背後に佇む三日月と   作:303

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国近柚宇①

太刀川隊作戦室のオペレータールーム。

目線の高さに位置する画面、そこでは、赤と青の2台のマシンがしのぎを削る。

 

コントローラーを握る手には汗が滲み、時折唸りを上げるエキゾースト音が、その闘いの熾烈さを物語っていた。

コーナーに差し掛かり、青のマシンの大外から赤のマシンがドリフトで滑り込む。

 

「そぉい、1位頂き〜」

 

「っ、ここで仕掛けてきますか、相変わらずいやらしいですね」

 

「ふふ、結果がすべてなのだよ〜、キノさん」

 

「おっと、そうは問屋がおろしません」

 

ドリフト直後の僅かな車体のぶれ、それを立て直す一瞬の隙に、青いマシンがインコーナーへ矢のように割り込む。

 

「む〜、やるではないかぁ」

 

「負けっぱなしも癪ですからね」

 

双方が横一線に並び、ラストの直線を直走る。

 

『Goal‼︎ it’s amazing‼︎』

 

スピーカーからやたら発音のいい英語が流れ、勝敗が決した。

 

「あー、ひと伸び足りませんでしたか」

 

「いやぁ、アブナイアブナイ、手に汗握るいい勝負だね〜」

 

来宮は椅子にもたれ溜息を吐き、国近はほくほくとした表情で伸びをする。結果は見ての通りである。

 

「いや、強いですねユウさんは、苦手なゲームあるんですか?」

 

「ゲームで苦手はないつもりだけど、格ゲーはキノさんのほうがじょうずだよね〜」

 

「好きではありますが、たまにしかやらないんですよね、格ゲーは」

 

「も〜、そのたまにで何回やられたと思ってるのぉ、すごい悔しいんだよ〜」

 

「あたっ、すいません」

 

国近がポコポコと来宮の左肩を叩く。思わぬ藪蛇に来宮は平謝りしていると、トレーニングステージからの転送音に顔を向けた。

 

「あんまりだ、こんなの横暴だ……」

 

「お、柚宇さん珍しく涙目じゃん、来宮さん勝ったの?」

 

深く項垂れ憔悴した様子の唯我に、先程と変わらぬ出水。前者はこってりと絞られたようだ。

 

「国近先輩!聞いてください!」

 

「勝ったのはわたしだよ〜。これはフルキズを抉られただけなのだよ」

 

唯我を飛ばして答える国近。

 

「鮮やか過ぎるスルー⁈」

 

「人聞きの悪いこと言わないでください」

 

「来宮サンまで⁈」

 

とりあえずそれに倣う、なんとなく流れで察した。

 

落ち着きのない唯我を目に、それにしてもと来宮は思う。

 

「……コネで此方に来たにしても、そこまで弱いものですか?」

 

「これ、さっきのログです来宮さん」

 

出水が差し出した端末を手に取り、眼を通せば一つ頷く。

 

「……なるほど、唯我さん」

 

「へ?なっなんでしょうか?」

 

「俺と模擬戦やりましょう」

 

「え」

 

先程の焼き増しになるとしか思えない言葉に、唯我は固まった。

 

 

昼下がりの市街地。それを模した空間に、来宮と唯我が転送される。来宮は、青い顔色をした唯我に穏やかな声音で話しかけた。

 

「そう固くならないでください、こちらから幾つかレクチャーするだけですから」

 

「レクチャー?ボクにですか?」

 

唐突な成り行きに戸惑いつつ、唯我が先を促す。

 

「ええ、少なくとも損にはなりませんから安心してください」

 

ではどうぞ

 

その落ち着きはらった言葉を合図に、唯我が動き出す。来宮は屋根へと跳び登る動きを目で追いかける。

 

「高低差の利用できる高台を取る、悪くはありませんね」

 

 

ズドン

 

 

破裂音が一つ響く。

舌の根が乾かぬうちにグラスホッパーを起動、一瞬で距離を潰し、アステロイドの掌底がトリオン体を打ち抜いた。

 

「しかし不用意が過ぎます」

 

淡々とつながれた言葉。再生される自身の体を呆然と眺めて、唯我は早くも後悔する。

 

「あの場合は射撃で牽制しつつ距離を取り、死角へ回った上で地形の有利を奪うべきです、さて、どんどん行きましょう」

 

新たな絶望感に涙腺が決壊し、滝のように涙が流れる。

 

「い、いやだああぁぁあぁあぁ」

 

その後も幾度か絶叫が響いた。

 

 

「オツサレサマデシタ」

 

あれから30分余り、打ち抜かれては問題点を指摘されることを繰り返した唯我は、なんとか声を絞り出し、作戦室を去ろうとする。

 

「あっ、唯我さん、もう一つだけ」

 

「ひぃっ」

 

ビクリと怯えられる様子に、さすがにやりすぎたかと来宮はすまなそうな笑みを浮かべた。

 

「あー、今日はもうぶち抜いたりしませんから、本当に一つだけアドバイスです」

 

「ほっ本当ですか?」

 

「……本当にすいません」

 

余りのビビリように本気で謝り、本題に入る。

 

「柿崎国治さん、彼のログを毎日見るようにしてください」

 

「柿崎さん、ですか?」

 

古株ではあるものの、実力者としては馴染みない名前に唯我は疑問符を浮かべる。

 

「ええ、派手さはありませんが、堅実で粘り強い銃の使い手です、勝つよりも負けない立ち回り、今のあなたに必要なこと学ぶ参考になるはずです、期待してますから、頑張ってください」

 

「!……わかりました」

 

長らく受けていなかった期待の言葉、それに少しだけ足取りを軽くして、唯我はその場を後にした。

 

「随分唯我に甘いっすね、来宮さん」

 

それを見ていた出水が声をかける。

 

「足掻いてる人を見ると、応援したくなるもので」

 

「あんまり希望持たせるのもどうかなー、と思うんですが」

 

「ない希望なんて抱かせませんよ、疎かにしている基礎さえ補えば、人並みの資質は発揮していくはずです」

 

「あの唯我が?」

 

眉を顰め、彼を知る人間からすれば当然の疑問を来宮へ示す。

 

「2年ほど費やせば、B級上位に喰らいつきますよ」

 

「気の長い話だなー」

 

「こればかりは現実ですからね。飴玉一つでレベルアップとはいきませんよ」

 

 

「キノさん出水くん、次のゲームだよ〜」

 

 

いそいそとハードの用意をしていた国近から呼び掛けられた。

 

「 はい、了解です」

 

「柚宇さん、今行くからちょっと待ってよ」

 

2人が立ち上がり、オペレータールームに足を向ける。

 

「……これなら勝ち目はありそうですね」

 

タイトルを確認し、喜色を浮かべるのは来宮。

 

「さあさあ、日頃のセツジョク晴らしてくれよ〜」

 

「のっけから格ゲーとか、来宮さん無双じゃん」

 

国近、来宮に出水が参戦し、再び画面上の戦いへ熱中していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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