何が良いかと悩んだ挙句、来宮静間① からカットした冒頭をプロローグとして載せてみました。
自分と歳のそう変わらなそうな、ジャージ姿の少年。彼は光の太刀を携え、無機質な怪物へ立ち向かう。
特撮か、はたまたSFか、テレビ越しに見える光景を国近柚宇はぼうっと眺めていた。
画面に映るそれは現実離れした物に思えたが、ニュースの字幕とキャスターの言葉が、彼女の思考を否定する。
未だに記憶に新しい大事件、大規模侵攻。
現代兵器を歯牙にも掛けずに市街地を蹂躙する怪物、颯爽と現れてそれらを倒してみせた謎の一団。
ボーダー
そう名乗った謎の一団は、今やニュースで近況を報じられるのにも違和感を感じない程度には、世間に受け入れられていた。
「ヨノナカって意外とゲームっぽいんだなぁ」
ポツリと呟いた国近のもとに、ボーダーからのスカウトが訪れたのは、その一週間後のことだった。
*
「お疲れ様。今日のオペレートはどうだった?国近さん」
背中から声をかけられ、脱力して崩れた姿勢を正して国近は振り向く。
指導役の先輩オペレーターは、微笑ましそうにクスリと笑った。
「えーと、動きの多さというか、自由度の高さというか……選択肢が多くてワタワタしちゃったかなぁ……と」
進化の目覚ましいゲームに慣れているとはいえ、プログラムに縛られない生きた変化を目の当たりにすると、その情報量に戸惑ってしまう。
訓練の日が浅い国近の現状は、概ねこのようなものだった。
後輩の答えを聞き、先輩は笑みを深くする。
「まだまだはじめたばかりだもの、できなくて当たり前よ。終盤はちゃんと優先度で割り切って、要点を伝えられていたから上々ね」
予想以上の評価に、国近の口角がニマッと上がる。慣れないもので褒められると、やはり嬉しい。
「国近さんは、この後どうする?」
「ランク戦室に行って、模擬戦を眺めたいなぁって思います」
「そう、行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございました〜」
ぺこりと頭を下げ、オペレータールームを後にする。
アクションゲームにも見劣りしないトリガー戦闘。それを小さなディスプレイではなく、ランク戦室の大スクリーンで観られると思うと、彼女は楽しみで仕方がなかった。
*
白い隊服を纏った二人が勢いよく走り込み、交差の瞬間、同時に手にした太刀を思い切り振るう。
硬質な音を響かせた直後、一人は僅かに体勢を崩し、一人は手から得物を零す。その手の甲が浅く切り裂かれていた。
太刀を拾おうと慌てる相手へ、優勢な隊員は一足に踏み込み、焦ることなく斬り伏せた。
「おお……!」
オペレーターのスーツから、ラフなパーカーへと装いを変えた国近は、スクリーンに映る戦闘の迫力に声を上げる。
数メートルを瞬時に詰める跳躍、残像を残す刃の軌跡。
先程オペレートした正隊員に比べれば拙いものの、トリオン体の身体能力から繰り出される動きは、彼女の期待を裏切らないだけの見応えがあった。
観戦の余韻に一人浸る。
確かな満足感を噛み締めているその時だった。
「模擬戦をご覧になるのは初めてですか?」
不意に右隣から声をかけられる。
落ち着き払った声音、敬語の口調。
それらはスッと耳に入り、不思議と驚くことなくそちらを見ることができた。
丈の長いグリーンのモッズコートを羽織った少年が視界に入る。大人びた雰囲気からもしかしたら青年と呼んだ方がいいかもしれない。
癖のない黒ミディアムヘアが、癖毛の彼女には羨ましく感じられる。
「えっと、どちらさまでしょうか?」
取り敢えずの問い掛けに、彼は、いきなりすみません、と、一言零し続ける。
「俺は一応、ここで正隊員を務めています。来宮静間と言います……見慣れない方がいらしたので、新人の方かと思いまして」
模擬戦の相手に困っているのではないか、と気にかけてくれたらしい来宮へ、国近はゆるりとかぶりを振る。
「ダイジョウブですよぉ、新人は新人でも、わたしはオペレーターなのでお構いなく〜」
その答えに、彼は苦笑いを浮かべた。
「それは余計なお節介でしたね、ええと……」
「わたしは国近柚宇です、どうぞよろしくおねがいします、キノミヤさん」
ニヘラと笑みを浮かべて、右手を差し出す。
来宮は彼女の無警戒さに面食らい、けれどもそれをすぐにおさめて握手を交わす。
「これはご丁寧に、こちらこそよろしくおねがいします、国近さん」
初対面とは程遠い緩い空気。その可笑しさにどちらともなく小さく吹き出す。
「おーい、来宮!ブース空いたからもうワンセットやろうゼ」
そこへ来宮を呼ぶ声が届く。
「はい、慶さん、少しだけお待ち下さい!……すみません、先約からの呼び出しのようで、それでは失礼します。ではまた」
「ん、またねぇ〜」
軽く頭を下げて足早に去る彼に、国近は手を振り、その背中を見送った。
「キノミヤ シズマさんかぁ………シューターあたりかなぁ……」
なんとなく、大雑把に来宮のポジションを予想してみる。
とても穏やかそうな人物だった。それだけに、近距離でガツガツ戦闘する姿は想像しづらい。
「せっかくだし、もう少し模擬戦見てこうかな〜」
好奇心からひとつ、彼女は呟く。
数分後、彼の戦闘に度肝を抜かれる新人オペレーターがひとりいた。