背後に佇む三日月と   作:303

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三雲修①

「……ブラックトリガーを?!」

 

 

呆然とした呟き。

その思いがけない響きに風間が顔を向ければ、三雲の表情は驚愕に染まっていた。

 

「待ってください!風間先輩、今言った言葉は本当なんですか!?」

 

「なんだ、なにも知らないのか?」

 

風間は、必死なその問いに僅かに訝しみつつ、空閑を示して淡々と告げる。

 

「迅があいつの入隊と引き換えに、風刃を差し出したのは紛れも無い事実だ、お前たちの部隊をランク戦に参戦させるためだそうだが……」

 

言葉を切り、三雲へ向けられる視線は冷ややかだ。

 

「やはり、まったく理解できないな」

 

自分にとっての恩人、その人の師の形見が、自分たちのために手放された事実。

 

 

このブラックトリガーが()()()()だ。

 

 

林藤の言葉が、重くのしかかる。

 

「風間先輩、すみません」

 

三雲が、踵を返した風間を呼び止める。

声音に気負いはあれど動揺はなく、かわりに確かな決意が覗く。

 

「もう一戦だけ、お願いします」

 

あんな話を聞かされて、このまま終われるはずがない、ただ引き下がれるわけがない!

 

「……ほう」

 

小さな変化に風間が声を漏らす。

結果を求める貪欲な目に、その口元が、ほんの僅かに弧を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

「お?なんか、まだおわらんみたいだぞ?」

 

「なんで……!?これ以上なんになるっていうの……!?」

 

空閑の指摘に木虎が思わず声を上げる。

充分すぎるほど負けた今の現状。なおも挑む三雲の意図が分からなかった。

 

「なんになるのか、それはわかりませんが……」

 

徐に、来宮が口を開く。

 

「おそらく、ここからが見ものですよ、木虎さん」

 

「見もの?来宮さん、あなたは今の今まで、いったいなにを見ていたんですか!?彼に勝ち目がないのは分かり切ったことでしょう?」

 

思わず声を荒げた木虎へ、来宮は落ち着きはらった表情で返す。

 

「ないとは言い切れません、可能性は低くとも、ゼロではないはずですよ?」

 

「ですから、三雲くんに勝つ意思がなければ……」

 

「その意思が、今の修さんにはあります」

 

「……え?」

 

疑問符を浮かべた木虎から、ブースの三雲へと視線を移し、彼は続ける。

 

「俺の場合、ひとを見る時間は余るほどありましたから、確かなはずです、気持ちは勝敗に関係ないとは、慶さんの談ですが」

 

そこで来宮が笑みを浮かべる。

 

「他者のために向けるその気持ちこそが、彼の最大限、それを引き出す呼び水ですから」

 

横でその言葉を聴き、烏丸は眼差しを三雲へ向ける。

今はただ、静かに弟子を見守っていた。

 

 

 

 

「アステロイド」

 

「これは……!」

 

風間蒼也と三雲修、この日最後の2人の一戦。

目の前の光景に驚きを零したのは、はたして誰だったか。

三雲が名称を呟き、掌を起点に小さな光の粒が広がりを見せる。

それは徐々に、無機質な空間を満たしていく。

 

「低速の、いや、超低速の散弾か」

 

以前、来宮が見せたものと同等か、それ以下の速度。範囲はこちらが圧倒的に広いか……。

仮装戦闘であってもまず見ることのない一手、それにも風間は冷静に思考する。

カメレオンが無駄と見るや即座に解除、両手に刃を携え、無数に漂う散弾を的確かつ迅速に切り落とす。

それでも彼は確かに足を止め、姿を露わにした。

 

ここからだ!

 

自らを奮い立たせ、三雲がさらに動きを見せる。

シールドモードのレイガストをかざし、その影でアステロイドの大弾を構える。

 

明らかに決めにかかるその動作に、風間は当然備え注視した。

そのときだった。

 

「スラスターオン!」

 

想定外のシールドチャージ。

思考の外の突撃に、普段の無表情を崩し風間が目を剥く。

とっさにスコーピオンを交差させ受け止めるが、それで止どまる勢いではない。

 

やむなく片手の刃を納め、サブのトリガーから背にシールドを張る。

漂う散弾を幾度も爆ぜさせ、風間はそのまま壁際まで押しやられた。

一見追い詰められた状況下で、しかし冷静さは失われない。

 

「まだ、俺の間合いだ」

 

背面の盾はすでに消し、風間が無感動な声音を添えて、新たに刃を繰り出す。

その動作に合わせ、抑えのレイガストまでもが唐突に消された。

 

「!?」

 

拮抗した力を失い、崩れたバランスに剣筋が鈍る。

 

「アステロイド!」

 

ここにきて、漸く三雲が大弾を放つ。

至近距離から撃ち出される射撃、鈍りながらも既に振り出された斬撃。

 

双方へ浴びせられるのはほぼ同時。

 

 

 

 

 

『トリオン漏出甚大、風間ダウン!!』

 

 

 

 

 

告げられるコールは風間のみ。弾丸が胴を穿ったのに対し、首を刎ねるはずの刃は、薄皮一枚で止められていた。

 

 

「修さんには、やはり驚かされますね」

 

 

来宮が呟き、直後にアナウンスが響く。

 

 

『模擬戦終了!』

 

 

「風間さんから、勝ちを取るなんて……!」

 

「ああ、文句なしの大金星だな」

 

木虎の言葉に烏丸が頷く。

その場の殆どが予想し得なかった結果に、何度目かの驚きが周囲を包んだ。

 

 

 

 

 

「なるほどな、トリオン体の内側、それも首筋の一点に集中させたシールドか。レイガストを消したのもこのため……大した博打だな」

 

訓練室から2人が出る。

風間は敗因を分析し、呆れとも称賛ともつかない言葉を三雲へ送る。

 

狙いが首でないのなら、あるいは攻撃のタイミングがずれていたのなら、勝敗は逆転していたはずだ。

 

「けど、勝算はありました」

 

向き直り、三雲がそう返して続ける。

 

「来宮さんに勧められて、A級の人たちのログを閲覧したときも、風間先輩はここぞという場面、反撃の目を断つために、かなりの頻度で伝達系の通る首を狙っていましたから」

 

「……知識として知るの俺の動きと、これまでの20戦ですり合わせていたというわけか」

 

一度は固まりかけた評価が、風間の中で書き変えられる。

才覚も、脅威も、どこからも感じはしなかった。

しかし現実に読みは通され、メガネの少年に勝利は奪われた。

 

 

 

ふと、結果を映すモニターを見つめる。

画面に並ぶ変わらぬ勝敗。

厳然とした差を示す印の端に、逆転した組み合わせがただ一つ。

 

 

 

 

発想と工夫の可能性は、唯一の勝ち星が、確かにそれを証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作を大事に書きたいと思う一方、それをしてしまえばオリジナル要素が薄れる現状。実力不足を感じる今日この頃です。
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