「―――――翼さん」
名前を呼ばれる。
振り向けば、忌々しい『後輩』がこちらに向けて微笑みかけている。
「わたしは奏さんじゃありません。わたしなんかじゃ、どう足掻いてもわたしにしかなれません」
まるで諭す様に語り掛ける彼女は、無防備にこちらに寄ってくる。
「だけど、あなたの助けにならなれます」
目の前の感情に気づいていないらしい。
単に鈍いのか、わざと無視しているのか。
もしも後者なら、すぐさま両断する自信があった。
「まだまだ未熟者ですが、すぐに使えるようになってみせます」
だから、と。
一旦言葉を区切った後、花の咲くような笑みを浮かべた。
「一緒に戦いましょう!翼さん!」
「――――――」
――――どの口が言うかと、感情が燃え上がった。
奏の覚悟も、信念も知らないくせに。
挙句の果てには助けられておいて、その死に様を忘れてしまったというではないか。
(ふざけるな・・・・ふざけるなッ!!)
そのとき翼が選んだのは。
差し出された手を拒絶することだった。
◆ ◆ ◆
#月ё日
あれから一ヶ月。
つらい。
何がつらいって翼さんの塩対応が一番つらい。
挨拶無視ならまだしも、ことあるごとに睨んでくるのは本当に勘弁してほしい。
特に戦闘直後とか、『違ぇんだよ、ガングニールはそうじゃねえんだよ』って視線がビシバシ突き刺さってくる。
あれか、未だにアームドギア発現できないのがお気に召さないんですかね。
そりゃあ、『ガングニール』こと『グングニル』っていうくらいだから、槍を扱って然るべきなんでしょうけどね。
でも白状しちゃうなら、素手の方がやりやすいなぁ、なんて。
それに、槍っていうなら師匠の方が似合うと思うんだけどなぁ。
#月Λ日
司令さんに師匠のことを聞かれた。
・・・・内容が内容なだけにちょっと苦労したけど、わたしにしては上手く誤魔化せたんだと思う。
FBIは秘密に守られているような一般イメージだし、治安を守る組織に代わりは無いし。
そもそも『FBIっぽいところ』って表現しているから。
断言はしていないから。
嘘は言って無い!うん!
ああ、でもどうだろう。
あの人たちのことだから、情報捜査なんてお手の物だろうし、となれば小娘ごときの嘘なんてすぐに見破られるようだし。
ああ、やっぱり迂闊だったかなぁ。
#月∵日
悟りを開いたかもしんない。
こう考えるんだ、わたし。
師匠だったら、もっと殺伐としていたんだと・・・・・!!!!
色々知らなかったり、未熟だったりするわたしはともかくとして。
師匠にとっては、翼さんの話し合いに応じようともしない態度は琴線に触れまくりだし。
きっと翼さんだけじゃなくて師匠もイライラするに違いない。
で、地雷を全力でぶち抜くくらいの毒を吐いて、吐いて、吐きまくって。
一瞬でも気を抜けば、どちらかの首が(物理的に)飛ぶ状況が出来上がるに違いない・・・・!!
そんな中に、わたしが耐えられるかどうか。
ムリ、マジムリ。
根性より先に胃袋がマッハだよ!!
つまり、わたしが今置かれている状況は、天国ほどじゃないけど恵まれているんだッッッッ!!
あ、そうと分かると何か元気出てきた。
ここのところ悩みすぎて、未来にも心配かけちゃったし。
うん、何かいける気がする。
明日も張り切って、ノイズを駆逐するぞー!
おーッ!!
#月м日
昨日は『そのときわたしに電流走るッ!!』みたいなノリでテンションが上がってたけど。
やっぱりひよっこなことには変わりないので、せめてアームドギアだけでもどうにかできないかと、司令さんと了子さんに相談してみた。
いや、こういうのは翼さんに持ちかけるのが一番なんだろうけど、あの人わたしとしゃべるの嫌そうだし・・・・。
な、泣いてないもん。
で、その辺の事情を察してくれた二人は、快く応じてくれた。
お二人によると、アームドギアっていうのは、装者の覚悟の表れでもあるらしい。
だから必ずしも槍として顕現するわけではないとのこと。
覚悟・・・・と言われても何にも思い浮かばなかったけれど。
信念なら思い当たることがあったので、それを話してみた。
そしたら、そういうのでもオーケーだということらしい。
『あと一歩だから頑張れ!』って、司令さんが頭を撫でてくれた。
お父さんが生きていたら、今でもこうしてもらえたんだろうか。
◆ ◆ ◆
「響、大丈夫?ちゃんと眠れてる?」
「んー・・・・」
放課後。
危なかった課題を提出し終えた響と並んで、未来は気遣わしげに問いかける。
詳しいことは聞かされていないが。
あの日からノイズと戦うことになったらしい響は、昼夜どころか休日平日問わずに慌しい日々を送っていた。
今までとは全く違う環境で疲れが出たのか、授業中にも度々注意されることがある。
「一回くらい、休めないのかな。いつも眠そうだし、心配だよ」
「んー・・・・でも、翼さんとわたししかいないし・・・・頑張るしかないよ」
気の抜けた顔で笑う響。
しかし疲労が勝っているのか覇気がない。
「あー、でも今日は何も起こらないで欲しいかな。課題も無事クリアしたし!防寒対策もばっちり!早く見たいよ、流れ星!」
「うん、そうだね」
自分の具合などどうでもいいと言わんばかりに、くるくるステップを踏む響。
釣られて未来もまた笑う。
今日は兼ねてより企画していた、親友水入らずの流れ星鑑賞会の日。
寮をこっそり抜け出しての、ちょっとした冒険だ。
小学生のような子どもっぽさを感じてしょうがないが、やはりこういう体験はいくつになっても胸が躍ってしょうがない。
「動画も撮れたら良いんだけどね」
「流石にケータイとかじゃ光量不足で・・・・」
響の言葉を、無粋な着信音が遮った。
一瞬で笑顔が消え去り、湧き上がるように気まずそうな目元が姿を現す。
最近貰った通信機の電源を入れ、すっかり気落ちした様子で耳に当てた。
「はい・・・・はい・・・・」
話し始めた瞬間から引き締まった表情に変わるのは、きっと一ヶ月も経験を積んだからであろう。
翼ほどの迫力はないものの、勇ましさすら感じさせる響に、未来は束の間見とれてしまう。
「・・・・いえ、問題ありません。現場に急行します」
しかし、強くはっきり宣言した響の声で我に返った。
「いっやぁ、人気者はつらいねぇ!」
―――――ここ一ヶ月、一緒に過ごしてきて分かったことがある。
響がわざとらしくおどけるのは、元気付けたいときや、暗い雰囲気を払拭したいとき。
そしてそれらは大抵、響自身に原因があると思い込んでいるときだ。
記憶喪失、そして家族との死別。
それらの古傷が関係しているだろう響の言動。
「未来は先に行って待ってて、マッハで終わらせてすぐに合流するからさ!」
「・・・・うん」
迂闊に触って傷口が開いては大変だ。
故に未来はあえて触れずに、静かに頷くのだった。
「じゃあ行ってくる!夜道には気をつけるんだよー!」
「お互い様でしょう、いってらっしゃい」
それに、響が言うのなら現実になるような気がしたのだ。
だから未来は、信じて送り出す。
◆ ◆ ◆
指示されたポイントは、とある地下鉄の駅だった。
入り口で準備運動をした響は、手足を動かして柔軟をしている。
(思えばこの一ヶ月はバタバタしっぱなし、ついでに心もガリガリ削られるし・・・・)
ここ一ヶ月を想起しながら、大きくため息。
(しかも心労の大半が
考える傍らで聖詠を唱え、飛び込む。
早速迫ってきた一匹を拳で消し飛ばし、続く一匹を蹴り潰す。
(いやいやいや、そうやって八つ当たり的な戦い方はダメだって、師匠にも厳しく言われてるし・・・・)
集中しろと自分に言い聞かせながらも、しかし一度胸に巣食った苛立ちはおさまりそうにない。
師の教えを元にどうにか冷静に振舞おうとしながらも、やはり攻撃が大振りになってしまう。
――――――しかし、迫り来る敵の群れを見て、こうも思う。
(この苛立ちを、人にぶつけるのはもっとダメだよね・・・・?)
自分の力がどれほどのものか、分かっているつもりだ。
それを感情に任せて振るえば、どうなるかも。
しかし、それは人間相手に振るえばという話。
(いいよね?駆逐しなきゃいけない相手だし、そもそも生き物じゃないし、いいよね?ね?)
ふと、わずかに残った理性が、胸のドス黒さが頭にまで達しているのを感じた。
しかし問題ないと判断していまい、すぐに意識を現実に向ける。
横合いから飛び掛る一体。
腕だけを動かし引っつかんで、頭を握りつぶす。
「・・・・今日は出てこなきゃよかったと」
落ちた胴体を残酷に踏みつけながら、ノイズを睨む。
「心から悔いて死ねばいい」
連中が後退した様に見えた。
「あははっ」
見間違いかもしれないが、何だか愉快さを覚えて声を上げる。
沸きあがる感情を抑えず、真っ黒な笑みを浮かべて、
「―――――さあ、蹂躙の時間だ」
師の口癖を唱えた。
「奏さんの代わりになる」と言わないのが拙作ビッキー。
知らないもんね、無理ないね。
ちなみにみなさん、お師匠は原作キャラだと思います?それともオリキャラだと思います?
その辺も含めて、楽しくご想像くださいな。