テンション上がって息抜きだったはずの作品を割とガチで構想練った結果。
――――――あれから二年。
どうにか立ち直りはしたものの、『小日向未来』の胸にはどこか鬱屈としたしこりが残っていた。
「・・・・・・はぁ」
何となく右手を見つめて、ため息。
この二年ですっかり癖となった動作だ。
何故あの時、『彼女』の手を離してしまったのか。
今でも悔やまれる。
「っいけない・・・・」
心が完全に落ち込む前に、頭を振って切り替えた。
そうだ、今日はかねてより希望していた『リディアン音楽院高等部』の入寮日。
受験戦争を勝ち抜いた自分には、しっかり勉強して卒業するという次の目標がある。
気を入れなおして、あてがわれた部屋を探した。
「―――――ここだ」
メモの数字と照らし合わせ、自室を見つけた。
表札を見てみれば、未来の名前ともう一つ、別の名前が刻まれている。
息を、呑んだ。
「・・・・・・ひびき」
文字にすれば『司響』という短いフルネーム。
名字はおそらく『つかさ』と読むのだろう。
かつての親友と同じ名前に眩暈を覚えながら、未来は部屋の扉を開けた。
中に入ると、同居人は既に来ているらしい。
部屋の隅に、聊か少ないように思う数の段ボールが並んでいた。
隣には、その倍の量はある未来の分の荷物が。
「・・・・」
何となく、自分の段ボールが多いのが恥ずかしくなって。
手荷物を置くなり、さっそく荷解きを始めることにした。
「ち、違うもん、司さんは少なすぎるだけだもん。わたしちゃんといるものだけ持ってきたもん・・・・!」
誰にするでもない言い訳を必死に唱えながら、次々段ボールを空にしていっていると。
「同室の人ー?」
「・・・・ぇ?」
風呂場の方から、声が聞こえた。
文面からして件の同居人だろうが。
未来はその声に、酷い既視感を覚える。
「ごめんねー、もう夜だし、先にお風呂もらっちゃった」
髪を拭きつつ、裸足でやってきたのは。
「――――――――――ひびき?」
呆然と、その名を呼ぶ。
「え、あれ?み、未来?」
こちらの動揺なんて知るところではないのだろう。
向こうも驚いてはいるようだが、恐らく未来が感じているものよりは遥かに軽い。
手を止め、呼吸を止め、じぃっと彼女を凝視する未来。
やがて、ぼろぼろと涙をこぼし始める。
「み、みみみみみ未来!?ど、どうしたの?どこか痛、うふぉぁッ!?」
ぎょっと駆けつけた響に、思いっきり飛びつく。
勢いに負けて倒れてしまったが、知ったことではない。
縋りつき、顔を埋め、声を上げて泣きじゃくる。
一方の響は驚いていたようだが、やがて頭を撫でてなだめ始めた。
感じる温もりと伝わる優しさに、間違いなく生きてここにいるのだと確信した未来は、さらに声を上げて泣く。
結局、騒ぎを聞きつけた寮母が来るまで、未来が泣き止むことはなかった。
◆ ◆ ◆
&月$日
いやぁ、びびったぁ。
高卒資格取るために一回戻った先で、未来に再会したんだもん。
顔を見るなり泣かれたので、思わず慌ててしまった。
何も言わずに向こうに行ってしまったため、こちらでは行方不明扱いになっているようだった。
そりゃ泣かれて当然か。
今までどこに行ってたんだとものすごい剣幕で聞かれたので、師匠のとこで世話になってるとだけ答えておいた。
写真も見せたので、どうにか納得してくれたようだ。
・・・・・一部隊のボスだったり、多方面からビビられてる人っていうのは言わないでおいたけど。
嘘は言っていないから、大丈夫、うん。
何はともあれ、明日からは花の高校生活が始まる。
今は旧友との再会を喜ぼうじゃないか。
&月#日
入学式でしてよ、奥さん!
何か、前にも似たこと言ったような気がするな。
式をつつがなく終わらせて、割り振られた教室に向かう途中(未来は同じクラスだった)。
未来から問いかけられた。
曰く、『名字が変わっているのは何故?』
わたしのファミリーネームが、『立花』から『司』に変わっているのが気になったらしい。
いざこざを避けるために師匠のを名乗っていると言ったら、それ以上は追求してこなかった。
二年前のアレコレが関係していると察してくれたみたいだ。
『気遣わせてゴメン』と謝ったら、はにかんで許してくれた。
自惚れでないのなら、未来も再会を喜んでくれているようだった。
&月%日
この学園学費以外に何がすごいかって、ビュッフェが充実していることだよ。
やっぱりお味噌汁とご飯は定番だよね!向こうでもわりと食べてたけど!
和食に変なテンションになりながらがっついていると、何かみんながざわついてた。
なにかなーと呑気に見たら、無茶苦茶美人がいるじゃないですか。
未来に聞くと、こっちでは有名な歌姫さんらしい。
名前は・・・・なんだったかな、やばい。
『翼』ってのは覚えてるんだけど、フルネーム忘れちったなぁ。
こっちでは割と有名人らしいし、覚えておかないと損だ。
&月¥日
放課後、ちょっとやらかした。
というのも、鼻歌交じりに帰宅途中、同級生が絡まれているのを見てしまったからだ。
別に無視してもいい案件なんだけど、それはわたしの主義的にアウトなので、遠慮なく介入。
相手の不良さんは、ちょっとひっくり返して『メッ』っていったら分かってくれた。
いやぁ、話してみたらいけるもんだね。
帰ってく不良さんを見送っていたら、何か庇った子がえらい興奮していた。
お礼にってキャラクターのキーホルダーをくれたのはいいけど。
そのままのテンションで去ってしまったため、名前を聞けなかった。
『アニメ』を連呼していたので、『アニメちゃん』と呼ぶことにしようと思う。
&月*日
アニメちゃん改め、板場ちゃんは同じクラスだった。
急に話しかけられたので、ちょっと驚いたけど。
リディアンにはアニソンを極めるために入ったという筋金入りのアニメ好きだ。
それを抜きにしても、元気な感じはとても好印象なんだけど。
特に『電光刑事バン』というのがおススメらしい。
というか、同志を増やしたくて勧めてる感じだったなアレは。
でも何となく気になってはいるので、機会があれば見てみようと思う。
◆ ◆ ◆
高校生活は早くも五日目。
教科の授業も始まったものの、まだまだ足元がおぼつかない。
「響、帰ろう?」
いそいそと帰り支度をしていた響に、未来が話しかける。
鞄を提げた響は、少し考える素振りを見せて。
「うんにゃ、今日はちょこっと寄り道してこうかなって。未来は先に帰ってていいよ?」
聞くところに寄れば、響はこの二年日本を離れていたという。
ここ数日ばたついていたのがやっと収まって来たのだし、久しぶりに見る故郷の景色をゆっくり眺めたいのかもしれない。
そう考えるそばで、未来は鞄を持つ手に力を込めた。
「じゃあ、わたしも一緒にいく」
分からない、根拠と言われても特に思いつかない。
ただただ、響と離れるのが嫌だった。
彼女の腕を取り、少し前に出て笑いかけてみる。
響も断る理由がなかったようで、同じく笑い返した。
「――――――うっわー、やっぱり懐かしいや」
「そんなにふらふらしてたら転んじゃうよ?」
夕暮れ染まる街。
ステップを踏みながら周囲を見渡す響を、未来は嗜めている。
が、語る口調は打って変わって明るいものだ。
「だぁーってぇ、本当に久しぶりなんだもーん」
「もう・・・・」
未来はステップを止めない響に呆れているものの、やはり笑顔が絶えない。
もう会えないと思っていた幼馴染に出会えたのが、よっぽど嬉しいのだろう。
時折足を止めては、物珍しそうにあちこち見て回る響。
しばらくその姿を見守っていた未来は、ふと、かねてより思っていた疑問を口にする。
「響は、どこの国にいたの?気軽に帰って来れないような遠いとこって言ってたけど・・・・?」
再会初日にされた言い分を口にすると、足を止めた響は少し気まずそうに目を逸らしてから。
「ぃ、イギリスに・・・・師匠の知り合いも住んでたから、師匠が仕事でいないときはお世話になってたの」
「ふぅん・・・・?」
すっと、未来の目が細くなる。
響の態度が明らかに隠し事をしているものだと見抜いたからだ。
だが、言動から見るに嘘を言っているようにも見えない。
かといって、真実を言っているかと言えば、そうでもない。
「あう・・・・本当だってばぁ」
「・・・・うん、ひとまずそういうことにしといてあげる」
今はともかく、響との時間を大切にしたいというのもあった。
故に未来は早々にねめつけるのをやめて、にっこり笑いかける。
対する響は、やはり未来の機嫌を損ねてしまったかと不安になっていたのだろう。
向けられた笑顔に釣られて、彼女もまた 安心したように笑ったのだった。
やっぱり響は笑顔が似合っていると、未来は再認識しながら。
なんとなく視線をずらして、落ち着いた少女のポスターと目が合って。
「・・・・そうだ」
「未来?」
相方が足を止めたのが気になったのだろう。
響も立ち止まって振り向く。
「今日、翼さんの新曲の発売日なんだ。響、翼さんのこと知らないでしょ?」
「う、そ、そうだね」
「じゃあ、CDの一枚くらい持ってないと、みんなの話題についていけないよ?」
「わ、わわ!未来引っ張らないでって、本当に転んじゃうよ」
今度は離さない様に、しっかり握り締めて。
響の手を引き、近くのCDショップに駆け出す。
駆け出そうとして、視界に違和感を感じた。
―――――黒い。
黒い粉が、舞っている。
気づけば遠くから、唸るようなサイレンが聞こえる。
「・・・・・ノイズ」
どちらともなく、ぽつりと呟いた。
ノイズ、触れれば死あるのみ。
とくれば、やることは一つ。
「響!逃げ――――!!」
『逃げよう』と言いかけた刹那。
悲鳴が、聞こえた。
小さい女の子の声。
「――――――ッ」
布を裂くようなそれを聞いた響の顔が、見る間に変わった。
突然細腕から出たとは思えない力で未来の手を振り払うと、邪魔だといわんばかりに鞄を投げ捨てて走り出す。
ぽかんと右手を見つめた未来は。
『師匠からのもらい物だ』という腕輪が煌いて、曲がり角に消えるのを見送ってから。
「ひ、響!!」
響の鞄を慌てて拾い、後を追った。
走り始めてすぐ、未来は異変に気づく。
(響・・・・速い・・・・!)
いや、もはや『速い』なんてレベルじゃない。
強く地面を踏みしめ、爆発力をそのまま速度に変えている様は、まさに韋駄天。
風のように入り組んだ路地裏を駆け抜けた響は、未来が息を切らし始めた頃に立ち止まった。
少し遅れた未来の目に飛び込んできたのは。
小学校に入るか入らないかくらいの女の子が、ノイズに囲まれている様子。
壁際に追い詰められた少女は完全に腰を抜かして、目の前の死神を眺めている。
(もう、助からない・・・・)
少しでも動こうなら、即行命を刈り取られるだろう。
無残に撒かれる炭の粉を幻視した未来は、痛ましげに顔を歪めたが。
響は、違った。
「・・・・・・ッ」
「響!?待って!!いやぁッ!!」
何を思ったのか、徐に突っ走り始める。
未来の制止など聞こえていないとばかりにノイズの集団に突撃した響は、軽く飛んで低い姿勢を取った。
そのままスライディングでノイズの間をすり抜けると、女の子をキャッチ。
勢いそのままに滑った響は、次の瞬間強く壁を蹴り飛ばして、文字通り未来の下にとんぼ返りしてきた。
「未来!逃げるよ!」
「ぇ、ぁ・・・・!?」
今しがたのスーパープレイを未だに飲み込めない未来の腕を引っつかんで、響は走り出す。
―――――走る、駆ける、逃げる。
二年前と違うのは、自分たちが少し大きくなったことと、響の片手に女の子が抱かれていることだろうか。
入り組んだ路地を走り回り、ノイズの追跡から逃れようとする。
開けた場所に出る。
目の前は川、足場は両方ともノイズが待ち構えていた。
「こっち!!」
もうダメだと思う前に、あろうことか三人そろって川に飛び込んだ。
決して綺麗ではない水と悪臭に、息が詰まりそうになる。
だが泳がなければ死んでしまう。
「シェルターから、離れちゃった・・・・!」
夕日はとっぷりと沈み、西の空にわずかばかりの茜を残すのみとなっている。
そんな時間帯になってもなお、ノイズは彼女達を諦めていない。
限界を迎えた未来も抱えて、響は必死に道路を駆ける。
体は錘を纏った様に重く、一瞬でも気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
それでも必死に駆け抜ける。
「――――――ぅどあっはぁッ!!!!」
やっとこ一息つけたのは、港の輸送コンテナによじ登った後だった。
少女らしからぬ声を出し、数回大きく呼吸。
未来と女の子を降ろし、大の字に寝転がる。
「響、大丈夫?」
「おねーちゃん?」
二人そろって響を心配そうに覗き込む。
響は数回呼吸したのち、静かに首を横に振った。
「・・・・ししょーの方が、もっと重いもの持てる」
疲労の色が濃くはっきり出ていたが、決して先行きを悲観しているものではない。
響の返答を頼もしく思い、未来もまた笑みを浮かべる。
脈も呼吸も落ち着いたところで、響は上体を起こして。
周囲を囲む、ノイズに気づく。
「ゃああああああああ!」
「・・・・ッ」
女の子は悲鳴をあげ、未来は守るべく抱き寄せる。
響もまた、そんな二人を守るように立ち上がった。
体力は限界、逃げ道も見当たらない。
まさに、絶体絶命だった。
「しんじゃうの・・・・?」
不安げな声で涙を浮かべる女の子。
彼女より年上の未来もまた、眉をひそめて最悪の結末を想像する。
「・・・・・死ぬもんか」
「響?」
二人の不安を強く否定したのは、響だった。
同じく怖いはずなのに、泣き叫びたくて仕方ないはずなのに。
両手を広げて低く構える背中を、未来は呆然と見つめる。
「絶対に・・・・・」
一拍、呼吸。
力を溜めた響は、目を見開いて、
「―――――――死なせるもんかッ!!!!!!」
轟、と。
咆哮を上げた。
「Balwisyall Nescell Gungnir tron.....!!」
運命が、動き出す。
いきなり『立花響』じゃなくなって、タイトル破綻してしまっているように見えるけど。
体は『立花響』だから、問題はないはず(震え声)
あと、はっきり描写されるまでクロス先の名前は表示しません。
二年の間に響に何があったのか、師匠とは何者なのか。
アレコレ予想しながらお楽しみください。