『ルナ・アタック』。
突如月が欠けたことにより、世界中を震撼させた大事件。
首謀者は騒動の最中で落命しているが、世間にとっては些細なことだった。
露見した新たな力『シンフォギアシステム』の存在。
単体で戦車と渡り合うほどの戦闘力から、『明らかな憲法違反である』とメディアは批判。
海外諸国も、アメリカを中心に追求をしていく方針を固めている。
だが、アメリカにはフィーネと共謀した容疑があるため。
訳知り連中の心境は複雑だ。
告げられた言葉が、頭にこびりついて離れない。
胸が引き裂かれるような感覚を覚えて、腹がかき回されるような感覚を覚えて。
隣にあの子がいない現実が、嫌でも突きつけられて。
それでも、期待してしまうのだ。
彼女が寮の扉を開けて、『疲れたよー』なんていいながら戻ってくることを。
『待たせてゴメン』なんて平謝りしながら、ご機嫌取りに抱きついてくることを。
だから。
隣に誰も居ない日々を彷徨いながら、帰ってこない彼女を待ち続ける。
戻ってこない温もりを想起しながら、体を凍えさせる。
雨が降っている。
土砂降り一歩手前の、大量の雨粒に打たれながら。
未来は傘も差さずに、バス停に立つ。
と、乗る予定のバスが来た。
乗客達の、好奇や心配の視線にさらされながら、乗り込んだ。
――――あれから既に、三週間が経過している。
弦十郎達二課のスタッフは未だ後始末にてんてこ舞い。
その上でノイズにも対処しなければならないのだから、多忙を極めていることだろう。
・・・・装者達は。
翼とクリスは、リディアンから遠く離れた山奥で、ボロボロになっているのを発見された。
響は、いなかった。
すぐに捜索隊が組織され、リーゼ達魔導師達も手伝ってくれたらしい。
だけど、結局成果を得られず。
「・・・・」
我に返る。
目の前には墓。
未来と同じように、雨にずぶ濡れになりながら。
ぽつんと佇んでいた。
――――現在。
響の生存は絶望的として、行方不明扱いから死亡扱いに切り替わるとのことだ。
国の機密を握っている人間なので、死んだことは公表されない。
戒名も無いシンプルなデザインの前に、未来が渡した写真が立てかけられている。
だが、ここに響は居ない。
まさしく形だけの、虚しく悲しいお墓だった。
しばらくの間、未来はぼうっと突っ立っていたが。
やがて雨粒に負けないほどの涙をこぼし始め、崩れ落ちる。
「・・・・そつき」
持ってきた花を握り締め、声を絞り出す。
「うそつきぃ・・・・!」
濡れた顔を拭わず、墓石を睨みつける。
「帰ってくるっていったじゃない、すぐに戻るっていったじゃない!何で死んじゃうの、何でまた追いてくのぉ・・・・!?」
腰に上手く力が入らない。
響がいないと分かっていても、ここから離れたくない。
「出来ないなら最初から出来ないって言ってよ!わたしだって、響が大好きなんだよ!?響ばっかりずるいよぉ、わたしにも大好きって言わせてよぉ!!」
堰を切った想いは、止まらない。
何度もしゃくりあげながら、雨と涙でぐしゃぐしゃになった顔で。
独りきりなのを言いことに、大声でまくし立てる。
「こんなの、もうやだよぉ・・・・戻ってきてよ、ひびきぃ・・・・・!」
仕舞いには、声を上げて泣き始めてしまった。
子どもっぽく泣き叫ぶ彼女を、誰が責められようか。
大切なものがあって、もう二度と触れられないところに行ってしまって。
どれほど切望しても、どれほど希っても。
この声は、願いは。
居るかどうかも分からない神様にすら、叶えてもらえない。
「・・・・ぅ、く・・・・ふえ・・・・・!」
未来の目元が真っ赤にはれて、涙が収まってきた頃。
呼応するように、雨脚も弱まる。
辺りは静まり返り、遠くにカエルの声が聞こえるほどだ。
落ち着いた未来がなおもしゃくりあげながら、静かに呼吸をしていると。
「――――ッ?」
聞こえた大きな音に、肩を跳ね上げる。
恐らく車がぶつかったのだろう。
「きゃあぁ――ッ!誰か助けてえぇ!!」
ほどなく聞こえた悲鳴に何を思ったのか、未来はふらふらと立ち上がっていた。
音や声からして、すぐ近くのはずだ。
おぼつかない脚に喝をいれながら、未来は走り出す。
辺りには、ノイズの警報が鳴り響いていた。
「あ・・・・ああ・・・・!」
―――――思ったとおり。
件の女性は、墓場からの階段を下りてすぐの場所に居た。
車でノイズから逃げていたようだが、運悪く電柱にぶつけてしまったらしい。
囲まれた女性は、不安げにノイズを見渡していた。
「こっち!」
「え、あ・・・・!?」
ノイズの間をすり抜けて、女性の手を掴み。
未来は再び走り出した。
―――――二人で、逃げ惑う。
『春先』と『二年前』を思い出す構図に、未来はまた泣きそうになる。
だが今はダメだ、泣くときではない。
意味のない咳払いで、涙を抑えながら。
未来は見知らぬ女性と共に、どこにいくでもなく逃げ回る。
「きゃっ・・・・!」
後ろが気になり振り向けば、突進している個体が見えた。
咄嗟に女性を突き飛ばして逃がし、自身も飛びのいて回避する。
女性を案じて見てみると、上手いこと物陰に倒れこんでいた。
(・・・・あの時と、同じ)
フラッシュバックする。
今よりもずっと情けなかったあの頃。
走り去る響を、引き止めることすら叶わなかったあの頃。
途端に、胸が熱くなった。
情熱でも、怒りでもない。
だけど、確かに成し遂げたいと思う熱さが灯った。
「―――――ほら!おいで!」
気づけば未来は、両手を広げて叫んでいた。
ノイズの注目が、一点に向けられる。
「こっちだよ!」
ダメ押しでもう一度叫びながら、踵を返して走り出す。
「小日向!?バカな真似はよせ!!」
「戻って来い!おい!行くなぁッ!!」
背後から聞こえた翼達の声に。
これで一緒に居た女性はもう大丈夫だと、未来は小さく安堵した。
「はぁ・・・・は・・・・はッ・・・・はあ・・・・!」
もうどれほど走っただろう。
やはりノイズというのは諦めが悪いらしく、何時間も駆けずり回っている感覚だ。
既に全身は鉛のように重たく、膝も気を抜けば爆笑して使い物にならない始末。
未来はシンフォギアなんて持ち合わせていないし、ノイズ達はそんなのお構い無しに追ってくるので。
結局は走らざるを得ない。
しかし、同じ状況が続くかと言えば、そうでもない。
「あぁッ・・・・!!」
坂道、足がもつれ躓く。
受身を取れなかった未来は、アスファルトの上をきりもみしながら転がっていく。
それなりに長い坂道だった所為で、下に降りきってもなお転がっていき。
「げほげほッ・・・・ッあ、ぐぅ・・・・!」
仕舞いには、電柱にぶつかって止まった。
全身が痛くてたまらない。
多分何箇所か折ってしまったのだろう。
苦しみながら咳き込んだ未来は、周囲が陰っていることに気づいて。
「――――――――あぁ」
こちらを見下ろす、大型と目が合ってしまった。
鬼のように歯を食いしばっているようなノイズは、見上げられるなり腕を振り上げる。
未来なんて木っ端微塵になってしまいそうな、大きな腕だ。
呆然と見上げた未来は、息と共に状況を飲み込んで。
(ああ、よかった)
場違いなほど、穏やかな笑みを浮かべた。
(響のとこ、行ける)
逃げ場は無い、逃げる体力も無い。
逃げるつもりもない。
そっと目を伏せた未来は、ノイズが動く気配を感じ取って。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――ッ!!!!!!」
轟く、咆哮。
「 ブ レ イ ク ッッッッッ!!!!!!!!」
未来の目の前、降り立つ光。
「インッ、プァルッ!!!ッスウウウウウウウウウ―――――――!!!!!」
マフラーを靡かせた彼女は、ノイズの顎にアッパーカットを突き刺して。
重い、重い一撃で、消し飛ばしてしまった。
「――――」
破壊の余波で、髪が靡く。
濡れた体に炭が付着し、泥だらけだった服が更に汚れてしまうが。
今の未来には、そんなこと些細極まりなかった。
「――――ごめん、遅くなった」
倒れる残骸から庇うように立った響は、言葉通り申し訳なさそうに振り向いた。
「・・・・ひびき」
「うん、みく」
呆然と呼べば、返事が返ってくる。
鼓膜を震わす声は、幻聴じゃない。
――――いや、安心するのはまだ早い。
温もりを感じていない以上、本格的に自分がイカれている可能性は否定できない。
「・・・・~~ッ」
「ッ未来!」
痛みを堪えて立ち上がれば、案じた響が即座に駆け寄り抱きとめる。
「未来、大丈夫?」
腕を回されて、温もりに包まれてやっと。
響が本物だと確信した。
「わたしだけ機密事項が多すぎて、中々帰れなかったんだ・・・・待たせて、ごめん」
目が合った響が何か言っているが、それどころじゃない。
響が生きていた、それは嬉しい。
響がまた笑ってくれた、それも嬉しい。
響の温もりが失われなかった、そりゃあめでたいことだ。
だけど、それ以上に。
未来の胸には、怒りが燃え盛っていた。
「―――――ッ」
腕を振るう。
手のひらに針を刺した様な痛みが走り、響の顔がそっぽを向く。
無理に動いた所為で、体の痛みがぶりかえったが。
そんなの今は関係ない。
「・・・・みく?」
響の頬の片側が、目に見えて赤く腫れ上がっていく。
呆然とする胸倉を掴み上げた未来は、息を吸い込み。
「響の、バカッッッッ!!」
ありったけの声で、怒鳴りつけた。
「み・・・・!?」
「どうして自分を大切にしてくれないの!?死に掛けたの、これで何回目よッ!?」
反応する隙も与えない。
聞こえていようがいまいが関係ない。
「何も知らされずに待たされるこっちの身にもなってよ!!!響がいない間、ずっと怖くて怖くて、寂しかったんだよ!?」
「ぁ、ぅ・・・・」
口答えは許さない。
こうでもしなければ、こっちの主張を聞いてくれない。
「わたしは帰る場所なんでしょ!!?だったらちゃんと帰ってきてよッッ!!例え世界が救われたって、響が隣に居なきゃ意味無いじゃない!!!!」
本当は分かっている。
こんなのよくないって分かっている。
だけど、もう我慢なら無い。
耐えられない。
大好きなあなたが居ない世界なんて、生きてたってしょうがない。
「・・・・ッ」
ああ、ダメだ。
また泣きそうだ。
それでも言わなきゃ、言ってやらなきゃ。
「・・・・死んでやるんだから」
「・・・・ぇ」
目を見開いた響に、止めを刺す。
「響が死んだら、わたしだって死んでやるんだからあぁーッ!ぅわああああああああ――――ッ!!!」
涙が溢れてしまった。
泣き顔を見られたくないから、肩口に顔を埋める。
響を逃がさないよう、しっかり抱きしめる。
体はまだ痛い、だけど響が居なくなることがもっと怖いし辛い。
言っていることはしっちゃかめっちゃかになってしまって、もう泣き声しか上げられない。
「・・・・」
響は、しばらく突っ立ったままだったが。
やがて、泣き叫ぶ未来の肩を、まるで割れ物を扱うように。
優しく、そっと抱き返す。
「ふ、ぐっ・・・・ひびきぃ・・・・?」
未来が顔を上げれば。
響の顔が、近づいて。
「―――――いいよ」
――――唇に感覚が残ってもなお。
何をされたのか理解するのに、少しの時間を要した。
今度は未来が呆然とする番だった。
「わたしが死んだら未来も死ぬ、未来が死んだらわたしも死ぬ」
少し強く抱き寄せて、耳元で囁かれる。
「一緒に死のう、未来」
――――『告白』と呼ぶには、余りにも歪んでいる言葉だった。
いや、重たさで言えばむしろプロポーズの方が近いかもしれない。
だが。
響の表情、声のトーンは本気だ。
本気で、共に果てるつもりだ。
対する未来は、まだ呆けていたが、
「――――――ッ」
結局最後には、安心しきった満面の笑みを浮かべて。
響に身を寄せるのだった。
.月S日
人がわたし達を見たら、きっと後ろ指をさすと思う。
でも、これでいいと思えてしまうわたしがいる。
わたしは、未来が好きだから。
こんな異物に優しくしてくれる健気なあの子が、大好きだから。
だから。
あの子のために、わたしは死にたい。
これで一期は幕です(
ラヴラヴ重依存な二人。
「ふ」じゃないんです、「う」に点々なんです(
笑顔で終わっていますから、ハッピーエンドでもいいですよね?
え?アウト?
そうですか(´・ω・`)