とある科学の最終信号   作:icoi

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終章 とある科学の最終信号 Last-Order's_Planning.

 

 

 

 

 

『――そう、分かりました。すみませんね、本当に。いつもながらあなたたちには苦労を掛けます』

「何を言ってるんですよ最中(もなか)おばあちゃん! それは言わない約束でしょ、なんてね」

「私達みんな、おばあちゃんが大事だから動いているだけですわ。……だからこそ、今回の件は本当にごめんなさい。隊長の独断行動を予測できなかったこと、残念に思っていますわ」

 日付も時刻もわからない、薄暗い廃ビルの中に鎮座するボロボロのソファに腰を預けて。

 赤と青、そして緑を掲げた『親衛隊』の少女たちは、ぎゅうぎゅうに身を寄せ合いながら、たった一つの携帯端末のインカメラに写ろうと奮闘していた。

「お、おばあちゃん、……怒ってないですね? ウチの隊長が指令を放棄して、代わりに最終信号(ラストオーダー)が――仮想超能力者(デスクセオリー)を下してしまったこと」

『まさか、怒りませんよ。彼には彼の考えがあったはずです。現場に出向いた人でないと掴めないこともある。……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いつも私のために手を貸してくれる彼が、最終信号(ラストオーダー)に任せるという選択肢を最適だと判断したのでしょう。私は、その判断の責任を負い、そして尊重するまでですよ』

 小さな画面の中に写っている、上品な老女の穏やかそうな顔。その言葉にほっと表情を和らげて破顔した三人の少女は、二言三言やり取りしてから学園都市統括理事長との通話を切った。

 綿の飛び出たソファの上でゴロンと横になった赤髪ポニーテールの真紅(しんく)は、気の抜けたため息を漏らしてからこんなことを呟く。

「……おばあちゃん。つくづくあの怪物相手だろうと何だろうと、お構いなしに寛大なお人ですよ」

「だからこそ! 本来私たちがきっちりアレの『首輪』を締め上げておかないといけないんですけれど。今回ばかりは本気で勝手でしたわね、折角の承認をああも無駄にされると顰蹙ものですわ!」

「で、ですけどね」

 おずおずと口を挟んできたパーカー少女鮮緑(せんりょく)の小声に、おや、と視線を向ける真紅と紺碧(こんぺき)

「今回の隊長は……その、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。い、いつもと比べたら」

「…………………………、いつもの態度が酷すぎるだけですわ、それは」

「はいはい! もう分かりましたから! キリが無いですしその話題はおしまいで。では本日も始めますよ――クソったれで難解でどうしようもなくお子様な、我らが隊長の尻拭いデスマーチ!!」

 パンパン、と手を叩いて同僚をけしかける真紅の声を合図にして。

 モンスター上司に日々気苦労させられている三人の少女は、億劫そうに肩を鳴らしながら――それでもどこか充実した表情で、各々の持ち場へと移動し始めるのであった。

 

 

 

 五月十八日。

 あの第十学区での事件から三日が経過した、うららかな土曜日の午前八時のこと。

 こけっこー、と呑気に鳴き声を上げるフロイラインの『友達』に顔をのしっと踏んづけられながら、打ち止め(ラストオーダー)は不細工な表情で意識を浮上させる。

「おはようございます、打ち止め(ラストオーダー)

 鶏をけしかけながらその端正な顔でこちらの瞳を覗き込んできたのは、休日の朝から皺一つない小奇麗なワンピースを着用しているフロイライン=クロイトゥーネだ。

「……、おあようございあふ、ってミシャカはミシャカはもーろーとしながらお返事してみる」

「??? どうして起床の挨拶をしながら毛布を頭まで引き被るんでしょうか?」

「お願いしますオフの日ぐらいは寝かせてください、ってミサカはミサカは頑なに抵抗の意思を示してみやだやだやだやだやだやめてパジャマ脱がさないで(わき)の下こちょこちょしないでまだミサカ切り傷も筋肉痛も治りきってないんだからぁー!! ってミサカはミーサーカーはーッ!!」

 

 

 

 ちーんっ、という甲高い音がキッチンで響く。

 今朝は打ち止め(ラストオーダー)が朝食を作る約束だったが、前述のとおり起床を小一時間ゴネたこと(と、フロイライン=クロイトゥーネが炊事に関して一切の容赦を捨てたお師匠さまモードだったこと)からメニューはいたってシンプルな食パンのトーストとなった。あとは申し訳程度にインスタントのコーンスープやヨーグルトを添えて、フロイラインがキッチンに立った時なんかと比較するとかなり簡素な朝ごはんである。

「いただきまーす、ってミサカはミサカは大地の恵みに感謝してみたり」

「大地と言うかこの街では農業ビルの恵みです。いただきます」

 せめてベランダのプランターからプチトマトぐらい摘んでくるべきだったか、と思いながらも、水分代わりに喉へ流し込んでいる野菜ジュースと味が被ってしまうのでいまいち自分からは手が伸びない打ち止め(ラストオーダー)である。基本的に野菜嫌いな肉食系女子なので、あんまり生食のままでビタミンを摂りたくないのだ。

 外はサックリ中はもちもち、バターの香りがかぐわしい手抜きメシを満喫していると、付けっぱなしのテレビから流れているニュースが自然と耳に入る。

「……第十学区の損害は、もうほとんど修復完了しているようですね」

「ほとんど『彼女』じゃなくてこのミサカがぶっ壊したんだけどね、ってミサカはミサカは……事件の翌日から白井(しらい)先輩にこってり絞られた挙げ句、怒涛の勢いで書かされた始末書と反省文の山を思い返して虚ろな目つきになってみる……」

 はは、と口だけで笑いながらこたつテーブルに頬杖を突く打ち止め(ラストオーダー)の頭を、フロイラインは無表情なままで軽く撫で付けていた。

「私も、あなたの戦いを間近で見ていたかったです。その場にいたカブトムシが本当に羨ましい」

「……、そういや、あの時お姉ちゃんはどこにいたんだ? 何でか一四五一〇号と二〇〇〇〇号が『結局最後まで見つけられなかった』とか嘆いてたけど、ってミサカはミサカは首をかしげてみる」

「ああ、大したことはないですよ」

 こんがり焼き色が付いたパンの耳をもぐもぐと咀嚼しながら、銀髪の少女は感情の読めない瞳をわずかに細める。長いまつ毛まで見事な銀色であることだなぁ、と打ち止め(ラストオーダー)はぼんやりしながら何気なくそれを観察していた。

「瓦礫の下から逃げ出して『外』に亡命しようとしていた岐閥(きばつ)腹心(ふくしん)をとっ捕まえて――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「へーそんなことが……ってうええええええ!? いつの間にお姉ちゃんそんな必殺仕置人みたいなことを!? ってミサカはミサカはジュースをこぼしそうな勢いで驚愕してみたり!!」

 ダメだって一人でそんな危ないことしちゃあ!! とフロイラインの両肩を掴んでぐわんぐわんと振り回す打ち止め(ラストオーダー)ではあったが、この人外少女はなまじ肉体が頑強である分、こういう方面ではあんまり人の忠告を受け入れてくれないのが常だった。

「それよりも打ち止め(ラストオーダー)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って話はどうなりましたか」

「……っ、確かにそうだった! ってミサカはミサカは食パンを口に突っ込んでみる!」

 慌てて食事を終わらせようと躍起になる少女を、正座の姿勢で見届けるフロイライン。

 豊かな銀髪の頭上に乗っかった白い鶏は――比較的『いつも通り』を取り戻し始めていた寮の居間の中で、ただ一匹呑気にバサバサと羽繕いを始めるのであった。

 

 

 

「にゃあ。にゃあにゃあにゃあにゃあ!! 大体どうしてあの子供には公欠や課題免除が適用されるってのに、この私のヒーロー活動はまるで考慮されないで課題がどんどん溜まっていくんだ!!」

「フレメアちゃん……。それはね、すごく簡単な話で、御坂(みさか)先輩は風紀委員(ジャッジメント)としての治安維持活動だけど、フレメアちゃんのそれはただの目立ちたがり屋としか認識されてないからだと思うよ?」

「身も蓋もない現実を辛口気味に突き付けてくるな馬鹿アズミーッ!!」

 休日の午前から不良娘の課題消化に付き合ってくれている天使のようなインテリ女子に対して、フレメア=セイヴェルンは半泣きになって八つ当たりしていた。

 同居している寮の一室にて多量の参考書を広げながら、一週間ほど溜め込んでいた各種課題をペナルティ分込みで一つ一つこなしていく。これをダンジョン攻略ゲームの一種だと思い込めばついうっかり胸が躍るシチュエーションとも錯覚しかねないが、生憎と中学一年の勉強内容などはクリエイティブなイベントも成功報酬も何一つない、クソつまらない暗記や作業の積み重ねだった。

「くそお!! 大体やってられっかこんなクソゲー!! ……、にゃあ?」

 バシーン!! とシャーペンを毛足の長いマットの上にぶん投げて絶叫していた少女は、遠慮がちに振動しだした携帯端末の着信音に耳ざとく反応する。

 すでに集中力など宇宙の彼方まで放り出していたフレメアは、端末が置いてあるベッドの上までいそいそと登っていき、画面の上ですいすい指を這わせていた。

「……フレメアちゃーん、スマホ見ながらニマニマしてないで、勉強に戻ろうよ。誰からのメール?」

「ん……、沈利(しずり)のヤツからちょっとな。――てか大体マジか、私今笑ってた?」

 首を縦に振って肯定するアズミを横目に、照れくさそうに口元を隠そうとするフレメア。

「……保健室の先生、だよね? 何か、そんなに良いことでも書いてたの?」

「別にー。……ただ何と言うか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。にゃあ」

 ふふ、と一瞬だけ、彼女にしては珍しい性質の笑みを浮かべてから。

 寝転がっていたベッドからおもむろに起き上がり、気持ちを立て直した金髪の勇者は今、おさげにメガネの女賢者を携えて再び難攻不落の課題ダンジョンへと戻っていく。

 この戦いが終わったら私、ホットチョコレートを飲みに行くんだ――そんなことを嘯きながら。

 

 

 

 つい昨日未明までは、『彼女』はまだ面会謝絶状態で集中治療を受けていた。

 それでもやはり気に掛かって、打ち止め(ラストオーダー)は放課後に毎日ここの病院を訪ね続けた。まぁ、自分自身の怪我の治療やBC稼働率の検査を受ける必要があったから、その寄り道ついでと言ってしまえばそれまでだけれど。

 昨日と同じように看護師さんに声を掛けると――今朝早くに、一般病棟に移ったのだという。

 案内された新しい病室に、けれど『彼女』は居なくて。ほんの少しざわついた心情に従って、自分一人で辺り一帯を探してみる。

 すると。すぐに、その姿は見つけることが出来た。

 車椅子に体重を預けながら――中庭で遊ぶ小さな子供たちを、ぼんやり眺めている少女の姿を。

 

「……()()()()()()()()()()()、ってミサカはミサカは後ろから声を掛けてみたり」

 

 打ち止め(ラストオーダー)からの呼び掛けに振り向いた『彼女』は――痛々しい点滴に繋がれた腕の印象さえ無視すれば、見違えるほどに平凡な女の子としての顔かたちをしていた。

「……、誰かと思ったらキミか、善人さん」

「誰かと思ったって、それこのミサカが言うべき台詞だからな、美少女さん」

 返す刃の軽口に、少女――早川(はやかわ)風香(ふうか)の唇からうっすらと笑みがこぼれる。

 彼女の膝の上には、白うさぎのキャラクターがプリントされたゴム製のボールが収まっている。どうやら中庭の子供たちに渡されたもののようで、けれど満身創痍の身体では、まだまだそれを投げ返してあげるのにも苦労しているとのことだった。

 無邪気な喧噪に向けて、打ち止め(ラストオーダー)は代わりにそれをポンと投げる。

「……子供が好きなのも、やっぱり本当だったんだ? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「『お兄ちゃん』が好きだったからさ。玩具(おもちゃ)を作るのも、子供と遊ぶのも。自分では、全部あの人の思考パターンに支配されて動いてるだけのつもりでいたんだけど……どうやら違ったらしい」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 たくさんの人の手を借りて、頭の中に刷り込まれていた妄執と完全なる決別を果たした『彼女』は――木漏れ日の中で、静かに柔らかく、微笑んでいた。

「……どうも、生きるための理由があったらしい。こんなわたしにも、借り物じゃない『理由』が」

「うん」

「だから、せいぜいもうしばらくは生きてみるよ。どんな理由であれ、わたしの手で傷付けて障害を残してしまった子たちがいる。彼らを、完全に元通りの生活に戻さないといけない。――頭の中のデータはもう消えてしまったけど、それでも――『お兄ちゃん』ならきっとそれを望むだろうって、思うんだ」

「手は貸すよ、いくらでも。……風紀委員(ジャッジメント)の権限で、始末書が出ない範囲ならだけど、ってミサカはミサカは社交辞令じゃない確約をしてみる」

 情けない語尾だなぁ、とこちらをからかってくる少女を前に、ふてくされたように靴底を鳴らす。

「……あまり長い時間出歩かない方がいいんじゃないのか、看護師さんがやきもきしてたぞ、ってミサカはミサカは忠告しながら車椅子を軽く引いてみる。このミサカもそろそろ買い物に行く用事があるし、ってミサカはミサカは……っと、そうだ、あなたは何か買ってきてほしいものとかないの? 通院のついでに渡すのでもよければだけど」

「買ってきて、ほしいもの……?」

 木の葉が舞う柔らかい風に前髪を吹かれながら、豆鉄砲を喰らったような顔になった少女は、しばらくの間そのまま静止して考え込んでいたのだが。

 あるタイミングで、はっと思いついたように打ち止め(ラストオーダー)の顔を仰いでこんな発言をした。

「……そうだ、そういえばだけど。()()()()()()()()()()()()()!」

「…………………………、あれ以来やっぱりまだ付けてなかったのかよ!! というか病院の売店にだって売ってるだろうがそんなモン!! ってミサカはミサカは爆発的にツッコんでみたり!!」

「サイズが無かったんだよ。いや、今の今まで『お兄ちゃん(おとこのこ)』の思考回路だったからそういう方面には全く無頓着だったんだが、わたしもここに来てこんな弊害があるとは思ってもみなかった! ああ、まったく計算外だ。生きてるってのは想像以上に面白いな!」

「一体何カップあるんだいっぺん揉ませろこのブルジョワ野郎!! ってミサカは――!!!!!!」

 

 

 

『――まったく、終わってみれば馬鹿馬鹿しい。全部貴方(あなた)の手の内でしたのね、第一位様?』

 電話口から刺々しく言葉をぶつけてくる風紀委員(ジャッジメント)の女の声に、白い怪物は壁にもたれながら苦々しく眉間を寄せる。

 人が多く行き交うコンサートホール前の広場にて、彼は殊勝にも、待ち合わせ中であった。

 もちろん、今絶賛通話中の相手を待っているわけでは断じてないが。

『あれだけわたくしたちを牽制しておきながら、あの子のフラストレーションを溜めに溜めて。今になって思えば、あそこから全部あなたの独壇場だったじゃありませんの。なんだかんだと最後にはあの子の好きにさせた――ように装って、「ネットワークを使わざるを得ない」状況を意図的に作り出し、とんでもない領域まで彼女を強引に成長させた。……マジで何がしたいんですの貴方は。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「先にあのガキを焚き付けたのは仮想超能力者(デスクセオリー)の方だ。それを利用させてもらったまでだよ」

『よく言いますわ、早川風香のプロファイリングをあれだけ完璧に完成させておきながら。あの少女がどう足掻いても人を殺せない人格だということまで、貴方は知っていたのでしょう。ミッション全体の難易度も、敵の人格さえも貴方に全て管理された、いわば一種の温室の中の英雄譚(アドベンチャー)。それが今回の事件の全貌ですのよね』

「どンだけ予測不可能な事態だったとしても、全部終わってからならどォとでもこじつけられる。それは俺もオマエも同じことだ。あまり人様を見透かした気になってハシャいでンじゃねェぞ」

 反応を待たずに通話終了ボタンを押し込み、端末をジャケットのポケットへとしまい込む。

 屋外空気清浄機のポールが設置されているこの区画で、彼は懐から細い煙草を取り出して火をつけた。薄い唇にくわえてゆったりと吸い込み、肺の奥まで毒々しくも甘い煙を取り込んでいく。この銘柄にもそろそろ飽きてきたな、などと考えながらも、ジリと焦げつく赤い炎はかなりのペースで先端から侵食していった。

 あの少女は煙草を毛嫌いしているが、どうせわざわざ好かれようなどという気色悪い意図はハナから持ち合わせていない。誰に遠慮することも無く、彼は早々に一本吸い終えようとしていた。

(……、『あいつをバケモノにしたいのか』、ね)

 まったく笑わせる話だ。一方通行(アクセラレータ)は密かにそう断じる。

 ミサカネットワークの並列演算、あれは元から彼女達の持ち物だ。成り行き上第一位の怪物を支えるために運用している現状こそがイレギュラーなのであって、そのチカラ自体には善も悪も無い。あの子供がそれを自覚して、他でもない自分を守るために行使することを覚えてくれるならば――それは、最初から一方通行(アクセラレータ)にとっての本懐なのだ。

 それを『バケモノ』と呼ぶのならば、こんな世界の方が間違っている。

 靴底で踏みつけた吸い殻を清掃ロボに喰わせて、そんなことをつらつらと考えながら待ち人を待っていた青年であったが。

「遅せェ」

「……喫煙中のあなたのガラが悪すぎて近付きがたかっただけだし、ってミサカはミサカは文句を垂れてみる。半径五メートル以内の人がみーんな逃げ出していくってどういうことなの」

 呆れたように両手を腰に当てている打ち止め(ラストオーダー)の姿が、気が付くとただ一人だけ目の前にあった。

 休日の正午なので妥当とも言えるが、少女は怪我した場所を上手く隠しつつも、やたらとめかしこんだ私服だった。だからといって何がどうなるわけでもないのだが、うっすら頬を赤くしながら悪態をついてくる思春期のガキの思考回路はつくづく理解に苦しむ。

「って、あれ? ヨシカワと妹は? 美味しいご飯おごってくれるって聞いたから来たんだけど、ってミサカはミサカは怪訝に思ってみたり」

「……、急用で来れなくなったってよ。マジなのかは知らねェが」

「はい!? ってミサカはミサ……え、ああああああああああああっ!? じゃああなたはミサカと二人で、その、デデデデデートするためにわざわざ律儀にこの待ち合わせ場所でままま待ってたってこと!?」

 何かあわあわ言いながら全力で妄想を大爆発させているクソガキを前に、一方通行(アクセラレータ)の苛立ちゲージが再び上昇し始める。空腹であることも手伝ってまさにうなぎ登りだった。

 くるりと踵を返し、現代的なデザインの杖をつきながら、第一位は打ち止め(ラストオーダー)と目も合わせないままこんなことを言い放つ。

「メシに釣られたってンなら状況は何も変わらねェ。このまま空きっ腹ァ抱えて帰るか、それとも適当な店で喰ってから帰るか、好きな方を選べ」

「え! あ、ちょ、ちょっと待って! 行く行く行きますミサカ買い物もしなきゃいけないの!! ってミサカはミサカは夏のインテリビレッジを一二〇パーセント楽しむためのプランニングに努力を惜しまないことをアピールしつつ、あ、あなたの腕にドサクサ半分でしがみついてみる!!」

 

 

 

 

 

 初夏の香りがわずかに漂い始めた街で――一人の少女を取り巻く世界は、様々な変容や混乱を抱え込みながらも、今日もこうして正しく回っていく。

 

 

 

 これは、平和を手に入れはじめた学園都市の物語。

 少しばかり長いプロローグは――まだまだ、始まったばかりなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

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