誠にありがとうございます。
秋桜祭。
リディアン音楽院が主催する文化祭の名称である。
学生達が気合を入れて装飾した敷地内を、外部から招かれた一般人が闊歩する。
「あー・・・・」
とある一角。
何というか、ごつい見た目の男が気だるげに立っていた。
服装自体はカジュアルで、別段問題ないのだが。
右肩から首にかけて刻まれた刺青と、目元を隠すサングラスが、彼の雰囲気を一気に『そっち』の人に変えていた。
あからさまに避けている人の流れが、『関わりたくない』という意思を正直に表している。
「完全にはぐれたな」
まいったなと言いたげに、がしがし頭をかく男。
どうやら同行者とはぐれてしまったようだ。
やがてここにいても埒が明かないと判断したのか、ゆったり歩み始めて。
「うわ!」
「っとと・・・・」
足元に衝撃。
見下ろせば、小学生くらいの子どもが尻餅をついているところだった。
視線をさらに下げると、ズボンが汚れている。
子どもが持っていたアイスが、ぶつかった拍子についてしまったようだった。
「ごっ・・・・あ、う・・・・」
咄嗟に謝りかけた子どもは、ぶつかった人物を見上げて言葉を失う。
いかつい見た目に臆してしまったようだ。
男はため息をついてしゃがみこみ、子どもと目線を合わせて。
「悪ぃな坊主?お前のアイス、俺のズボンが食っちまった」
にやっと笑いかけ、きょとんとする子どもの顔を面白がりながら、続ける。
「ちょうどそこに店もあるし、奢らせてくれや」
「・・・・う、うん」
言うなり列に並んだ男は、宣言どおり子どもにアイスを奢っていた。
「次は気をつけろよー?」
「うん!おじさんありがとー!」
ぶつかっても怒るどころか、許した上に新しいものを買ってくれた男に、子どもはすっかりなれたらしい。
別れ際に大きくてを振り、笑顔でお礼を言っていた。
(あ、意外といい人)
一連の様子を見ていた周囲の人々は、ほっと胸をなで降ろす。
◆ ◆ ◆
I月L日
きゃっほーい!秋桜祭ダー!
・・・・って、もろ手で盛り上がれたらよかった。
いや、途中までは普通に文化祭だったんだよ?
だけど、まさかステージにあの子達が出てくるなんて思いもしないっしょ?
乱入もありとはいえ、鎌の子と丸鋸の子が出てくるなんて誰が想像つくよ・・・・。
当然追いかけてったけど、まさか学校で戦うわけにも行かなくて。
結局、決闘の約束を取り付けて見逃すことになってしまった。
P.S.
ついでに叶さんも来ていた。
グラサンといい、刺青(師匠と同じく、あれがカラド=ボルグの待機状態っぽい)といい。
どう見てもその道の人にしか見えなかったよ・・・・。
あと、あの二人。
シラベちゃんとキリカちゃんは、歌がむっちゃ上手かった。
正直、可愛かった。
I月Y日
決闘の約束しようが、日常は続くものです・・・・。
クラスメイト達は、昨日のステージについて大いに盛り上がっていた。
確かにクリスちゃん可愛かったよね。
本人にいったら蜂の巣にされそうだけど・・・・。
それから、シラベちゃんとキリカちゃんについても。
事件のこと何にも知らなかったら、普通に歌が上手い二人組みだよね。
・・・・何も知らないって、こういうときちょっと羨ましい。
I月D日
秋桜祭最終日。
今どきキャンプファイヤーするなんて珍しいと思う。
それはそれで趣があってよかったけれども!
未来はもちろんのこと、弓美ちゃんや詩織ちゃん、創世ちゃん達ともフォークダンス。
楽しかったです。
◆ ◆ ◆
「――――それじゃあ改めて、あなたたちが見たものについて教えてくれるかしら?」
「う、うん」
「分かり、ました・・・・」
都内のある廃倉庫。
数日前、原因不明の爆発が起こり。
さらにノイズの反応が検知されたこともあって、周辺住民を不安にさせた。
もとより誰も足を運ばない場所。
目撃者が望めなかったこの事件だったが、意外にもいたのである。
それが、ティアナがつれていた少年達だった。
地元の野球チームに参加している彼らは、その日の練習帰りにここであったことを目撃したらしい。
下手人達とも一言二言会話したとかで、しばらく黙っていようと思っていたが。
緒川を始めとした二課の面々が調べだしたのを見て、『自分達が喋ったと思われたらどうしよう』と、現場を覗いていたのを同行していたティアナが発見。
『悪い人達にバレないよう、守ってあげる』と何とか説得し、今に至る。
「不思議だと思ったこと、変だと思ったことも遠慮なく話して。突拍子も無い内容でも、十分ヒントになるから」
真っ黒に煤けて散らかった屋内を見渡しながら、ティアナが笑いかければ。
少年達は互いを見合って、こっくり頷いた。
「始めは、工事だと思ったんです。大きな音がして、人の声が聞こえて」
「そうそう、ここ誰も使ってないって話だったから、解体作業でもしてるのかなって気になって、覗いたんだ」
周囲を見渡すことで、当時を思い出しているのだろう。
とつとつ語り出す。
「それで?」
「そしたら機械もないし、だけど音は聞こえるしで変だなって」
「それで、中を覗いたんだ」
子どもは危機管理能力が未熟な分、大人でも制御できない『野次馬根性』が強い。
好奇心に負けて、近づいてしまったらしい。
「そしたら、人が・・・・多分外国人だと思うんだけど、いっぱい倒れてたんです」
「始めは死んでるのかなってびっくりしたけど、唸ってたから、多分生きてたんだと思う」
「それでそれで、その真ん中・・・・ちょうどここの辺に、女の人が立ってたんだ」
少年の一人が徐に歩き出し、部屋の中央から少し奥まった場所に立つ。
「どんな格好だった?顔は見えたのかしら?」
「格好はなんていうか・・・・ろしゅつ?っていうんだっけ、肌が結構出てた・・・・」
「顔は見えなかったけど、その・・・ぉ、おっぱいあるの分かったから、女の人だなって」
「あとあと!海賊が持ってるみたいな剣持ってました!」
「よく分かったわ、ありがとう」
服装について語るとき、少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
ティアナは年頃の反応を見せる彼らを微笑ましく思いながら、気にするなと言う意味を込めてお礼を告げる。
「それで、君達はどうしたの?」
「大変だって、オレ達も危ないから逃げようって思ったんだけど・・・・」
少年達の顔が、青ざめる。
「ノイズ、が・・・・ノイズが、いつの間にか後ろにいて・・・・死ぬって思って」
「そしたら、その女の人が倉庫から飛び出してきて・・・・どうやったかは分からないけど、多分助けてくれたんだと思います」
「でも僕たちが見ちゃったのを怒ってたみたいで、すっごい怖い顔で睨まれて・・・・!」
『その後は無我夢中で逃げ出した』と、目元にじんわり涙を浮かべながら締めくくった。
「・・・・まずは無事でいてくれてよかったわ、よく逃げ切った。えらい!」
ティアナはしゃがんで視線を合わせ、怯える少年達に言い聞かせる。
「それからご協力ありがとうございます。正直目撃者はいないって思っていたから、貴重な情報よ」
『お手柄だ』と彼らを見渡して、笑いかける。
「後はわたし達に任せてちょうだい、悪い人は懲らしめてあげるから!」
「う、うん!」
「お願いします!」
恐らく、男の子だからと意地を張っていたのだろう。
必死に涙を堪えていた彼らに、ガッツポーズしながらウィンクしてみせれば。
少年達も目元を拭って笑った。
持ち直した彼らのためにも、解決の糸口だけでも掴まねばと。
ティアナは決意を新たにする。
「四期ー!?すごーい!やったー!」とどったんばったん大騒ぎしている自分です。
夏が待ち遠しい・・・・!