「先日は、ご心配をおかけしました」
静かな謝罪の言葉が発せられる。
太刀川の作戦室。そのソファに腰掛け向かい合うのは、来宮静間と国近柚宇の二人だ。
ブラックトリガーを巡る争いから一夜明け、改めて心配を掛けたであろう国近へ、来宮は謝りに足を運んで現在に至る。
テーブルを挟み、頭を下げる彼を見ていた国近は、はじめこそいかにも怒っていますという表情を維持しようとしていたが、真摯な姿勢を目の前に、徐々に無理に釣り上げた眉が下がる。
数瞬後、彼女はハァ、とため息を吐く。吐いた息と共に、ムスッとした顔は、たちまち普段の緩さを帯びた。
「ホントにもう……また無理したらやだよぉ、キノさん?」
「……ええ、善処します」
気まずげに来宮が返す。相手の心情をある程度理解しながらも、わかりましたと言い切れないあたり、我ながら面倒な性分だな、と自ら呆れる。
「むぅ……わかっていないでわないか〜」
口を尖らせた国近が言う。テーブルに片手をつき身を乗り出し、来宮の肩をポカポカと叩いた。緩い仕草と口調から、そこまで本気ではないらしい。
また気を使わせてしまったと、罪悪感が顔を出す。
「お詫びというのもあれですが、何か一つ、何でもいうことはお聴きしますよ?」
「ほほう……今、なんでもって言ったね?」
彼女の瞳のその奥に、キラリと星が光った気がした。
*
「……で、こうなるわけですか」
翌る日。周囲を見渡した来宮はひとりごちる。
三門市内のとある駅前、その広場の片隅に彼はいた。
来宮は左腕を徐に胸元まであげ、モッズコートの袖口に光る腕時計に視線を落とす。約束の時間まで十分以上ある。些か早く来すぎただろうか?
罪悪感か、はたまた別の理由か。行動の理由を自問自答すれば、これまでの待ち時間も加味して、昨日とは別の意味で自身に呆れた。
「お〜い、キノさ〜ん」
そんな思考は、緩い声に遮られる。
声の方向へ顔を向ければ、ニヘラと笑い、こちらへ手を振る国近の姿が視界に入った。トタトタと来宮へと駆け寄り、改めて彼女が口を開く。
「ごめんね、なんだか待たせちゃったかなぁ」
「元々俺が心配をかけた埋め合わせなんですから、ユウさんが謝る必要はありませんよ」
小さく謝る国近に、来宮は穏やかに言葉を返す。
「ん、そういえばそうだったねぇ。ではではテイセイして……」
コホン、と咳払いを一つ。
「キノさん、いい心がけではないか、ほめてつかわす」
「はは、ありがたきしあわせ」
くだらないやり取りを挟み、二人は並び歩を進め始めた。
*
「夕焼けばっかりじゃなかったんだね〜」
カフェひだまり。来宮の通い慣れたその場所で、国近はタブレットを眺めながら言う。
彼女の目に映る画面には、羽繕いをする一羽の雀が切り取られていた。
肌寒い季節。その時期特有の羽毛を蓄えた姿は、モフモフとしていて愛らしい。
「夕陽は好きなんですが、流石にそれだけを取るわけではありませんからね」
右手のカプチーノをコースターに置いて来宮が返答し、それよりも、と言葉を続ける。
「提案した時はてっきり、徹ゲーか、ゲームセンターでもハシゴするものかと思ったんですがね」
「むぅ……シッケイな。キノさん、わたしをなんだと思ってるの〜?」
「すみません、冗談です」
ゆるく文句を言う国近に苦笑いで返しつつ、来宮はこの日の流れを思い出す。
気ままに街を歩き、時折目に留まったものをカメラに写す。
言ってしまえばそれだけ。国近と二人で、という相違点はあるものの、それ以外は来宮静間のたまの休日そのものである。
「なんでまた、俺の休み方の体験なんてお題目にしたんですか?自分で言うのもおかしな話ですが、あまり楽しめるものでもないと思うのですが……」
のんびりとした過ごし方と言えば、聞こえは良いかもしれないが、人によっては淡々とし過ぎて味気ないだろう。そう思えてしまうのがこの過ごし方だ。
そんな来宮の疑問に国近が返す。
「そこはほら、いつかみたいに趣味と称して、自主パトロールなんてことしちゃってるんじゃないかな〜と……」
「明らかに、埋め合わせとはベクトルが違いますよね?」
「いや〜キノさん、オーバーワークとかフツーにしそうだし」
「いや、ユウさん、俺をなんだとおもってるんですか?」
「スミマセン、ジョーダンです」
先ほどの来宮を真似て言う。戯けた口調そのままに、そこはヒミツということで〜、と国近ははぐらかした。
彼女の緩やかな笑みに、照れ臭そうな色が滲む。
「ヒミツと仰るのなら、仕方がないですね」
変化を察して、穏やかに応じる。
来宮の様子に少しホッとして、国近はミルクティーのカップを両手で包むように持ち上げた。
甘く暖かいそれをコクリと飲む。
彼女の仕草を境目に、会話の話題も別のものへと移っていった。
オペレーターたちのオススメのスイーツ。シューターたちのトリガー考察等。時間と共に、話題と話題が積み重なる。
この人の好きなペースで、この人の好きなことをして過ごしたら……どんなことを感じるんだろう?
そんな彼女の好奇心も、それらの中に埋もれていった。