背後に佇む三日月と   作:303

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本編開始、少し短いです。



小南桐絵①

とある交差点、自分の小わきを通り抜ける影に、来宮は咄嗟に手を伸ばした。

 

「おぐぅっ」

 

ブレザーの襟を掴まれて、白髪の少年が呻き声をあげる。

 

「む、おれは急いでるんだが?」

 

「いやいや、いくら急いでいても今のは止めない方がまずいですよ」

 

「まずい? 何が?」

 

口を尖らせる少年に、赤信号を指し示す。それになぜか首を傾げた彼だったが、数拍おいてぽんと手を打つ。

 

「おお、そうだった、赤は止まれだったな」

 

その反応に、逆に来宮が首を傾げた。

 

そこからですか?

 

物心ついた人間なら、誰もが知る常識。それの欠如を匂わせる言動に疑念を抱く。

 

「失礼ですが、君はどこから?」

 

「ガイコク、たぶん言ってもわかんないよ?」

 

所謂帰国子女というものだろうか?季節外れに真新しいブレザーの着慣れない雰囲気に、なりふり構わず行き過ぎようとした先ほどの様子。一抹の不安を覚える。

 

「君、行き先は?」

 

「?ボーダー、玉狛支部だよ」

 

「玉狛」

 

予想外に覚えのある名があがる。

 

「案内しますよ?」

 

「いいのか?というか、もしかしてボーダー?」

 

「ええ、その通りです……ええと」

 

「ユーマ、空閑遊真、よろしく親切さん」

 

その呼び方にクスリと笑う。

 

「親切さんではありませんね。俺は来宮静間と言います」

 

それに頷き、ところでと空閑が問う。

 

「シズマさんは玉狛で見なかったけど?」

 

「俺は本部の隊員ですから、師がそちらで支部長を務めてまして」

 

「なんと……!、ボスの弟子なのか」

 

空閑が驚きを露わにし、目を見開くのを横目に来宮も問いかける。

 

「そういう空閑さんは」

 

「遊真でいいよ」

 

「では遊真さんで」

 

堅苦しいな、と空閑が漏らし、それに来宮が苦笑いで応えて続ける。

 

「遊真さんは、玉狛の新人さんということでいいのでしょうか?」

 

「ああ。小南先輩の弟子やってる」

 

今度はこちらが驚かされる。あの奔放な少女に、師弟の言葉が結びつかなかった。その感情もそこそこに、来宮は左手首の時計を一瞥、横断歩道に視線を移す。

 

では、行きましょう。

ちょうど青に変わる信号を見やり、2人は支部へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

「珍しいね、来宮さん、今日はどうしたの?」

 

 

玉狛支部。河川調査の施設を改装したアットホームなその場所で、オペレーター、宇佐美栞に出迎えられた。

 

「お久しぶりです、宇佐美さん、実はですね」

 

「ただいま、しおりちゃん」

 

説明しようとすればニュッと来宮の影から空閑が顔を出す。

 

「あっ、おかえり遊真くん」

 

挨拶を交わし、先ほどの一幕をかいつまんで話す。

 

 

 

「なるほどねー、気をつけないとダメだよ?」

 

「ふむ、面目ない」

 

客間で事情を聴き、嗜める宇佐美と芝居掛かった返しをする遊真。2人の緩い空気に、どこかの誰かさんを重ね笑みを零した時だった。

 

けたたましく扉が開く。

色の薄い長髪を翻し、辺りを見渡した少女がこちらを見据えた。

 

「今の声、やっぱり来宮さんきてたのね!今日こそ勝負よ、勝負!」

 

勝気な声が部屋に響き、来宮静間と小南桐絵。2人のマッチアップが問答無用で決定した。

 

 

 

 

古参の少女に引っ張られるまま強引に組まれた模擬戦。

攻撃手と射撃手。ポジションは違えど接近戦を主とする来宮と小南は、幾度となく互いの間合いへ踏み込み、その度に激しく火花を散らす。

 

一進一退の攻防が続くなか、不意に2人が距離を取った。

 

空白は一瞬。戦況は再び動き出す。

 

ヒュッと風を切る音がした。

無機質な空間を小南が手斧を両手に駆け抜ける。

地を掠めんばかりの低い体勢で目指すその先では、来宮が自然体で待ち受けていた。

互いが衝突しようかという距離で、小南が踏み込みと同時に垂直に跳躍、飛びざまに繰り出した二連の斬撃は、対する来宮がシールドによってこれを阻み、彼女を視線で追いかける。

見上げた先では、上下逆さまの体勢でこちらにトリオンキューブをかざし、小南が好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「メテオラ」

 

その言葉と共に8分割されたキューブが打ち出され、来宮を爆煙が包み込む。

煙の隙間にシールドの影を確認しつつ、彼女は攻撃の手を緩める気はない。即座に手斧、双月を連結させ、身の丈ほどの戦斧へ変形、爆煙で視界の効かぬ敵を防御ごと叩き割らんと、追撃の一振りを豪快にくりだす。

 

ガラスを砕くような音を鳴らしシールドが散る。

一撃の圧力で晴れる爆煙。しかし小南の眼前には、あるべき来宮の姿はなく、緑の破片が舞い散るばかりだった。

 

舌打ち一つ。

小南が勘に従い、背後へ双月を思い切り振るえば、ズガンという衝撃と共に、迫っていたアステロイドの掌底を相殺した。

 

反動で飛び退いた2人の視線が交わる。

 

「シールドを囮に、煙の中に避けて奇襲。言うのは簡単だけど、メテオラの範囲がそこまでシビアにわかるもん?」

 

「互いの距離に弾速、あとは逆算と勘ですかね」

 

「あの一瞬でそこまで判断出来るとか、相変わらずね」

 

「伊達に4年、ネイバーと戦ってませんよ」

 

「なら、あたしが何年戦ってるとおもってるのよ」

 

軽口を叩きつつ、小南が踏み込み連撃に移り、来宮は両腕に集中のシールドを展開、小手の様に追随させてその暴風を捌いていく。

流れるような乱舞、一振り一振りが確実にシールドを破壊して有り余る威力を秘めた斬撃。それを寸分の狂いもなく来宮は受け流す。

 

攻防が加速する最中、不意に連撃が不自然に止まった。

小南が感じた違和感の先は、振りかぶった双月の刃、その付け根。

見れば小さなシールドが、斬撃を出始めで押さえ込んでいた。

瞬間動揺する小南を容赦なく必殺の掌底が撃ち抜く。

 

 

 

 

 

 

「メテオラ」

 

その言葉が彼女から発せられたのは、彼女自身の戦闘体が崩れゆくその時だった。

 

 

 

ドォン

 

 

 

いつの間にか来宮の足下に置かれた一つのキューブ。それが絶好のタイミングで炸裂した。

 

「っく」

 

苦悶を漏らしながら爆発から逃れ出る来宮は、左半身を失い、その戦闘体からは止めどなくトリオンが溢れ出る。

 

 

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

来宮と小南。2人は同時に戦闘不能となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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