立花響の中の人   作:数多 命

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思ったよりも苦戦した19話でござる。


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願う声が、聞こえた。

 

切に求め、渇望する声が。

 

願いに答えるのが、課せられた定め。

 

だから、それに順じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラァ!!」

 

引き金に指をかけ、鉛玉をばら撒いていく。

銃口が通り過ぎたところから順に、蜂の巣にされたノイズが塵と消えていった。

上空に陣取っている連中にもボウガンの矢をお見舞いし、次々針山にして撃墜していく。

炭が舞う中。

粗方の殲滅を確認したクリスは、どっとため息をついた。

 

「・・・・?」

 

次の敵を探そうとして、ふと。

視界の隅に何かが移る。

それは、人間だった炭だった。

体形から辛うじて女性だと判断でき、助けを求めるように伸ばされた手が痛々しい。

もはや塵も同然となった体は、風に吹かれて崩壊している最中だった。

 

「・・・・ッ」

 

隠そうともせず、盛大に舌打ち。

己の失態を恥じる。

―――――考えが甘かったのだ。

突然連れて行かれて、困惑もあった。

だが人の優しさに触れて、温もりを思い出して。

やっと地獄から抜け出せると、普通の女の子のようになれると。

淡い期待を抱いていた。

抱いてしまっていた。

その結果がコレだ。

自身の至らなさが、関係のない連中を巻き込んでしまった。

 

「・・・・分かっている。あたしにゃ戦場(ここ)がお似合いなんだ」

 

苦い顔で、言い聞かせる。

もう留まっている理由はない。

今度こそ、次の敵を求めて走り出した。

ほどなくして、新しい群れを発見する。

躊躇いなく銃口を向け、発砲。

あっという間に取り囲んだ群れを、あっという間に蹂躙していく。

 

「―――――ッ!?」

 

しかし、心のどこかに焦りがあったのだろう。

わずかばかりの隙が生まれてしまう。

そこに運悪くノイズが突っ込んできた。

咄嗟に身を翻し、ガトリングを押し当てて鉛玉を浴びせる。

それで終わったかと言えば、そうではなく。

 

「っは、ご・・・・げほッ!?」

 

至近距離でぶちまけられたからだろう。

粉末が喉に入り込み、盛大に咽るクリス。

歌が、途切れてしまった。

シンフォギアの調律機能が断たれ、攻撃無効の優位性を取り戻したノイズ達。

ここぞといわんばかりに、一斉にクリスに押し寄せて、

 

「―――――はあッ!!!」

 

衝撃。

隆起したアスファルトに阻まれる。

続けて来た第二陣も、同じように防がれた。

 

「二人とも伏せなァッ!!!」

 

鋭く響く、最近聞きなれた声。

刹那、クリスは庇うように引き倒される。

 

「―――――ボルク・レーゲンッ!!!」

 

空を裂く、一条の赤い光。

上空まで達した光は、夜明けのような紫の三角陣を展開する。

一拍沈黙、直後。

弾ける様に、赤い刃を雨あられと降り注がせた。

 

「な、何が・・・・!?」

「怪我は?」

「ね、ねえ、けど・・・・」

 

助け起こされながら、辺りを見渡すクリス。

見上げると、弦十郎がほっとした顔でこちらを見下ろしていた。

すぐ傍で物音。

着地した遥が、得物を納めているところだった。

彼女が振り返る。

血気迫った表情で、肩を怒らせながら歩み寄って、

 

「こ、んの・・・・バカッタレがッッ!!!!!!」

 

盛大に、頬を引っぱたいた。

地面に倒され、困惑するクリスの胸倉を掴み上げる。

 

「勝手に飛び出してって!勝手に危ない目にあって!死んだらどうするつもりだった!?」

 

優しさなんてほど遠い顔。

だけど、クリスを心から嫌っているわけではない声。

 

「せっかくあの女狐から逃げられたんだ!!もうちょい自分を大切にしろよ!!!」

 

肩を揺さぶり怒鳴りつける姿は、さながら懇願しているようで。

 

「・・・・~~~~~ッ」

 

だからこそ、

 

「ざっけんな!!」

「・・・・ッ」

 

クリスはその手を叩き落とす。

 

「何が大切にしろだ!!!恩着せがましく『逃げられた』何ていいやがって!誰が助けてくれって頼んだよ!?ええ!!?」

 

立ち上がり、後退して距離を取る。

反撃に少なからず驚いているらしい遥と、成り行きを見守っていた弦十郎を睨みつける。

 

「この際だから、はっきり言ってやる!!あたしは大人が嫌いだ!!死んだパパとママも大ッ嫌いだ!!」

 

頭を抱えて、喚き散らす。

 

「とんだ夢想家で臆病者!!あたしはあいつらと違うッ!!」

 

子どもっぽいのは重々承知している。

それでも、沸きあがる激情を止められそうにない。

 

「歌で世界を救うだァ!?いい大人が夢なんか見てんじゃねーよ!!!!」

「・・・・そいつがお前の言い分か」

 

頃合を見計らった弦十郎が、静かに問いかけた。

 

「おうとも!本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持った奴を片っ端から潰していけばいい!!その方が確実で効率的だろ!?」

「なら聞くが、お前はその方法で本当に争いを無くせたのか?」

 

さらに問われて、クリスは言葉を詰まらせた。

喉を鳴らして押し黙ると、静かに周囲を見渡す。

風に舞う炭の粉。

幸いここにあるものは全て、片付けられたノイズのものだが。

クリスは思い出す。

ついさっきの、黒い遺体を。

・・・・頭が冷えたことで、思考が上手く働くようになった。

そうだ、そうだった。

そもそも『あの女』が、ノイズを操る術を手に入れられた理由。

操るための完全聖異物を起動させた、歌。

歌ったのは誰か?

他でもない、クリス自身だ。

 

「いい大人は夢を見ないといったが、それは違うぞ」

 

俯いた彼女に歩み寄り、諭すように肩に手を置く弦十郎。

 

「大人だからこそ夢を見るんだ」

 

目を見開き、弾かれたように見上げるクリス。

瞳を真っ向から見つめ返しながら、彼は続ける。

 

「大人になりゃ力も着くし、財布の中の小遣いもちったぁ増える。子どもの頃見るだけだった夢も、かなえるチャンスが増える」

 

一呼吸、間を置いて。

 

「―――――夢を見る意味が、大きくなる」

 

はっきり、断言する。

 

「お前の両親は、ただ夢を見るためだけに戦場に行ったのか?違うさ、『歌で世界を平和にする』って夢を叶える為に、自らこの世の地獄に踏み込んだんだ」

「・・・・なんで、そんな」

 

呟くような疑問に答えたのは、遥だった。

 

「そんなん決まってるじゃない、あんたに見せたかったのよ・・・・『夢は叶う』っていう現実を」

 

束の間沈黙したことで、いくらか冷静になったらしい。

気まずそうに頭をかいてから、クリスの顔に手を添えた。

じんわり響くような温もりが灯り、痛みが退いた。

 

「子どもが自由に夢を見られない世界ってのは、案外大人も寂しいものよ?」

 

『ほっぺた、ごめんなさいね』と付け加えながら頭を撫でて、いたずらっぽくウィンク。

 

「・・・・あんたも、おっさんも、物好きだな。こんな奴に構うなんて」

「お生憎さま、もう性分だからねぇ。風鳴司令もそうでしょう?」

「ですな、甘いのはもうどうにもなりません」

 

遥の問いに、苦いながらも豪快に笑う弦十郎。

そんな二人のやり取りがなんだか面白くて、クリスも思わず笑みを浮かべた。

 

「しかし、『子どもが夢を見られない世界は、大人も寂しい』ですか。中々いいことをおっしゃる」

「友人の受け売りですから、褒め言葉は彼女に会えたときにでも言ってあげてください」

「なるほど、とてもお優しい方のようだ」

「ええ、自慢の幼馴染――――」

 

はにかんだ笑顔が、急に消えた。

続けて辺りを忙しなく見渡し始めた遥に、弦十郎が首をかしげる。

 

「・・・・まさか・・・・・・まだ来ようっての・・・・!?」

「お、おい・・・・?」

「司さん?」

 

二人分の訝しげな視線に気づくことなく。

顎に手を当てて俯き、考え始めてしまった。

 

「・・・・ッ」

 

ほどなくして顔を跳ね上げる遥。

空の一点を、注意深く睨みつける。

―――――今の彼女には、彼女だけが感じ取れるものを感じていた。

邪な『力』の、はっきりした脈動が。

 

「なあってば、一体何が・・・・!?」

『――――――司令ッ!!!』

 

クリスが遥の背中を叩いたタイミングで、弦十郎に通信が。

 

「どうした?」

『今、響ちゃんの友達からSOSを受け取ったのですが、現場に高エネルギー反応が・・・・!!』

『ノイズともアウフヴァッヘンとも違う!!これは一体なんなの・・・・!?』

 

藤尭の困惑した声と、了子の悲鳴。

次の瞬間。

空高くを、青白い光が貫いた。

 

「な、んだ・・・・ありゃぁ・・・・!?」

 

荘厳なようでどこか恐ろしいそれに、クリスが釘付けになっている後ろ。

 

「ッ東方の王、西方の王、南方の王、北方の王」

 

遥が徐に陣を展開し、『力場』を発生させる。

 

「集いて閉じよ、永劫の監獄。余人は大いに嗤いながら去ね」

 

ゲイ=ボルグで地面をなぞって、石突で突く。

溢れるように広がる力は突風となり、街の隅々を駆け巡って。

やがて、沈黙を生み出した。

 

「い、今のは・・・・?」

「・・・・ここら一帯を切り離しました。すみません、事態が終息するまでは、通信が効かないと思います」

 

言われた弦十郎は、試しに二課へのコンタクトを試みる。

耳元の通信機は、だんまりを決め込んでいた。

 

「何が起こっているんです?あの光は一体・・・・?」

「・・・・端的に言うのなら、『こちらの案件』ですね」

 

光が昇った方向を見据える遥。

瞳は、鋭く研ぎ澄まされていた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「今のって、師匠の・・・・!?」

 

先ほどのタコも含め、ノイズを片付けきった響。

空気が変わり、人気のなくなった寂しい空間を見渡す。

 

「司、今のは・・・・?」

「師匠が張った人払いの結界です。多分、さっきの光が師匠の回収対象だったんだと思います」

 

問いかけた翼は、響の答えに納得する。

聖遺物の中でも、特に暴走の危険のあるものを優先的に確保・封印する。

それが響より聞かされた、魔導師の役割だったはずだ。

 

「しかし結界と来たか、大掛かりなことをする」

「一般人に騒がれないための処置というか、なんというか。人がいないので、割と遠慮なく暴れられるんですよ」

 

『そんなことより』と、響が眉をひそめる。

 

「こんなに広範囲に展開したってことは、よっぽどヤバい代物かも知れません」

「・・・・穏やかではないな、どういうことだ?」

 

首をかしげる翼に、響は再び説明する。

響が覚えている限りだが、遥は街一つを覆うほどの結界は苦手としていたはず。

展開出来なくはないが、どうしても一般人を一部取りこぼしてしまうため。

安全面の理由から、基本的人任せにしていたのだ。

 

「そんな司女史が、デメリットを承知で張ったということは・・・・なるほど、あまり気を抜いていられないということだな」

「はい、もうそろそろ避難の協力を要請されると思うんで、出来たら翼さんも手伝ってくれると助かります」

「ああ、分野が違うとは言え、同じく人の守護を目的とする同士。協力は―――――」

 

『惜しまんよ』と、続ける前に。

二人の視界に、何かが降り立つ。

 

「な、何・・・・?」

 

突然の来訪者に、響も翼も思わず身構える。

土煙が晴れた場所、立っていたのは。

 

「――――――みく?」

 

どこかシンフォギアに似た、尋常ではない装いの未来。

響に名前を呼ばれ、顔を綻ばせる。

 

「ひびき、みつけた」

 

大きく開いた胸元。

青い宝石が鼓動を刻んだ。




???「神獣鏡かと思ったかい?わしじゃよ」
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