なかなかお返事できなくてすみません、ちゃんと読ませていただいてます。
確実にわたしの活力になってございますうううう。
「ああああああああ・・・・・・・・!」
痛い、いたい、イタイ。
全身の細胞が作り変えられるような感覚に、響は苦悶の声を上げる。
十秒にも届かぬ旋律を、無意識のうちに口にしたと思ったらこのザマ。
何が何だか分からないうちにも、変化は続く。
「が、ぐ・・・・・・ぎぃ・・・・・・・!」
「響!」
未来の案じる声すら届かず、歯を食いしばって何とか意識を繋ぎとめる。
次の瞬間、
「ッがあああああああああああああああ!あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
彼女の背中を突き破り、生身ではありえない無機物の群れが飛び出してきた。
噴水のように吹き出したそれらは、やがて生き物のように響の体に戻っていく。
苦痛の声をBGMに、変化は仕上げに入る。
響の肌を、密着したスーツが覆い。
手には恐らく籠手が、足には恐らく具足が装備される。
最後に角が生えたヘッドホンが頭に装備されて、ようやく治まった。
―――――ように、見えた。
「ウウゥ・・・・・」
ぬらり、立ち上がる。
一瞬垣間見えた瞳は、理性を失っていた。
無意識に女の子を抱きしめ、身構えた未来は、
「――――――って、うおぉ!?なんじゃこりゃぁ!?」
響の素っ頓狂な声で、一気に警戒心を削られた。
ノイズが目の前にいるも関わらず、わたわたくるくると慌てながら、変貌した自分の体を見ている。
ついさっきの獣の目など、嘘のような反応だった。
突然舞い降りた非日常的展開に、響も未来も困惑を隠せないようだったが。
「わぁー、おねーちゃんかっこいい!」
歓声で、我に返る。
二人が視線をずらせば、女の子が目を輝かせている。
驚愕はまだ収まっていないが、優先事項を見失うほど混乱していない。
すぐさま思考を切り替え、響はノイズ達を一瞥した。
(逃げたって今までと変わらない、だけどトーシロのわたしが上手く立ち回れるとは思えない)
次に未来と女の子に目をやって、口元を引き締め腹を決める。
(何だか力が漲っているし、これならきっと・・・・!)
いや、と。
頭を振って、『きっと』だなんて断言しないネガティブな考えを追い出す。
(絶対に、二人を守るッ!!)
その思いを決めた響は、未来に女の子を抱かせたまま、さらに抱き上げた。
「二人とも、振り落とされないように!もうちょっと頑張って!」
背後から、無機質な殺意。
了解を得ている暇は無い。
足元が陥没するほど踏み込んで、大きく跳躍する。
「―――――って、飛びすぎたぁッ!?」
「響いいぃ――――!?」
勢い余って逆さまになった世界は、有名な検索サイトのマップ機能ばりに小さく見える。
経験の無い高度に背筋が涼しくなる一同。
「よ・・・・・ほっ・・・・・!」
響は二人をホールドした状態で、どうにか姿勢を立て直す。
ずどん、と重々しい音を立てて、着地に成功した。
息つく間もなく、ノイズが迫ってくる。
しかも四方八方からという、嬉しくないオマケつき。
絶体絶命の状況に、響は何を思ったのか二人を降ろして拳を構える。
迫り来るノイズ、一番近くにいた一体に狙いを絞り、正拳突き。
分厚い壁にぶち当たったように痙攣したノイズは、一瞬で塵と消えた。
余波に当てられて、周辺のノイズも一緒になって吹き飛ぶ。
「の、ノイズが・・・・!」
「おー、いけるいける」
驚く未来を他所に、手のひらを閉じたり開いたりする響。
いまだにじり寄ってくるノイズを睨みつけると、再び構えを取った。
『師匠』なる人物の下にいただけあって、動作はそれなりの速度と精度を持っている。
一旦怯んだように硬直したノイズ達は、しかしもう一度突撃してきた。
拳を握り締める響。
鈍く息を吐き、未来の案ずる視線を背中に受けながら、拳を突き出した。
目の前の一体を炭に変えるや否や、右から迫ってきた一体にサマーソルト。
着地と同時に未来達の後ろにいた数体を薙ぎ払い、自身の背後のノイズは裏拳で吹き飛ばす。
振り向く。
目の前に無数のノイズ。
慌てることなく、構える。
一拍沈黙、次の瞬間全身から稲妻が迸る。
そこから所謂クラウチングスタートの構えを取り、ノイズ達を引きつけて、
「――――ヴォルテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
熱く叫びながら、突撃。
アスファルトを抉り、コンテナを焦がし、空気を引き裂いて。
ノイズを蹂躙する。
ごりん、と地面を削ってUターン。
瞬きの間に駆け戻ると、未来に迫っていた一体を蹴り飛ばした。
「おねーちゃんすごいすごーい!!」
「す、ごい・・・・!」
驚愕しているところに、陰りが差す。
弾かれたように上を見れば、見上げるようなサイズのノイズが。
当然立ち向かおうと、響は構えたが。
「っぐ・・・・!?」
突如として、苦悶の声を上げて膝を突いた。
間髪入れずに大型の腕が叩きつけられる。
響は咄嗟に立ち上がり、一撃を受け止めて踏ん張るものの。
漏れ出る苦痛を抑えきれていない。
「どうしたの?大丈夫!?響!!」
未来に答える余裕など、微塵もなさそうだった。
(装備が、重い・・・・!!)
何が原因か、考える暇すら隙になる。
故に脂汗を流しながら、必死に踏ん張り続ける響。
歯を食いしばるものの、抵抗にすらならない。
がくん。
押し込まれた。
再び片膝を突いてしまう。
段々迫ってくる腕。
押しつぶされてしまえば、三人とも炭になってしまうだろう。
(何か、何かないの・・・・!?)
目玉をめぐらせながら、ついに思考をめぐらせようとして。
不意に、地面が揺れたと思ったら、重さがなくなった。
「うおっ、ぁった!?」
上手く立てずに尻餅をつく響。
状況が飲み込めず、左右をせわしなく見回していると。
「呆けない!死ぬわよ!!」
遥か上から、一喝。
肩を跳ね上げ見上げれば、壁のように巨大な剣の上に誰かが立っている。
どうやら人間に扱えるかどうか疑う大きさの刃で、文字通り助太刀してくれたようだった。
気づけば、響が苦戦していた大型ノイズも消えている。
ピンチだったのは事実だし、助けてもらえてありがたいのも本当だ。
・・・・・・・しかし。
(何で、親の仇見るような目で睨まれにゃならんのですか・・・・)
物理法則が突っ込みを入れるようなレベルで縮小した剣を手に舞い降りた人物は、長い髪を潮風になびかせて。
いっそ殺意すら篭った目で、響を睨んだのだった。
その様子を、一匹の猫が凝視していた。
◆ ◆ ◆
&月ヾ日
あ、ありのまま今日起こったことを話すぜ!!
ノイズとデスマラソンをして、日曜の朝みたいなノリで変身したと思ったら。
黒服の怖いあんちゃん達に連行されて、やたらアットホームな組織に引き合わされた!
な、何を言っているかわからねーと思うが、わたしも何が起こったのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった・・・・。
ドッキリだとか、デタラメだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねェッ!!
もっととんでもないものの片鱗を味わったぜ・・・・!!
&月Ш日
朝に日記をつけるというのもなんだけど。
昨日はちょっと混乱しすぎた部分もあるので、改めて書き出してみる。
とはいえ、外部に漏らすとアカンのが多分に含まれるので、あまり書けないんだけど・・・・。
あえていうのなら。
わたし、所謂『変身ヒロイン』というものになってしまったようです。
え?元から?
じゃかあしいわッ!!
師匠のこともあるから、あまり厄介ごとには関わりたくないんだけど。
ままならないものだなぁ・・・・・。
◆ ◆ ◆
昨日のことが、夢のように思う。
ノイズに遭遇して逃げ切れたことも、親友が変身して戦ったのも。
何もかもが幻のようで、実感が湧かなくて。
「未来?」
「えっ」
名前を呼ばれる。
いつのまにやら呆けてしまっていたらしい。
気がつけば西日が教室に差し込んでおり、人もまばらになっている。
未来の正面、机の上に顎を乗せる形で。
響が心配そうに覗き込んでいた。
「どうしたの?昨日の疲れがでちゃったとか?」
「ぅ、ううん、それはないよ。第一疲れてるっていうなら・・・・」
言いかけて、フラッシュバック。
稲妻を迸らせ、次々ノイズを蹂躙していた響。
あの勇ましい姿と目の前の人畜無害そうな顔が、とても同一人物とは思えなかった。
「わたしこそ大丈夫だよ!鍛えてますから!」
勢い良く立ち上がった響は、一回転して力瘤をアピールする。
うまく誤魔化しているというのも否定できないが、ここは本人の言を信じるべきだと判断した。
「今日の晩ご飯、何がいい?」
「んー、そうだなぁ。今日は――――」
口が、不自然な形で固まった。
何事かと、未来が響の視線を追従すると、
「―――――翼、さん」
彼女達の二つ上、日本を代表する歌姫と言っても過言でもない存在。
加えて先日、戦士としての姿も見せた人物。
『風鳴翼』が、見下ろすように凝視してきていた。
「―――――」
現実を突きつけられる、眩暈を覚える。
(響が戦う、響が離れる・・・・・・遠くに、行く)
恐怖が蔓延する一方で、冷静に考えている部分もある。
ここは教室。
倒れてしまえば人様に迷惑をかけてしまう。
何とか、せめてどこかに掴まろうと、手を彷徨わせて、
「みーく」
つかまれる感覚に、意識が戻る。
目の前には、響の顔。
目が合うと同時に、にっこり笑った。
「今日のご飯、オムライスがいいな。わたしはちょっと用事があるから、先に帰って待ってて」
額を当て優しく語り掛ける声を前に、恐怖はなりを潜めた。
「だいじょーぶだって、取って食われたりはしないって!」
ね!と、勤めて明るく振舞いながら、翼に同意を求める響。
対する翼は、鋭く睨みつけるだけだった。
「あーっと・・・・お待ちかねみたいだから、もういかなきゃ」
若干の脂汗をかきながらも、軽快な足取りで教室を出て行く。
翼もまた、未来を一瞥して静かに立ち去った。
「・・・・」
額に手を当てる。
まだ温もりが残っているように思える。
もう、響の背中を思い浮かべても。
恐怖はやってこなかった。
―――――特異災害対策機動部二課。
全世界共通の悩みのタネであるノイズに対抗するための、日本政府所属の組織である。
他の諸外国と違うのは、現状唯一ノイズに対抗できる手段『シンフォギア』を有していることだろうか。
―――――シンフォギア。
ノイズ関連についてまとめた研究論文『櫻井理論』に基づいて製作された兵器。
『
伝説に語り継がれる様々なアイテム『聖遺物』を加工し、歌によって起動・使用することを可能にしている。
現状に置いて、ノイズに対抗出来うるたった一つの手段である。
「―――――とまあ、シンフォギアやらなんやらについての説明はこんな感じ、分かった?」
「ちょーっと待ってください・・・・」
リディアン音楽院の地下深く。
特異災害対策機動部二課こと、『
シンフォギアの根幹を成す櫻井理論を提唱した研究者『櫻井了子』は、教鞭を仕舞いながら問いかける。
対する響は、額に手を当て、苦い顔をして。
「ようするに、伝説のアイテムを、欠片とは言え復活させて、ノイズに対抗しようってことですかね?」
「大分ざっくりしてるけど、概ねそのとおりぃ~♪」
指摘されたとおりかなり噛み砕いた内容となったが、解釈は間違っていなかったようだ。
ご機嫌な了子の反応に、響はほっとため息をつく。
「でも、わたしそんな大層なもの持った記憶ないんですけど・・・・」
「私達も不思議に思ったのよ。そこで、昨日受けてもらったメディカルチェックの結果なんだけど」
そういえば色々調べられたなと思いながら、モニターに目をやった。
表示されたのはレントゲン写真。
白っぽく映る内蔵やら骨格やらに混じって、何か欠片のようなものが散らばるように存在していた。
「この部分に点在する影、解析の結果、奏ちゃんの纏っていたシンフォギア『ガングニール』の破片であることが分かったわ」
「ほぉー・・・・」
何だか飲み込めていないような反応に、誰もが面食らった。
今しがた了子が口にしたのは、割と衝撃的な事実なのに、淡白すぎるリアクションなのだ。
「何か、心当たりは無いかな?」
気を取り直した弦十郎が、身を乗り出しつつ問いかけると。
少し考え込んだ響は、相槌を打って、
「そういえば、わたし二年前のライブ会場にいたらしいです。そこの翼さんと、多分了子さんのいうカナデさん?が歌ってた場所に」
「―――――随分と、他人事のように言うのね」
先日から厳しい目で響を見ていた翼が、もはや怨念すら感じさせる眼差しで威圧する。
無理も無いかもしれない。
彼女はまさにあの場にいて、そして見ていたのだから。
半身ともいうべき相棒『天羽奏』が、散り逝く様を。
あの日は捌き切れない量のノイズに囲まれていたこともあって、奏が散るまでに何があったのかは詳しく知らない。
それでも確かに確信しているのは、彼女は最後まで守るために戦っていたということ。
故に、あの時命がけで守られたであろう少女が、あろうことか人事のように話すなど・・・・。
聞いていないのか、気づいていないのか。
響は苦笑いしながら、未来を説得した時と同様、勤めて明るく答えた。
「いっやぁ、すいません。わたしったら、二年より前の記憶がごっそり抜け落ちちゃってて」
「――――――」
いきなりのカミングアウトに、今度は息を呑む。
「だから何がどうしてガングニールが宿ることになったのか、さっぱり!」
快活に笑う響の笑顔が、急に痛々しく見えてしまった。
「・・・・辛くは、ないのか?」
「いえ、別に」
弦十郎の気遣わしげな問いすら、笑顔でばっさり切り捨てる。
「自分のこと何にも覚えてなくても生きて来れましたし、これからも何とかなりますよ」
そして、急に大人びた顔で、どこか想起するように俯いたのだった。
暗い雰囲気を感じ取れないのは、これまでの思い出に恵まれたからなのだろう。
「ああ、でも皆さんのお話聞いて納得できました。昨日急に動けなくなったのって、歌わなかったからなんですねぇ」
湿っぽい話は終わりだといわんばかりに、響は溌剌と明るい声を張り上げて、おどけて見せた。
◆ ◆ ◆
「――――――以上が報告です、マスター」
どことも知れぬ部屋、二人の女性が向かい合っている。
一人は黒く長い髪を流した日本人女性、顔立ちの整った『美人』であったが。
もう一人は、異様だった。
何かを語り終えた彼女は、本来人間にあるはずのない猫耳と尻尾を揺らしながら一礼する。
「お疲れサマ・・・・にしてもマジか、ごめん、もっかい言わせて、マジか」
「残念ながらマジです」
長髪の女性は、『まいったなぁ』という雰囲気を隠そうともせずに天井を仰ぐ。
「いや、何にも知らなかったってわけじゃないんだけどさぁ・・・・」
「存じておりますとも、私もまさかあの子がとは思いましたし」
頭を抱えうなだれる女性に、二人へのお茶を持ってきた別の女性が。
彼女もまた、猫耳と尻尾を揺らしていた。
もう一方と違うのは、髪の長さくらいだろうか。
「で、これからはどうするんです?」
お茶を啜りつつ、テーブルに広げられた数々の写真を見つめて。
女性は束の間思案する。
「・・・・ひとまず監視は続けて、こっちからコンタクト取れない以上、ひたすら見極めるしかない」
「りょーかい」
「分かりました」
猫耳の二人が軍人然と一礼して、その場はお開きになった。
「・・・・・何か、あなた達相手に踏ん反り返るのってなれないなぁ」
「まあまあそう言わずに」
「今のマスターはあなたなんですから、堂々としてくださいな」
勘の良い方に見破られないかはらはらしておりまする・・・・!