背後に佇む三日月と   作:303

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大規模進行❽

玄界(ミデン)の戦力はほどよく散っています。ハイレイン隊長、如何なさいますか?」

 

仄暗い艇内に、淡々とした報告が一つ。

 

「頃合いだな。ラービットが仕事をする舞台は整った」

 

ミラの言葉を受けたハイレインは、満足気に彼女へ応え、周囲に視線を巡らせる。

 

隊を率いる長の言葉に、部下たちはそれぞれに反応を見せる。表情は違えど、皆一様に戦意を高めていることが見てとれた。

 

「ラッドの情報から、雛鳥が脱出機能を持たないことはわかっている。お前たちは玄界(ミデン)の兵と遊んで来い…………ラービットの仕事を邪魔させるな」

 

 

 

 

新たな脅威が動き出すその瞬間が、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来宮の目指す視界の内に、白、黄、紫の装甲が映る。

次々悲鳴が耳に届く。

新たな3体のラービットが、背を向け逃げるC級たちを1人、また1人と食らっていく。

 

「くそっ……!」

 

その光景に悪態が零れる。声音がらしくもなく荒い。

数秒の時間さえ、今はもどかしくて仕方がなかった。

 

猛然と駆ける来宮は、踏み出す先へ1枚のグラスホッパーを形成、更にその速度を加速させる。

その間にも敵の手は、新たな獲物へ伸ばされる。

 

いま一歩、次を防ぐには距離が足りない……。

 

風を切る感覚の中、自身の咄嗟の行動にも、妙に冷静な思考が回る。

一見諦めにも思えるそれをしかし、そうではないと切り替えた。

 

 

届かなくともやりようはある。

 

 

「グラスホッパー」

 

 

呟き前へと掌をかざす。

再び作り出すプレートは無数に分割され、C級を襲おうとするラービット達の眼前へ、壁のように展開された。

突出していた紫の個体が、止まる間も無くその壁に触れる。

複数のプレートが四角い波紋に形を変え、その体躯をドッと押し返した。

分割した数が数だけに、遠く弾き飛ばすような勢いは無い。けれどもそれで十分だった。

 

残る白と黄の2体は、阻害された光景に次の行動を踏み止まり、その僅かな間に人波を飛び越え、空いたグラスホッパーの隙間を抜けて、来宮が敵前に割って入る。

 

「アステロイド」

 

普段のそれより低い声音。

一歩踏み込み、押し返した個体に掌底を撃つ。掌のアステロイドが弾け、敵をさらに奥へと押しやった。

 

当然、相手も黙ってはいない。黄の個体が来宮に、白の個体がC級たちへ、双方狙いを定め、それぞれが攻撃の姿勢を見せる。

 

 

「させるとでも?」

 

 

言葉と同時に、来宮の背に残されたグラスホッパーの壁が消え去り、その影に散らされた置き弾が露わになる。

 

大量の弾丸が、3体へ向けて掃射された。

 

大したダメージは入りはしない。しかし、連続する衝撃が、相手を行動の前に釘付けにする。

その弾幕の影に紛れ、地を掠めるように低く踏み込む。

狙うは紫の個体。標的の中でも、最も体勢を崩したそれ。その足をすれ違いざまの一撃で刈り取った。

 

直後、ピシリと乾いた音が鳴り、足下の路面に亀裂が走る。

咄嗟にグラスホッパーを起動、自身を真上に跳ね飛ばせば、紫の刃が無数に突き出た。

 

足を失ったラービットが地に腕を突き刺し、その先がゴボリと泡立っている。

 

スコーピオンと同系統?……いや、あの一定しない形態は……

 

「!……液状のブレード、これは狙いを違えましたね」

 

空中で独り言ちた来宮へ、次いで黄の個体が黒い突起を撃ち出す。

すぐさま左手でシールドを展開、正体の分からぬ射撃を阻む。

 

再度ラービットの前に降り立てば、スローの散弾を間を空けず散布、前方の空間を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

『修さん、聞こえますか?』

 

『!……来宮さん』

 

散弾越しに敵を見据え、後方の三雲へ内部通話を繋ぐ。

 

『このまま3体を抑えつつ、徐々に本部へ向け後退します。あなた方も、俺から一定の距離を保ったまま下がってください』

 

『それじゃあ、来宮さんの負担が……!』

 

『道中ずっとではありません』

 

三雲が思わず声を上げ、彼の反対を遮り続ける。

 

『ユウさんが増援を要請しましたから、俺はそれまで持たせればいいだけです』

 

『時間は、掛からないんですね?』

 

『……現着まで数分とのことです』

 

ラービット相手に3対1。三雲には数分でさえ無茶に思えた。

 

『………分かりました』

 

それでも頷かざるを得ない。この場で対抗しうる戦力は、来宮1人だけなのだから。

 

『近づき過ぎもそうですが、あまり離れ過ぎないように。万が一また追加が来れば、フォローが効きませんから』

 

少々酷だったかと苦笑いを浮かべながら、そんな注意を付け加え、目的へ向けて思考を回す。

 

1体の足は奪ったが、攻撃の手段は残されている。その射程がどれほどなのか。

残る2体は未だ健在。装甲の厚さに任せた強力な打撃と、小さく避けづらい欠片の射撃。異質な形状には何かしら機能があるだろう。

 

それらをここからどう捌くか……。

 

 

 

「…………さて、踏ん張りどころですね」

 

 

 

自らに言い聞かせるように、来宮は小さく言葉にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ着かないの!」

 

勝気な少女の声が響く。

 

車両の後部座席に立ち、小南桐絵は、ハンドルを握る木崎を急かす。

 

「数分で報告のポイントだ。無理に飛ばしても時間は変わらない、そう焦るな」

 

「あー、もー!なんであたしたちがこんなに出遅れなきゃいけないの!?」

 

「丸々、おまえを拾いに行った時間だな」

 

「まあ、そうすね」

 

落ち着いた態度からの彼の返しに、小南はさらに不満を漏らすが、自分が原因だと淡々と返えされ、助手席の烏丸も同意する。

 

「なっ!?そこまでかかってないでしょ!?」

 

小南は、焦ったように言葉した。それに溜め息を吐いたのはどちらだったか。

 

「そもそも、オペレーターの設定にアレコレ盛るのはどうかと思いますけど?毎回即興で合わせるの苦労するんすから」

 

「っ!……そ、それはともかく!向こうの状況はどうなってるの?国近先輩はなんて言ってたのよ?」

 

強引な転換だが、話が逸れるのでそのまま続ける。

 

「来宮と修が千佳たちと合流、同時に新型を撃破してる。その後C級の集団に追いついたところで、進行先を新型の追加3体に抑えられた」

 

「修たちは無事なんすか?」

 

烏丸の問いに木崎は頷く。

 

「来宮が今その3体を抑えてる。そのままジワジワ後退しつつ、本部の通用口を目指してるのが現状だ」

 

「作戦は?」

 

「いつもと同じだ。小南が暴れて、俺たちがフォローする」

 

「了解」

 

「OK!新型なんかズタボロにしてやるわ!」

 

 

勢いよく答え、小南が右手にトリガーを握る。

 

「トリガーオン!」

 

彼女の言葉をキーにして、起動音が高く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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