背後に佇む三日月と   作:303

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大規模侵攻❸

『忍田本部長、こちら来宮です。三雲隊員、空閑隊員と共に新型トリオン兵と遭遇、緊急事につき、空閑隊員のブラックトリガーの使用を独断で許可、共にこれを排除しました』

 

 

本部作戦室。そこへ通信越しに、落ち着きはらった声が届く。普段よりやや硬いその声音に、忍田が応える。

 

「新型……!、良くやってくれた。排除した個体の特徴は?」

 

『サイズは3メートル強。形態は人に近く二足歩行。小型ながらA級相当の戦闘力を有しています。レプリカさんの情報から、トリガー使いを標的にした捕獲型と判明しました。』

 

「な……!!」

 

「なんだと!?」

 

あまりにも高い性能、そして厄介な役割。来宮から語られる情報に、根付と鬼怒田が驚きに声を上げれば、そこへ沢村から新たに戦況が伝えられる。

 

「基地東部。諏訪隊が新型と交戦中。 基地南部。嵐山隊が新型と戦闘を開始。 南西部では、茶野隊2名共に緊急脱出(ベイルアウト)!間宮隊、鈴鳴第一がそれぞれ新型と遭遇しています……新型の妨害でトリオン兵の群れを止められません!警戒区域を突破されます!」

 

「いかん!それはいかん!!」

 

根付の顔が青ざめる。

ここで市民に被害が出れば、ボーダーへの信用が揺らぐ。堪らず彼は声をあげた。

 

「忍田本部長!すぐに市街地へ増援を!」

 

焦る根付の言葉に、しかし忍田はかぶりを振る。

 

「なっ、なぜです!?」

 

「迂闊に動けば新型の餌食だ。まずは戦力の維持を最優先、これから現着するA級部隊に新型との戦闘を引き継ぎ、例外を除きB級各隊は合流、全部隊合同で市街地の敵の掃討にあたらせる」

 

「それでは、一箇所ずつしか回れんぞ」

 

鬼怒田の指摘に頷き、忍田は続ける。

 

「避難の遅れている地区から順に、一箇所ずつ。確実に敵の数を削っていく。その間、他の地区の被害はある程度覚悟していただく」

 

 

 

「……万が一」

 

会話が途切れ、そこで口を開いたのは城戸。

 

「A級でも新型を止められなければどうする?」

 

どこまでも冷静な問い掛けに、忍田は視線を合わせ、揺らがぬ表情で答える。

 

「……有り得うべからざることだが、その場合は、私が出る」

 

 

 

 

「…………いいだろう。各部隊に直ちに通達を」

 

城戸の了承に頷き、再び部下へ通信をつないだ。

 

「来宮、聴いていたな」

 

『ええ。三雲、空閑両名は他のB級と合流。俺は足止めを受けている隊への遊撃。そんなところでしょうか?』

 

「ああ。話が早くて助かる。そのように……

『待ってください』

 

やり取りを交わす忍田と来宮。

部下の察しの良さに感謝し、忍田がそのまま話を進めようとすれば、来宮が珍しくそれを遮る。

 

『俺と三雲隊員に、C級の援護に行かせてください』

 

「C級の?」

 

『避難が進んでいる地区は、後に回されるということでしたが、そこに彼らのチームメイトがいます』

 

唐突な希望に疑問符が浮かぶが、次の言葉に得心がいった。

戦線が広がる今の状況。トリオンモンスターと称される少女。彼女を無防備に晒すことは避けたいだろう。

 

心情的にも、戦略的にも見過ごせるものでは無い。

 

しかし

 

「……空閑隊員はどうする?」

 

城戸の一言。その内容は、忍田の疑問と同様のもの。

 

「チームというなら、彼も同行させるのではないのか?」

 

『そうさせたいところですが、彼はブラックトリガーです。司令御自身が許可なさらないでしょう?』

 

サラリと返した来宮に、城戸は煩わし気に目を細める。

 

「それは来宮、君とて同様だ」

 

冷淡な声色で、そのまま続ける。

 

「先ほどの独断は、緊急事の措置として許そう。……だが、その機動力と火力。ブラックトリガーの監視も加味すれば、君をC級の援護にあてることは、現状好ましくない」

 

 

「その役目ならば、もっと適任がいらっしゃいます」

 

「……なに?」

 

 

 

いったい誰がと口をつく前に、新たな声が割って入った。

 

 

 

『本部、こちら出水です。来宮さんと合流しました。米屋もいます』

 

 

 

 

 

『……シューターとしての視野と手の広さ。幻踊を活かす柔軟な発想。監視役兼サポーターとして、彼らは申し分ないと思いますが?』

 

この口振り。合流するタイミングが読めていたのだろう。淡々と語る来宮の声音を耳に、城戸は左目の傷をなぞる。

 

些か面白くないが、ソロ向きの来宮より適任ではあるか……。

 

思考を切り、傷から指先を離した彼は、改めて相手へと命令をくだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

警戒区域東部。そこで断続的に、戦闘音が響き渡る。

 

 

諏訪洸太郎と堤大地が引鉄を引く。

右脇に抱える散弾銃からやや大きな弾丸が放たれ、ラービットの装甲を打ち鳴らす。諏訪はその光景に顔をしかめる。

 

「クッソ、アホみてーに堅えな!」

 

悪態一つ。弾幕を突き進む敵に対し、2人は後退しつつさらに二度三度とアステロイドを浴びせるが、浅い傷痕が残るばかりだ。

 

「日佐人!こじ開けろ!!」

 

堤が頃合いを見計らい、戦況を動かさんと声を張る。ダンと家の屋根を蹴り、笹森日佐人が奇襲を仕掛ける。

跳び下りる勢いそのままに、抜きはなった弧月をラービットの首筋に突き立てた。

 

「了解!!」

 

威勢よく応えた笹森が、装甲の隙間に差し込んだ刃に、テコの要領で力を加える。ギシリと僅かに軋む音を聴き、そのまま装甲を引き剥がそうとしたその時だった。

 

ラービットの背部に無数の突起が迫り出し、激しい放電が笹森を襲う。

 

「!?……かっ」

 

予想外の反撃に背から転げ落ちた彼を前に、ラービットが胴体を開き、獲物を捕らえんと迫る。

 

「日佐人!」

 

部下の危機に諏訪が駆ける。

空けた左手にもう一丁の散弾銃を作り出す。笹森へ向けて、敵が緩慢な動作で両腕を伸ばした。

 

「吹っ飛べ!!」

 

諏訪が一気に踏み込み、敵の至近距離から、最大火力の散弾を放つ。

けたたましい銃声とともに、ラービットが仰け反り、その上半身が白煙に包まれた。

 

一瞬の硬直。

その隙に、堤が笹森を担ぎ距離を取ったのを確認。続いて諏訪もその場から跳び退く。

反撃のラグはコンマ数秒。無機質の腕が白煙を破り、勢いよく空を薙いだ。

 

「っぶねぇ……堤、日佐人、無事だな?」

 

掠めた攻撃に肝を冷やすも、諏訪は仲間に状態を問う。

 

「はい、日佐人もなんとか」

 

「……ぐっ、す、すみません」

 

諏訪の声に堤が返し、ダメージから持ち直した笹森が謝る。

 

「へこんでる暇はねえぞ、キッチリこっから……」

 

発破をかけるタイミングで、動き出したラービットが3人へ向けて跳躍する。

 

「!……堤、日佐人、跳べ!!」

 

咄嗟の警告。会話を切り上げ、それぞれ三方向へ回避。

大槌のように叩きつけられた両腕が、アスファルトを砕き、地を揺さぶる。

3人の視界に、改めて白色の装甲があらわになる。多少歪みが見られるが、目につく外傷はただそれだけ。致命傷には程遠かった。

 

『つくづく堅えなぁ、こちとら豆鉄砲撃ってんじゃねぇんだぞ』

 

何度目かの悪態。

 

『さすがに堅すぎる。オレたちの手には余りますね。いったん退いたほうが良いんでしょうけど……』

 

やり取りの間にも、笹森が太刀を片手に注意を引き、諏訪と堤が前後からの射撃を間断なく続ける。

敵の意識を散らしつつ、内部通話で堤が一案を口にするが、諏訪がそれに待ったをかけた。

 

『いや、あのウサギ野郎、やたらやる気だからな。逃しちゃくれねえだろ』

 

『おれが囮になります!』

 

『それもだめだ。ランク戦ならともかく、いつ終わるかも分からねえこの状況、壁役のおまえが落ちれば後がキツくなっちまう。本部の指示通り、ここはA級が来るまで粘るぞ』

 

笹森の案にも首を振る。もともと攻撃に特化したこの部隊。その中でサポートに重点を置く彼を欠くことは、できれば避けたい。

間合いを取り、射撃を繰り返しつつ、諏訪は思考を巡らせる。

 

 

 

 

 

ゴッ

 

 

突然の凄まじい衝撃と同時に、鈍い音が全身に響いた。

 

「がっ!!?」

 

トリオン体から空気が吐き出され、短い呻きとなる。

 

直後に締め付けられる感覚が襲い、次いで視点がゆっくりと上がった。

一体何がと、倒れ伏した諏訪が顔を上げるよりも早く、2体目のラービットが、彼を掴み上げていた。

 

「諏訪さん!」

 

笹森が叫び、堤が歯噛みする。

1体目に阻まれ駆けつけることができない。火力が1人減り、防御と回避で手一杯だった。

 

「……クソ、ここにきて追加かよ」

 

吐き捨てた言葉と共に、諏訪は新型の腹に放り込まれた。

 

 

堤と笹森が、どうにか1体目から距離を取ったところで、2体のラービットが並び立ち、それぞれの単眼を彼らに向けてくる。

駒の数は同じ、しかし圧倒的に不利な状況。隊長を奪われ、明らかに追い詰められた2人。

 

彼らが無力感に苛まれるその時だった。

 

 

 

 

山なりの軌道を描き、弾丸の豪雨が降り注ぐ。

 

桁違いの物量が、瞬く間にラービットを包んだ。

 

 

 

弾丸の出どころへ2人がバッと振り返り、背後の屋根を仰ぎ見る。

 

視線の先には、黒いスーツを纏う3人の姿。

 

 

 

「二宮隊、現着した。これより戦闘を開始する」

 

 

 

静かな瞳で敵を見据えて、二宮匡貴は淡々と告げた。

 

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