背後に佇む三日月と   作:303

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リハビリがてら、番外編をば。クオリティはお察しです(ーー;)


番外編:年の瀬と三日月

クシュリ

 

 

そんな少々間の抜けた音を耳に、来宮静間は目蓋を開く。

 

ロフトに敷かれた布団の上で、間近の天井を眺めることしばし……。鼻に残るむず痒さから、音の犯人が自分のくしゃみだとようやく気付いた。

 

頭を打たないようそろりと上体を起こし、両手を組めば、前方にグッと伸びをする。

 

「っ、今日は一段と冷えますねぇ……」

 

一言零し、ロフトを降りた来宮は、身なりを整えつつカレンダーに目を向ける。

 

12月30日。視線が今日の日付に焦点を結ぶ。

 

「まあ、今年も呼ばれるのでしょうね」

 

これまでの同じ日を思い返し、言葉と共に苦笑いが浮かんだ。

 

 

ほんの2、3時間後。部屋の整理を終えた彼のスマホに、予想通りのメッセージが届いた。

 

 

 

 

 

 

キノさん、たすけて〜

 

 

液晶越しに届く言葉。ユルイ絵文字の添えられた文。発信元の国近の文字。

やはりですかとひとりごち、座席の背にかけたモッズコートを羽織って、来宮は立ち上がった。

 

 

 

ボーダー本部の広いラウンジ。そこで画像の整理をしていた来宮は、数分かけて馴染んだ作戦室へとたどり着く。

 

ノックのために拳の裏を扉にかざす。ふと、僅かに声が耳に入り手を止める。

なかなか賑やかなそうな様子に、今年も苦労しているらしいと内心で呟けば、そんなタイミングで扉が開いた。

 

 

 

「およ?キノさん?」

 

見慣れた太刀川隊仕様のパーカー姿。緩く跳ねた赤茶の髪を揺らし、不思議そうに国近柚宇が小首を傾げた。

彼女の仕草に、彼は苦笑いを浮かべる。

 

「呼び出したのはユウさんでしょうに……なぜ疑問符が浮かぶんですか?」

 

「いやぁ、早いなぁ〜と思ってねぇ」

 

「毎年この日はこうじゃないですか。なんとなく、下のラウンジまで来てみたんですよ」

 

見た目のままの緩やかな声音に、来宮も落ち着き払ったそれで返す。

 

「ナルホドね〜。さすがは太刀川隊の救世主……!」

 

「大袈裟ですよ」

 

「いやいや、うちでは割とシカツモンダイだからね〜」

 

国近の言葉に来宮は呆れる。

 

「大掃除で危機を迎えるA級1位…………これって不味くはありませんか?」

 

「あはは…………さあキノさん、決戦の地へオモムコウではないかぁー」

 

来宮の問いを笑って誤魔化し、部屋へと引き入れる国近。

 

「……まったく」

 

しょうがないと苦笑いを零し、来宮はその後に続いた。

 

 

 

「だから太刀川さん、なんで片付けた所に物置くんだってば……」

 

「?……いや、このカニ時計邪魔だろ?」

 

「邪魔は邪魔だけど、裏に埃ビッシリじゃん!雑巾かけた意味なくなるって」

 

 

顎髭を撫で、さも当然のように言う太刀川に、微妙な表情で注意する出水。

 

目の前のやり取りに来宮は既視感を覚えた。

 

「このやり取りも恒例ですねぇ……」

 

「うん……現状こんな感じだよ〜」

 

国近の返答に、先客の2人もようやく気づく。

 

「おお、来宮……!いいとこ来たなぁ」

 

「来宮さん、……今年もすんません」

 

揚々と迎える太刀川に対して、出水は済まなそうにして頭を下げる。

 

「お気になさらず、半ば予想はついてましたから」

 

「その返しは、それはそれでクるなぁ……」

 

静かに答えた来宮に頬を掻き出水が返す。

 

「ヘコむなよ出水、来宮が来れば怖いもんなしだ……!」

 

「慶さん」

 

「んあ、どおした来宮?」

 

気楽な様子の太刀川に来宮が一言。

 

「去年も言いましたが、成人なさってるんですから、もう少しきちんとしませんか?」

 

「あー、ちょっとムリだなオレこういうのは苦手だから」

 

元上司に溜息を一つ

 

「開き直らないでください……風間さんにもお手伝いをお願いしましょうか?」

 

「よし!やるぞ!出水、国近、ちゃっちゃと再開だ……!」

 

隊長の変わり身の早さに、部下達はそろって苦笑いを零した。

 

 

 

 

 

「あ、慶さん、その新聞紙はそちらのゴミ袋に」

 

「!……おう、リョーカイリョーカイ」

 

来宮の声に応えつつ、太刀川は筒状に丸めていた新聞をそそくさとゴミ袋へ放り込む。

 

その様子を横目に、国近は部屋に視線を巡らせる。

ソファとテーブルを部屋の隅に立て掛け、散乱していた私物は個人ごとに振り分けてから、一旦オペレータールームに退避させた。

現在、溜め込んだゴミを詰め込まれた袋が4つある以外は、ほぼ何も無いスッキリとした状態になっている。

 

「……なんだか、うちの作戦室じゃないみたい」

 

「同感。改めて物どかすと、けっこー広く感じるね」

 

国近の呟きに、出水が伸びをしつつ頷く。

 

「溜めた一年分を丸々綺麗にするわけですから、こうもなりますよ」

 

2人の会話に来宮も加わる。よく溜め込んだものだと、いつもの苦笑いがまたも零れた。

 

「……にしても腹減ったなぁ。来宮、一旦メシ行かないか?」

 

太刀川の声で、左手の時計に視線を移せば、12時をとうに過ぎていた。

 

「そうですね、この辺りで一息入れましょう」

 

隊長に一つ頷き、モッズコートを羽織り直してサッと払う。

 

「お昼はどこで食べるの〜?」

 

「そうだなぁ、外行くのもメンドイし、食堂行くか」

 

「昼時の食堂とか、混むイメージしかないんすけど……」

 

「1時近いし、まぁ空き始めるだろ」

 

国近の問いにのんびりと応じ、太刀川が先だって扉を潜り、その後に出水、国近と続く。

 

その様子を眺めつつ来宮も部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「いや〜、キノさんのお陰で大助かりだよぉ〜」

 

食堂への道中。数歩先を歩んでいた国近が歩調を緩め、来宮と並ぶ。見上げる形で、ニヘラと気の抜けた笑みを見せる。

 

「……掃除は得意ではないんですがね」

 

彼女の表情を目に、来宮は困ったような笑みで返した。

またまたぁ〜、と口にする国近には、謙遜に聞こえたようだが、事実ではあった。

身の回りの整頓で、身内に窘められた回数など数え切れない。比較対象が酷すぎるだけなのだ。

 

 

 

「…………あのね」

 

声音の変化に、思考が切られる。

声の方へ顔を向けると、彼女の笑みに別の柔らかさが混じる。来宮が言葉を待つのを感じて、国近は続ける。

 

「争奪戦のとき、こんな風にできるって思ってなかったんだ……」

 

国近は、前を歩く太刀川と出水の背中をみやる。距離が離れて、だいぶ小さく見えた。

 

彼女に言葉なく来宮は頷く

 

ボーダーを二つに割っての争い。親友の立ち回りの甲斐あって、立場や経歴に傷など残らなかったが、人の心情はまた別だろうと、来宮自身もそう思っていた。

 

 

 

「…………いい意味で、裏切られたと思いましたね」

 

 

少しの間の後、深いため息を漏らした。そして来宮がしみじみといえば、クスっと国近が小さく吹き出す。

 

「?……可笑しなことを言いましたか?」

 

彼がキョトンとして問えば、国近はフルフルとかぶりを振った。

 

「今のキノさん、なんだかお爺さんみたいだなって」

 

「唐突に酷いですねぇ」

 

「っ……もうしわけない」

 

尚も笑いを堪え、戯ける彼女に、来宮は苦笑いで返す。

 

 

 

「おーい、国近、来宮。午後もやるんだろ!さっさと食って食休みだ」

 

そこへ、前から太刀川の声が届いた。作業ではなく食休みなあたりが彼らしい。

 

「さて、隊長がお待ちかねですし。急ぎましょうかね」

 

「だねぇ」

 

言葉にして、2人は歩調を早めて進む。

 

あの時の対立の緊張を思えば、忙しなくとも、気兼ねなく共にいれる今日は悪くない。

 

 

 

「ねぇ、キノさん」

 

内心で呟く来宮に、またも国近が声をかける。

 

「?、はい、ユウさん」

 

来宮もまた、耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こういうのって、やっぱりいいよね

 

 

国近のその一言に、来宮は穏やかな笑みで応えた。

 

 

 

 

 

 

 

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