛竜山脈のサラマンダーよ!」

 

 

デデンッ!と胸を張って自身のサラマンダーの自慢話をする。その言葉に我慢ならなかったのか、ルイズが声を上げようとした。

 

だが、ふとルイズがフレイムを見ると、疑問混じりの声を上げた。

 

 

「ねえ、あなたの使い魔震えてるわよ?」

 

「え?」

 

 

ルイズの言葉で気が付いたキュルケがフレイムを見ると、一方に視点を合わせて小刻みに震えていた。

 

その視線の先に居るのは、フレイムを見下ろす様に見ているダークライだった。

 

 

「ちょっと、どうしたのよフレイム!」

 

 

主の呼びかけに答えず、未だブルブルと震えているサラマンダー。

 

サラマンダーと言う種はこの世界に置いては上位種と呼ばれる程強力な存在とされる。それが恐怖に震える事などまず有り得ない。二人が混乱している理由はそれである。

 

 

(……オモシロイナ)

 

 

これが、サラマンダーを見たダークライの感想であった。

 

ダークライは以前、このようなポケモンを見たことがあった。尾の炎が揺らめいて、尚且つトカゲのような容姿。サラマンダーは、そのヒトカゲと呼ばれるポケモンを彷彿とさせる見た目だった。

 

だが、ヒトカゲはここまで震えてなかった。だからこそ、ダークライはこの生き物に少なからず興味を持った。

 

 

「……オモシロイ」

 

「……ッッ!?」

 

 

キュルケに聞こえるか聞こえないかの声でダークライが呟く。刹那、身の毛が逆だったサラマンダーが物凄いスピードで廊下の彼方へと走っていった。

 

 

「え?ちょ、ちょっとフレイム!」

 

「ダークライ、あなた何したのよ?」

 

「……何モシテイナイノダガ、客観的ニ見テ、私ハ何カシテイル様ダッタカ?」

 

「いえ、だから聞いているのだけど……まぁいいわ。面白いものも見れたしね」

 

「……?」

 

 

フレイムを追って走り去っていくキュルケの後ろ姿を見送り、一人と一体は食堂へと向かった。




後書きポケモン図鑑

『クレセリア』 みかづきポケモン
タイプ:エスパー
特性:ふゆう
高さ:1.5m
重さ:86.5kg

『図鑑説明』
飛行する時はベールの様な羽から光る粒子を出す。三日月のような姿から、三日月の化身とも呼ばれている。性別はメスのみで、ダークライと対極の存在として度々ダークライと戦闘を行う。(なおタイプ的に不利である)
クレセリアにはダークライのナイトメアは通用しない。クレセリアの羽にもその効果が宿っており、主に安眠のお守りとしてクレセリアの羽が用いられる。

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