背後に佇む三日月と   作:303

32 / 45
大規模侵攻❹

光弾の雨が止み、次いで白煙が晴れていく。

 

執拗に浴びせられた射撃に、2体のラービットは装甲の大半に傷を負い、そのひび割れた身体を軋ませる。

 

「うわぁ、かったいなー。あの弾数浴びてまだ生きてるよ」

 

突撃銃を片手に、犬飼澄晴が軽い口調で感想を漏らす。そんなチームメイトを横目に、辻新之助は、諏訪隊の元へ降り立った。

 

「堤さん、日佐人くん、無事?」

 

「おれと堤さんはなんとか、ても、諏訪さんが……」

 

 

笹森が自身の不甲斐なさに俯き、堤は疲労を僅かに滲ませ、拳にギリリと力を入れた。

 

「……わかってる」

 

 

そんな2人を背に、辻はポツリと応え、目の前のラービットへ向けて、居合いの構えを取る。

 

「辻、犬飼」

 

二宮の声が届く。硬質な響きの呼びかけに、視線が集まる。

 

「組んで1体動きを止めろ、余りは俺が片付ける。来宮からの映像でわかる通り、堅いが動きは大味だ。機動力を奪えばこちらが勝つ。……前がかりになりすぎるな」

 

「辻、了解」

 

「犬飼、了解」

 

隊長の指示に淀みなく応え、部下はそれぞれの得物を構え直す。

 

その動作に合わせるように、漸くラービット達が身を起こす。

一時の停滞は解かれ、再び戦況は動き出した。

 

 

 

 

 

 

『さっきだけど、諏訪隊のところに、二宮隊が合流したみたいだねぇ』

 

「捕らえられたのは、諏訪さんだけなのですね?」

 

『だねぇ。堤さんと笹森くんは、どうにか間に合ったみたい。キノさんの情報も送信しといたから、あそこはひとまず大丈夫だよ』

 

「助かります」

 

屋根から屋根へ、軽快に飛び移り、直走る影が2つ。

 

 

来宮が国近との通信を交わすその隣で、ゴクリと少年の喉が鳴る。

 

「そこら中、トリオン兵だらけだ……」

 

唾を飲み込み三雲が独り言ちれば、零れ落ちたその呟きに、並び走る来宮も頷く。

 

「ボーダーが今の規模でなければと思うと、正直ゾッとしますね」

 

口にした彼の視線の先には、あちこちから煙をあげる街並みがある。

脳裏に浮かび重なるのは、すでに無い景色。

 

「……千佳」

 

「修さん、時間はありませんが、決して焦らないように」

 

そうだ。事を急いてはいけない。

 

三雲を嗜め、自らにも言い聞かせる。僅かな焦りに、来宮はそっと蓋をした。

 

「どこで何が起き、どう転がるか、それが分からない状況です。意識して、視野を広く持ちましょう」

 

「!……はい」

 

 

 

 

『妙だな』

 

妙に高い無機質な声。

目を向ければ、三雲の懐から、親指ほどのレプリカの子機が顔を出した。

 

「レプリカさん、何か腑に落ちない点が?」

 

『ああ』

 

来宮の問いに、レプリカは肯定で答える。

 

『これだけの戦力。いくらこちら側が広大とはいえ、ここまでの規模での侵攻は、他に類がない。加えて敵は戦力を分散させている。数の有利を殺す運用の意図が見えない』

 

「隊員の捕獲が目的じゃないのか?」

 

「……いえ、そうでもなさそうです」

 

「来宮さん?」

 

三雲が予想を口にするが、来宮がそれを否定する。レンズ越しの瞳に疑問が浮かび、それに応える。

 

「新型……ラービットと言いましたか。あの性能は確かに脅威ですが、ボーダーにはベイルアウトがあります」

 

その指摘に三雲があっ、と声を漏らす。思い当たった彼の様子に、来宮は一つ頷いた。

 

「ユウさん」

 

国近へ呼びかければ、彼女は更新され続けるディスプレイから、再び情報を伝えてくれる。

 

『ん、B級で何人かやられちゃってるけど、捕まったのはまだ諏訪さんだけだよぉ』

 

「ありがとうございます」

 

即座の返答に礼を言い、三雲へと言葉を続けた。

 

「現状、捕らえられた隊員は僅か1名。先のラッドによる偵察が、今回の敵によるものなら、駒の布陣が少々お粗末です。別の意図があると考えるのが妥当でしょう」

 

『……だが、敵の策を予測するには、まだ判断材料が足りない。まずはチカ達との合流を優先するべきだろう』

 

「ああ……!」

 

「ええ、まずそこからです」

 

レプリカの言葉に三雲と来宮は肯定を示す。

 

 

 

 

 

ドォオン

 

 

 

直後に轟いたのは、街を震わせる炸裂音。

 

ズシリと全身に響くその凄まじさに、3人は思わず足を止め、音の発生源へとバッと振り向く。

 

 

 

 

巨大な基地の一角に、球状の閃光が膨れ上がる。

 

「本部が!?」

 

視界に飛び込む光景に、三雲が叫ぶ。

 

「!……いえ、まだ持つはずです」

 

一瞬目を見開いた来宮は、努めて平静に三雲へ返す。言う通り、爆煙から覗く外壁は、その形を保っている。

 

しかし

 

「でもっ、来宮さん!イルガーがまだ3体も……!」

 

そう、敵の攻勢は終わってなどいない。

鯨にも似た、翠の巨躯が新たに3体。三雲がイルガーと呼んだトリオン兵は、基地へ向けて、自爆特攻の体制を見せる。

 

「…………ユウさん、そちらの状況は?」

 

右の耳に手をあてる。本部の状況を知るために、来宮が国近へ問うが、ノイズが激しく通信に混ざった。

砂嵐のようなそれに、彼女の声が遮られ、聞き取ることができない。

 

「通信障害ですか、ですが……」

 

来宮には確かに聞こえた。

 

太刀川。屋上。

 

千々になった言葉の切れ端に、確かに二つのワードがあった。

 

「修さん、行きましょう」

 

「え……?でも……」

 

通信を切り、来宮の発した言葉に、三雲は戸惑う。

 

「大丈夫です。本部にもカードは残されています。それにこの距離、何ができるわけでもありません。俺たちはやるべき事をやりましょう」

 

「!……わかりました」

 

躊躇う三雲を促し、再び雨取のもとへ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「慶さん。頼みましたよ」

 

 

基地を一瞥した来宮は、一つ小さく言葉を零す。

 

風に掻き消された声音には、確かな信頼が込められていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。