立花響の中の人   作:数多 命

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皆さん、前回の『槍』への反応ありがとうございます。
『ガーチャー』やってる身として、一回やってみたかったネタなので。
個人的にちょっとした達成感を感じておりますww


31ページ目

ネフシュタンの『無限再生』。

デュランダルの『不朽』。

ゲイボルグの『絶対殺害』。

反発し、せめぎ合う特性を抱えたこれら三つ。

結果として矛盾を超えた矛盾を生み出し、互いを消滅させる形となった。

もはや手元に残っているのは、潰し合いを逃れたソロモンの杖のみ。

万全の状態ならいざしらず、崩壊が始まっているこの体ではとても戦えそうになかった。

 

「潮時、か」

 

此度も失敗。

あと一歩というところで、悲願は叶わなかった。

・・・・別に、『死』自体はもう慣れた。

内にくすぶる魂は、既に何百もの人生を重ねている。

流石に子どもが注射を嫌がるような嫌悪感は少なからず抱くが、むしろそれだけだった。

それに敵対した者達にとっては、それが一番いいのだろう。

今回もまた、手酷く裏切ったのだから。

――――だと、いうのに。

瓦礫が動く。

夕日が暗がりに差し込み、思わず目を細める。

 

「―――――ああ、よかった」

 

茜色の中、こちらを見つけて笑う少女。

 

「やっと見つけましたよ、立てますか?」

 

 

 

 

 

 

 

―――――何故、この子は。

躊躇い無く手を差し出せるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が終わるなり、ふらっと居なくなった響。

落ち着かない未来の前に再び現れたのは、夕暮れ時のことだった。

どこか達成感溢れる顔で彼女が抱えていたのは、フィーネ。

もはや抵抗すら諦めたらしい。

呆れきっているその姿は、『疲労困憊』『満身創痍』という言葉が似合っていた。

 

「・・・・何を、考えている」

 

手近な瓦礫に座らされたフィーネが力なく問いかけた。

敵対していた自分を助けたことが、疑問だったらしい。

対する響は、小さく唸りながら考えて、

 

「・・・・大した理由はありません、何となく、ほっとけないなって思ったんで」

 

程なくして、照れ笑いしながら答えた。

 

「・・・・なんだ、それは」

「やっぱり可笑しいですかねぇ」

 

フィーネの呆れた声に、気の抜けた誤魔化し笑いを返す響。

が、不意に黙り込むと、静かに口を開く。

 

「・・・・もう終わりにしませんか、了子さん」

「フィーネだ」

 

なお呼ばれる『了子』の名前が、即座に否定される。

ため息を一つついたフィーネは、ふらつきながら立ち上がる。

手助けしようとした響の手を拒絶しながら、こちらに背を向けた。

 

「・・・・『統一言語』が失われ、相互理解の方法を失った人類は、ノイズを創造した。『同胞』と分かり合うことよりも、『敵』を排除することを選んだのだ」

「・・・・人が、ノイズを」

 

誰とも無い呟きを肯定するように、フィーネは拳を握る。

 

「だから私は、この道しか選べなかったのだ・・・・!」

 

・・・・本当は。

フィーネだって、もっと穏便な方法を選びたかったんじゃないだろうか。

『ただ想いを告げる』という自分勝手な目的に、誰かを巻き込みたくないという良心があったのではないだろうか。

だけど彼女のそんな願いを他所に、人間達は相手を糾弾して、傷つけて、脅かして。

変わり映えしない醜い様を、永い永い間見せ付けられたのだとしたら・・・・。

それでも、

 

「人と人とが繋がることの大切さ、分からないわたし達じゃありません」

 

それでも響は、『人』を信じる道を選ぶ。

かつて彼女を追い詰めたのは『人』だったが、救い上げたのもまた『人』なのだ。

繋いだ手の、抱きしめてくれたときの温もりを。

響は信じたかった。

振り向いたフィーネは、一度目を閉じる。

そして次の瞬間、勢いよく見開いて。

 

「はああッ!!」

 

鋭く、鞭を伸ばした。

すぐさま反応した響が懐に潜り込み、拳を向けるが。

狙いがそちらでないフィーネにとっては、些細なことだった。

 

「私の勝ちだァッ!!!」

 

遥か上空、切っ先が伸びた先は。

カ=ディンギルにはがされた、月の欠片。

 

「でええええええッ!!!!!」

 

突き刺さる手応えを感じるや否や、足元を巻き込んで一本背負い。

鞭は抜けてしまったが、フィーネは笑みを消さなかった。

 

「月の欠片を落とすッ!!」

「はぁッ!?」

 

素っ頓狂な声と共に、一同の視線が空に向く。

宣言どおり、月の欠片がゆっくりと下降してきていた。

 

「後々の禍根はここで潰すッ!!」

「あんたも無茶苦茶やるなぁ!」

「遥だけでお腹いっぱいだってのに・・・・!」

 

リーゼ達の嘆きを無視して、フィーネは続ける。

 

「例えここで私が果てようとも、アウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度でも蘇るッ!!いつかの時代!どこかの場所で!再び『あの御方』に相見えるためにッ!!」

 

彼女の体は、既に崩壊を始めている。

なのに声に衰えが無いのは、死に慣れているからか、それとも単なるやけっぱちか。

 

「私は永遠の刹那に存在し続ける巫女!フィーネなのだああああああッ!!!」

 

ゲラゲラと、笑い声が響く。

事態を飲み込んだ順から、動揺が伝播する。

そのまま、恐怖に昇格しかけて。

 

「・・・・そうですね」

 

胸に、拳が当てられる。

何かを託すような仕草に、フィーネも笑い声をやめる。

響は一歩引きながら、笑いかけた。

 

「人と人とは、いつか繋がれる事。言葉を超えて、世界を超えて、分かり合えること。了子さんが伝えていってください」

 

今度こそ、フィーネは呆ける。

託そうと言うのか。

一度は憎しみを抱いた相手に、自らを含めた人類の行く末を。

 

「わたしには出来ないから、了子さんなら、出来ることだから!」

 

緊迫した状況にも関わらず、笑顔をやめない響。

――――本気だ。

冗談や道楽ではない。

この子は本気で、敵対者を信じようとしている。

 

「・・・・本当に、ほっとけない子ね」

 

完敗だ。

第三者に判断を下されるまでも無く、フィーネの敗北だ。

だから彼女もまた、笑みをこぼす。

歩み寄って、胸を小突き返す。

 

「胸の歌を、信じなさい」

 

そして、親が我が子に送るような声を最後に。

フィーネの体は完全に崩れ去った。

風に乗り消えていく、成れの果て。

響は神妙な面持ちで、見送っていた。

 

「起動計算出ました、このままだと、直撃します・・・・!」

 

感傷に浸っている暇はない。

フィーネとの会話の裏で仕事をこなしていた藤尭が、計算結果を報告する。

空の巨大な物体は、先ほどよりも接近していた。

 

「響!あんたがやったドカーンってやつで、あれ吹っ飛ばせないの!?」

「うん、無理」

 

響は、板場の問いかけをばっさり切り捨てる。

 

「『未熟者』って、こういうときに役立たずなんだよね」

「そんな・・・・!」

「お二人はどうなんですか?」

「ビッキーの先生に、何とかこっちに来て貰えるように言うことは・・・・!?」

 

肩を落とす板場の後ろで、寺島と安藤がリーゼ達に詰め寄るも。

 

「頼ってもらってなんだけど、あんだけのものを吹っ飛ばす魔法は持ち合わせてないねぇ」

「遥もかなり遠方にいるから無理だね、それ以前に火力が足りない」

「そう、ですか・・・・」

 

申し訳なさそうな顔の前に、あえなく撃沈した。

 

「ま、あの人に頼りきりってのも情けねぇ話だ」

「ああ、私達でなんとかするしかあるまい」

 

空を睨む、装者三人。

飛び立とうとする背中を、

 

「―――――響!」

 

未来は引き止めた。

黙して振り向き、凝視する響。

向ける瞳は、何かを決意しているようで。

 

「――――へいき、へっちゃら」

 

ふと、笑みを浮かべた響は、歩み寄る。

未来の手を取り、頬に寄せながら額同士を重ねた。

 

「すぐに戻るから、待ってて」

「ひびき・・・・!」

「未来」

 

離れる額。

手はしっかり握られたまま、花の咲くような笑顔が見えて、

 

「大好き」

 

短く、それだけを告げた。

 

「ひびっ・・・・!」

 

なお引きとめようとする手を交わしながら、大空に飛び立つ。

心残りを振り払うように、やや乱暴に加速して。

 

「 Gatrandis babel ziggurat edenal 」

 

風を切り、

 

「 Emustolonzen fine el baral zizzl 」

 

雲を超え、

 

「 Gatrandis babel ziggurat edenal 」

 

星へ至り、

 

「 Emustolonzen fine el zizzl... 」

 

天上の彼方へ。

息吹が感じられない闇の中。

響は、拳を握ろうとして、

 

《おいてけぼりたぁ、つれないじゃねぇか!》

 

聞こえた声に、振り返る。

 

《こんな大舞台で挽歌を歌うことになるとは、司にはつくづく驚かされっぱなしだ》

《ま、腹いっぱい歌うにゃちょうどいいんじゃねぇの?》

 

追いついてきた翼とクリスが、笑いかけてくれる。

 

《すぐに戻るんだろ?早いとこすませるぞ》

《・・・・うん!》

 

自然と、三人は手を繋いでいた。

胸に沸きあがる旋律を隠さないまま、静かな空に奏でる。

本当の剣になれて、悪くない時をもらったと。

両隣から、まるで語りかけるような歌声が聞こえる。

 

《みんながみんな、夢を叶えられないのは分かってる》

 

そうだ。

世界はいつだって『こんなはずじゃないこと』で溢れている。

 

《それでも、夢をかなえるための未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだ》

 

遥との出会いで、変わったのだろう。

クリスの声は、やけに穏やかだった。

 

《命は、尽きて終わりじゃない》

 

想起する。

片割れを失った空虚な日々。

日常のどこかに、いつも側に居た陰を追い求めた日々。

 

《尽きた命が残したものを受け止めて、次代に託していくことこそが命の営み》

 

そんな中現れた後輩は、片割れの『歌』をしっかり受け継いでいた。

助けを求める誰かのために、声を張り上げられる覚悟を秘めていた。

 

《だからこそ、剣が守る意味がある》

 

翼は、響との出会いで何かしらのきっかけを掴んだのだろう。

響個人としては、何もした覚えはないのだが。

微笑を向けられてしまったら、否定するのは失礼な気がした。

前を見る。

月の欠片は、もう目の前。

 

《例え声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさない》

 

こんな自分にも、託してくれる人が居る。

『歌』を信じろと、応援してくれる人が居る。

何より、待ってくれる優しい人が居る。

 

《終わりの音告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れッ!!》

 

ならば、自分に出来ることは一つ。

信じてくれる人達のため、大好きなあの子のために。

この世界を、明日に繋げること・・・・!

翼は剣を最大まで巨大化させ。

クリスはありったけのミサイルを背負う。

響は腕と脚のジャッキを限界ギリギリまで伸ばし、加えて稲妻を纏わせた。

狙いは、月の欠片のみ。

 

―――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!

 

雄叫びを上げて、叩き込む。

ミサイルが、斬撃が、拳が。

撃ち抜き、切り裂き、砕き壊し。

巨大な岩塊は、あっという間に破砕する。

 

「げ、ほ・・・・!」

「大丈夫か・・・・!?」

 

絶唱を口にしたからだろう。

響の口元から、血が零れる。

気遣ってくれるクリスも、響より余裕はありそうだが。

疲労が限界まで達しているのが分かった。

 

「二人ともまだ動けるか?ここにいては危険だ、早く地上に・・・・」

 

一番余裕があるらしい翼が、二人を気遣って手を取ろうとする。

 

「ッぁぶな・・・・!」

「何を・・・・!?」

 

取ろうとして、クリスもろとも突き飛ばされた。

こちらに手を向けた響は、心底安堵した顔を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、岩石が衝突する。




死亡フラグ「いつからへし折れたと錯覚していた・・・・?」
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