またまた番外編です
ガコン
小気味良い音を鳴らし、自販機の口にミルクティーが落ちる。
伸ばされた華奢な手がそれを掴む。先程まで冬の空気で冷やされていた手のひらに、缶の熱がピリピリと伝わった。
慣れつつある感覚を放ったらかしにして、国近はプルタブを引き、ミルクティーをコクリと飲む。
「お?……柚宇さん降りてきたんだ」
聴き馴染んだ声に振り向く。
「やぁ〜、おはよ〜出水くん……と加古さんも一緒なんだ?珍しいですなぁ」
「おはよ、柚宇ちゃん」
国近に明るく答えて、出水と並ぶように加古が歩み寄る。
ポジションは同じとはいえ、なかなか見ない組み合わせだった。
「今日はなんかあったっけ?シューター、ガンナーのトーナメントはこの間やってたよね?」
改めて疑問を口にする。それに一つ頷き加古が答える。
「最初はわたしは双葉と、出水くんは来宮くんと、それぞれ模擬戦をしてたのだけれど、休憩を入れたタイミングでバッタリ会ったのよ」
「ほ〜、ナルホドナルホド……?」
納得しかけて首を傾げる。
「それならキノさんと黒江ちゃんは?」
「2人ならブースでバトってるよ」
そう返した出水が続ける。
「ほら、最近黒江が来宮さんからアドバイス貰ったって言ってたよね?その成果を見てほしいんだってさ」
そう言って、背中越しにスクリーンを指し示した。
*
フィールドは市街地A。ありふれた住宅街を模した風景の中で、来宮と黒江が相対する。
ダークブルーのロングコートを纏い、来宮はゆったりと構え、黒江は紫の隊服姿で、腰を軽く落とし、背中の弧月に手を掛ける。
「さあ……お次はどうします?」
穏やかな声音を聴き、しかし黒江の緊張は増す。
ジリジリと利き足を相手へと進め、隙を伺う。
クッ、と来宮の左肩が引いた。
動く……!
彼の行動を予測し、黒江が一足に踏み込む。前進の勢いに乗せて一刀を振り下ろす。来宮は右へステップを踏みそれを躱し、右のアステロイドの掌底を黒江に打ち込む。
黒江は被弾の寸前に屈んで回避、腰を落とす動作と同時に来宮の足元を斬り払えば、来宮は待機させていたグラスホッパーを起動。無動作で宙へと逃げおおせた。負けじと黒江が旋空を一閃、二閃と放っていく。それさえもグラスホッパーによる機動力で掻い潜り、再び掌底の間合いまで飛び込んだ。
ボッ
風を切り、右の掌打が黒江を襲う。咄嗟にシールドを張るが、掌のトリオンに砕かれ、左腕を僅かに抉られる。
漏出するトリオンを抑える間も無く、来宮は次々と掌底を放った。
*
「相変わらず、キノさんはアグレッシブだねぇ〜」
戦況を眺める国近が感想を口にする。その隣で出水が乾いた笑いを漏らした。
「連打の頭にアステロイド。アレが効いてるな……殆どがただの掌底だけど、受けに回って万が一かち合えば終わりだ。あの距離と回転の速さじゃ、判別の余裕なんてないだろ、ご愁傷様だなぁ」
「仮に距離があったとしても、来宮くんのあのキューブの形成速度だもの。どちらにしても見分けるのは難しいわ。あの追撃を逆手に取れれば良かったんでしょうけれど」
出水の言葉に、加古がそう加える。各々に考察を進める中で画面上では更に戦闘が進んで行く。
来宮はアステロイドを織り交ぜた掌底に、さらに足払い、回し蹴りと、得意の体術を組み込み、連撃を繋いでいく。
厳しい表情で受けに回っている黒江は、モーションの大きな足技に着目し、その隙を狙う。
何度目かの回し蹴り、その後にできる僅かな空白、そこへ迷わず斬り込んだ。
しかし、それも布石。
ロングコート状の隊服。それにより生み出された死角から、カウンターの散弾が飛び出す。
画面越しにも、彼女が息を呑むのがわかった。
次の瞬間、身体に紫電を纏い急加速。 韋駄天を咄嗟に回避に使う。
「あ……使わされたな」
出水が一つ声を漏らした。
加速の直後、正方形の波紋を残して、来宮の姿が掻き消えたからだ。
高速機動が解けるまさにその瞬間、
トリオンを乗せた掌底が、小さな身体を打ち抜いた。
*
「…………あんな技まであるんですね」
「一応とっておきなのですが、改善点が無いわけではありませんから。……使わなければ磨けもしませんしね」
席に着き、ココアを片手に黒江は小さく溜息を吐けば、テーブルを挟んだ来宮が、落ち着き払ってそれに返す。
「……あたしは練習台ですか?」
「その練習台が務まるだけ、活きた動きが出来てたってことだろ?」
不満気に漏らした呟きに、来宮の左隣から出水が言う。
「そうでしょうか?」
「ええ、悪くはなかったわ」
首を傾げた黒江に、隣で加古が頷いてみせる。
「うん、わたしもログ見せてもらったけど、黒江ちゃん、戦い方から無理が減ってきたよねぇ」
来宮の右隣でミルクティーを飲み、国近も感じたことを口にした。
皆から出るのは、成長を認める言葉。それは素直に嬉しいと黒江も感じるが、やはり勝負は勝負……
「……それでもやっぱり、負けっぱなしは嫌です」
憮然として言葉を返す。
そんな黒江の様子に、来宮と国近は苦笑いを零し、出水はニヤリと笑みを浮かべた。
「ねぇ、加古さん」
「そうね、丁度頭数も2人ずつだもの」
彼が加古と視線を合わせれば、彼女も口元に弧を描く。
「私と双葉、来宮君と出水君。こんどはこれで、タッグ戦といきましょう」
私と双葉からのリベンジマッチよ
パンと両手を打ち鳴らし、加古はそんな提案をしてきた。
黒江と出水は即座に了承、来宮はそれに頬をかき、いつもの苦笑いで頷いた。
……続くかもです