背後に佇む三日月と   作:303

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トップチーム①

「ちょっと、もう少しゆっくりしてけばいいじゃない!」

 

玉狛支部の門前、そこで小南が一つの抗議を上げる。

 

「まあまあ、来宮さんだって予定があるんだから」

 

「でも、模擬戦だってはんぱなのに、モヤモヤするでしょ!」

 

「そもそも、本人無視して引っ張り込んだのは誰だったかなー」

 

「むぐっ」

 

嗜める宇佐美の言葉になおも不満気な小南だが、自らの行動を指摘されて言葉に詰まる。

 

「……小南先輩は勝ち逃げされたくないだけだよね?」

 

「なっ!?」

 

追い打ちに緩い表情で弟子に図星を突かれれば、そこへ恥ずかしさまで追加され、彼女は来宮と空閑を慌てて見比べる。

見かねて来宮が言葉を挟む。

 

「2人とも、ひとまずそこまでで、すみません、小南さん、どうしても外せない予定でして」

 

彼に困った様な笑みを向けられ、小南も仕方ないわねと矛先をおさめる。その後ろでニヨニヨと笑う2人の様子に、また彼女は弄られるのだろうなと、内心で苦笑いしてその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『ゲート発生、ゲート発生』

 

 

ボーダー本部中央。そこにアナウンスと共に放電に似た音を鳴らし漆黒のゲートが開く。

 

『遠征艇が着艇します、付近の隊員は注意してください』

 

独特のフォルムの遠征艇が地に足を着け、城戸派一党が見守る中、トップチームが帰還を果たした。

 

 

 

 

「ん〜」

 

少し懐かしさを感じる作戦室。慣れ親しんだその空間で、国近柚宇はひと伸びした。

 

前回の遠征同様の任務報告、それにしては少し時間がかかっていることにふと気づき、時計を見つつ小首を傾げる。何か問題でもあったのかなと独り言ちたその時だった。

 

コンコンと軽やかなノックが響く。

 

不意のことに思わずビクリと肩を跳ねさせ、一呼吸おいてそれに応える。

 

「ほーい、どちらさまでしょうか?」

 

「今、大丈夫ですか?」

 

その緩やかな声に、落ち着きはらった声が返る。途端に彼女は扉へ駆け寄り顔を出す。

 

「おかえりなさい、ユウさん」

 

赤茶の髪を揺らす姿を視界に収め、黒髪から覗く瞳が緩められる。

 

「ただいま、キノさん」

 

そんな来宮の様子に、国近は眠た気な目を細めて笑みを咲かせた。

 

 

 

2人はそのまま作戦室に入り、隣り合ってソファに座る。

 

「……ここに来るのは、久しぶりな気がしますね」

 

「うん、ほんと、久しぶりだよねぇ」

 

いつかの様な冗談交じりなどではなく、ポツリ、ポツリと言葉が零れる。

 

そこから数秒か、はたまた十数秒か、心地よい沈黙が続くなか、それを振り切る様に来宮が口を開く。

 

「ユウさん」

 

変化は僅か。けれども確かに真剣味を帯びた声音に、国近は表情を改めて来宮へ顔を向ける。

 

「……お願いしたいことがあります」

 

ただならぬ予感、聞き逃してはならないと、彼女は耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「ネイバーが玉狛支部に入隊!?なんだそりゃ!」

 

当真勇は困惑して声をあげる。

帰還報告後早々の新たな任務、こちら側へやってきたという人形ネイバー、それの所持するブラックトリガーの確保というのはまだいい。しかしそのターゲットがボーダーに入隊とは、聞き間違いかと思わず口を突いて出た。

それに対して、玉狛の技術者は元々ネイバー、あり得ることだろうと返した風間蒼也は続ける。

 

「今回の問題はネイバーがブラックトリガー持ちだということだな、玉狛にブラックトリガーが二つとなれば派閥間のパワーバランスが崩壊する」

 

顔の傷をなぞり城戸正宗がそれに頷き、太刀川、当真、風間を見据える。

 

「そうだ、それはけして許されない、お前たちには何としてもブラックトリガーを手に入れてもらう」

 

衝突がほぼ確定的な玉狛の面々、ボーダー最強の部隊に風刃と件のネイバー。トップチームといえども全て相手取るには現実的ではない戦力。

木戸の言葉を皮切りに、上層部、現状を知る三輪、奈良坂も加わり、作戦の大枠がまとまっていく。

そんななか、不意に太刀川が言葉を挟んだ。

 

 

 

「今夜にしましょう、今夜」

 

 

 

余裕のある笑みからの一言。目標の特性を考慮した判断に、城戸派の動きが加速する。

 

 

 

深夜の警戒区域。

虫の音さえ止むゴーストタウンをトップチーム、三輪隊の混成部隊が直走る。

 

「おいおい三輪、飛ばしすぎじゃないか?着く前に疲れちゃうぜ」

 

先導する三輪に、軽い調子で太刀川が声をかける。

 

やっぱりこの人は苦手だ。

日中のやり取りでも感じたものに、三輪は内心で呟く。飄々とした掴み所のない雰囲気。彼の醸し出すそれが、何故か昔から苦手だった。

 

「止まれ!!」

 

思考の最中、太刀川が突然静止を呼びかけた。

耳障りな摩擦音を鳴らし、全員が急制動をかける。そして向けた視線の先には、1人の青年の姿があった。

 

 

 

「やあ、皆さん、こんな夜中に精が出るねー」

 

迅悠一。ブラックトリガーを所有する、玉狛支部の最高戦力。

 

「なるほど、そう来るわけか」

 

静かに待ち受ける彼の様子に、太刀川は一つ頷き、その横で三輪が声を荒げる。

 

 

「迅っ!また性懲りも無く」

 

邪魔をするのか。

三輪がそう続けようとするのを太刀川が手で制し、迅に視線を向ける。

 

「今、俺たちの前に立ち塞がるってことは、その目的も、もちろんわかってるわけだ?」

 

「うちの後輩にちょっかい出そうっていうんだろ?生憎と、それをやらせるほど緩くはないつもりでね」

 

ニヤリと笑う太刀川に対して、迅は相変わらず飄々としたまま応える。続いてそこへ、徐に風間が歩み出た。

 

「模擬戦、ランク戦外の隊員同士の戦闘はボーダーでは禁止事項に当たる。厳罰を受けるその覚悟があると捉えていいんだな?」

 

冷淡な警告。

 

「風間さん達だってそうだろ?」

 

「なに?」

 

対する迅が問い返し、それに風間が眉を顰める。

 

「あいつは正式な手続きを踏んで入隊した、立派なおれ達玉狛の後輩だ、それでもこと構えるっていうならそっちこそ、その覚悟があるんだろう?」

 

排除するべき対象を擁護する言葉。三輪の憤りが一層深まり、叫ぶように吐き出された。

 

「ふざけるな!ネイバーを匿っている方便だろうが!!」

 

「ネイバーの入隊が不可能なら、そもそもうちにエンジニアはいない、それに今言ったはずだ、正式な手続きで入隊したってね」

 

「いいや、残念ながらそいつはまだ野良ネイバーだぞ?」

 

暖簾に腕押し。柳に風。そんな様相の問答に、太刀川の声が割って入る。

自然とそちらに視線が集まった。

 

「本部の正式入隊日は1月8日、それまでなら、俺たちがその後輩を狩ろうとなんら問題ないわけだ」

 

相手の正当性を示す言葉。しかし迅の表情は揺るがない。

 

「たとえそうだろうと、実力派エリートとして、渡すわけにはいかないな」

 

「あくまで抵抗を選ぶか、遠征部隊に選ばれる意味、それを理解していないおまえではないだろう、それでもなお勝てるつもりか?」

 

「いくらなんでもそこまで自惚れられないさ、トップチームにA級7位の三輪隊、おれが風刃を抜いてもいいとこ五分」

 

何度目かの風間の問いにかぶりを振り、そこで迅は笑みを浮かべた。

 

「けれどそれは、おれ1人の話だ」

 

敵はおれ1人ではない。

暗にそう告げたタイミングで、3つの影が廃屋に降り立つ。赤の隊服を纏う黒髪の青年が、爽やかな声音で名乗りを上げる。

 

「嵐山隊、現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」

 

「嵐山隊だと!?」

 

嵐山、時枝、木虎の3人を目に、三輪が驚愕を見せる。

 

「すまないな迅、遅くなった」

 

「いや、いいタイミングだ、嵐山」

 

 

 

「…………嵐山隊、忍田本部長派と手を組んだか」

 

迅と嵐山、二人のやり取りを目に太刀川が呟く。

派閥間のパワーバランスは完全に覆り、城戸派にもはや猶予はない。風間が焦りを滲ませる。

 

「おれと嵐山隊が組めば、はっきり言ってこっちが勝つ、おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

一転して不利となった戦力差。迅の通告に、しかし太刀川は好戦的な笑みを見せる。

 

「おもしろい、久々の本気ってわけか」

 

かつて渡り合った好敵手。降って湧いた再戦の機会。逆境という燃える展開も手伝い、太刀川の感情が昂る。

「…………おまえの予知、覆したくなった」

 

戦意の滲むその言葉を皮切りに、各々に武器に手をかける。一様に臨戦態勢に入ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回ばかりは、覆されては困るんですよ」

 

 

 

 

 

 

レーダーに映る新たな影。

風に乗り、一つの呟きが耳を振るわせる。

それにつられて見上げた先には、腰だめにキューブを構え、宙を舞う来宮の姿。

 

 

 

「回避!!」

 

風間が叫ぶとほぼ同時。

 

 

 

 

 

 

「ギムレット」

 

 

 

 

 

 

光の雨が降り注ぎ、その咆哮が開戦を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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