シルフ族のエーテライトを使って転移する。視界がブラックアウトしたかと思えば、一瞬で新たな景色が目に入ってきた。広い円形のフィールドと、その中央に佇む老人。ただし、そのサイズは5メートル以上の巨体で、超すごくモフモフしてそうな白いお髭をお持ちの老人だ。老人の名は蛮神ラムウ。シルフ族の守護神である。
「ほう……人間の来客とは珍しいの。何用じゃ」
私達を見て尋ねるラムウに対し、ブロントさんが前に進み出て答える。
「俺は3回イタズラを受けた。トウガラシ入りジュース、クシャミ爆弾、グラットン窃盗。普段は確かに心優しく言葉使いも良いナイトでも悪い子シルフのあまりの粘着ぶりに怒りが有頂天となった。仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ」
「つまり、グラットンソードを返して謝れば許す。けど返さないならハイスラでボコって取り返すぞってことだぜ!」
ブロント語を魔理沙が補足し、ブロントさんが頷く。グラットン返せとかハイスラのあたりはブロントさんの発言に入っていなかった気がするが、気にしてはいけない。
「独特な言い回しじゃな。言語として間違っていても、意味は伝わるのが不思議じゃ。グラットンソードとはこの漆黒の剣かのう」
ラムウが手を天にかざすと、虚空からグラットンソードが現れてラムウの右手に収まる。
「hai!早く返してくだしあ!」
「それは聞けぬな。この剣は強大な力を秘めておる。その規模はこの森一体の潜在エーテル量に匹敵しよう。そして、この剣からエーテルを吸収すれば森からエーテルを吸収する必要がなくなる。この森の寿命を縮める事無く、シルフ族を守ることができるのじゃ」
シルフ族を守るのが目的であるラムウからすれば、森以外からのエーテルの確保は必須。それでグラットンソードの持つエネルギーに目をつけたらしい。
「それは何か、グラットンの代わりとなる物ではいけないのかしら?」
「この剣の持つエネルギーは計り知れない量じゃ。これに匹敵するエネルギーを供給できるのなら、剣を返してもいいんじゃが……」
咲夜の問いにラムウが答える。私が見たところ、グラットンは竜の眼に匹敵するエネルギーを秘めている。私の中にはフレースヴェルグの眼が宿っているが渡せるわけが無い。他の皆とて、グラットンに匹敵するものを持っていても渡そうとはしないだろう。
「どうやら交渉決裂のようだぜ。そもそも、盗まれた物を取り返しに来たのに代わりのものを渡すってのがおかしいんだ」
皆の困り顔を見て、交渉決裂を悟った魔理沙が武器を構える。それに伴い皆も武器を構え、ラムウも杖を取った。私もプロテスを詠唱し、戦闘に備える。
「こちらに非があるのは理解しているが、譲ることはできんのじゃ。戦うのならば、我が雷がお前達を焼きつくすことになるぞ」
「お前、雷属性の左でボコるわ……」
「素直にグラットンを返さなかったこと、後悔させてあげるわ」
「あまり調子に乗ってると、裏世界でひっそり幕を閉じるってことを教えてやるぜ!」
魔理沙が箒に跨って飛行し、咲夜とブロントさんがラムウへと駆け出す。戦闘開始だ。
「行くぞ蛮神ラムウ。50回周回しても馬が取れなかった恨み、今ここで晴らす!」
戦闘フィールドはゲーム中の極ラムウ戦と同じだ。周囲には水があり、そこに雷が落ちれば感電する。よって初手はコレだ。
「魔理沙!周囲の水を蒸発させるか凍らせてくれ!」
「あいよ、任されたぜ!」
私の指示に従い魔理沙から放たれた炎により、周囲の水が蒸発する。水場での感電が無くなり、まずは状況が一つ改善された。
魔理沙の魔法が終わると、今度はラムウのサンダーストームだ。複数の雷が落ち、落雷地点に雷球が生成される。この雷球がラムウギミックの肝で、MTが常に雷球を3つ保持しなくてはならない。ブロントさんに雷球の回収を頼んでもいいが、まずは別の手段を試すことにする。
「物は試しだ。エアロ!」
詠唱によって巻き起こされた風はラムウではなく雷球に向かう。この風で雷球をブロントさんのほうへ弾き飛ばせればと考えたのだ。しかし、エアロは雷球に当たると、雷球を弾くのではなく消滅させた。
「やはり、そこまで上手くは行かないか。ブロントさん、事前の説明通り、雷球の確保を頼んだ!」
「hai!」
ブロントさんが雷球を回収していく。その動きは迷いが無くスムーズだ。流石はFF11を戦い抜いたナイトか。そして、4個目以降の雷球には私がエアロを打ち込み消滅させる。
先ほどの実験で移動せずとも遠距離からエアロで消せる事が判明している。こういうことは有効利用していかないとな。
「雷属性の左の封印が解けられた!」
雷球を左に持つ盾で回収し、電気を纏った状態になったブロントさんはそのままシールドバッシュを決めた。有言実行するとは、流石ブロントさんである。
ショックストライクでラムウが反撃するも、ブロントさんは電気を纏った盾で受け、ダメージを軽減した。
「ふむ、お主が司令塔か」
ここまでの流れを作った私を厄介と思ったのか、ラムウがカオスストライクを打ってくる。不可視の必中攻撃は避けることができず喰らってしまうが、喋ることはできるようだ。それなら問題ない。
「この硬直の呪いは雷を受けることで解除される。頼んだ!」
私が叫ぶと即座に魔理沙からサンダーが飛んでくる。違う、そうじゃなくてラムウのサンダーストームを!っと思ったら普通に魔理沙のサンダーで解除された。まさかの攻略方法発見である。
自分の技が即座に破られたことを理解したラムウは戦法を物量に切り替え、大量のサンダーストームを降らせてくる。その数はゲームよりはるかに多く、回避が不可能な量だ。
しかし、それでも超える力は敵の攻撃のタイミングを予知してくれる。雷が落ちてくるタイミングを狙って、上空へ短剣を数本放り投げた。
数多の漫画で使用された雷への常套手段は効果を発揮し、雷は短剣に直撃した事で霧散、その下にいる私にまで届くことは無かった。
「無駄だ、ラムウ。お前の技は私達には届かない!」
その後もラムウの攻撃が繰り返されるが、全てを的確に対処していく。ブロントさんの避雷バフが切れたタイミングもあったが、我らが頼れるメイン盾は防御バフによりきちんとショックストライクを凌ぎきった。
「ならば、我が最高の技を使うまで」
全ての技が防がれ、このままでは押し込まれると考えたのかラムウは周囲に分身を展開する。そして長い詠唱を開始した。見れば分身達がラムウ本体に電気をチャージしており、詠唱完了時に大技が来るのが予想できる。
おそらくは『裁きの雷』だろう。確かにこの技は回避不能。分身を早急に殲滅するDPSが無ければ全滅するだけだ。
しかし、このPTは私以外にも強力なメンバーが揃っている。もしかしたら、ゲーム中にいた廃人達よりも高いDPSを持っているかもしれないぐらいのメンバーが。
「吹き飛ばしてやるぜ!彗星『ブレイジングスター』!!」
「消えなさい。傷魂『ソウルスカルプチュア』」
魔理沙が箒でひき逃げして右の敵3体を、咲夜がナイフで左の敵3体をバラバラに引き裂く。範囲・威力共にLBに匹敵する大技のようだ。クールタイムまでは分からないが、スペルカード発動時にMP・TPが一気に減っているから連発は不可能と見える。それでも非常に羨ましいが。運営さん、私にも新スキルください。
スペルカード発動によって分身が速攻で沈み、裁きの雷を詠唱しているのがラムウ本体だけになる。チャンスと見たブロントさんと私がラムウに連携攻撃をしかける。
「詠唱時間が長すぎた結果がコレだよ。時既に時間切れ。ハイスラァ!」
「汚れ無き天空の光よ、血にまみれし不浄を照らし出せ!ホーリー!」
ハイスラとホーリーによる合体攻撃、ホーリーハイスラがラムウの体力を削る。さらに分身を倒し終えた咲夜と魔理沙も攻撃を重ね、フルボッコ。しかし流石に削りきることはできず、裁きの雷が発動する。
「輝ける古の知に照らし、我、汝に厳正なる審判を降ろさん!」
ラムウの膨大な魔力が開放される。フィールドを埋め尽くすように雷が落ち、視界が真っ白に染まる。雷の嵐は数秒間続き、フィールドを焼き尽くした。だがそれほどの技を持ってしても、私達のHPは3割も減らなかった。Lv60の性能は伊達では無いのだ。
「おいィ?お前の最強の技が防がれたなら、勝ち目はにぃから降参したらどうですかねぇ?」
「シルフ族を守りたいのなら、敗北して消滅するより負けて生き残ったほうが良いんじゃないかしら」
裁きの雷を余裕で耐え切り、ラムウに実力を見せた所でブロントさんと咲夜が降伏勧告を行う。ラムウは多少迷う素振りを見せたものの、降伏を決意したようだ。
「むぅ、ここまで実力差が明確では仕方あるまい……降伏しよう。剣を受けとるのじゃ」
ブロントさんはグラットンソードをラムウから受け取ると、満足そうに鞘に収める。これでグラットン騒動については解決だ。しかし、問題はまだ残っている。
「グラットンソードは戻ってきたけどよ、ラムウが顕現し続けるためのエネルギーってのが無いとこの森がいつか滅びちゃうんだろ?けどラムウがいなくなると帝国が攻めてくる。何かいい案考えないとマズイぜ」
グラットンソードは戻ってもシルフ族の問題は解決していないのだ。ラムウ顕現させると森がいずれ滅ぶが、ラムウを討滅しても帝国軍によりシルフが滅ぶ。一応、延命の案があるにはあるんだが……
「延命で良ければ案があるにはある。一つは何らかのルートでラムウにクリスタルを供給し続けること。私の手持ちに雷クリのシャードが8千個、クリスタルが2千個、クラスターが300個ある。これでどのぐらい持つ?」
「戦闘可能な形態であれば3ヶ月。戦闘能力を放棄し、燃費を重視した形態であれば3年という所じゃな」
「おいおい、そんな大量のクリスタルがあってもたった3ヶ月しか顕現できねーのかよ。大喰らいすぎるぜ」
私がゲーム時代に貯め込んだクリスタルでこの程度だ。戦闘モードのラムウを顕現させ続けようとすると森が滅びるのも納得できる。となると、ラムウには戦闘をさせずに省エネモードで過ごして貰うしかない。
「第2案。ラムウには燃費重視形態で過ごしてもらい、ラムウに代わって帝国を私達が牽制する」
「クリスタル供給よりは現実的だけど、この森をずっと守るのは誰がやるんだ?私は冒険したいし、やめとくぜ」
「私も遠慮しておくわ。ブロントさんとセラは?」
「俺は世界中で助けを求められているからなナイトは人気ジョブだから一箇所にとどまらにぃ」
私もこの世界で動くことがある。ずっと森にいては防げる悲劇も防げなくなってしまう。第1案、第2案共に良案では無いのだ。
「むむむ……私もやることがあるから、森を守るのは無理なんだ。他の案を考えるしかないか」
言って、再び考え込もうとしたその時、森にイケメンボイスが響いた。
「ならばその役目、俺が請け負おう」
声が聞こえたのは驚くべきことに上空から。直後、すさまじい勢いで何かが降ってきた。
着地の際にすさまじい轟音が響くも、彼は華麗に着地を決めた。その姿は長い槍に紫色の軽装鎧。我らが仲間、りゅーさんだ。
「来た!メインりゅーさん来た!これで勝つる!」
「あらりゅーさん、丁度良い所に。貴方が引き受けてくれるなら安心ね」
「救援妖精を聞いて駆けつけたんだが、どうやら戦闘は終わっていたようだ。すまないな。だが、話は聞かせてもらった。森とシルフ族の護衛なら俺が役に立てるだろう」
タイミングの良い助っ人参上にブロントさんが歓喜する。私としてもこのりゅーさんが引き受けてくれるのはありがたく、/bowで感謝の意を表明しておいた。
「ありがたいけどよ、りゅーさんいいのか?森で護衛するにしても、いつまで護衛しなきゃいけないか分からないんだぜ?」
「私達の中に希望者がいないから正直助かるが……森に縛り付けられるデメリットがあっても、りゅーさんに対するメリットなんて無いはずだ。いいのか?」
「困っている人を助けるのにメリットなんていらないさ。それに、帝国の事は調査したいと思っていた所だ。この森を護衛しながら帝国の情報を集めておくとしよう」
自信たっぷりに宣言するりゅーさん。なにこのりゅーさんイケメンなんだけど。素早いりゅーさんじゃなくて、プロ竜りゅーさんのオーラを感じる。
「見事な返事だと感心するがどこもおかしくはない。りゅーさんがこう言っているんだから任せるべきそうすべき」
「決定だな。流石だぜりゅーさん!キャーリューサーン!」
りゅーさんの気が変わらない内にと二人が話を終わらせようとする。こんなあっさり決めていいものかと思いつつ、ラムウの意思を確認する。
「ラムウ、このりゅーさんは私達と同レベルの実力者だ。りゅーさんにシルフ族とこの森の護衛を頼み、ラムウにはこれ以上戦闘せずおとなしくして貰う。それで良いだろうか?」
「ふむ。こちらとしては、そのりゅーさんとやらが本当にこの森とシルフ族を守ってくれるか分からないのじゃが?」
ラムウが疑いの言葉を投げかけてくる。しかし、本当に疑っているというよりはあくまで確認といった感じがする。内心ではもう対応を決定しているのだろう。
「おいィ?お前りゅーさんを信用できないワケ?」
「騙すぐらいならこのまま討滅しているわ。私達としては貴方が生きていることそのものがリスクなのだし」
「仮にラムウ本人が戦闘せずとも蛮神が生きているというだけで帝国の牽制にもなるだろう。クリスタル消費を抑えつつ、帝国への牽制を維持できる点はこちらとしてもメリットだ。竜騎士1名と蛮神では、名前による威圧の効果が段違いだからな」
「……あいわかった。お主達を信じるとしよう。シルフ族とこの森を頼むぞ、りゅーさん」
「フッ、任せておけ」
こうしてシルフ族と彼女達が住む森を守る約束が結ばれ、蛮神ラムウの問題は一応の解決となった。後から合流したミスティアはりゅーさんと一緒に森に残り、霊夢を含むブロントさん一行は新たな蛮神問題に対応するため森を後にしたのだった。
原作との差異を出すにあたって蛮神との和解をしたかったので、理性的な蛮神であるラムウさんに出てきて貰いました。
話は変わりますが、光のお父さんが来春TVドラマ化するそうです。非常に面白い作品なので、見たこと無い人は原作ブログを見ることをオススメします。