『―――――どうやって仲良くなったか?』
「はい」
放課後。
リディアン音楽院の、寂しい一角。
人目を気にした響は逃げるように隠れると、通信を繋げた。
画面の向こうの女性は、金髪を揺らして首をかしげる。
「ごめんなさい、忙しいときにこんなお話。だけど、あなたなら何か分かるんじゃないかって」
申し訳なさそうに眉を下げながら、しかしはっきりした口調で告げる響。
女性は少し、考えて、
『わたしの話は、遥から聞いているよね』
「はい、大分かいつまんだ内容でしたけど」
『あはは、何ていったか簡単に想像できるなぁ』
『辛気臭い顔にイラっと来たので、二人掛かりでぶん殴った』なんて、簡略しているにも程がある。
というか、小学生にあるまじき友情の生まれ方だ。
さらに付け加えるなら、もう一人はあくまで話し合うためにぶつかったのであって。
別にイラっと来たわけでも、乱暴を働きたかったわけでもないことをここに明記しておく。
聞いた当初に抱いた突っ込みを思い出していると、女性もまた渇いた笑みをこぼした。
『響は、その子が気になるんだね。わたしに似た子がいるのかな?』
「・・・・そんなところです」
穏やかな見守る目で問いかけられ、今度は響が考え込む。
脳裏に浮かぶのは、何度もぶつかった少女のこと。
「何度もぶつかって、お互い傷つけあって・・・・だけどわたし、あの子のことをどうしても嫌いになれなくて、完全に敵とは見れなくて」
戦いを重ねるたび、拳を重ねるたびに。
かすかに垣間見えてくるのは、彼女の慟哭。
荒々しい殻の内側で、何かを訴えているのを感じ取っていた。
『何かが引っかかるんだね』
「はい・・・・」
機密のこともあるため、抽象的な表現となったが。
画面の彼女は、大体の内容を理解してくれたらしい。
微笑を称えたまま、小さく何度も頷く。
『・・・・あの頃のわたしはね、母さんにまた笑って欲しくて、とにかく我武者羅に頑張ってて』
昔を想起しているのだろう。
外した視線は、虚空を見つめている。
『アレを集めることだって、本当はいけないことなんだって分かってた。でも、母さんのためだって思うと、中々歯止めが利かなくって』
あはは、と苦笑い。
『そんな頑なで寂しい心に気づいてくれたのが、あの二人だった。間違った方に行ってたわたしを、何度も引き止めてくれて』
響も静かに相槌をうちながら、思う。
『ぶん殴った』などと表現しつつ、何だかんだで情に厚い部分がある人。
しち面倒だの気まぐれなど、無責任な発言を繰り返しながら、しっかり見守ってくれる人。
響の憧れる師匠とは、そういう人物だ。
きっと、彼女が殴ろうとしたのは、画面にいる女性ではなく――――。
『響』
「ぁ、はい!」
思考に沈んでしまっていたらしい。
呼ばれる声に、現実に引き戻される。
『ぶつかることも大事だよって教えたよね』
こっくり頷く響。
『だけど、言葉が無意味と言うわけじゃないんだよ。わたしも、二人の言葉に何度も揺れたから・・・・本気の、友達になりたいっていう思いが、伝わったから』
女性の視線が下に落ちる。
恐らく、握った手を見つめているのだろう。
『だから、響も言葉で伝えるのを諦めないで。篭った思いが本物なら、きっと相手にも伝わるから』
「・・・・はい!」
拳を握り、気合十分な響を見て満足したのか。
女性もまた、笑顔で頷いたのだった。
◆ ◆ ◆
「――――こんにちは」
「おや、いらっしゃい」
リディアン近郊の商店街。
その一角にあるお好み焼き屋『ふらわー』。
一人暖簾をくぐった未来に、女店主が声をかける。
ちょうど余裕のある時間帯なのか、店内には未来以外の客は見当たらなかった。
「今日は、普通の倍食べるあの子はいないんだねぇ」
「はい、わたし一人なんです」
カウンターに座りつつ、少し沈んだ声で返事する未来。
「それじゃあ、おばちゃんがあの子の分も食べちゃおうか?」
「いえ、わたしが食べます・・・・今日は、お腹ぺこぺこで」
女店主はにこにこ笑いながら冗談めかすと、未来は再び沈んだ声。
実際、未来は思い悩んでいた。
―――――結局今日に至るまで、響がどこで何をしていたのか。
その全てを聞けていない。
響が戦士として覚醒して、昼夜問わずに駆け回り始めてから、なお更だった。
先日になって、やっと向こうの友人である少女について教えてもらったのだが。
写真の中で、件の少女と肩を組む響の笑顔は、未来には覚えの無い無邪気なものだった。
(わたしの方が、響と・・・・)
じわっと、暗い感情が浮き出したところで、未来は首を振った。
疲れきった理性が、見ず知らずの人間を責めるなんて、と押し留めたのだ。
(ダメだなぁ・・・・)
小さく、ため息をついたときだった。
「知ってるかい?未来ちゃん」
いそいそとコテを扱う女店主が、口を開く。
「お腹減ってるときに考えごとしてもね、ロクなことは思い浮かばないもんさ」
「・・・・そうなんですか?」
「そうとも」
焼きあがった生地に、ソースとマヨネーズ、それから青海苔と鰹節をかけていく。
皿に乗せた出来上がりを、未来に差し出す。
「お腹いっぱいになれば、きっといいこと思い浮かべるよ」
「・・・・はい、いただきます」
どうやら、悩んでいることを見抜かれていたらしい。
店主ににっこり笑いかけられ、未来は心がほぐれていくのを感じた。
(また来るときは、響と来よう)
ふわっふわのお好み焼きに舌鼓を打ちながら、未来はぼんやり思うのだった。
閑話休題。
ふらわーのお好み焼きに、お腹も心も満たされた帰り道。
鼻歌を歌いだしそうな上機嫌さで、未来が歩いていると。
道の向こうから、響が歩いてくるのが見えた。
「あ、未来ー!」
こちらに気づいた彼女は、満面の笑みを浮かべて手を振ってくる。
そのまま駆け出そうとして、何かに気づいたように立ち止まった。
突然あさっての方向を見た響に、未来は首を傾げるも。
そちらが来ないならと、駆け寄ろうとして。
「ッ未来!きちゃダメだッ!!!」
鋭い、警告の声。
よくよく見れば、響の顔はいつもの太陽のような笑顔ではなく。
業火のように切羽詰った表情だ。
怒鳴られたことで、一瞬立ち止まる未来。
それが仇となった。
どん、と。
響の見ていた方向が爆ぜる。
未来の周囲が陰る。
何事かと上を見上げて。
乗用車が一台、落ちてきていた。
「・・・・・・・・・ぇ」
頭がパンクする。
状況を飲み込めず、ただ呆然と凝視するしか出来ない。
(あ、死ぬ?)
やっとのことで、それだけを理解した瞬間。
体に衝撃と、温もり。
響に抱きしめられたようだ。
守るように抱えた響は、片手を上に突き出して。
「求むは盾ッ、鋼の守りを我が手にッ!」
早口で、唱えたと思ったら。
澄んだ音と共に、
驚く間もなく、陣に車がのしかかる。
響は、少女の細腕にはありあまる重量に数秒耐えると、雄叫びを上げながら振りぬいた。
投げ飛ばされ、爆発する車。
「ひ、響・・・・」
爆風から庇われた未来は、ただただ不安げに見上げるしか出来ない。
そんな友人を安心させるように、響は静かに微笑んだ。
と、物音。
二人そろって目を遣れば、白銀の鎧に身を包んだ少女が睨んできている。
未来にはとんと心当たりがなかったが、響は違ったようだ。
気遣わしげに未来を離すと、ゆっくり立ち上がって少女と向き合う。
「てめぇ、今のはどういうこった・・・・!?」
「・・・・どうもこうもないよ、こういうこと」
ドスの効いた声に臆することなく。
先ほどの陣を手のひらサイズで展開しながら、こともなげに答える。
未来は、シンフォギアの機能の一部かと思っていたのだが。
どうも違うようだ。
束の間、両者は睨み合うが。
「――――――諦めていいって、わけじゃないよね」
やがて、響が口火を切る。
「でも、逃げていいわけじゃ、もっとない」
「・・・・何がいいたい」
返事の変わりに、唱える。
ギアを纏い、構える響。
「一回、全力で勝負しようよ。小細工も何も無い、本気を越えた、本気の勝負」
「・・・・は」
じゃらり、鋼鉄の鞭が解き放たれる。
「上等だ、吠え面かくんじゃねえぞォ?」
「こっちの台詞」
闘志で、大気が震えた。
「おーおー、若いっていいわねぇ。うらやましいわぁ」
「さて、響に目が向いている間に色々やっときましょ」
「えーっと、特機部二の座標はっと・・・・」
と、いうわけで。
ネタばらし準備回でした。
お師匠が企んでます。
ネフシュたん逃げて超逃げて。