立花響の中の人   作:数多 命

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大変長らくお待たせしました・・・・!


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「未来じゃん、今日も一人?」

「ああ、板場さん」

 

今日も今日とて、響は二課本部に待機中。

彼女を待っている間に晩ご飯でも作ろうと、未来が食材を吟味していると。

通りかかったのか、板場に話しかけられた。

見てみれば安藤や寺島といった、なじみのメンバーがそろっている。

 

「買い物?」

「うん、晩ご飯どうしようかなって」

 

一旦ジャガイモを置いて立ち上がり、友人達と向き合う未来。

 

「なんていうか、そうしてると完全に主婦よね」

「そ、そうかな?料理する人なら誰だってそうじゃない?」

「いーや!」

 

首をかしげて苦笑いする未来に、板場は指を突きつけて否定する。

 

「普段の夫婦っぷりを見てる側としては、そうとしかみえない!」

「夫婦かどうかはともかく、ビッキーと仲良いのはほんとだもんね」

 

安藤も大いに同意しながら、何度も頷いていた。

 

「昔なじみなんですよね?」

「そう、だね。つい最近までは別々だったんだけど」

「別れた幼馴染と高校で再会するって、アニメみたいだねぇ」

 

未来のどことなく不安げな顔を知ってか知らずか、呑気に例える板場。

アニメ、フィクション。

言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 

(だったら響は、みんなを守るヒーローかな)

 

響の頼もしい背中を思い浮かべながら、一人笑みをこぼした。

そんなとき、けたたましいサイレンが聞こえた。

不安を煽る音に、戸惑いが伝播していく。

何が起こっているかなんて。

分かっていても、分かりたくなかった。

 

「ノイズ・・・・!?」

 

誰ともなく呟く。

戸惑いが恐怖に染まる。

 

「やばいよ!早くシェルターに行こう!」

「ヒナも!」

 

怯えながらもやるべきことを見失わなかった友人達。

安藤が未来の手を引っつかみ、一同避難場所へ急ぐ。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「こ、これって一体なんの・・・・!?」

 

サイレンはマンション付近にも響いていた。

喧騒を聞きつけたクリスは、逃げ惑う人々を見下ろして困惑している。

 

「―――――今までいたとこには、なかったみたいね」

 

肩を叩きつつ、遥が話しかけた。

 

「ノイズ警報よ。こういう『普通のとこ』じゃあ、こうやって逃げろって促してるの」

「ノイズ・・・・!?」

 

『ぶつかると危ないから』と一旦部屋に引き戻されるクリス。

彼女を玄関先で待たせると、遥は戸締りを確認するために奥へ引っ込んでいった。

待っている間、徐に首もとのイチイバルを見つめるクリス。

・・・・今の自分の『所有者』は遥だ。

彼女自身はそんなこと欠片も思っていないだろうが、今ひとつ信用しきれないクリスとしては、そう表現するのがしっくりきた。

加えて、こうやって世話してもらっている恩もある。

だから一言命じてくれれば、すぐにでも飛び出してノイズを殲滅するくらいやってやろうと思っていた。

 

(所有者・・・・命じる・・・・?)

 

考えたところで。

過ぎる、『彼女』の顔が。

かつて与えられていた、『杖』が。

 

「まさか・・・・フィーネ・・・・!?」

 

そうだ。

今のあいつにとって、自分は敵に情報を流す裏切り者に他ならない。

もしも、災害に見せかけて、何も知らない、関係のない連中諸共潰そうというのなら。

 

「・・・・~~~ッ!!!」

「ちょっと!クリス!?」

 

やる。

あいつなら、やりかねない・・・・!!

 

「どこにいくの!?待ちなさい!クリスッ!!」

 

引き止める遥を、人ごみを利用して振り切って。

クリスは、敵の元に向かう。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

街に繰り出した響は、人気のない商店街を駆け抜けていた。

既にノイズにやられてしまった人型がちらほら見受けられ、強く奥歯を噛み締める。

 

「ッきゃあああああ―――――!!」

「・・・・ッ!」

 

耳が、悲鳴を聞いた。

まだ生きている人間がいる。

わき目も振らず、一目散に足を向けた。

 

「はあ・・・・は・・・・!」

 

たどり着いたのは、とある廃屋。

大分年月がたっているのか、金属製の壁のあちこちに錆が噴いている。

 

「すみません!誰かいませんか!?」

 

中に駆け込み、声を上げる。

元の建物が、入り口より下のほうに施設があるタイプだったらしく。

暗がりに慣れきっていない目では、内部を見渡すことが出来ない。

目を凝らそうと身を乗り出した響は、

 

「―――――!?」

 

頭上からの攻撃を、ギリギリで回避した。

宙に放り出される中見上げると、天井の鉄骨にタコのようなノイズが陣取っている。

聖詠を唱えたいが、既に落下中。

先に体勢を立て直すことを優先させた。

身を翻し、陣を展開。

足場で勢いを殺してから、静かに着地した。

そこへ、身をかがめて近づく人影。

 

「み・・・・!」

 

名前を呼ぼうとして、口を塞がれた。

続けて未来は、首を横に振る。

『しゃべるな』ということらしい。

音に気をつけながらスマホを取り出した未来は、文章を打ち込んで響に見せる。

 

『気をつけて、あれは音に反応するみたい』

 

読み終えた響が視線で続きを促す。

 

『わたし達あいつに追いかけられて、寺島さんが怪我をしてしまったの』

 

未来に倣って、物陰に目を凝らしてみれば。

今となってはすっかり仲良くなった、板場、安藤、寺島の三人が身を寄せ合って震えていた。

そして情報どおり、寺島の右ふくらはぎがざっくり裂けている。

おそらく、ガラスか金属片に引っ掛けてしまったのだろう。

歩くのは困難そうだった。

 

(迂闊に歌えば、みんなを巻き込む・・・・か)

 

建物自体は、備品やらが取り払われているお陰で結構な広さがある。

だが、あのノイズのサイズを見る限り、あっと言う間に窮屈になるだろう。

戦いの最中を、怪我人含めた素人が逃げ切れるかと言えば、否である。

頭上を睨みつつ、考えにふける響。

その横顔を見つめていた未来の胸に、決意のようなものが芽生える。

はっきり言って、怖い。

一歩間違えれば死ぬかもしれない提案。

 

(だけど、響のほうが・・・・)

 

想起する。

戦いに身を投じている響の肌には、生傷が耐えない。

一歩間違えれば死ぬような大怪我だって、何度も負っている。

そんな彼女を支えるためには、隣で力になるためには。

自分だって命を張らなければならない。

覚悟を決めた未来は、スマホを取り出そうとして。

 

「・・・・ッ!?」

 

徐に、響に手を掴まれた。

何かを握らされる。

響が二課と連絡する際に使用する、通信機だった。

 

「―――――未来、聞いて」

 

抱き寄せられる、耳元で響の声がする。

 

「わたしがあいつを引きつける、その隙にみんなで逃げるんだ。それを使えば、助けも呼べるから」

 

離れていく。

温もりが、響が。

見下ろす瞳は、酷く優しくて、温かい眼差し。

 

「大丈夫、気にしないで。未来はわたしの帰る場所だから・・・・絶対に守るよ」

「ひ、ひび・・・・!」

 

数歩下がって言い切るなり、響が腕を振るった。

続けて派手な音。

石か何かを投擲したらしい。

上の窓ガラスが割れている。

当然音に反応したノイズは、そちらに突っ込んでいった。

 

「おーにさーんこーちらッ!てーのなーるほーぅへッ!!」

 

音に紛れて駆け出した響。

勝手口を蹴り破って退路を確保しつつ、不敵に笑って手を叩く。

 

「響!!」

「大丈夫!未来はみんなを連れて逃げるんだ!!」

 

触手による一撃を、アクションスター顔負けの動きで回避しながら去っていく響。

ノイズもまた、響を完全にターゲットと見なしたようだ。

悠々とした動きで、追いかけていった。

足音と蠢く音が遠ざかり、辺りは再び静かになる。

響が去っていった方を呆然と見つめていた未来は、やがてがっくりうなだれた。

 

「・・・・ちょっと、響の奴本当に大丈夫なの?」

 

敵の不在を確認した板場は、未来に話しかける。

しゃがんで視線を合わせたところで、気がついた。

―――――泣いている。

ぽろぽろと、伝う滴も、落ちる滴も拭おうとせず。

唇を噛み締め、必死に嗚咽を押し殺していた。

寺島に肩を貸しつつやってきた安藤と目を合わせ、どうしたもんかと眉をひそめていると。

 

『―――――もしもし?聞こえますか!?もしもし!?』

「わ!?」

 

未来が手渡された通信機から、声が聞こえた。

相手は大分必死な様子で、こちらに語りかけている。

 

「・・・・ゴメン、未来!」

 

束の間葛藤した板場が、半ばひったくる形で通信機を取った。

 

「聞こえてます!あの、誰ですか!?」

『ああ、よかった・・・・特異災害対策機動部の者です!』

 

少し長い名称だったが、要するにノイズの専門家だというのは覚えていた。

それを理解した三人は、どっと安堵のため息をつく。

 

『それの持ち主が離れたみたいなのですが・・・・』

「そうなんです!響って、あたしらの友達なんですけど、ノイズの囮になってくれて・・・・!」

 

板場の口から響の名前が出ると、向こうの方でもどよめきが。

どういうわけだか、あちらも響のことを知っているらしい。

 

『そこには、あなた以外の人はいますか?』

「はい!友達が三人!それで、一人が怪我してるんです!死にはしないと思うんですけど、けっこうざっくりやってて、歩けないくらいで・・・・!!」

 

張り詰めた心が、段々と緩んできたのだろう。

語る声は段々涙声になってきた。

 

『よく頑張ったわね、偉いわ・・・・ちょうど近くに、こちらの人員がいるの。急いで駆けつけさせるから、もうちょっとよ』

「あ"い・・・・!!」

 

そこで通信は切れてしまったが、安心するのは十分だった。

一旦上を向いて耐えた板場は、涙を拭ってにやっと笑う。

 

「よっし、これで大丈夫!終わったら響をどついてやりましょ!」

「そう、だね。ちょっとくらい文句を言ってやろうよ」

「心配ではありますけど、司さんならって思うと、不思議と大丈夫な気がするんですよね」

 

暗い雰囲気はどこへやら。

恐怖は拭いきれていないが、気丈に振舞うだけの元気は取り戻したらしい。

口々に明るい声を張り上げる。

 

「ねえ!未来も一緒に―――――」

 

振り返った先。

蒼い光が迸っていて―――――――




ところで。
本編の16年前、ある親子が『隙間』に消えていきました。
その際一緒に落ちていったものがあるんですが・・・・。
分かりますかね?(すっとぼけ
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