太刀川隊作戦室のオペレータールーム。
目線の高さに位置する画面、そこでは、赤と青の2台のマシンがしのぎを削る。
コントローラーを握る手には汗が滲み、時折唸りを上げるエキゾースト音が、その闘いの熾烈さを物語っていた。
コーナーに差し掛かり、青のマシンの大外から赤のマシンがドリフトで滑り込む。
「そぉい、1位頂き〜」
「っ、ここで仕掛けてきますか、相変わらずいやらしいですね」
「ふふ、結果がすべてなのだよ〜、キノさん」
「おっと、そうは問屋がおろしません」
ドリフト直後の僅かな車体のぶれ、それを立て直す一瞬の隙に、青いマシンがインコーナーへ矢のように割り込む。
「む〜、やるではないかぁ」
「負けっぱなしも癪ですからね」
双方が横一線に並び、ラストの直線を直走る。
『Goal‼︎ it’s amazing‼︎』
スピーカーからやたら発音のいい英語が流れ、勝敗が決した。
「あー、ひと伸び足りませんでしたか」
「いやぁ、アブナイアブナイ、手に汗握るいい勝負だね〜」
来宮は椅子にもたれ溜息を吐き、国近はほくほくとした表情で伸びをする。結果は見ての通りである。
「いや、強いですねユウさんは、苦手なゲームあるんですか?」
「ゲームで苦手はないつもりだけど、格ゲーはキノさんのほうがじょうずだよね〜」
「好きではありますが、たまにしかやらないんですよね、格ゲーは」
「も〜、そのたまにで何回やられたと思ってるのぉ、すごい悔しいんだよ〜」
「あたっ、すいません」
国近がポコポコと来宮の左肩を叩く。思わぬ藪蛇に来宮は平謝りしていると、トレーニングステージからの転送音に顔を向けた。
「あんまりだ、こんなの横暴だ……」
「お、柚宇さん珍しく涙目じゃん、来宮さん勝ったの?」
深く項垂れ憔悴した様子の唯我に、先程と変わらぬ出水。前者はこってりと絞られたようだ。
「国近先輩!聞いてください!」
「勝ったのはわたしだよ〜。これはフルキズを抉られただけなのだよ」
唯我を飛ばして答える国近。
「鮮やか過ぎるスルー⁈」
「人聞きの悪いこと言わないでください」
「来宮サンまで⁈」
とりあえずそれに倣う、なんとなく流れで察した。
落ち着きのない唯我を目に、それにしてもと来宮は思う。
「……コネで此方に来たにしても、そこまで弱いものですか?」
「これ、さっきのログです来宮さん」
出水が差し出した端末を手に取り、眼を通せば一つ頷く。
「……なるほど、唯我さん」
「へ?なっなんでしょうか?」
「俺と模擬戦やりましょう」
「え」
先程の焼き増しになるとしか思えない言葉に、唯我は固まった。
*
昼下がりの市街地。それを模した空間に、来宮と唯我が転送される。来宮は、青い顔色をした唯我に穏やかな声音で話しかけた。
「そう固くならないでください、こちらから幾つかレクチャーするだけですから」
「レクチャー?ボクにですか?」
唐突な成り行きに戸惑いつつ、唯我が先を促す。
「ええ、少なくとも損にはなりませんから安心してください」
ではどうぞ
その落ち着きはらった言葉を合図に、唯我が動き出す。来宮は屋根へと跳び登る動きを目で追いかける。
「高低差の利用できる高台を取る、悪くはありませんね」
ズドン
破裂音が一つ響く。
舌の根が乾かぬうちにグラスホッパーを起動、一瞬で距離を潰し、アステロイドの掌底がトリオン体を打ち抜いた。
「しかし不用意が過ぎます」
淡々とつながれた言葉。再生される自身の体を呆然と眺めて、唯我は早くも後悔する。
「あの場合は射撃で牽制しつつ距離を取り、死角へ回った上で地形の有利を奪うべきです、さて、どんどん行きましょう」
新たな絶望感に涙腺が決壊し、滝のように涙が流れる。
「い、いやだああぁぁあぁあぁ」
その後も幾度か絶叫が響いた。
*
「オツサレサマデシタ」
あれから30分余り、打ち抜かれては問題点を指摘されることを繰り返した唯我は、なんとか声を絞り出し、作戦室を去ろうとする。
「あっ、唯我さん、もう一つだけ」
「ひぃっ」
ビクリと怯えられる様子に、さすがにやりすぎたかと来宮はすまなそうな笑みを浮かべた。
「あー、今日はもうぶち抜いたりしませんから、本当に一つだけアドバイスです」
「ほっ本当ですか?」
「……本当にすいません」
余りのビビリように本気で謝り、本題に入る。
「柿崎国治さん、彼のログを毎日見るようにしてください」
「柿崎さん、ですか?」
古株ではあるものの、実力者としては馴染みない名前に唯我は疑問符を浮かべる。
「ええ、派手さはありませんが、堅実で粘り強い銃の使い手です、勝つよりも負けない立ち回り、今のあなたに必要なこと学ぶ参考になるはずです、期待してますから、頑張ってください」
「!……わかりました」
長らく受けていなかった期待の言葉、それに少しだけ足取りを軽くして、唯我はその場を後にした。
「随分唯我に甘いっすね、来宮さん」
それを見ていた出水が声をかける。
「足掻いてる人を見ると、応援したくなるもので」
「あんまり希望持たせるのもどうかなー、と思うんですが」
「ない希望なんて抱かせませんよ、疎かにしている基礎さえ補えば、人並みの資質は発揮していくはずです」
「あの唯我が?」
眉を顰め、彼を知る人間からすれば当然の疑問を来宮へ示す。
「2年ほど費やせば、B級上位に喰らいつきますよ」
「気の長い話だなー」
「こればかりは現実ですからね。飴玉一つでレベルアップとはいきませんよ」
「キノさん出水くん、次のゲームだよ〜」
いそいそとハードの用意をしていた国近から呼び掛けられた。
「 はい、了解です」
「柚宇さん、今行くからちょっと待ってよ」
2人が立ち上がり、オペレータールームに足を向ける。
「……これなら勝ち目はありそうですね」
タイトルを確認し、喜色を浮かべるのは来宮。
「さあさあ、日頃のセツジョク晴らしてくれよ〜」
「のっけから格ゲーとか、来宮さん無双じゃん」
国近、来宮に出水が参戦し、再び画面上の戦いへ熱中していった。