後編をどうぞ。
ッキー…。
声が聞こえる。誰かに呼ばれてるのか?
だが俺はまだ眠いんだ。もう少し寝かせて貰おう。
なおも俺を呼ぶ声は続くが、無視だ無視。
……ッキー。ヒッキー!ヒッキーってば!そろそろ起きなきゃ先生来ちゃうよ!
……しょうがない、由比ヶ浜。あたしに任せな。
え?沙希どうするの?どうしてそんなに強く手を握ってるの?
それはね…。こうするのさ!
ドゴォ!
「ゴハッ!」
凄まじい衝撃が全身に走り、顔面をはげしくちゃぶ台にぶつける。同時に中途半端だった俺の意識が完全に覚醒する。
小さい頃小町が寝てる俺の背中によく飛び乗ってきていたが、ここまで痛くは無かった。
痛む顎を撫でながら顔を上げる。すると教室はもう結構な人で埋まっていた。
すでに新しいクラスで人間関係を築けたようで、周りではいくつかのグループが楽しげに談笑している。
時計を見ると(これもかなりの年季がはいっている)既に時刻は8時30分。
二年の頃と同じ時間割ならそろそろ担任が入ってくる時間だ。授業の準備を始める必要があるだろう。
だが今の俺にはそれ以上に優先すべきことがある。俺の背中を殴った奴の確認だ。
誰かは知らんが寝てる奴の顔を確認もせず殴るとはたいした度胸だ。八幡久々にキレちまったよ…。屋上に行こうぜ。
というのは置いといて、殴った奴に文句の一つでも言ってやらんととてもじゃないが気が済まない。
なるべく不機嫌そうに濁った目を更に濁らせることを意識しながらゆっくりと後ろを振り返る。
するとそこには意外な奴らがいた。
「ヒッキーやっと起きたー。もう!何で新学期早々寝てるの!?話せなかったじゃん!」
「まあまあ落ち着きなよ由比ヶ浜。こいつにそんな気遣い存在すると思う?期待するだけ無駄だよ。」
「モハハハハ!我が相棒八幡よ!ようやく起きおったか!」
「っべー!ザイモクザキ君朝っぱらから飛ばしすぎだべ!」
俺に話しかけてくるチャラ男と不良女とビッチと厨二病。
字面だけ見れば相当濃い面子が俺の席の付近には集まっていた。
というかちょっと待て、由比ヶ浜と戸部は分かるが何故川崎と材木座がFクラスなんかにいる?
あの二人は成績は悪くなかったはずだ。
「えーと、とりあえずいろいろ聞きたいことがあるから一つずつ聞かせてくれ。」
「いいよ。一つ目は?」
「俺の背中を殴った奴は誰だ?」
「あ、それあたし。あんた由比ヶ浜が必死で起こそうとしてるのに起きようとしないからさ。ついね。」
「ついで殴るとかお前は平塚先生かよ…。」
恨みを込めた目線で川崎を睨みつける。だが逆に睨み返されてしまい八幡は防御が下がったので大人しく引き下がった。ふぇぇ…怖いよぉ。
「次に二つ目。川崎とそこのデブは何故Fクラスにいる?」
「それを聞きたいのはこっちだよ。何であんたがFクラスなんかにいるのさ?」
「それはまあやむにやまれぬ理由があってだな…。」
「我は何というか、こう八幡がFクラスに来るから運命で導かれたといったところか…。」
材木座は本当に俺のことが好きすぎない?これが美少女なら萌えたのに、白髪のデブが言うと何も萌えない。
「誤魔化さないではっきりいいなよ。面倒くさいのは嫌いだし。」
「お前が話したら話そう。」
「いやいや、あんたが話してよ。あたしの理由とかどうでもいいし。由比ヶ浜も聞きたそうだしね。」
「えっ、ここで急にあたしに振らないでよ!そりゃまあ確かに気になるけどさ…。」
そういって由比ヶ浜は上目遣いに俺を見る。やめろ、やめてくれ。その目線は俺に効く。
まずいな、まさか名前を書き忘れてFクラス入りなんだ☆とか間違ってもこいつらには言えない。
そんなこと言ったら確実に雪ノ下に情報が伝わってバカにされる。
具体的には「あら…名無しのごんべえ君こんにちは。今紅茶を入れるわ。」てな感じで一ヶ月はからかわれるに決まっている。なんとしてでも隠し通さねば。
今も俺を見る川崎と由比ヶ浜の視線から逃れるためにここは材木座に犠牲になってもらおう。
「材木座。何でお前はFクラスに来たんだ?俺としてはそっちのほうが気になる。お前確か日本史は得意だったよな?」
「あ、ヒッキー厨二に話題振って誤魔化そうとしてる。」
「まあいいじゃん由比ヶ浜。この後どうせ聞くんだから。」
くそっ、誤魔化せなかったか。まあ今のは我ながら強引とは思ったが。
「はぽん?そんなに気になるか八幡よ?ん?」
「うぜぇ…。ああ、気になるから教えてくれ。」
「ふむぅ…。仕方あるまい教えてやろう。だが八幡よ、我はお主を軽蔑したぞ。こういうのは何も言わずとも伝わるものだろう!」
「俺はお前に興味ないから伝わんねぇんだよ。言わないなら失せろ。」
「あ、待って待って!言う!言うから!」
面倒くさいモードに入った材木座は冷たくするとすぐに素がでるから扱いやすいくていい。
あれ、何気俺も材木座の事よく分かってるじゃねぇか。よし、このことはすぐに忘れよう。
「その、実はだな…恥ずかしい話なんだが、笑わずに聞いてくれるか?」
「大丈夫だ。誰もお前のFクラス落ちの理由に興味ないから。」
「あれ?ヒッキーさっき自分で興味あるって言ってなかったっけ?あれー?」
「そこらへんは考えても無駄だから考えなくていいよ由比ヶ浜。」
「皆ちょっちザイモクザキ君に冷たすぎる気がするべ…俺は笑わずに聞くよ!」
「おお、戸部某・・・一番我と関係が薄いであろうお主が味方してくれるとは…。」
「よし、言おう!我がFクラス落ちした理由はずばり!名前の書き間違いだ!」
「川崎、お前から先言ってくれよ。」
「あんたから言ってよ。あたし先は嫌だよ。」
「もっと興味持ってあげなよ二人とも…。でも名前書き間違いなんて高校生でそんなことする?」
「ゴハァ!」
「俺ももうちょっと深い理由と思ってたわー。何か拍子抜け?って感じ。」
「グフゥ!」
「ちちち、違うのだ!我は心奥深くに刻まれた剣豪将軍の名を書いただけなのだ!なのにあの教師陣と来たらそれを『名前違うよね?君0点ね。』などと勝手に決めおってからに!」
「それあんたが悪いんじゃん。」
「高校生にもなってそこのところの分別もつかないのかお前。」
「グヒン!?」
あばばばば…と言いながら倒れる材木座。精神が耐え切れなくなったか。哀れな。
だが材木座の件はあながち馬鹿には出来んな。名前書き間違えで0点扱いとは。こいつはそういうやつと分かってるだろうし多めに見てもいいだろうに。
ついでに俺のも大目に見てくれればいいがそれは高望みだろう。
というか材木座に先に発表させたのは失敗だったか。
これで俺が「俺は名前書き忘れたんだ。」なんて言おうものなら、きっとこれ以上に馬鹿にされる。
今は倒れているが材木座も「モハハハハ!ば、馬鹿が!我より馬鹿がここにおるぞ!」と大爆笑とともに復活するだろう。
もし川崎も同じ理由ならありがたいが可能性は低いだろう。
なんとしてでも奴に先に言わせなければ生き残れない…。
「じゃあ次は川崎だな。お前は何でFクラスに?」
「こういう時は男から言うもんだよ。あんたはどうしてCとかじゃないのさ?」
「いやいやいや、ほらレディーファーストって言うだろ。からここはお前に譲るよ。」
「は?いいから先に言いなよ。」
「あ?お前が言えよ?」
「ストーップ!二人とも一度落ち着いて!」
お互いに腹の探りあいをしながらガンを飛ばしあってると由比ヶ浜が間に割って入ってきた。
場の空気を重んじる由比ヶ浜(最近はそうでもない時もあるが)からすればこのまま険悪なムードになるのが目に見えていたのだろう。
まあここで由比ヶ浜が止めてくれて良かった。正直このままなら確実に殴り合いに発展していた。
そして俺が一方的にサンドバッグにされていただろう。
由比ヶ浜に引き離された後もしばらくは睨み合いが続いた。すると川崎がこの睨みあいを不毛と思ったのかため息と共にこう切り出した。
「ハァ……。ここで変に意地張って重大な理由があるって思われるよりかはマシか。分かった。あたしから先に言うよ。」
「おおー!沙希えらい!大人!それに比べてヒッキーは…。」
「俺は自分の意見を貫き通しただけだ。それに簡単に折れてすぐ相手に屈してしまうような大人に俺はなりたくないからな。」
「おお、何かヒキタニ君かっこいいわー!」
「戸部某、八幡の言ってる事は一瞬だけ立派に聞こえるが、よくよく聞けばなかなか屑な発言だぞ。」
由比ヶ浜や戸部には難しい言葉を使って乗り切ろうとしたが、材木座に冷静なツッコミを入れられてしまった。
材木座の癖に…!悔しい!でも感じちゃう!ビクンビクン!勿論感じてないけど。
「ヒッキー顔キモイよ?何か変なこと考えてるでしょ?」
こういうときだけやたら鋭いなお前。
「夫婦漫才は置いといてさ、言っていい?興味ないようなら私も言いたくないしいいけど。」
「め、夫婦漫才ってなんだし!?別にヒッキーとはそんなんじゃないからぁ!」
「いや、でも結衣とヒキタニ君俺は結構お似合いだと思うけど?海老名さんをめぐるライバルも減るし、付き合ってもいいと思うわー。」
「戸部っちまでふざけてこと言わないで!しばくよ!?」ドゴォ!
「ガハッ…言いながら…しばくとか…マジぱないっしょ…。」
「と、戸部某ィィ!」
戸部の顔面に細い由比ヶ浜の腕が強烈なラリアットをかました。おお、すげぇ。由比ヶ浜なかなかいい腕前をしている。平塚先生から何度か喰らった俺から見て、先生に負けず劣らずの威力だと思う。
まあ今のは戸部が悪いし助けてやる気はない。材木座も雰囲気的に叫んだだけで実はそこまで心配はしてないだろう。
「沙希!戸部っちは置いといて、話してよ!沙希頭いいのに何でFクラスに?」
「えっと、うん。その恥ずかしい話さ…この前ネットで見た服が可愛くてけーちゃn、京華のために夜更かしして作ってあげてたら寝坊しちゃって…。それでテストが受けれなくてさ…。」
「え?その場合追試とか受けられなかったの?」
「それが、『実際の大学入試で遅刻してテストが受けさせて貰えると思うか?』って教頭に言われちゃって…。」
「ふむぅ、我の件といいいささか厳しすぎるとは思わんか?のう、八幡?」
「俺に聞くなよ、話してるのは川崎だろ…。」
「でも、厨二の言う事も一理あるかも!教頭の和田厳しすぎるよね!あたしも前、校門でポケモン?つけられたし!」
「それを言うならいちゃもんな。ポケモンつけてどうすんだよ。」
「し、知ってたし!ちょっと間違えただけだし!」
腕をブンブン振って必死にそういう由比ヶ浜。当の本人は気づいてるんだろうか。その腕の間でバルンバルン揺れる二つのメロンにクラス中の男子の視線が釘付けになっていることに。
ちなみにうちのクラスは何故か男子が多い。というか女子は由比ヶ浜と川崎くらいだ。あとはもう一人目立たない女子がいる程度だ。総武高校の三年男子は馬鹿が多いらしい。
「沙希それ教育委員会とかに言ってみなよ。それで頭悪い扱いなんて納得行かないよ!」
「いや、あたしは別にどこのクラスでも勉強は出来るしもう諦めたよ。それに変に高級な方があたしに合わないしね。」
由比ヶ浜の提案に川崎はそう答えるが表情は暗いままだ。Aクラスなどに行くとお菓子や飲み物が無料でもらえるらしい。家族思いのこいつからすれば、下の子達にお菓子や飲み物を持って帰ってあげたかったのだろう。
それにしても、川崎の自嘲気味な発言で由比ヶ浜も勢いをそがれてしまったのか意気消沈している。いつもはうるさい材木座もどうしたらいいのか分からずにキョロキョロしている。なんともきまずい空間だ。
するとそれにしびれを切らしたのか、いつの間にやら復活していた戸部が俺にこう聞いてきた。
「んじゃ、最後はヒキタニ君だべ!ここでいっちょ空気変えるために面白い感じでオナシャス!」
こ、こいつ!何て最低の振りをしてきやがる!面白いことを言えってのはどこの世界でも共通で無茶ブリといえるだろう。
ソースは俺。かつて俺がバイトの打ち上げに誘われた時に先輩が「おい、何かお前面白い事言えよー!」と場のノリでネタを振ってきた。そのときの俺は何も思い浮かばずただただキョドって「あ、うぃす…え、その…」としか言えず、完全に宴会は白けた。その次の日からバイトは止めた。
つまりだ、何か面白い事やれはボッチには禁句なのだ。リア充がやれば「ふとんがふっとんだ!」でも「下らねー!」といいながら爆笑が起きるのだろうが、ボッチがやれば、ただただきまずいだけである。
ゆえに俺はこう答える。
「俺にお笑いを求めても無駄だから普通に行かせてもらうぞ、俺はテストの前日に眠れなくてつい夜更かしをしてしまったんだ。その結果テストの最中に寝てしまって名前を書き忘れていたんだ、以上俺の話は終わり!」
全員がポカンとしている。これぞ秘技「ボッチ特有の早口!」
だが俺は忘れていた。俺以外にもボッチがいたことを。
「いや、あんたそれ一番恥ずかしい間違いじゃん。名前書き忘れるとか小学生でもやらないよ。」
「うぐぅ!」
「も、モハハハハハ!ば、馬鹿がここにおる!我以上の馬鹿がここにおるぞー!」
「ぐぎぎ…!」
川崎に罵倒され、材木座に馬鹿にされて怒りのあまりはぎしりをしてしまう。
だが、事実故何も言い返せないのが悔しい!
せめて一言何か返してやろうと思った矢先。
その瞬間チャイムが鳴った。そして平塚先生が教室に入ってきた。
平塚先生は教壇に立ち、腕を組みながらクラス全体を見回すと顔を頷かせた。
「さて全員集まっているかね。席を移動している者は各自自分の席に戻ること。」
平塚先生にそう言われて、戸部も材木座も川崎も由比ヶ浜もおとなしく近くのちゃぶ台に戻る。
くそっ!弁明の機会が遠のいたか。
今後材木座にしばらくからかわれるんだろうなぁと思うと気が滅入る。
だが、俺のそんな不満は平塚先生の一言で消えうせて、逆に新しい不満を引き起こした。
「さて、改めて自己紹介をしよう。私は生活指導教であると同時に、このFクラス担任にもなった平塚静だ。よろしく頼む。早速だが連絡事項の前にお互いを知るために自己紹介をしてもらいたい。まずはクラス代表からだ。比企谷、前に出てくれ。」
は?代表?俺が?
次回
クラス代表となった八幡は周囲に認められるのか