ヒカセンの紀行録   作:Lavian

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第9話 砂の家襲撃

 極ラムウ討伐後、私は砂の家に赴き、私自身が超える力を持っていることを説明した上で暁への入団を申し入れた。

 ただし、私の正体はミンフィリアのみに明かし、他の暁には偽名『ライト』を名乗っての入団だ。理由は簡単。暁に所属しているサンクレッドはアシエンに操られているため、彼の耳に私の情報を入れたくなかったのだ。ミンフィリアには、ウルダハのコロシアムで『暗黒剣のセラ』の名前が売れているため、目立たないように偽名を使うと言い訳しておいた。

 

 私がこの時期に暁に入った理由は、暁への襲撃を撃退するためである。暁襲撃により、主人公達は帝国を倒すという意識が高まるのだが、そのための犠牲は多い。ゲームならともかく、現実となった今では見過ごすことができない。

 ゲーム内では蛮神タイタン戦の時期に暁襲撃が起きており、ブロントさん達の活動の様子からタイタン戦が近いと感じたからだ。ハウケタを攻略した彼らは海雄旅団関連クエストを受けている所であり、クエストが全て終われば暁が襲撃されるだろう。

 

「暁のメンバーを殺させはしない。未来を知る私が悲劇を防いでみせるさ」

 

 

 

 

 暁に入団するにあたり、私は偽名のほかに変装も行った。眼鏡をかけ、帽子を被り、学者にジョブチェンジだ。見た目は立派な文形。謎のヒカセンXオルタって感じだ。勤務場所は入り口に一番近い場所、すなわち受付を強く希望した。

 テレポートで砂の家内部に直接飛んでくる帝国軍を撃退するには、ここで守るのが一番だと判断したからだ。

 

「ライトさん、この書類の処理お願いしまっす。この後追加で20枚あるので手早くお願いしまっす」

「アッハイ」

 

 しかし、砂の家には既に受付がいる。FF14のヒロイン?ことララフェルのタタル・タルだ。赤いベレー帽がトレードマークの彼女こそが正規の受付嬢兼経理である。そこに二人目の受付嬢として配置されるため、私はいわゆる受付嬢見習い兼経理見習いとして彼女の後輩となったのだ。なので、受付や経理の仕事も自然と任されるのだが……

 

「ライトさん、この書類はここがこうなので、こうしてああして……」

「す、すまないタタル先輩」

 

 タタル嬢、初めての後輩に大盛り上がり。大変熱心に指導してくれている。本当は経理スキルも受付嬢スキルもいらないのに、無駄に上達していく。サボるとタタルがしっかり見抜いて指摘してくるので手を抜くこともできない。ゲーム内に来てからこんな仕事をするとは思わなかった。

 

「ライトさんは計算もできるし筋が良いから教え甲斐がありまっす。通常業務が終わったら、経理の勉強時間でっす。先輩として優しく分かりやすくビシバシ指導するでっす」

「は、はは……ありがとう、タタル先輩」

 

 ゲームの世界に入っても、仕事という呪縛からは逃れられないということを知ったヒカセンであった。

 

 

 

 

 とはいえ、この職場も慣れてくれば楽しくなってくる。働き始めて1週間も過ごせばタタルのスパルタ研修期間も終わり、少しは余裕が持てるようになった。足手まといから、指示すれば動けるお手伝い要員になれたというところだろうか。

 ともかく、時間の余裕ができたことを利用し、仕事以外でタタルと交流を持つことにする。タタルは可愛いし仲良くなりたいのだ。

 それに、このあたりでヒカセンとしての威厳というものを見せておかなければタタルに一生後輩扱いされてしまうと思いもあった。そこで、今後の快適ライフのためにもマイスター調理師としてタタルに夕飯を振舞うことにしたのだ。

 

「さあタタル先輩、味わってくれ。これが私の真骨頂。エフトステーキ、ビーフシチュー、猟師風エフトキッシュ、ガレット・デ・ロワだ!」

「お、おおー!ライトさんすごいでっす!こんな豪華な夕食初めてでっす!」

 

 勿論全てHQ。調理クエでロロリトを唸らせたフルコースは、見た目だけでも庶民を圧倒する。そして実際に口に運べば……

 

「す、素晴らしいでっす!この世にこんなに美味しい料理があったなんて初めて知ったでっす!」

「ふふ。そうだろう、そうだろう」

 

 大感激のタタル。ここまで喜んで貰えると奮発して作った甲斐があったというもの。自分の作った料理で人がこんなに喜んでくれるなんて、現実世界では味わえなかった幸福だ。

 

「ライトさん、貴方は経理や受付嬢に収まる器じゃありません。すぐに調理師になるべきでっす!この夕飯を食べ終えたら一緒にミンフィリアさんの所へ行きましょう。配置換えでっす!」

「……え?い、いや私は調理師ではなく受付嬢になりたくてだな」

「ダメでっす!調理師になって毎日タタルのご飯を作って欲しいでっす!」

 

 いけない!タタルの暴走だ!こうなったタタルは割と頑固である。その上、食い意地もあるので一歩も引かない構えを見せている。

 その後、なんとかして私を砂の家の調理師にしようとするタタルを必死に説得し、手の空いた時間にオヤツを作事で妥協してもらった。

 

 

 

 

 タタルにご飯やオヤツを作ったり。タタル自作の歌を聞かせて貰い、代わりに日本の歌を教えてあげたり。書類の山を一掃した後にタタル先生の勉強で力尽きたり。そんな感じで平和に日々が過ぎていく

 タタルと一緒なら受付嬢や経理の仕事も悪くない、そう思える素敵な日常だった。やはり、仕事は人間関係というものが重要である。

 

 しかし、いつまでもそんな日々は続かない。やがて、ブロントさん達がタイタンを攻略する日がやってきた。ゲーム通りであれば、帝国が砂の家を襲撃する日だ。それが、今日。

 現在の砂の家にはサンクレッドもヤ・シュトラもイダもパパリモもいない。腕の立つ冒険者は皆、留守にしている。敵にとっては砂の家を潰すまたとない機会だった。

 

「ライトさん、今日は来客が来た時の練習でっす。受付は愛想が良くないとダメでっす」

「いらっしゃいませ。本日はどんな用件だ?……、どんな用件でしょうか?」

 

 と、そんな日ではあるが敵の襲撃の可能性は誰にも伝えていない。どこからサンクレッドという内通者に伝わるか分からないし。もちろんタタルにも内緒にしているため、彼女は平常運転だ。今日は接客の練習らしい。

 

「笑顔はOKでっすが、口調がダメダメでっす」

「す、すまない。この口調は癖になっていて、中々直らないんだ」

「そんなもの気合で直すでっす!」

 

 セラはクールで格好良い剣士という設定で作った。さらに貴族出身だ。そのせいか、どこか偉そうな口調が身についてしまっている。いや、偉そうというよりは……自分を周囲に強く見せるためにこんな口調になっているのか?

 ともかく、癖になっていて中々変えられない。矯正には時間がかかりそうだ。どこの勘違い系主人公だと言われそうだが、実際に自分がなってみると大変だ。もはやこの口調は自分の一部で、それを修正するのは右利きの人が両利きを目指すぐらい大変なのだ。

 

 

 

 接客の練習をしたり、実際に来客の対応をしたり、書類の整理をすること2時間ほど。私の感覚が、部屋の雰囲気がどこか変わったことを捉えた。

 

「……タタル先輩。何かが来る。用心してくれ」

「え?何かって何でっすか?」

 

 きょとんとしているタタル先輩。詳しい説明ができないことがもどかしい。私は無言で机の上の書類を一束に纏め、タタルに手渡して席を立つ

 

 その動作とほぼ同時に、部屋の入り口付近の空間が歪み、帝国兵が現れる。1人、2人……まだ増えそうだが、転移直後からいきなり斬りかかって来る気配は無い。

 

「タタル先輩、敵襲だ!ここは私が抑えるから、ミンフィリアに連絡してきてくれ!」

「で、でもそれじゃライトさんが危険でっす!」

 

 タタルには私の実力を教えてないから当然だ。ここは一つ、実力を見せるのが早いだろう。狭い室内で武器を振り回すのは不利と判断し、モンクをチョイス。ギアセットを呼び出し、一瞬で着替える。モンクのミラプリはララフェルの初期種族服に、牙狼装備の紋章ナックルだ。ILは200程度か。

 

 帝国兵は最初に転移した二人が数歩、前へ出ている。他の帝国兵の転移が終わるまで、転移地点の確保をするつもりだろうが……甘い。

 

「開幕羅刹!」

 

 地面を強く蹴り、一歩の内に敵との距離を詰める。そして、相手の腹に強烈なボディブロー。スタンした所にもう一撃叩き込み、帝国兵Aを気絶させる。

 

「大丈夫だ、私は強い。時間稼ぎぐらい大丈夫だ。タタル先輩、行ってくれ!」

「わ、わかりました。すぐに応援を呼んでくるでっす!」

 

 タタルが階段を降り、奥の部屋へと向かう。私はタタルを狙わせないために帝国兵Bの前に立つ。

 

 帝国兵Bは剣のリーチを生かし、剣を横薙ぎに放つ。ララフェル相手のためか、低めの軌跡だ。綺麗な型だし、ララフェル相手でもブレ無く当てに来ているが……

 

「遅い!」

 

 叫ぶと共に跳躍。天上に逆さまに着地し、そのまま天上を蹴った勢いで帝国兵Bの頭に蹴りを叩き込んだ。

 

「……!!」

 

 悲鳴を上げることすらできず、帝国兵Bが床へ倒れこむ。そのまま次の目標を倒したい所だったが、無理はせずにバックステップで距離を取る。

 直後、私のいた場所を鋭い蹴りが通り過ぎた。蹴りを放ったのは白い鎧に身を包む女性。

 

「ダルマスカの魔女。リウィア・サス・ユニウスか……」

 

 どうやら彼女は今さっき転移が完了し、その直後にも関わらず状況を把握して攻撃してきたらしい。流石は帝国の将軍、状況判断が素晴らしい。

私が名前を呟くと、彼女は唇の端を釣り上げてニヤリと笑った。

 

「あら、アタシを知っているなら話が早いわね。アタシに命乞いなんて無駄だから、サクッと死んで頂戴」

 

 言うが早いか、距離を詰めて再び蹴りを放ってくる。それを一歩下がる事で避け、彼女を観察する。見えたレベルは54。将軍だけあって、レベル50を超えてきたが……今の私、レベル60には届かない。

 だが、レベルが上だから勝利が確定するワケでも無い。相手は歴戦の将軍。油断をせず、全力で仕留める!

 

「悪いが、私はまだ死ぬ気なんて無い。帝国軍を招待した覚えは無いんだ。お引取り願おう!」

 

 言い放つと同時に前方へ疾走する。リウィアが迎撃の構えを取ったが、構わず突っ込んでいく。

ララフェルは手足のリーチが短いからどうしても超接近戦になる。リウィアと私では得意な間合いが違うのだ。それなら、多少のダメージは覚悟の上で突っ込み、間合いを詰めるのが最適!

 

「チッ!」

 

 Lv60の突撃の速度はリウィアにとっては想定外だったことだろう。舌打ちと共に彼女が私に放った迎撃の蹴りは狙いが甘く、潜る様に回避できた。

 そして、突進の勢いを乗せた一撃をリウィアに放とうとした所で、突如として私の後頭部に衝撃。脳がゆさぶられ、前のめりに倒れるように体勢が崩れていく。

 

「ぐっ……!?」

 

 避けたはずのリウィアの蹴り。それが突如として軌道を変え、踵が私の後頭部を打ったのだ。おそらく、あの甘い蹴りはフェイントでこの踵が本命。この一撃で体勢が崩れたところにリウィアの追撃が来る。

その想像通り、彼女は両手を組んでハンマーのように振り下ろしてきた。狙いは私の頭部だ。

 崩れた体勢でこの攻撃を避けることは困難。だが、何も出来ないワケじゃない。私は体を捻り、左の拳をリウィアの両手に横から全力で叩きつけた。

 リウィアの攻撃を逸らすと同時に右手を床につき、跳ねるようにして体勢を整える。

 

「この馬鹿力のクソチビめ!」

 

 リウィアはバックステップで距離を取り、こちらを警戒している。見れば、私が左拳をぶつけた部分の手甲にヒビが入っていた。彼女にとって私のパワー、スピード、頑丈さは警戒に値することだろう。

 一方、私もリウィアのフェイントに引っかかって見事に追い込まれてしまった。多少のダメージ覚悟で突っ込んだとはいえ、体勢を崩されてからの強力な一撃は危なかった。先程の二の舞は避けたいところだ。

 互いを警戒する両者が取った答えは遠距離戦。構えを取り、闘気を高めていく。

 

「この建物ごと燃やしてやる!獣王火心撃!」

「迎え撃つ!これこそがモンクの最終奥義!蒼気砲(横)!」

 

リウィアがガンバグナウから弾丸と共に赤い気炎を放つ。一方、私はかめはめ波の構えから蒼気砲を放った。赤い炎と蒼い気がぶつかり、エネルギー同士が拮抗してバチバチとスパークを放つ。

しかし、その均衡はすぐに崩れ去り、蒼い気が赤い炎を押し切った。そして、そのまま蒼気砲がリウィアを飲み込もうとする。

 

「アタシが押し負けただと?クソがっ!」

 

 蒼い気に飲み込まれる寸前、リウィアは横っ飛びに回避し、そのままテレポを発動する。

 

「覚えていろ、ヒカセン!貴様はアタシが殺す!」

 

 捨て台詞を言い切ったところで丁度テレポが発動し、リウィアが消える。周囲の帝国兵もリウィアに続くようにテレポで退却していった。

 

 

 

 周囲の敵が完全に消え去り、構えを解く。テレポを妨害しようとすればできたかもしれないが、やめておいた。リウィアが逃走しない場合、アシエン(サンクレッド)が応援に来ていたかも知れない。そうなってしまえば苦戦は間違い無しだ。

 今日の目的は帝国軍を撃退し、暁を守ること。帝国軍が退散するならそれで良い。

 

 それに……アシエンが応援に来なかったとしても、リウィアには苦戦しただろう。彼女は私よりレベルが下だが、戦い方が巧かった。蛮神のように力押しとは違う強さ、これは対人経験の差だろう。私は『セラ』の性能を完璧に引き出せているとは思えない。とにかく戦闘経験が不足しているのだ。

 

「皆を守るため、私ももっと鍛えなければ……」

 

 今後の目標の内、戦闘力向上の優先度を上げなければならない。タタル先輩と一緒に事務作業をする時間は終わりを告げた。これからしばらくは修行の時間だ。

 




パッチ4.0では侍と赤魔、どっちをやるか悩みます。
早く夏にならないかな?
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