背後に佇む三日月と   作:303

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風間蒼也①

「これで満点かな?」

 

 

研ぎ澄まされた雰囲気を打ち消し、空閑が飄々と口にする。

順番待ちのC級たちが、モニタリングを行うB級2人が、その場に居合わせた殆どの人々が、その彼へ驚愕の視線を向けていた。

 

「いやいや、待て待て、こんな馬鹿げたタイムが出るわけないだろ」

 

先ほどまでトップタイムを保持していた少年が、そこで待ったをかける。

 

「計測機器の故障に決まってる!もう1回やり直せ!」

 

強者を自負する少年、甲田にとって、不正紛いの偶然で自分の上に立つ者がいることは、それだけで耐え難いことだった。

 

「ん?もう1回?いいよ」

 

 

対する空閑は軽く返して、そのままブースへ引き返す。

 

再びスタート位置につき、バムスターへと斬り掛かった。

 

一度めとは異なり緩い表情はそのままに、僅かにあった力みも抜け、斬撃はさらに洗練される。

 

 

『記録、0.4秒!』

 

 

 

「縮んでる!?」

 

 

C級たちの感想を代弁し、甲田の叫びが一つ響いた。

 

 

「さすがですね」

 

0.4秒の記録に動じないのは僅かに2人。その1人の来宮が穏やかに呟けば、残された三雲も1つ頷く。

 

「今、ようやくすべてが腑に落ちたわ」

 

続けて頷いた木虎は、しかし別の事実に意識が向いていたようだ。

 

「三雲くん、あなたの学校でのネイバー討伐、実際にそれをやったのはあいつね?」

 

「……ああ、そうだよ」

 

「そうだったのね!三雲くんにあんな真似、できるわけないと思ってたわ!」

 

ためらいがちな三雲の返答に、木虎が喜色を浮かべる。

 

なぜこうも嬉しそうなのか?

 

疑問符を浮かべる彼と、それに気づかずにいる彼女。

後輩2人のチグハグな様子に、来宮はこっそり苦笑いを零した。

 

 

「来宮さん」

 

そこにかけられたのは、落ち着きはらった声。自分よりやや低いそれに振り返る。

 

「バイト、お疲れ様です、京介さん」

 

「いえ、それよりすみません、また修たちが世話になっているようで」

 

無表情で、けれども、確かに申し訳なさを滲ませる烏丸京介に、来宮はユルリとかぶりを振る。

穏やかな表情はそのままに言葉を返す。

 

「とんでもありません、修さんと、いえ、この場合は遊真さんと千佳さんもですね、彼らと過ごす時間は、なかなかに有意義なものですから」

 

 

「そうっすか、それならよかったです」

 

そこそこ会話を交わしていけば、後輩たちもそれに気づく。

「あ、烏丸先輩」

 

「え!……かっ?!かかっか!?烏丸先輩?!」

 

「お、久しぶりだな、木虎」

 

「はい!お久しぶりです!」

 

烏丸は、浮き足立ち、頬を染める木虎をよそに、次いで三雲へも言葉をかける。

 

「悪い、バイトでいきなり欠員が出てな、予定より長引いた」

 

どんな感じだ?

 

その問いに三雲は淡々と答える。

 

「空閑が目立ってます、けど、問題らしいことはないです」

 

「そうか、まあ、あいつは目立つだろうな」

 

下で他のC級に囲まれる空閑に目を向ける。そこへ先ほど少年が手を差し出すが、その勧誘を空閑はあっさりと断った。

 

「三雲くんと組むんだろう?」

 

「うん、そう」

 

嵐山が問えばコクリと頷いた。

 

 

 

 

「なるほどな」

 

 

 

不意に硬質な声音が聞こえた。

 

その方向へ各々が顔を向ければ、小柄な体格の少年、いや、青年が1人佇む。

 

「風間さん、来てたんですか」

 

「なに、迅の後輩とやらに興味があってな」

 

A級3位を率いる隊長。新たに現れた実力者に場が騒つく。

 

「嵐山、訓練室をひとつ貸せ、実力を確かめておきたい」

 

「……ほう」

 

風間が戦闘体に換装し、表情を動かさずに目的を告げれば、空閑が好戦的な笑みを浮かべた。

 

「待ってください、風間さん!」

 

嵐山が厳しい表情で静止する。

 

「彼は今日入隊した訓練生ですよ?トリガーだって相応のものしかない!」

 

「いや、おれはやってもいいよ」

 

「違う」

 

風間が返したのは否定の言葉。

 

「早合点するな、俺が確かめたいのはお前じゃない」

 

乗り気な少年から視線を外し、彼の視線が観戦席へと向く。

 

「三雲修、おまえの実力を見せてもらおう」

 

 

 

 

 

 

『模擬戦、開始』

 

 

 

アナウンスと共に双方が構える。

 

「レイガストを盾として使う、防御寄りのシューターか」

 

三雲の装備から一目で見破り、言葉と共にカメレオンを起動、風間の姿が背景に溶ける。

 

 

シュドッ

 

 

すれ違い様に姿を現し、瞬電の刺突が決まる。

 

『三雲ダウン』

 

無機質な音を聞き、膝をつく三雲を一瞥。

 

「立て、ほんの小手調べだぞ」

 

暗にこれからが本番だと口にし、再び風間の姿が消える。

 

「くっ、落ち着け!」

 

 

速くとも()()で見た動きだ。そう言い聞かせて三雲が動く。

 

「アステロイド!!」

 

盾を前方へかざしつつ、散弾を放つ。

 

「ほう、カメレオンの特性は頭に入れてあるか、だが……」

 

背後からの声に振り向くが一歩遅い、二振りの刃が突き抜ける。

 

「その手は、飽きるほど相手にしてきた」

 

『三雲ダウン』

 

対処も虚しく三雲は再び膝をつく。

 

速すぎる。

 

理解していたつもりの圧倒的な差、しかし現実に目の当たりにし、一瞬動きが止まる。

 

『三雲ダウン』

 

甘いとばかりに容赦無く切り裂かれた。

 

ダウンのカウントだけが、淡々と積み重なっていく。

そんな相手の心中など頓着せず、風間はその実力に評価をくだしていた。

 

基礎能力は全てがギリギリ、それを自覚し、打開策を練る素振りは見られる。トリガーの特性。それぞれの立ち回りと、その対策。足らない実力を他の手札で補う姿勢。

それらには好感を持てるが、しかし、それだけだった。

 

 

……なぜだ……なぜだ迅?風刃はおまえにとって……。

 

 

『三雲ダウン』

 

 

剣閃が首を飛ばし、24度目のダウンのコール。

 

「…………もういい、ここまでだ」

 

疑問が募り、相手の体たらくに苛立ちが湧く。

 

 

 

 

 

 

「迅め、なにを考えている、こんなことのために、わざわざブラックトリガーを手放したのか……」

 

 

 

「え?」

 

 

 

風間が冷たく吐き捨てた言葉は、三雲には、けして無視できるものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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