立花響の中の人   作:数多 命

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28ページ目

二課の面々が待機している一角は、重々しい空気が支配していた。

響にクリスと、仲間が立て続けに倒れ、現在奮戦している翼もいつ限界を迎えるかと言う状況。

間違っても優勢なんて言えなかった。

 

「これは・・・・司令!」

 

そんな中。

何を見つけたのか、藤尭はどこか明るい声を上げる。

 

「見てください!ここ!」

「・・・・これは」

 

若干興奮気味な彼が指差す箇所。

長い間隔で、ほんの数ミリ単位で刻まれる山を見て。

弦十郎は目を見開いて、画面と藤尭を見比べた。

―――――ほんのわずかな。

やっと指をかけられるような取っ掛かり。

しかしそれは、大きな希望となる。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

着地と同時に剣を突き立て、勢いを殺す。

目の前には未だ健在の敵と、無傷のカ=ディンギル。

―――――上等だと。

険しい顔から一辺、不敵な笑みを浮かべる。

 

(この逆境、防人として覆し甲斐がある・・・・!)

 

剣を引き抜き立ち上がれば、同じく険しい顔で睨む浮かべるフィーネが。

踏み込んで接近し、掬い上げるように一閃。

顎を上げて避けたところに、続けて下からの一閃を繰り出す。

限界以上に仰け反ったフィーネの体勢が、後ろに崩れる。

好機を見逃さず、翼はさらに踏み込んで一閃。

刀身が肌に喰らいつき、胴体を深く裂く。

 

「・・・・ぐッ」

 

すぐに再生するにしても、痛みは感じるらしい。

怯んで後退し、膝を突くフィーネから目を逸らさないまま。

持っていた剣を空に放り投げる。

すると剣は物理法則を無視して巨大化、遅れて飛び上がった翼は両足のブレードからバーニアを吹かして飛び蹴り。

翼が持ちえる攻撃の中で、絶唱に次ぐ威力を持った『天ノ逆鱗』が襲い掛かる。

対するフィーネは、鞭を組み合わせて強化した障壁を複数展開。

翼の奥義を、真っ向から受け止めた。

拮抗する『剣』と『盾』。

どちらも高性能であるが故に、火花を散らして拮抗する。

 

「・・・・ッ」

 

真っ向勝負では埒が明かないと判断したのだろう。

フィーネは歯を食いしばりながら腕を振り上げると、それにあわせて障壁も傾く。

哀れ姿勢を崩すかと思われた翼だが、どうやら違ったようだ。

徐に刀を手に、大きく跳躍する。

握り締めた刃からは、炎が迸っている。

 

「ッ狙いは始めからカ=ディンギルか!?」

 

そうはさせるかと、フィーネは組み合わせていた鞭を解き、翼へと伸ばす。

鋭く空を引き裂き伸びていく鞭は、狙い通り翼を貫こうとして、

 

「スティンガーブレイドッ!!エクスキューションシフトッ!!」

「ちぃッ!」

 

フィーネは狙いを外さざるをえなかった。

手首を捻って半ば無理やり標的を変えれば、降り注ぐ光弾のうち、自分に向かってきていたものを叩き落す。

翼が目だけで振り返ると、第二波を展開してフィーネを威嚇するアリアの姿が。

見られていることに気づくと、血気迫る表情に変わる。

 

「構うなッ!!行けッ!!」

 

迫力ある中に、罪悪感がない交ぜになりながらも、託してくれている。

発破をかけられた翼は、カ=ディンギルの突起部分を蹴り付けて、より一層高く舞い上がる。

 

「獣畜生がッ!!」

「言ってろ!手負いの怖さ思い知らせてやるッ!!」

 

翼の闘志に呼応するように、炎も青く染まるほど燃え盛る。

歯を食いしばり、どこまでもどこまでも夜空を駆け抜けて、

 

「ぅうおおおおぉぉおおおおおおあああああああああああ―――――――――――ッッッッッ!!!!!!!」

 

雄叫びとともに、砲身を叩ききった。

 

「・・・・ぁ・・・・・ああ・・・・!」

 

機械に炎をぶつけたからだろう。

爆発が起こり、翼はあっというまに暴風と火炎に飲み込まれる。

フィーネが絶望しきった表情で、アリアが苦い顔で見上げる中。

カ=ディンギルは、その身を灼熱に両断された。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「―――――派手にやったなぁ」

 

うん、ちょっとやりすぎちゃったかも。

 

「いいさ、よくやったよ」

 

あなたにそう言ってもらえたなら、嬉しいな。

――――ねぇ

 

「何だ?」

 

私は、もう大丈夫だよ。

あなたが居なくなって、独りぼっちだって思い込んで、すごく辛かったけど。

だけど。

頼ってくれる後輩が出来て、守りたいものがはっきりしたから。

だから私は、もう大丈夫。

 

「・・・・そっか」

「あーあ、お前だけ先に行っちゃって、何かさみしーなー?」

 

ごめんね。

 

「責めてないって、また前を向けるのはいいことさ」

「・・・・けど」

 

なぁに?

 

「あたしは、いつでも一緒だかんな?お空から見守ってるって意味じゃない。あたしの『歌』が傍にあること、お前にだって分かるだろ?」

 

――――そっか

やっぱりあの子は、あなたの『歌』を。

ちゃんと受け継いでいるんだね。

 

「ああ・・・・『あいつ』が忘れていようがいまいが、それだけは変わらない」

「『あいつ』はこれからも、『歌』を紡いでいく」

「だからお前も、ここでくたばんなよ?」

 

分かってる。

『あの子』が掲げた信念も、『あの子』がこれから成すことも。

先達として、私が出来る範囲で見守るよ。

 

「うん、それが聞けただけで十分だ」

「そんじゃ、あたしはそろそろ行くわ」

 

うん、分かった。

実は私も、ちょっと眠たくって・・・・。

 

「はは、頑張ってたもんな」

「ちょっとくらい寝こけたっていいさ」

 

そう、だね。

ちょっと休ませて貰おうかな。

 

「おう、そうしろそうしろ。出番まで寝てろ」

 

うん、それじゃあ。

――――おやすみ、奏。

 

「おやすみ、翼」

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「お、のれッ!どこまでも邪魔をしおって・・・・!」

 

鞭で地面を抉って憂さを晴らしながら、フィーネはアリアを睨む。

 

「エレベーターシャフトに偽装した塔の建造、『不朽』の特性を持ったデュランダルをエネルギー源に利用・・・・構想自体は大したもんだったけど」

 

一方のアリアは響を磔から解放しつつ、真っ向から視線を受け止める。

 

「あの子らを侮ったツケだね、ご愁傷様だ」

 

響の体を横たえさせ、抜いたゲイボルグを手ごろな場所に突きたてて。

改めて、フィーネと向き合う。

 

「こちらとしても、月を破壊なんてさせるわけにはいかない・・・・重力変動による大規模な天変地異の数々、お祭り騒ぎにしちゃやりすぎだ」

 

治安維持に携わるものとして、放っておく理由も無いのだろう。

ある種の決意を秘めた顔で、背筋を正したアリア。

呼吸を整えて、目を開く。

 

「自力で異世界なんて答えにたどり着いたことに敬意を表して、改めて名乗ろうじゃないか」

 

足元に魔法陣。

攻撃準備を整えながら、続けた。

 

「時空管理局本局、第07執務隊隊長補佐。リーゼ・アリアだ。櫻井了子改めフィーネ、強盗、傷害、その他諸々の容疑で拘束する」

「・・・・そこは逮捕ではないのだな」

「『管理外の犯罪は管理外の法で』、諸々例外もあるけど、基本方針はそうなの」

 

『管理外』ということは『管理している』場所もあるということだろう。

意気消沈していたフィーネも、ここで捕まるわけには行かないと構える。

当然、アリアもここで見逃すつもりは無い。

ここで逃がしてしまえば、また月の破壊を目論むことが目に見えているからだ。

 

「人類の言語をバラバラにする呪詛・・・・それが本当だとしても、月の破壊なんて力技が過ぎる。悪いけど、あんたの企みはここで終わりだ」

「言ったな獣、止めて見せろ・・・・!」

 

数時間は戦いっ放しのはずなのに、フィーネは衰えを見せない。

だが、弦十郎に始まり、ロッテや響、クリスに翼と。

倒れていった彼らの全てが無駄ではないはずだ。

 

(あと、一息・・・・!)

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「ここです!ほら!」

 

時間は、翼が攻防を再開したところまで遡る。

急に大声を上げた藤尭は、パソコンの画面の一箇所を指し示した。

弦十郎と一緒に、友里や緒川、板場達学生も覗き込む。

基本的なデータが表示された画面。

『Gungnir』と示された、心電図らしきレーダーが。

数秒ごとに、かすかな起伏を刻んでいた。

回復を優先させるため、負担が少ないらしい猫形態になっていたロッテは。

頷くように鼻をふこふこ鳴らし、やがて納得して首を縦に振る。

 

「・・・・響は、まだくたばってないってことか」

「・・・・ッ!?」

 

下された判断に真っ先に飛びついたのは、未来だった。

半ば乱暴に友人達を掻き分けて画面に飛びつき、食い入るように見つめだす。

 

聖遺物(ロストロギア)との融合で、若干人間やめてたのが幸いしたんだろう。崖っぷちのギリギリとはいえ、まだ諦めていいってわけじゃない」

 

『落ち着け』という意味合いで、未来の手をたしたし叩きながら、仮説を述べるロッテ。

 

「確かシンフォギアに使われている聖遺物は、歌で起動するんだったね。それって適合者じゃなくてもいいのかい?」

「ええ、一人ひとりのフォニックゲインは少なくとも、数がそろえば巨大なエネルギーとなります。それこそ、停止状態の完全聖遺物を起動させるくらいには」

「それじゃあ、あたしらが歌えば響は起きる・・・・!?」

 

友里の答えを聞き、板場の顔が目に見えて明るくなった。

安藤や寺島とも見合わせて、一気に元気を取り戻す。

 

「で、ぶっちゃけどうよ?」

「十分にありえます!電源を切り換える必要がありますが、学校の設備がまだ生きているのなら、スピーカーを通じて歌を届けることが可能です!」

 

専門家達のお墨付きを貰ったとあっては、賭けない手はない。

 

「あんたにも手伝ってもらうからね。響のこと、支えてくれるんだろう?」

 

ほっと一息ついたロッテは、今ひとつ事態を飲み込めていない未来を見上げる。

未来は話しかけられてもなお、呆然としていたが。

やがてじわじわと涙が溢れてくる。

――――響が助かる。

それが分かっただけでも、十分幸福なのだろう。

 

「ほーら、泣かないの。この後大一番が控えてるんだから、ビシっと決めないとね」

「・・・・っ・・・・・ん・・・・!」

 

ロッテが涙を拭ってやれば、未来は何度も頷いた。




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