背後に佇む三日月と   作:303

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迅悠一①

 

「お断りします」

 

 

夜の三門市、その市街地の端。かつて商店街として栄えたそこは、他所の例に漏れずシャッター街となりつつある。

昼にも増して人気の引いた通りで対面する2人の青年。

にこやかに勧められたぼんち揚をにべもなく来宮が突き返すが、迅は余裕のまま。

 

「こんな時間に外で立ち話もあれです、場所をまず変えましょう」

 

その表情は、この発言が見えていたが故のものだった。

 

 

 

 

 

「へぇ、これまた凝った所だな」

 

カフェひだまり。柔らかい独特のタッチで綴られた木の看板、古めかしさと手入れの行き届いた清潔感が同居した店構に迅が思わず声を漏らす。

 

「俺の趣味があんなですから、しょっちゅう街を歩くうち見つけたんです」

 

 

「おまえらしいね〜、ゆったり過ごしてるっていうか」

 

シフトでいえば、エリートを自称する自分といい勝負をするぐらいには多忙なはず、それなのにこの差はなんだろうか?そんな内心を抱きつつ、来宮に倣い店主へ会釈し、奥のテーブルに座る。

 

「で?密談の内容はなんでしょうか?」

 

「人聞き悪いねー、この実力派エリートをつかまえて」

 

「その自称と悠一さんの趣味、怪しさ満点ですよ?」

 

「ヒドイなー」

 

少し冗談めかした来宮の口調に、迅も軽い調子で返す。気心が知れている相手との恒例に悪ふざけ、そこへウェイターが歩み寄る。

 

「失礼します、カプチーノにエスプレッソになります」

 

注文の品をそれぞれ手に取り、ウェイターが立ち去るのを横目に、口を潤す。カップを置いた2人は緩やかな表情のままに瞳に真剣な色を宿す。

 

「ま、静間が相手だし、取り繕っても仕方ないから単刀直入に言わせてもらうよ」

 

来宮を見据えて、迅が口を開く。

 

 

 

 

 

「おまえと国近ちゃんに、トップチームの敵になって欲しい」

 

 

 

 

剣呑な物言い、自分とともに挙げられた名前。スッと来宮の目が細まり、表情が失せる。

 

「敵対する経緯は?」

 

「今度の遠征、その期間の終盤、ボーダーの派閥争いが動く」

 

「確定ですか、トップチーム、つまり城戸派に着くのはまずいと?」

 

「ああ、まずい、正確には、うちが関わり引き入れる存在を城戸派が潰しに来るんだけど、それを潰されるのがどうやらよろしくないらしい」

 

城戸派と玉狛派。それらの隔たり、そしてそれが表面化せざるをえない要因。

 

「……ネイバー、それもブラックトリガー絡みですか?」

 

その言葉に迅が頷く。

 

「間接的に見た未来だから断言できないけど、ほぼ間違いない、そしてそれを巡って、おれと帰還したトップチームがぶつかることも」

 

「良くて五分、敗色が濃厚ですね、敗北した場合の不利益は?」

 

「手に入る筈の戦力の喪失、後に来る侵攻への対応の遅れとそれに起因する被害拡大、まず血を見ることになる」

 

「それを避ける手立てが俺ですか?」

 

そう問えばかぶりを振られる。あくまで保険だと。

 

「本部長がことの強行をよく思わない、それに木虎がそのネイバーとそいつの友人に関わる未来が見えたから、嵐山隊が八割方戦列に加わってくれる」

 

「それならば十分では?」

 

「それでも万が一おまえが向こうに着けばひっくり返るし、そうじゃなくても冬島さんの参戦の有無がまだ揺らいでる、万全を期したい、頼む、力を貸してくれ」

 

その前に幾つか

そう言って迅に瞳を据えて来宮が続ける。

 

「ユウさんをこちらにつける理由は?」

 

「おれには予知、嵐山隊には綾辻ちゃんがいるが、静間の眼がいないだろ?5人サポートとなると彼女でも綻びは出てくるし、相手のオペレーターは十中八九月見さんだ、戦術の師範代相手に不慣れな状態は得策じゃない」

 

「宇佐美さんではダメなのですか?」

 

その問いに迅は首を振る。

 

「おまえが冗談めかしたけど、これも暗躍だからね、玉狛の面々だとボス以外知られたくないんだ」

 

「そうなれば、無派閥かつ俺に近しく、相手戦力をよく知るオペレーター、ユウさんはうってつけでしょうね、しかし」

 

「国近ちゃんなら静間の頼みは断らないよ、サイドエフェクトで見なくてもわかる、それとプランAは穏便に済むはずだし、Bに移行してもとっておきの交渉材料がある、国近ちゃんや嵐山隊はもちろん、静間の立場に悪影響はない」

 

「……いいんですね?」

 

「ああ、最上さんも怒りゃしないよ」

 

気の抜ける笑みで手を横に振る彼に、来宮はため息を吐く。こんな時ほど意志が固いのだ、なら言うだけ変わらないのだろう。

 

「わかりました、そちらにつきましょう」

 

了承した来宮の表情は、穏やかさを取り戻していた。

 

 

 

 

1週間。

 

同盟と呼ぶには小さな、しかし、多大な影響を及ぼすだろう協力関係が築かれてから、それだけの期間が過ぎた。

 

いざ関係を結んだからといって、小説や映画のような急展開がある訳でもなく、一つの区切りの日は、普段の平穏と地続きにやってくる。

 

 

 

ボーダー本部。その中央に位置する地下に、独特の駆動音が響く。トリオン兵にも見えるシルエットの遠征艇の前に、A級トップチームの面々が顔をそろえる。

 

「おいっ、冬島、未知のトリガーとトリオン技術、この機会に必ず手に入れろ、いいな!」

 

「わかってますって、鬼怒田室長、ただなぁ、酔い止めも気休めでしょうし」

 

憂鬱だ。

そう漏らす冬島の背を鬼怒田がたるんどると叩き、当馬がそれを宥める。

 

「おう、来宮、見送りサンキュー」

 

そんな様子を眺める来宮に太刀川が声をかける。

 

「レポートは終わったんですか?慶さん」

 

「その話は止めてくれ、さすがに終わった」

 

冷や汗を流し苦笑いを浮かべる太刀川に2人の影が歩み寄る。

 

「太刀川さんってば、それならはじめから貯めなきゃいいのに」

 

「そんな暇あるならランク戦やるに決まってる」

 

呆れ顔の出水にドヤ顔を決める。

 

「太刀川さんはそうだよね〜」

 

「ま、変わるなら苦労しませんね」

 

それを横目に、国近が同意を求めつつ話しかける。それに頷き、来宮が彼女へ視線を向ければ、なぜかじっと見つめられる。

 

「どうしました?」

 

問いへの返答に、両頬を引き伸ばされた。

疑問符を浮かべていれば、唐突にその手を離される。

 

「表情が硬いよ〜?」

 

「そんなにですか?」

 

指摘され頬を撫でる来宮。先日の件からの緊張が、僅かに顔に出ていたらしい。深呼吸を一つして表情を改めた。

 

「うん、よろし〜」

 

それを見て国近が頷く。

 

「ユウさんは緊張しませんか?まだ2度目ですよ?」

 

「キノさんが応援してくれたからね」

 

百人力だよ?

 

そう戯けて見せる様子に自身も笑みを浮かべ、その赤茶の髪をクシャリと撫でる。されるがまま猫のように目を細める国近へ言葉を贈る。

 

「行ってらっしゃい」

 

「ん、行ってきます」

 

 

 

 

 

「おーい、そろそろ時間だ、行くぞー」

 

心地よさげな表情で彼女が返せば、ちょうど太刀川から出発の声が掛かった。

 

 

 

 

程なくして、クルーの搭乗を終えた船体が浮き上がる。

辺りに響く動力の音が、徐々に高さを増していく。

 

 

 

 

来宮が見送るそのなかで、遠征艇はゲートの向こう、夜の海へと飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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