背後に佇む三日月と   作:303

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大規模侵攻❶

(ゲート)の数、38、39、40……!依然増加中です!!」

 

沢村響子は、加速度的に数を増す(ゲート)を画面で確認。確実にその情報を伝達していく。

巨大なメインモニターの端には、やや小さなウィンドウが開かれ、毎秒ごとになだれ込むトリオン兵の群れが映されていた。

 

数の暴力。

そんな言葉が浮かぶ映像に、周囲には緊張感が漂う。

前回の侵攻を退けた旧ボーダーの人間は僅か9人。戦況の中枢を司る本部作戦室とはいえ、これほどの規模の戦闘経験を持つ者は、1人を除いてこの場にはいなかった。

 

 

「任務中の部隊はオペレーターの指示に従い展開、トリオン兵を撃滅せよ!!1匹たりとも警戒区域から出すな!!非番の隊員達を直ちに緊急招集、全戦力で迎撃に当たる!!」

 

忍田真史から、迷いのない指示が飛ぶ。

欠片の動揺も見せぬ姿に、浮き足立った空気は打ち消され、指揮系統が淀みなく機能する。

 

4年半前の惨状など、決して繰り返させはしない。

 

決然とした思いを胸に、忍田が力強く告げる。

 

「戦闘開始だ!!」

 

彼の言葉に、抗戦の幕が上げられた。

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ……あれ」

 

「基地の方の空が真っ暗だ」

 

窓から見える光景に、中学校の一教室が騒めく。廊下からも別の騒めきが伝わることから、学校全体が似た様子であることがうかがえた。

3-3の担任である水沼も、四年半前を彷彿とさせる状況に、その表情を硬くする。

自分がしっかりしなければ。そう彼女が内心で言い聞かせるタイミングで、廊下から生徒に声をかけられる。

 

「先生!」

 

「三雲くん」

 

「呼び出しがあったので現場に向かいます。学校のみんなをなるべく基地から遠くへ避難させてください」

 

「わかったわ」

 

厳しい表情でなされるやり取りに、クラスメイトが堪らず口を開く。

 

「三雲、これってやっぱりヤバいのか……!」

 

「三雲!」

 

不安気な彼らに、三雲は、努めて落ち着いた声音で答える。

 

「警戒ラインを越えられるかもしれない。先生に協力して避難を進めてくれ、頼んだぞ」

 

「……わかった!」

 

「気をつけてね」

 

三雲はそれぞれの声に頷き返し、空閑を引き連れ教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

一度雨取と夏目の2人と合流。2人を避難者に同行させ、三雲と空閑は警戒区域を直走る。

 

ボーダー本部を中心に広がる無人の街並み。普段から戦闘が頻発するその場所は今、異様な様相を呈していた。

 

宙に、地表すれすれに、あるいは家屋を食い潰し、無数の黒穴が展開され、そこから次々にトリオン兵が吐き出されていく。

 

「シールドモード!」

 

不意に襲いかかったモールモッドを三雲はレイガストで受け止め、スラスターの推進力で跳ね除ける。死に体となったその敵を、すかさず空閑がスコーピオンで一閃。一撃で沈黙させれば、彼の死角から迫るもう1体を三雲が目敏く見つけ、アステロイドで牽制する。

 

「おっ、助かるぜ、オサム」

 

気の利いた援護に空閑は笑みを浮かべて、振り向きざまに2体目を斬り伏せた。

 

「……数が多いな」

 

冷や汗を流し、三雲が呟きを零す。

 

「数は力だからな。アフトクラトルやキオンくらいの大国なら、物量でゴリ押すのも当然だな」

 

その言葉に空閑が冷静に返す。会話の最中でも、手を止めるなどという愚は犯さない。

三雲は守りに重点を置き、射程を使った牽制と援護に攻撃を割り切り、空閑は持ち前に身のこなしでもって、体制を崩した敵を狩り取る。

それなりの連携をみせる2人だが、それでもやはり多勢に無勢。訓練用の刃に、火力の足らない弾丸。押され気味の戦況に、後退を互いに思案し出したその時だった。

 

 

 

 

『空閑くん、三雲くん、聞こえる〜?』

緩やかな声音で通信が入る。

 

「この声、国近先輩ですか?」

 

『うん、そだよ〜』

 

戦場に似合わぬその声に、思わず三雲が脱力しかける。

 

「クニチカ先輩。またトウトツにどうしたの?」

 

三雲に対して緩い口調で応えた国近に、空閑が問いかける。

 

『あのね、ちょこっと下がってもらえないかな?今からザコ敵減らすから』

 

「えっと…………?」

 

「!……オサム、下がるぞ」

 

突然の指示に戸惑う三雲の横で、空閑が気づき、相棒を促してともに跳び退いた。

 

 

『キノさん。まかせたよ〜』

 

 

 

 

 

 

「任されました」

 

彼女の声に応えて、落ち着きはらった声が一つ。

 

返答と同時に、来宮がビルから飛び降りる。

落下しながら両の手を真下へかざす。

 

「アステロイド」

 

名称を呟き、光のキューブを作り出せば、弾けさせるように散弾を撃ち出した。

 

街を破壊し、歩みを進める異形達に、光の雨が降り注ぐ。

弾速と威力を重視したフルアタック。250にも及ぶ散弾は、1発1発の小ささもあり、半数ほどを仕留め損ねるが、その生き残りの殆どが、可動部を削られ動きを鈍らせる。

 

「グラスホッパー」

 

放った弾丸の成果を目に、来宮は光のプレートを踏み急降下。アステロイドの掌底で、手近にいたバムスターを打ち沈める。

 

『キノさん、あと30秒でトリオン兵の追加が来るよ。数はモールモッドが7体』

 

「了解です、ユウさん」

 

着地とともに国近の通信に応えて、来宮もまた、後方の2人へと指示を出す。

 

「修さん、遊真さん。鈍らせた敵を畳んでください。俺は後続を仕留めます」

 

「了解です」

 

「了解」

 

それぞれが返答し、攻撃に移るのを確認するや、来宮はグラスホッパーを起動。矢のような鋭さで、次の敵へと突撃を仕掛ける。

 

 

数瞬後、報告通り7つの敵影が眼前に迫る。

 

まず1体。すれ違い様に掌底を放ち、モールモッドを沈めれば、背後から迫る別の個体のブレードを身を伏せて回避。2撃目が繰り出される前に、背面にキューブを作り出し、振り向かぬまま蜂の巣にする。

背後の個体は、反動で別のモールモッドを巻き込み崩れ、来宮の周囲にポッカリと空間ができた。

ここぞとばかりに彼はグラスホッパーで跳躍。単発のそれを踏んでは作り出すことを繰り返し、加速するような機動力で、迫り来る5体を次々に仕留めていった。

 

 

「よし……これで最後の1体だな」

 

目の前のトリオン兵を狩り終え、ひとまず三雲が息を吐く。

 

「オサム、気を抜くなよ。まだ始まったばっかだぞ」

 

「まあ何にせよ、此処はひと段落です。手の足りない部隊に合流しましょう」

 

若干気の抜けた三雲に、空閑が注意を促し、そんなコンビに来宮が次の動きを示す。

特に異論もなく、3人が行動に移そうとする。

 

 

 

不意に背後の残骸から、ひび割れるような異音が零れた。

 

 

 

 

 

 

『キノさんっ!後ろ!!』

 

 

 

 

 

国近からの悲鳴じみた警告。

 

咄嗟に振り向いた来宮の視界を、巨大な拳が埋め尽くす。

 

 

 

 

ゴォオン

 

 

 

 

戦場に、重い衝撃音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

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