第七学区の公園で、子供たちに怪しげなモノを売り歩く不審人物がいる。
そんな噂を聞き付けて「
「……むうう、桜のブローチも可愛いけどこっちの栞も素敵かも、ってミサカはミサカはお財布の中身と真剣に相談してみたり……」
「おいコラ大体それでいいのか
わらわらと群がる女子小学生たちに混ざる体でファンシーな小物を吟味する二つの人影は――残念なことに等身大の中学生、つまりオネーサン達である。
しかし、肝心の『不審者』の素性を考えたら、見事に釣られた
スーツケースの中に無数のファンシー雑貨を忍ばせ、お子様相手に小銭を稼ぐ大人げない爆乳女子高生。腰まで届く豊かな黒髪にセーラー服、輝かしい元気印の笑み。その姿はさながら
「にゃあ……佐天のお姉ちゃん、まさか大体この学園都市で今時露店商を見付けるなんて予想してなかったぞ。さすがの私も呆れ面だし……」
「まーまーカタいこと言いなさんなってフレメアちゃん。別に子供を騙して悪い物売ってたりするわけじゃないんだから、大目に見てよ。ついでに何か買っていったら? 初春や白井さんには内緒って約束してくれるならお安くするよん」
「ま、まったくもう佐天のお姉ちゃんはしょうがないなぁ! ミサカ達が買ってあげるから、さっさと引き上げてもらわなきゃ困るよ! ってミサカはミサカは腕組みしながら渋々と闇取引に応じてみる!!」
「……しょーもない連中め。にゃあ……」
自称ヒーローで常識人枠(笑)のフレメアはブツクサと文句を垂れるが、何だかんだで彼女もリボンテイストの小物入れが気になるらしい。チラチラと商品を盗み見しつつ、興味津々に取引現場を覗き込む子供たちを丁重に追い払う。
お子様趣味の
「しっかし、どこから仕入れたのこんな大量の雑貨、ってミサカはミサカは当然の疑問をぶつけてみる。普通のお店で買ったにしては儲けが出ないくらい安いし、それに何となく素材が手作りっぽい、ってミサカはミサカは分析してみたり」
「あぁコレ? 友達にプラスチックを加工できる
最初は道行く小学生に手売りしてたんだけど、途中からチビッ子たちに『出店開いてよー!』ってねだられちゃってさーいやぁまいったね、などとヘラヘラ笑って供述する健康的ナイスバディ美少女。見た目がコレなだけに非常に残念なギャップである。
都市伝説や噂が大好きで、それを追っかけ回し痛い目を見るのがデフォルトであるこのトラブルメイカーには何故か親近感が沸くが、まさか今や自ら『怪奇! 幼女に出所不明のブツを売り歩く妖怪セクハラ娘!!』的な噂の発端になっていたとは夢にも思わなかった。
色々と似ているのを自覚しているだけに、このお姉ちゃんのことが心底油断ならないフレメア=セイヴェルンである。
「うあー、でもまぁアホ毛ちゃんたちに見付かっちゃったことだし、そろそろここいらの公園は引き上げ時かねぇ。これからはネット通販一本に絞ることにしますか。今時の子供ってオンラインショッピング大好きみたいだし、儲けは出るでしょ。あ、『超能力で作った激レア手作り雑貨!』なんて銘打てば『外』のSFマニアに大ウケするかも! よっしゃ佐天さん冴えてるぅ!!」
「……超能力のデータが解析抽出されかねないモノは原則『外』には持ち出せないよ、ってミサカはミサカは一応ツッコミを入れてみる」
「昔より寛容になったとはいえ、にゃあ。大体、
しらーっとした態度の年下二名に見下ろされ『ちぇーつまんないの』と唇を尖らせる佐天。なんというか、非常に非常に大人げない。
もういいからさっさと何か買ってあげよう、ということで無理矢理意見を一致させて、
「うーん、悔しいけどどれも可愛い!! とりあえずこの花柄をあしらった下敷きは購入確定、ってミサカはミサカは頷いてみる。ぐぬぬ……しかし今後の財政状況を鑑みるに余計な出費の機会はとことん厳選しないとなぁ、ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」
「にゃあ。大体、
「……過保護な保護者さん達の教育方針で我が家は平々凡々としたお小遣い制なんですー、ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」
……と、口ではそんなことを言う
なんせ不相応な大金を貰ったところで、そんなもの、『友達』と遊ぶには持て余してしまう。『あの人』が買い与えてくれた高級ブランドのワンピースよりも、自分にはセブンスミストのセール品の方が似合うと思った。それだけのことだ。
『――お嬢様学校なんてつまんないモノよ? いろいろな人たちと出会える自由な学校に行く方が、アンタにはよっぽど合ってると思うわ。アンタの保護者見てみなさいよ。アホらしいほど稼いでるくせに友達いないせいで結局使いどころが無くって日々
『なるほど説得力ある、ってミサカはミサカは
『人ン家に押し入って言うことがそれか陰険野郎』
あの
数多くの障害を乗り越えて
学園都市第三位という立場上、たとえ気の置けない友人相手であっても、どうしても完全に同じ土俵には上がれなかったという経験。それがあったからこそ、彼女は
「まぁそんな訳で、ミサカは贅沢に慣れきった只のクソガキではないのだ。覚えておきたまえ、ってミサカはミサカは再確認してみる」
「にゃあ。恵まれてるモノをあえて使おうとしないのも、それはそれで逆コンプレックスみたいに見えるけど?」
「はっはっはー僻みは似合わんぞお子様め、ってミサカはミサカは鼻で笑ってみる」
「にゃあ! 大体僻んでないし! クソったれ、ネットワークの影響だかなんだか知らないが日に日に性格悪くなっていってんなこの子供!!」
そのままキャットファイトに雪崩れ込む二名を眺め、シートにあぐらをかく佐天はケタケタ笑いながら自前のタンブラーを口元に運ぶ。
仲良きことは美しきかな。考えてみれば、自分ももっと若いときに、
昔も今も、彼女たちとは変わらずに仲が良い。だけど同時に、相手の立場の違いから、以前はなんとなくお互いに遠慮していた所もあったように思えるのだ。
似たような境遇、
「どうでもいいけどさっさと選んでおくれよキミ達。あたしも暇じゃないからさー、そろそろ初春のスカートが恋しくなってきたところだしね!」
「だ、大体それって究極の暇人じゃないか!!」
「いだだだだ髪の毛引っ張んな! ってミサカはミサカは……あーもう今日は休戦だ休戦!!」
投げやりな
だがしかし、ただ小物を品定めしているだけの段階でも、一秒たりとも静かにしていられないのが彼女らの性質であるらしく。
「えーそのリボンはちょっとぶりっ子しすぎじゃない? ロリータ趣味は小学校で卒業しとこうよ、ってミサカはミサカは鼻で笑ってみる」
「べ、別にいいじゃないか髪にくっつける位! それを言うなら大体そっちのヘアゴムはどうなんだ? お子様趣味も大概だろ!」
「!? しっ、白うさぎちゃんを馬鹿にするのは許さないぞ! ってミサカはミサカは高速で隠してみる!!」
「あーなるほど、そういえば大体そっちのケータイのストラップも、その目付きが悪いウサギのキャラだったか? 大方『例のあの人』から小さな頃貰った思い出の品とかそーいう――」
「にぎゃあああああああ言うなそれ以上言うな!! ってミサカはミサカは口を塞いでみたり!!」
ほほう赤目の白うさぎって辺りがやっぱり第一位さん絡みの思い入れなのかねぇニヤニヤ、と適当に考察する佐天涙子。
タンブラーの中に詰めてきたコーヒーもそろそろ尽きてきたところで、しがない露店商は傍観するにも少々退屈していた。
「……あー、つまりアホ毛ちゃんとフレメアちゃんは、どっちがよりお子様趣味なのかをここでハッキリさせたい訳かな?」
「もうこの際それでいいよコイツの息の根を止められるなら!! ってミサカはミサカは涙を拭いながら主張してみる!!」
「
「「!!」」
鶴の一声。
それを聞いたフレメア=セイヴェルンは、普段手提げにしまい込んでいる白いベレー帽をガッとわし掴みにして、勢いよく引っ張り出す。
両手で握り締めた布地に噛み付くような勢いで、叫ぶ言葉は都市伝説でお馴染みのアレだった。
「
「……一体何があったんですか……」
直後。
パリィン!! とガラスを砕くような音と共に、帽子と立ち代わりフレメアの前に現れたのは、呆れ顔の青年だった。
前触れもない学園都市第二位の登場に『うぉお
人目をはばかってか、彼はいつものように真っ白な風貌ではなく、ブランドの柄シャツにジーンズを身にまとった至極マトモな姿だった。
確かに、ファッション関連の話題には彼のセンスは適任そうに見える。だがなんというか、仮にも『能力の塊』である第二位の怪物がこんなくだらないことで女子中学生に呼び出されるというのは、ホント平和な時代なんだなーとしみじみ感じてしまう
非常事態で召喚された可能性を一応懸念していたらしく、鋭い瞳で周囲をぐるりと見渡す垣根
そんな気苦労など露知らぬフレメアと
そう。かつて流行った『困ったときの白いカブトムシさん伝説』は、こういう一部の子供達の間ではまだまだ有効だったりする。
「カブトムシ!! 大体私のセンスはおかしくないよね!? というかむしろ年相応だよね向こうのオバハンと違って!! にゃあ!」
「誰がオバハンだこの貧乳! 違うよねカブトムシさん、白うさぎちゃんの方が断然可愛いもんね! ってミサカはミサカは確認してみる!」
「あの」
「だっ大体そっちも乳カーストは紛うことなき最底辺だろうが! 若くてピチピチな私にはまだまだ伸びしろがあるんだ! 老い先短いそっちと一緒にするんじゃない!! ええいこうなったら実践あるのみ! カブトムシ自身に試してもらって白黒決めさせる!! にゃあにゃあ!!」
「……もしもし?」
「上等だ! 言っておくけど、カブトムシさんの髪に似合うのはリボンじゃなくて絶対に白うさぎちゃんだから! ってミサカはミサカは――」
「どちらに転んでも私が泣きを見る展開ですよねそれ!?」
少女たちの手によって今まさに第二位としての、いやむしろ男としての尊厳を突き崩されようとしている垣根(ツインテール製作中)。
やめろ離せ離してくださいと力無く暴れる哀れな第二位の姿を眼前に、すっかり蚊帳の外となった露店商こと佐天涙子はというと、
「……とりあえず、
一人つぶやきつつ、非常にイイ笑顔でケータイのカメラを前に突き出していたのだった。