背後に佇む三日月と   作:303

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三輪秀次①

ベイルアウトの光を見届け、来宮は残心を解いた。

 

トリオンを帯び薄黄緑に染まる瞳。それが冷めるように灰色へともどる。

 

感じる疲労を押し殺して歩を進めるが、途端に来宮の頭を軋む様な痛みが襲う。

思わず膝をつき、きつく眼を閉じてグラグラと揺れる不快な感覚をじっと耐える。

 

「ッ……ハァ……」

 

『キノさん、ストップ』

 

浅く息を吐き、尚も立ち上がろうとする来宮を、みかねて国近が制止する。

 

「……ユウさん、ですが」

 

『ですが、じゃないよ……!あんなギリギリで全力集中なんてするんだもん、話すのだって辛いよね?』

 

「いやぁ、あの状況で、確実に仕留めるなら、重反射(カタパルト)が手っ取り早かったもので」

 

『……もう』

 

途切れ途切れな彼の言い訳に、国近が溜息を吐く。

自らを省みない行動への憤り。それを言葉はしに漏らしつつ声を荒げないあたりに、来宮への配慮が伺える。

 

「……すみません」

 

察して零れたのは、弱々しい謝罪。

 

『ん、自分で言い出したからには……て言うのはわかるけど、あんまり無理したら、やだよ?』

 

返す言葉に咎める色が消え、労わりが込められる。

 

『周りの警戒はわたしがするから、キノさんは休んで』

 

ね?そう諭されて、コクリと頷く。

ベイルアウトを勧められないのはこちらの意思を汲んでくれてのことだろう。手近な塀に背中を預けて足をなげだし、立てた片膝に額をつける。

 

「…………ありがとう、ございます」

 

鈍い舌をどうにか回して、たった一言感謝を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「こうも立て続けに、歌川の次は誰だ?」

 

爆煙の隙間から目にした一条の光。戦況をより把握するために三輪が通信を入れる。

 

『今のは風間さんね、来宮くんの仕業の様だけど、獲った本人は動いていないわね』

 

「来宮か……しかし動かないのは妙だな」

 

「それなら1個心当たりがある」

 

疑問符を浮かべれば、隣に構えた出水が答えた。

 

「分かるのか?、出水」

 

「ああ、来宮さんが風間さん落としたんだろ?風間さん相手なら流石に来宮さんもバテる頃だし、それでやれたなら十中八九、重反射(カタパルト)だろ」

 

「カタパルト?」

 

「ああ、メインとサブ、二つのグラスホッパーを掛け合わせる荒技だな、初速だけなら韋駄天も霞む」

 

けれど、と言って出水は続ける。

 

「攻撃に繋げるためのトリガーの切り替えと、トリオン体の制御、それ全部をコンマ数秒で済ませなきゃならない、だから来宮さん以外やりようがないし、そのうえ負荷も半端じゃない、今は動かないんじゃなくて、動けないってのが正しいはずだ」

 

「加勢はないと見ていいんだな?」

 

「まずないだろうな」

 

 

 

『嵐山隊、来るわ』

 

 

確認の最中に月見からの警告。会話を切り上げ思考を戦闘のそれに切り替える。

 

直後に時枝が煙りを抜けて突撃銃を掃射、2人がシールドで防ぎアステロイドを撃ち返し、その背後に嵐山が突如姿を現わす。

 

「テレポーターか!」

 

流れるような十字砲火。三輪の声に左右に飛び退いてギリギリで回避、その先でギシリと鳴るかすかな音。

 

出水がワイヤーに腕を取られて動きを止めれば、死角からバッグワームを纏った木虎が斬りかかりシールドで受け止められた。

 

 

銃声が一つ。

 

 

 

遠目のビルから光が瞬き、木虎の頭が大きく傾ぐ。

 

数瞬覆った白煙が晴れると、そこに集中のシールドが露わになった。

 

「おいおい、あれを防ぐのかよ」

 

スコープ越しにそれを確認して当真が驚きを漏らす。

 

攻めの割にガードが正確すぎる。これは……

 

 

 

ドドン

 

 

 

彼が思考を巡らせるも、一歩遅かった。

 

ほぼ同時の銃声。当真の胸と右肩が2連の狙撃に貫かれる。

 

「そりゃ釣りだよなぁ、やられたねぇ」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

無機質な音声を耳にし、戦場を離脱する。

 

 

 

「はあ!?当真さん!?」

 

予想外の方向からのベイルアウトに出水が声を上げ、三輪にも焦りが浮かぶ。

 

「射線の通る場所で戦ったのは失敗だったな、三輪」

 

木虎と時枝、2人と並び向かい合う嵐山が口にする。

 

「……まだだ!」

 

叫び、弧月に手を掛けたその時だった。

 

 

 

遠方で破裂音と共に、再び光が夜空を疾る。

 

『三輪くん、作戦終了よ』

 

オペレーターから告げられる敗北。三輪は奥歯をきつく嚙み締める。

 

『太刀川くんがベイルアウトしたわ、奈良坂くんと章平くんも撤収中よ』

 

「くああ〜、負けたか〜!」

 

戦闘の緊張が解け、出水は脱力した。

 

「つーか、迅さん、太刀川さん込みの5対1に勝ったの!?ブラックトリガー半端ねーな、来宮さんは来宮さんで、アタッカーの間合いで風間さん落とすし」

 

 

 

 

「嵐山さん見ました?オレの必殺ツインスナイプ」

 

聞こえた陽気な声に顔を向ければ、嵐山隊の面々が出揃う。

 

「任務完了ですね」

 

「ひと段落ですね」

 

「ああ、3人ともよくやった」

 

佐鳥、木虎、時枝を労い、サポートに尽力したもう1人へも通信を入れる。

 

「綾辻もよくやってくれた」

 

「おつかれさまです」

 

穏やかな音声が返される。

 

 

そんな和やかな雰囲気の彼らに、出水が頭をガシガシとかきながら歩み寄った。

 

「5位のチームにしてやられるのは腹立つな〜」

 

「うちの隊は、テレビや広報の仕事をこなしたうえでの5位なんです、ただこの順位に甘んじていると思わないでください」

 

「相変わらずクソ生意気だよ、おまえは」

 

「出水先輩、おれのツインスナイプ見た?」

 

「あー、佐鳥も相変わらずうるせー、さっさと帰れ」

 

さも当然というように淡々と返す木虎。子供のように必殺技の自慢をする佐鳥。当人をまのあたりに、微妙な表情となる出水。

それを脇目に三輪が口を開く。

 

「嵐山さん、ネイバーを庇ったことをいずれ後悔するときが来るぞ」

 

脳裏に浮かぶのは蹂躙される街。無惨に転がる無数の亡骸。

 

「あんたたちはわかってないんだ。親しい人間を殺された人間にしか、奴らの本当の危険性は理解できない。ネイバーを甘く見ているあの2人は、いつか必ず痛い目を見る。その時には、きっと手遅れだ」

 

「甘く見てるってことはないだろう」

 

三輪の物言いを嵐山が否定する。

 

「迅だって、ネイバーのせいで母親と師匠をなくしてるぞ?」

 

彼が告げた予想もしなかった事実。三輪はそれに動揺する。

 

「ネイバーの危険性、大事な存在を失うつらさ、それらをわかったうえで、迅には迅なりの考えがある……そう、俺は思うぞ?」

 

諭すような嵐山の口調。

 

三輪の脳裏に迅の行動が浮かんでは消え、思い当たる節が幾許か掠めた。

認めたくなかった。認めるわけにはいかなかった。

 

「それなら来宮は…………あいつはどうなんだ!」

 

苦し紛れに、残る人物の名を上げる。

 

「それこそ、尚更だ」

 

柔らかさを帯びた嵐山の表情に影がさす。

 

「帰る家も、家族も全部、来宮は失くしてるんだからな」

 

追い打ちのようなその言葉に、三輪は押し黙るしかできなくなる。

 

 

 

自分よりも痛みを知る者。ならば、なぜ?

 

 

 

「くそ!!」

 

 

 

壁を殴る拳の音が、今の三輪には虚しくきこえた。

 

 

 

 

 

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