乾いたシャッター音が鳴る。
夕陽によって透き通る様なグラデーションに染められた空は、一眼レフのデジタル画面に切り取られ、
三門市のとある住宅街。小高い丘に築かれた、其処の一角に設けられた小さな公園。彼にとっては、趣味のための絶好の場所だ。
「お〜、もしかしてキノさん?」
聞き覚えのある緩やかな声に、彼は丈の長いモッズコートを翻し振り向く。公園の入り口に視線を向ければ、赤みがかった茶髪の女子高生、国近柚宇が立っていた。
「やあ、お久しぶりです。ユウさん」
「やぁ、ほんと〜、お久しぶりだね〜」
「いやいや、そこはツッコミましょうよ。実際会ってから昨日の今日ですよ?」
「ノリツッコミは、キノさんがやってくれるって信じてたからね〜」
「微妙な信頼。というか今日も緩いですね、相変わらず……」
声音そのままの緩い返しをする国近。そんな彼女に来宮は苦笑いを零す。
「で、キノさんは何をしとるのかねぇ」
「これですよ、いつものアレです」
ゆったりと歩み寄る国近に、手にした一眼レフを示せば、そのまま隣で画面を覗き込んだ。
「ほうほう、相変わらずきれいにとれてるね〜」
「ありがとうございます」
趣味を褒められ、素直に笑みを浮かべた来宮。それを彼女は盗み見て、ほわりと頬を緩める。
好きなものが絡むと、私よりも子供っぽいかもしれない
普段大人びた彼とのギャップをこっそり楽しみつつ、国近は会話を続ける。
「でも、夕焼けばっかりで飽きないの〜?」
「むしろ逆ですよ、同じ夕陽でも同じ表情はあり得ないのが自然物ですから、大小様々な変化が画像を並べると楽しいんですよ」
「ん〜、よくわからないやぁ」
多少違ってもやはり飽きそうだと、国近は感想を述べ、来宮はやや不満気だ。
「……分かりませんかね」
「ほら〜、キノさんってさ、徹ゲーの良さわかる〜?」
「……徹夜してまでやる意義は感じませんね」
「そんな感じだよぉ〜」
「あっ、なるほど」
妙に納得して画面から顔を上げると、来宮の鼻腔を甘い香りがくすぐる。
視線を横に向けると、肩が触れ合うほど近くに話し相手がいたことに気づかされ、途端に顔が熱を帯びた。
来宮は、誤魔化す様に歩き出す。
「ほら、ユウさんも本部でしょう?そろそろ行きましょう」
「およ?……ふふ、照れとるのかねぇ、意外とジュンジョウだね〜」
訝しみ、気付かれるまで約4秒。
そんなに分かりやすいかと溜息を吐き、背後を歩く国近に振り返り、来宮は、おや?と思う。
「こんどはどーしたの〜?」
「いえ、なんでも」
「む〜、気になるでわないか〜」
ニヤニヤと戯けた口調で話す国近。赤茶の癖毛から覗く彼女の耳が、ほんのりと朱に染まっていた。
指摘すればどんな表情に変わるだろうか?
そんな悪戯心が僅かに顔を出すが、今の和やかな空気も捨てがたかった。結局、このまま黙っておいたほうがいいだろうと結論づけて、そのまま追求を受け流す。
そうして暫く歩いた時だった。
けたたましいサイレンが鳴り響いた。
二人は同じ方向に眼をやり、来宮はトリガーを、国近は端末を取り出す。
ネイバーが警戒区域に誘導されるとはいえ、此処はそこに程近い。緊張が走る。
「ユウさん場所は?」
「ちょっとまずいかなぁ〜、此処から1キロ弱、担当は柿崎隊だけど、西に2キロの地点でモールモッド3、バムスター2体と交戦中、市街地が近過ぎるしこれは間に合わないかなぁ」
予感が的中し、来宮がすかさず応えた。
「俺がいきます」
国近が一つ頷く。
「頼んだよぉ」
彼女の声を背中に聴き、駆け出すと同時にトリガーを起動。グリーンのモッズコートは、黒いスパークと共にダークブルーのロングコートに置き換わり、途端に増した身体能力にまかせて、来宮は一気に加速した。
*
直走ること数分。幸か不幸か、来宮が駆けつけたのは、ネイバーが市街地に浸入するのとほぼ同じタイミングだった。
敵は自動車程の昆虫めいた異形。モールモッドと呼ばれるそれが4体。
「なっ、あれ」
「ウソ、ネイバーじゃん!」
「馬鹿何やってる、早く逃げるぞ」
「でも今ボーダー来たじゃん、生で見るチャンスだろ?」
「おいっ!!」
民間人の会話を耳にして、来宮は舌打ちする。
多少混乱していても、逃げてくれればまだ楽なものを、少ないながらも幾らか野次馬根性を見せる輩がいた。
「ヒーローショーではないんですがねぇ」
苛立ちを抑え、戦闘に意識を集中させていく。
灰色の瞳が敵を見据え、彼の世界がスローモーションで流れはじめた。
足下に光のプレートを出現させ、グラスホッパーと呼ばれるそれを踏み、弾かれる様に急加速。スローで流れる感覚の中で、来宮がモールモッドへ迫る。
直後に敵がこちらに気付く。背に畳まれたカマキリを思わせるブレードを6本展開、乱舞する刃が襲いかかるが、それを紙一重で掻い潜る。
「アステロイド」
名を口にしたトリオン弾の設定は、弾速、射程0.5、威力99の特化型。
ネイバーの装甲に、自らの掌底が触れるその瞬間、コンマ数秒で作り出した光のキューブを叩き込んだ。
ズドン
重く短い破裂音が響き、モールモッドの頭部に1メートルほどの風穴が開く。
残骸が反動で3、4メートル吹き飛ぶが市民がそこに居ないのも計算済み。一瞥して後続の3体に狙いを定めグラスホッパーで再び距離を詰める。
2体同時。左右からの挟撃を先ほどの要領で避け、すれ違い様にアステロイドの掌底で黙らせる。
「残り1体」
その1体に眼を向ける、何故かこちらに背を向けていた。
その先に動く小さな影に愕然とする。
5歳くらいの男の子がうずくまり、そこへブレードが振りかぶられている。
嘘だ!間に合え!
焦るままにグラスホッパーを踏もうとした瞬間、別の影が飛び込み、間一髪で凶刃から逃れた。
「キノさんっ」
飛び込んだ影、それはオペレーターのスーツを纏った国近だった。
彼女の叫びに来宮は今度こそ動き出し、2人の前に庇うように割って入る。追撃の刃へ左手をかざし、半球状のシールドを作り受け止めた。
間一髪。国近達を背にしたまま、ホッと一つ息を吐く。
「無茶しますね、ユウさん」
「いやぁ、キノさんならやってくれるって信じてたからねぇ〜」
「嬉しい信頼ですが、流石に肝が冷えますよ」
相変わらずのやり取り。緊急時にも関わらず、2人に笑みが浮かぶ。
「さて、終わらせましょうかね」
言葉と共に、モールモッドの真下に4つのグラスホッパーを組み、真上に跳ね飛ばす。一瞬宙に留まり無防備に落下する敵に、徐に掌をかざした。
「アステロイド」
触れるか触れないかのタイミングで放たれた一撃。薄黄緑の光が迸り、反動で2度舞い上がったモールモッドは漸く地に落ちる。
残骸を一瞥した来宮は、自身の右耳に手をかざし、本部へと通信を入れる。
「こちら来宮、目標の沈黙を確認」
夕暮れの戦闘は、その幕を下ろした。
Shizuma Kinomiya
来宮静間(キノミヤ シズマ)
profile
本部所属 A級 ソロ シューター
19歳 9月15日生まれ
178㎝ O型 おおかみ座
好きなもの
元チームメイト 夕陽 カメラ 格ゲー
family
父 母 妹
parameter
トリオン7 攻撃11 防御援護6 機動9 技術8
射程2 指揮4 特殊戦術8
total55
side effect
知覚感覚加速
triggerset
maintrigger
◎アステロイド ◎グラスホッパー
◎シールド ◎カメレオン
subtrigger
◉アステロイド ◉グラスホッパー
◉シールド ◉バッグワーム