再び恋する十四松 作:たむりょー
更新遅いかもしれませんが頑張って書いていきます!割とダークですが、読んでいただけたら嬉しいです!!
ボクたち六つ子は、ニートだった。20を過ぎても働かず、ずっと家にいるか、好きなことをしてただただ惰性的に過ごしてきたんだ。
長男のおそ松兄さんはパチンコや競馬などの賭け事、そしてAV鑑賞をしていて、次男のカラ松兄さんは何かよくわからないけどかっこつけていた。三男のチョロ松兄さんは意識高かったけど結局何もしなかった。四男の一松兄さんは猫と遊んでた。末っ子のトド松は女の子と遊んでた。ボクはといえば気が狂ったように野球しまくっていた。住むところもご飯もお金も全部お母さんとお父さんが与えてくれた。だから楽な生活ができたんだ。
ボクたちはいつまでも子供でいたかった。何もせずに生きていける子供のようにいきたかったんだ。だから、ニートであり続けたんだ。
でもそんな日々も、終わりを告げていく。チョロ松兄さんの就職が決まったのだった。
ボクたちは心から祝った。チョロ松兄さんの新しい門出を祝ったんだ。まあ、機嫌の悪いおそ松兄さんを怒らせて、おなかを蹴られちゃったんだけど。
チョロ松兄さんはその次の日に出ていき、ボクも玄関で見送った。その姿を見て、ボクは胸を打たれたんだ。
その後はトド松が家を出ていった。でもちょっと暗そうだった。カラ松兄さんはチビ太のところに居候した。
そして――僕は応募したバイトに受かって、デカパン博士に厄介になる形で家を出ていったんだ。
「おし、今日の作業は終わりだ!! 家に帰っていいぞ!!」
「お疲れさまでした!!」
バイトが終わり、それぞれ自宅へと帰る。僕もいろんな人にお疲れ様を言い、着替えてバイト先を後にする。
「あぁ……いったいなぁ……」
体中が痛み、ボクは苦笑いする。体力には自信があると面接で答えたせいでボクはバイト先でこき使われているけど、想像以上につらい。終わったころには体中がボロボロになっていて、時には骨だって折った。でも、一緒に一生懸命働いているハタ坊を見て、僕は弱音は吐かなかった。弱音を吐いたら元の自分に戻ってしまうのではと考えると怖かった。
バイトをして気づいたことがある。働くって、やっぱりいいものだ。遊ぶのも楽しいけど、働くのもいい。今までの、遊んでばかりの生活で見えなかった何かが、見えたような気がした。
バイトしていって、いつかは就職しよう。そしてまっとうな人生を歩んで、幸せに暮らそう。そんな、誰もが望む普通の夢を、ボクは抱くようになったんだ。
そんなボクは息を吐いて、美味しい夕ご飯を楽しみにしながら帰り道を歩いた。まだまだ夢は遠いなぁ。
「あの、少しいいかな」
ふと、急に後ろから声をかけられた。ボクは振り返り、はいと答えた。スーツを着ている男の人でサラリーマンっぽい。
「ああ、仕事で疲れているところ申し訳ない。少し聞きたいことがあって」
「はいっ、何でしょーか!?」
ボクはにっこり笑いながら話しかけてきた人に言う。
「君はこの女性を知っているかな?」
話しかけてきた人はスーツの内ポケットから写真を取り出してボクに見せた。ボクはそれを手にとって見る。途端、ボクの心臓は体から飛び出してきそうなほどにはねた。
(え……?)
手の震えが止まらない。ドキドキする。写真に写っているのは、ボクのよく知っている女の子だった。
ボクの胸の中にある、あの温かくて、面白かったつかの間の思い出の中にいるあの人が、ボクの初恋の相手だったあの子が僕の目の前にいるような気がした。
「ど、どうして……」
「その様子だと知っているようだね」
「えっ、はッはい!!」
あまりに衝撃が強くて返事にワンテンポ遅れてしまった。話しかけてくれた男の人は苦笑いしてボクに質問していく。
「その女性が今どうしているか知らないかな?」
「どうしているか、ですか? うーん、よくは知らないです。田舎に帰るとだけ言ってました!」
「田舎、か……ふむ。いつごろ帰ったかは覚えてるかな?」
「よくは覚えてないけど半年くらいは前じゃないだった気がします!」
「半年くらいか、ありがとう。おっと、私の紹介がまだだったね」
質問ばかりしていて自分が何者かを明かしていなかったことに気づき謝罪する。ボクはそんなこと気にしないんだけど。
「私は
「そうなんですか……あ、ボク松野十四松って言います!!」
同じ職場の人だったのか。彼女がどんな仕事をしているか知らないけどね。
「そうか。松野君はどうして彼女の事を知っていたんだい?」
「……昔、一緒に遊んでいたんです。それで……」
「なるほどね。君たちは付き合っていたのかな?」
質問する矢田さんの眼が一瞬細められた気がしたけど、きっと気のせいだ。ボクは正直に答える。
「いや……振られちゃったんです。田舎に帰るってことで」
「……そうか、それは残念だね。でも私はきっとまた会えると思うよ。私は何となくそんな予感がする」
「ボクは信じています、また会えるって」
「それでいい。信じ続けるのはいいことだ。さて、私はこれにて失礼するよ。貴重なことを聞かせてもらったよ、どうもありがとう」
矢田さんは背を向けてボクと反対の方向へと去っていった。ボクもぺこりと頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございました~。またあえたらいいですね~」
「そうだな。君もきっと彼女に会える。だから仕事頑張ってね」
矢田さんは振り返って微笑み、その後歩みを止めずに帰っていった。ボクも帰路に着くべく踵を返した。
「ははは……そっか、あの子と同じ職場の人だったんだ……」
ボクは自然と笑顔になってた。一人でにやけているから気持ち悪がられるかもしれないな。でも、周りに人いなかったからよかった。
あの子のことをまた聞けて良かった。しばらくあの子のことを考えてなかったから驚いてしまったけど。ボクが封じ込めていた想いが、解かれてしまいそうだ。
「また……会いたいなぁ……」
ボクは紫色に染まる空を見上げた。6つの星が瞬いていて、目を奪われる。
この景色はきれいだ。今まで見た中で一番じゃないかなって思っている。
いつかボクはちゃんと自立して、この空を一緒に見るんだ。ボクのギャグを心から笑ってくれた、とっても純粋な人と。
「――よし、明日も頑張るぞ!! マッスルマッスル! ハッスルハッスル!!」
ボクははるか遠くでこの空を見ているであろう彼女に聞こえるように、一人しかいない道で持ちギャグを披露していた。誰かに見られたらどうしようなんて言う気持ちは、知らぬ間に消えていた。
***
「……………………」
暇だ。
何もすることがない。
「……………………」
どこにも行きたくない。
何にもしたくない。
「……はぁ」
何度吐いたかわからない、小さなため息。
妙に大きく聞こえる時計の音。
それ以外には何にも聞こえない。喧しい声も、物音もない。この部屋には、ふすまに背を向けて横になっている俺一人だけだ。
ふすまが開けられる。俺はちらりとみた。そこには母さんの姿があった。母さんの眼は、悲しそうだった。
(哀れんだ眼をするんじゃねぇ)
「おそ松、ご飯よ」
「……わかった」
俺はぶっきらぼうに答えるとゆっくりと立ち上がった。母さんはすぐに部屋から出ていき食卓へと向かう。俺は伸びもせずにのろのろと母さんの後に続く。
「……いただきます」
母さんと父さんとは別のテーブルに座り、黙々と食べ物を口にいる。味なんてわからない。ただ、食べるだけ。何にも考えていない。考えることすらもう面倒くさい。
「……ごちそうさま」
何もしゃべらずに食べると早く食べ終わるものだ。俺は黙って席を立つ。でも、正直何にもこれからすることがない。
(そうだ、酒でも飲むか)
昼間にも拘らずふと酒が飲みたくなった。ビール飲んで何もかも晴らしたくなった。俺は台所にある冷蔵庫を開けて缶ビールを探す。だが、もう一本も入ってなかった。
俺は食事をしている母さんに尋ねた。
「……母さん、ビールはないの?」
「ビールはないわよ。昨日お父さんが飲んじゃって」
「……チッ」
俺は舌打ちして玄関へと向かう。
「おい、どこに――」
「屋根の上に行く」
母さんと一緒に食事している父さんにぶっきらぼうに返すと俺は外に出た。部屋の中にいてもしょうがないし、屋根の上で寝転がった方が気持ちいい。酒を買うのは面倒だからやめた。
俺はどうにかして屋根に上り、天辺にてごろっと仰向けになる。瓦の感触が伝わって少し痛い。そして日差しのせいで瓦が相当熱いけど、それがかえって心地いい。何にも考えずに済む。
俺は瞳を閉じて眠りにつこうとした。
「すみません、少しいいでしょうか」
大きな声が聞こえた。俺は閉じかけた目を開けて、声をする方を見る。
うちの家の前の道路に、一人の男が立っていた。スーツを羽織っている。
「お休みのところ申し訳ない。少しお尋ねしたいことがあるのですが」
「……」
なんで俺に聞くんだよ。中にいる母さんや父さんに聞けよ。
俺は応じる気がないと言わんばかりに瞳を再び閉じる。
だが、男は俺にかまわず喋り続ける。
「実はですね、探している女性がおりまして」
「…………」
俺に聞いてんじゃねえよ。バカかこいつは。知ってるわけねえだろ。人探しなら警察に頼めよ。
言い返すことだってできた。でも面倒くさいから、何にも云わない。
俺は眼を開けずに相手が去るのを待つ。
だけど、その直後、俺の近くで物音が聞こえた。俺は微かに目を開ける。すると、目の前に革靴が見えた。
(ちょっと待て、まさかこいつ――)
俺は顔をあげる。すると、予感は的中していた。
いつの間にかこいつは屋根に上って俺の近くにまで来ていたのだ!
「おい……何来てんだよ」
「話に応じていただくにはこの方がいいと思いましてね」
「はぁ……俺はアンタの探している人なんて知らねぇ。だからとっとと出て行けよ」
俺はキレ気味に言い放つ。しかし、男は笑みを浮かべたまま自分の持つカバンへと手を伸ばす。
「この写真を見ても、知らないと言い切れますか?」
「あ?」
男は取り出した写真を俺に見せつける。すると俺は一瞬ピクッと反応した。男が微かに笑ったのを俺は見逃さなかった。畜生、これは絡まれるぞ……。
でも反応しないわけがない。その写真に写っていた女の子は、俺の弟の十四松の初恋の相手だったからだ。無邪気に笑う彼女の写真を見て俺は驚きを隠せなかった。
そして――俺はこの男の狙いが読めた。その子を探す理由も察した。
「知っていらしたんですね」
「……俺の弟が一時期好きだったんだよ、その子の事。そんで、あんたは何者だ?」
「紹介が遅れて申し訳ない。私はノルポコーポレーションの矢田露亀と申します。貴方の名前は?」
「松野おそ松だ。で、あんたはその人を探しているんだな」
「えぇ。というか……その人に戻っていただこうと思いまして」
「……なるほどね。しかしノルポコーポレーションか、ずいぶんと大きいところじゃねえか。よく"息子"がお世話になったぜ」
俺は皮肉気に笑う。矢田さんフフッと微かにほほ笑む。
「というか意外だよ――まさかその子が、そんな大手の女優だったとはな。信じたくは、なかったけど」
「街中で見つけてスカウトしたんです。なかなかの逸材なんですけどね」
俺は思い返していた。
半年くらい前かな、十四松とその彼女がデートしているのを尾行した時の帰り、一人でアダルトコーナーでオカズ探しをしていた時だ。俺は偶然見つけたんだ。十四松の彼女が出演しているAVを。
俺は他人の空似かもしれないと思った。それを十四松に聞いて確かめようかとも思った。
でも、できなかった。あいつの純粋な恋愛を邪魔できなかった。家の中で無邪気に笑いながら一松に関節技を喰らわされている十四松を見て、言えなかった。それ以来俺は彼女は他人の空似だと思い込んでいた。
でも、空似なんかじゃなかった。今日はっきり分かった。彼女はれっきとしたAV女優だったんだ。自殺しようとしたのはAV女優という仕事に嫌気がさしたから。田舎に帰ったのは、そんな仕事から足を洗うためだ。そいつがはっきりした。
「アンタ、やっぱり彼女を連れ戻すつもりなのか」
「ええ、彼女を主役とした新作を作ろうかと思っていましてね」
「……なるほどな。でも、もう足を洗ったんだから追うべきじゃないんじゃね?」
「ところが、そういうわけにもいかないんですよ」
「なに?」
俺は聞き返した。いつの間にか、見知らぬ人とこんなに話せていることに気づかぬまま。
「彼女とは契約していましてね、期間はまだ終わっていないんですよ。3年間の契約でしたが、半年も満たしていないのに逃げられてしまったというわけなんですよ。うちでは途中で契約を切るのは禁止でしてね」
「ふぅん……で、思い当たる場所はあるのか?」
「ありますよ。ここです」
矢田さんは一枚のメモ用紙を俺に見せる。そこには住所が書かれていた。
「ここは?」
「恐らく彼女の実家でしょう」
「……なんだよ、てっきり場所も分かんねぇのかと思ってた。人探しっつってももうわかっているようなもんじゃねえか。だったらさっさとそこに行けばいい話じゃねえかよ」
その彼女を一緒に探してほしいとでもいうのかと思ったら、すでに場所は掴んでいたとは。ばかばかしいと思って俺は背を向ける。
「そうですね、人探しというのは少し語弊がありました。でも、そこに行けないんです」
「なんでだよ?」
俺は振り返って聞く。
「彼女は田舎に帰ったのですが、私から避けるためでしょうからお話に応じてくれるわけがないでしょう。最悪両親などに警察を呼ばれてしまいかねません」
「そうだろうな。あの子からしたらアンタは敵みたいなものだろうしな。たぶん」
俺の言葉に矢田さんはフフと不敵に笑うだけだった。すごく図太いやつだ。
「ですから私を始め他のものでも行くことが出来ないのです。そこで、お願いがあるんです」
矢田さんは瓦の上で立ち上がり、薄く微笑みながら言い放った。
「貴方にそこに行っていただき、彼女を連れ戻していただきたいんです。もちろん、報酬はありますよ。貴方が自堕落なニート生活から脱出できるくらいのものは、ね?」
逆光に移る矢田さんの顔は、魔性に満ちた優しい顔だった。でも俺は、特におびえもしなかった。俺は溜息を吐いて立ち上がって向き直る。
一瞬、十四松の顔が思い浮かぶ。あいつの彼女を探すことになれば、間違いなくその子の人生は闇に染まる。またAVで大衆に恥ずかしい姿をさらされることになる。
俺は今人の人生の運命を握っている。強く拳を握りしめ、俺は顔を俯かせる。
「……いくらだよ」
「いくら、とは?」
「報酬はいくらもらえるんだよ」
矢田さんはニヤリと口端をゆがめながら答えた。
「そうですね……まあ、具体的な金額を示すならこれくらいでしょうかね」
矢田さんは右手と左手の形を変えて、「30」という文字を作った。
30万円か。
新人サラリーマンの月収ぶんじゃないか。
「あとまあ、働き次第ではうちで働いてもらうのもいいかもね」
「……ノルポコーポレーションでか?」
「ええ。もちろん、"花形"としてね」
「………………」
どうすればいい。
俺のせいであの子の人生を破滅させちまっていいのか。俺が幸せになる代わりに、あの子を壊していいのか。
断ろう。そして、クソみてえな日々に戻ればいい。
(……いいのか? こんなチャンス逃しちゃって、本当にいいのか?)
考えて見ろよおそ松。
30万を楽にもらえて、就職だってできるかもしれない。そうすれば、こんなクソみてえな生活から脱出できるんだ。
これは、俺の人生なんだ。他は関係ないんだ。俺のなんだよ。俺一人のものなんだよ。知ったこっちゃ、ねぇんだよ。
俺の気持ちなんて誰も分かっちゃくれないような世界に生きる人間の事を、何で考えなきゃいけないんだ。俺のことを気にせずに走り回った馬鹿が好きだった子のことを、考えるなんてばかばかしい。
ああ、もういいや。めんどくせぇ。これ以上悩むの、めんどくせぇ。
俺の選択は、俺が決めるんだ。だからもう、邪魔すんな。
俺は足を一歩踏み出した。それを、狂気が混じった笑みで迎える矢田さん。
俺は同じように笑って口端を酷く上げた。
これは、バラバラになった六つ子の、醜くも美しい、愛と狂気の物語。
おそ松がクズ同然です。でも手紙のおそ松も相当クズだったでしょ?それをうまく再現できたらいいです、はい。