背後に佇む三日月と   作:303

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大規模侵攻❼

無機質の兵が、その巨体を揺らし押し迫る。

 

右のバムスターが3秒後に突進。左奥のバンダーが間を置かず砲撃を放ち、その両サイドから、さらにバムスター2体の追撃が来る。

 

確定したビジョンが、迅の脳裏に明確に浮かぶ。

 

初撃を紙一重で避け、行き過ぎる単眼に左手の一太刀を浴びせ、その勢いを殺さずに前方へ低く跳ぶ。

 

1体目が倒れ、同時に頭上を掠めた砲撃が背後で炸裂。爆風を背中で受け一層加速した迅は、アスファルトの地を蹴り込み一気に上昇。靴跡が残るそこへ意味のない追撃が入るのを尻目に、新たな刃を右手にも携え、砲撃後の隙を晒すバンダーを十字に切り裂く。そこで動作は終わらない。そのまま空中で身をひねり、後方へ二刀を投擲。刃がヒュッと風を切り、のそりと振り向いたバムスターたちの眼を射抜けば、迅は柔らかく着地を決める。

 

3体は立て続けに崩れ落ち、衝撃に土煙が高く舞った。

 

「ふー、いっちょ上がりだな」

 

武器を収めて独り言ち、落とした視線を軽く上げる。

彼を囲むのは、斬り伏せ終えたトリオン兵。折り重なる残骸の山。

 

一見獣じみてはいても、プログラミングされた行動パターンを有するそれらの攻撃は、やはり単調だ。数の分だけ時間はかかるが、さして問題にはならなかった。

 

 

 

「!…………」

 

何かにピクリと反応し、瞳に真剣な色を宿す。

 

「なるほどね、いよいよか」

 

不意やって来たのは、慣れ親しんだいつもの感覚。

 

新たに浮かぶ未来の情景。彼のサイドエフェクトが、自らに次の選択肢を提示してきた。

 

「……まずは天羽のところだな」

 

最善を手繰り寄せるため、迅悠一が動き出す。

 

 

 

 

警戒区域の外縁。その程近く。

 

一つ二つと銃声が響く。それに続くのは、鈍く硬い金属音。

 

尽く弾かれるアイビスの射撃。

 

敵の勢いは衰えず、瞬く間に少女の目前に迫る。

 

ヤバい……!

 

夏目の脳裏に、浮かんだ一言がそれだった。

 

構わず逃げればよかったのにと掠めた思考は、しかし、すぐに放り投げる。

 

後悔してももう遅い。そもそも身体は勝手に動いていたし、仮に考える頭が残っていても、目の前の親友を見捨てる選択など、彼女にありはしなかった。

 

せめて一発。

 

どうにでもなれと、夏目は、半ばやけくそに引鉄を引く。

 

 

いや……引こうとした。

 

 

 

「ギムレット」

 

どこか聞き覚えのある声音。落ち着き払った呟きが一つ。

 

直後、視界の外から落ちた影が、敵の頭部に一撃を見舞う。

 

光の大弾が装甲を砕けば、影、もとい来宮は、軽い靴音を鳴らして着地し、次いで思い出したように、首無しの残骸がゴトリと倒れた。

 

一撃。

 

自分が何発撃ち込んでも、決して止まる気配のなかった新型。それがあっさりと倒された。

 

ヘタリと膝から座り込む。

 

途切れた緊張。それに唐突な状況の変化も手伝い、夏目は暫し呆然とする。

 

「たしか、夏目さんでしたね。ご無事ですか?」

 

「うぇっ!…………はい!……おかげさまで無傷っす」

 

向き直り、静かな声をかけられる。妙にどもりながらも立ち上がり答えれば、来宮は僅かに表情を綻ばせた。

 

『キノさん、左の民家からモールモッドが1体だよ』

 

「ええ、了解です」

 

直後の通信。国近に指示された先へ、来宮は視線を向ける。ほぼ同時に壁を裂き、見慣れた外敵が躍り出る。

 

スッと右手を標的へかざし、作り出すのは青白い光球。

グラスホッパーを低い腹の下に数枚展開。ドッと鈍い音を鳴らして、モールモッドが跳ね上げられる。

 

「スラスターオン!」

 

そこに飛び込むのは、唸りを上げるレイガストの刃。

 

追いついた三雲が横一文字に一閃を浴びせ、何もできぬままモールモッドは沈黙した。

 

 

 

地に足をつけ、三雲がホッと息を吐く。頬に冷や汗を流した彼はレイガストを肩に担ぎ、あらためて周囲を見渡してみる。

 

「修くん!来宮さん!」

 

見知った顔と視線が重なり、我に返った雨取が声を上げる。対して三雲は、彼女が肩を貸す人物に目を見開いた。

 

「千佳、一ノ瀬!」

 

2人へと駆け寄る彼を見やり、来宮も夏目を促し歩み寄る。

堪え切れなくなったのか、途中から夏目は駆け出した。

 

「チカ子!いきなり突っ走んじゃないっての!」

 

「わあ……!ごめんなさい」

 

「ホントにわかってんのかー!このー!」

辿り着くや否や、雨取にヘッドロックをしかける。

傍では三雲が慌てて一ノ瀬を支え、一拍おいて、後輩2人のじゃれ合いに揃って苦笑いを零した。

 

「ひとまず間に合ったようで、幸いです」

 

来宮が穏やかに言葉を漏らさせば、ハッと夏目が顔を向けた。

 

「あっ、さっきはホントにありがとうございます!敬語先輩!」

 

深々と告げられた感謝。それに添えられた予想外の呼び名に、思わず頬を掻く。

 

「夏目さん、来宮さんはもう学生じゃないから……」

 

三雲の訂正に、雨取がこくりと頷いた。

 

「え!?スミマセン!敬語さっ……じゃなかった……キノミヤさん」

 

「いえいえ、好きに呼んでくれて構いませんよ?口調やら呼び方やらなら、俺も結構我を通してしまってますし……」

 

ギョッとする彼女に、相変わらずの口調で静かに返す。

それよりも、と言葉を切り、来宮が避難の再開を促した。

 

行き過ぎた緊張感がいいとは言わないが、今の雰囲気は流石に緩み過ぎている。

皆あらためて気を引き締め、先を行く民間人達へと合流を目指した。

 

 

「あれ?意外と離されてないっぽい?」

 

数分して、夏目がそう漏らした。視線の先には先ほどの人の群れが見て取れた。

 

やがてC級の何人かがこちらに気づく。安堵の溜息。バツの悪そうな苦い顔。

浮かべる表情は様々だ。

 

「我先に……というには纏まりがありますし、ペースが遅いですね。冷静さを取り戻して、思うところがあったのでしょう」

 

「このまま何もなければいいんですけど……」

 

緊張気味な三雲に来宮も頷く。

 

「民間人もそうですが、俺や修さんと違い、C級はベイルアウトが…………!」

 

 

自らの言葉に、来宮の背中がザワリと泡立つ。

 

 

 

 

 

 

…………ジジジジ

 

 

 

異音が耳を掠め、目の前の空に大穴が口を開く。

 

『キノさん!ゲートの反応が……!!』

 

「っ……!そういうことですか!!」

 

 

 

 

警戒区域外。困惑の混じる警告。来宮が焦り駆け出す。

 

 

一団の行く道に、新たに3体のラービットが立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

さあ、雛鳥を捕まえようか

 

 

 

盤面を眺め、敵将は告げる。

 

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