立花響の中の人   作:数多 命

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前回更新してから、目に見えてお気に入りが増えた件について。
何ですかみなさん、ひびみく大好きすぎでしょうww
大変ありがとうございます、同志がいてくれてうれしいです(土下座


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雲ひとつ無い夜空から、鉛玉が降り注ぐ。

あまりの範囲の広さに、ノイズは避けることすら適わず。

次々体を蜂の巣にしては、無様に散っていく。

 

「うおおおおおぉぉぉぉ―――――ッ!!」

 

雄叫びを上げながら、クリスは出現してしまった哀れな連中を片付けていた。

 

「・・・・」

 

二課本部。

司令室の席に座っていた弦十郎は、静かに戦いを見守っている。

『翼にも響にも知らせないこと』。

半ば駄々に近い形でクリスが提案し、やむなく大人達が飲み込んだ条件だった。

彼女が大人に噛み付くのは、珍しいことではない。

生い立ちを考えれば、容易く納得できるからだ。

だが、比較的心を許しているリーゼ達にも食って掛かったのは意外だった。

『何故』と、あやす様にアリアが問いかけた。

『根拠が無ければ聞き入れられない』と付け加えて。

するとクリスは、どこか気恥ずかしそうに目を伏せて、呟いた。

 

――――――今日は、あいつらにとって大事な日だから

 

今日は、翼にとっても響にとっても、意味のある日。

二年前に、全てが始まった場所でのライブ。

片割れを失った場所、それまでの軌跡を失った場所。

二人にとって、そこに赴くこと自体が大きな意味を持っている。

クリスの今回の主張は、そんな二人を彼女なりに気遣ってのものなのだろう。

弦十郎が驚くと同時に、微笑ましさを覚えたのが数十分前。

 

「・・・・む」

 

気づけば、ノイズの数はかなり減っていた。

頭を矢で貫き、弾丸が胴体に穴を開け、ミサイルが群れを吹き飛ばす。

が、クリスが押しているとは言え、切りのいいところで『増援』がやってきている。

群れの奥にいる建造物のような大型が、小型を次々生み出しているのだ。

面倒くさそうに舌打ちしたクリスは、そちらを先に片付けることにしたらしい。

まずは両手のボウガンをガトリングに変形させ、真正面にぶっ放す。

出来上がった『道』を半ばまで駆け抜け、小型ミサイルで牽制。

大型の足元を穿ち、体勢を大きく崩す。

どう、と倒れたところを狙い、今度はミサイルを背負うクリス。

向かってくる小型を片付けながら狙いを定め、発射。

甲高い音を立てて襲い掛かったミサイルは、起き上がることが適わない大型に肉薄。

直後、地面を揺らして爆発し、黒煙を夜空高く上げた。

 

「ノイズの反応、全てロスト!」

「クリスちゃん、お疲れ様」

『・・・・おう』

 

オペレーター達も全滅を確認したようで、事後処理の準備をしつつ、クリスに労いの言葉をかけていた。

照れくさそうに言葉を返していたクリスは、ふと、二課のカメラに気づく。

しばらくこちらをじぃっと見つめていた彼女は、徐に笑みを浮かべた。

まるで『どうだ』と言わんばかりの顔に、司令室の誰もが一瞬呆けるものの。

やがて静かに笑いが起こる。

声を上げるもの、吹き出して震えるもの。

しかしどの笑い声にも、バカにするような雰囲気は一切無い。

むしろ微笑ましいものを見たような、ほっこりした雰囲気が蔓延した。

 

「・・・・懐かない野良猫みたいな子が、変わったわねぇ」

「ああ」

 

感慨深そうに呟いた了子に、弦十郎は静かに同意した。

 

(聊か、牙が抜けすぎている気もするけど・・・・)

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「うおぉー!」

 

クリスがノイズ討伐に精を出していた頃。

会場に着いた響はまず、そのスケールに圧倒されていた。

思わず柵の近くまで駆け寄り、あちこち見渡していることから。

何時に無く昂っているのがよく分かる。

 

「ほら、こっちだよ」

「あ、うん」

 

はしゃいでいる響を微笑ましく思いながらも、未来は声をかけて先導する。

今日は待ちに待った翼の復帰ライブ。

もちろん他のアーティスト目当ての客もいるが。

それを考慮しても、すれ違う人々の口から『翼』の名前が聞かれるのが多いように感じた。

響もつい先日知ったことだが、海外からのオファーも来ているという話だ。

防人の役目が音楽と密接に関わっていることを抜きにしても、翼の歌には目を見張るものがある。

その魅力がはっきり見える形となっているのが、響はどこか誇らしかった。

 

「忘れてるからかなぁ、一回来たはずなのにわくわくするや」

「もう・・・・」

 

実際はこの会場に来たのは今回が初めてなのだが。

『あの響』と『今の響』は『別もの』なのだ。

思えば、もう二年もの間『響』として生きている。

体は『立花響』であるが、中身は一回り歳を食った別人女性だ。

・・・・いつか、いつか。

このことを未来に打ち明ける日が来るのだろうか。

今の今まで目を逸らしていた事柄に、頭がうずく。

・・・・いや。

まだ二年しか経っていない時点でこんなことを考えるのは、早計だろうか。

・・・・何となく、胸に灯った熱が冷めてしまった。

気落ちした心に気づき、慌てて平静をつくろおうとするも。

 

「響?どうしたの?」

 

隣の親友には、目ざとく見つかってしまった。

 

「あーっと、ほら!空気に酔っちゃったみたい、大人しくしてれば元気になるって」

「・・・・そうね、みんな始まる前から盛り上がっているもの」

 

どうにかなかったことに出来たが、今は危なかったように思う。

隙を見せてしまった自分に喝を入れつつ、響は会場を見渡した。

相変わらず喧騒に包まれている観客席。

ここで起こった悲劇など、無かったかのように振る無人々。

自分に関係ないと割り切っているいるのか。

触れてはいけないと定めているのか。

 

(・・・・まだ二年なのか、もう二年なのか)

 

切なげな横顔を、未来は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

会場の控え室。

翼は背筋を正し、独り静かに黙していた。

考えているのはこれまでのこと。

剣として戦ってきた日々、歌女として歌ってきた日々。

防人として精進を続け、ひたすら人類を守護してきた人生。

このまま刃として果てるのだと、戦場に折れて散り行くのだと。

そう思っていた。

・・・・響に出会うまでは、少なくともそう思っていた。

はっきり分かるターニングポイントは、やはりあの子に出会ってからだ。

自らを助けた師に憧れて、『誰かの涙を拭いたい』と拳を振るう彼女。

翼に比べれば、守りたいものの規模は余りにも小さい。

だが、守った人々の笑顔を見て、同じように笑顔を浮かべる響の表情を目の当たりにして。

やり甲斐を感じているのはどちらかなんて、火を見るより明らかだった。

理由は分かっている。

流されるわけでもなく、誰かに強制されるわけでもなく。

他でもない自分の意思で戦っているからだ。

それが、明確な翼と響の差。

そんな頼もしい後輩に少しの羨ましさを覚えると同時に、嫉妬を差し引いてもなお有り余る安堵を覚えたものだ。

響は戦いが終わるたび、『お疲れ様です』など、何かしら声をかけてくれる。

剣呑な態度を取ってしまっていた初期から、根気強く続けられたその言葉は。

喪失感から忘れかけていた、『孤独じゃない』という温かさを思い出させてくれた。

奏と一緒だった頃の温もりを、取り戻してくれたのだ。

 

―――――そんなことないですよ

 

―――――翼さんだって、歌でみんなを元気付けているじゃないですか

 

―――――それって単に戦って守るより、ずっとずっと凄いことだと思います

 

いつか、この心情を伝えて礼を言おうとしたとき。

首を横に振って制した響は、そう返してくれた。

 

―――――わたしは、翼さんや二課のみんなが思っているほど強くありません

 

―――――誰かを傷つけるのが、本当はまだ怖いくせに

 

―――――一番手加減できると思い込んでいる(これ)に逃げている、臆病者なんです

 

自嘲気味に笑って続けられた言葉を、本当は否定したかった。

しかし、切なげな顔が躊躇わせてしまった。

『どんな言葉も届かない』と、響が構えた『盾』の前では。

どれほどの言葉も通じそうになかった。

そのとき上手いことを言えなかった自分が、今でも恨めしい。

『臆病だ』と言う優しい手に救われた人間が、どれほどいるのか。

救われた一人が目の前にいることに、気づいているのか。

きっと今の翼では、どれほど雅な表現をしても届かないだろう。

 

「風鳴さん、そろそろスタンバイお願いします」

「―――――はい」

 

ならば歌おう。

歌って歌って、歌声を彼方まで奏でて。

君がどれほど温かい存在かを伝えよう。

君に手を握られて、救われた人がいる事を教えよう。

誰かのために『傷つく勇気』を持ち合わせた、素晴らしい防人であることを伝えよう。

そんな君もまた、独りぼっちじゃないことを教えよう。

 

(・・・・君は、臆病者なんかじゃない)

 

ステージへ踏み出す。

数多の歓声が会場を振るわせる。

その中にはきっと、響もいることだろう。

 

(どうか、聞いてくれ)

 

剣でも、防人でもない。

頼りないながらも、君の先輩を名乗る。

『風鳴翼』の歌を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z月O日

なんていうか、すごかった。

翼さんかっこよかった。

こう、こう・・・・。

聞いてて安心するって言うか、ほっとしたっていうか。

普段の翼さんとはまた違った、戦士とは違う安心感を覚えた。

後は、えっと・・・・。

うん、やめちゃおう。

これ以上何か行ったら陳腐になっちゃう。

無理に語ることはやめて、今日はここまでにしちゃおう。

 

P.S.

翼さん、海外オファーを受けることにしたみたい。

こっちにはわたしもクリスちゃんもいるし、少しくらい任せても安心できるって言ってくれた。

やっぱりこういう信頼って嬉しいよね!

気合入れて返事したわたし、悪くない!




というわけで、年内最後の更新となりました。
みなさま、よいお年をーノシ
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