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「さて、話し合いを始めようか。人間」
「……なんでお前が、さも主導権を握ってるみたいに話すんだ?図々しい奴だな」
街外れにある寂れた工場跡地、そこに俺達はいた。
重頭脳級による……基地?ハイヴ?から自らを戦術姫と、俺の愛機の不知火と、コールサイン〝ペイルライダー〟と名乗る少女の力で脱出した俺は、ペイルライダーに頼み子供の頃に見たこの場所に運んで貰った。
「……高校に入る頃に建て直しの工事が入る筈だから、時系列は俺とあいつが飛ばされる直前?」
ブルーシートによる幕や工事道具、建設機械が置いてあるものの、従業員の姿が見えない為、今日は祝日か何かで休みなのだろう。
ならば、と女子大生の姿をした重頭脳級と相対する。
「………それで?お前は俺と手を組んで何をする気だ」
「ふむ。先ず私達の事について話そうか。私達には私達を生み出した創造主から、ある一つの命令が下されている。それは生命体には手を出してはならない……というものだ」
「はあ?随分面白いこと言うね。今までお前らと殺しあってきた者は生命体ではない、と?」
「ああ。その時点での私にとって生命体とは一重に創造主である珪素系生命体のみであり私達と同じ炭素で構築された人類を、私達は生命体と認識していなかった」
ただの学習不足だ、と重頭脳級は言った。
その罪悪感など一つもないと澄ました顔に、俺の全身は激情が駆け巡り、次いで頭から爪先まで、氷水をぶっかけたように感覚が冷めた。
「しかし、不測事項に置いてこの姿となった私は本来の採取任務を中止して、人間を観測する事にした。その過程であのビルを購入したりもしたが。良い学習データは得られた。結果、人間を害することは決して望ましいことではないと結論に至ったわけだ」
重頭脳級は言った。
私達が間違っていたと。
ただ、それで何がどうなるわけでもない。
幼馴染のあいつは死んだ。
青髪の彼女も。
ヴァルキリーズの戦友達も。
俺が率いたあいつらも。
こんな感傷に何も意味がないと分かっていた。
だから刃は重頭脳級に続きを促した。
「関連あるモノとして私はこの世界に来た。ならば創造主もこの世界に来ている筈だ。そして私の目的はG元素を採集する事。だが、人間と敵対すると痛い目に合うと学習した」
「だから手を組めと」
「ああ」
刃にとってBETAとは仇敵とも怨敵とも言える。
目の前で幼馴染を殺し、その後、好き合っていた女を殺したのだから当然だ。
それが目の前でのうのうと自分は間違っていたと宣っている。
「殺すべきです。元より奴らに慈悲はありません」
ペイルライダーは外で相方と見張りを行いながら手の中の長刀に目を落とす。
自らはBETAを殺すために作られた兵器なのだから当然だと。
「それで済むなら簡単なんだけどねー。ペイルライダーちゃん。君さ、自分がどれだけ金食うか知ってる?それに対して自分がどれだけ金を産むことができるかも」
「……」
元来、戦術機とは金を喰うものだ。
突撃砲の弾薬や跳躍ユニットの噴射剤、戦術機本体の整備など、とにかく維持費に金が掛かる。
それが、戦術姫と名を変え身体を変えて1人の女として武器を振るうようになった。
女である以上男を、自身のマスターを気にするのであれば化粧に格好にと更に金を喰うことになるだろう。
それに対して彼女が提供できるのは力だ。
主人に敵対する愚か者を斬り伏せる力。
ただしその力が直接金を生むことはない。
この世界に、BETAと戦って金を得る職場など無いのだから。
「代わりに深海棲艦?って言うのー?それを倒す代わりにお金を貰えれば良いんだけどねー。ほら、僕らって艦娘とは違うわけじゃん?だから真っ先にサンプルとして捕まるだろうねー。そんで実験とか毎日されて最悪解体もあり得るかも」
「それが刃の為になるなら。この身の純潔すら厭わない覚悟ですが?」
「その刃君が弄られても、ソレ、言える?僕らを動かすことが出来る唯一の存在として良いように使われて潰されても?世界各国から命を狙われて僕とペイルライダーちゃんの2人で守りきれる?補給の無い今、どれだけ戦い続けることが出来る?」
「……」
再び押し黙ってしまった少女を横目で眺め、最古の戦術姫は可愛い我が子を見守るように微笑む。
「うんうん。無理だよね。此処は、僕たちがいた世界じゃないんだから。異物は排除されるもので、人というものは時に愚かに賢しく、未知の存在を解明しようとするものなんだ。下手を打つことは出来ないよ。そうすれば、刃君が死ぬからね」
長い間BETAと戦い続けた名機 F-4ファントムは考える。
この際BETAと組むことも仕方ないだろうと。
中の話を聞いた限り、重頭脳級はその学習機能を大いに振るって金を作り、住居を合法的に手に入れ、人のように生きている。
それが隠れ蓑としているかは到底判断出来ないが
人間とは敵対しない……その言葉が本当なのかは分からないが、もし刃に害するのであれば、その時こそが自分達の出番であり、例え自分達が斃れるとしてもBETAを一体残らず道連れにすれば良いのだから。
「それまでの敵と共に……。それもまた一興ってやつだよねー」
「……面白くありません」
凄まじく渋った顔のペイルライダーが可笑しくてファントムは朗らかに笑った。
一方で刃もまた重頭脳級と手を組むことを決めていた。
「……事情は大まかに把握した。それで、なぜ俺達の力が、戦術姫が要る?お前達なら深海棲艦すら飲み込めるだろ?」
BETAが恐ろしいのは物量によって押し潰す作戦だ。
それによって人類はジリジリと敗北に近付いていたのだから重頭脳級が倒されてこの世界に来たと聞いた時は内心驚愕した。
「深海棲艦は海に湧く。幾らBETAが環境に適応できると言っても、攻撃手段が乏しい。その点戦術姫なら機動力、火力どれを取っても深海棲艦に引けを取らないだろう?」
「馬鹿言うな数が少な過ぎる」
現戦力は不知火のペイルライダーとF-4ファントムのみ。
これでどうやって深海棲艦と戦えと言うのか。
「無いならば作れば良い」
「……それは、戦術機を?」
「戦術姫を、だ」
刃の疑惑の視線が重頭脳級を射抜く。
「そんなことできるわけがない」
「“妖精”を知っているか」
「?」
「妖精。少し前に艦娘を見ただろう?この世界の人類の守護者。人型の兵器」
刃は脳裏に吹雪と不知火を思い浮かべてたしかに頷いた。
「妖精はその艦娘を生み出す存在。私たちの“創造主”のようなものだ。私は人間を観察し、次に艦娘の分析を始めた。手始めに小型種のBETAを送り込み、情報を収集することにした」
小型種のBETAといえど成人男性と遜色ない体格をしている。
情報収集どころじゃないだろうと頭を捻ると、重頭脳級の補足が入る。
「私がこの姿を取っているように他のBETAにも変化が起きている。例えば要撃級や突撃級が人間サイズになっていたりと。小型種も例外ではなく手のひらサイズの大きさになって活動している」
更に小型化されて発見され辛くなり、しかも群で行動する小型BETA。
まるで軍隊蟻を思わせるその光景に刃の身体に鳥肌が立つ。
「検証が必要だが、妖精が艦娘を生み出す時に建造材というものが必要になる。これを回収して貰ったところ、この物質はG元素と全く同質である事が判明した」
「G元素と同じ物質があるのか?……悪用されかねないな」
刃にとってのG元素とはアメリカが日本に落としたG弾と呼ばれる核弾頭よりも更にタチの悪い兵器だった。
「実際は似て非なる物質なのだが、私がBETAを作る工程とは違った方法で艦娘を作っていた。具体的にはG元素の他に鉄鋼やボーキサイトなどを用いた工法だ」
それでどう作れば人と遜色ない美少女達が出来上がるんだと物申したい気持ちを抑えて刃は頷いておく。
「まあ、姿形を似せたからと言って、あの不知火とF-4とは別物になのだが」
アレは戦術機がこの世界の定義によって姿を変えた物だと重頭脳級は言う。
そして自分が作ろうとしているものはこの世界の定義に則って作る戦術姫だと。
「そこら辺はよく分からん」
「ああ、そうだ。私が作るわけではないから、後でお前の遺伝子サンプルを貰う」
壮絶な嫌な顔をしたのが分かったのか重頭脳級は淡々とした顔で笑みを浮かべて作るのは戦術姫を開発するBETAだと言った。
「私が作ろうにもこれまでのBETAしか作れないが、世界を二度も渡り内部から変質しているお前を基にして作るBETAはお前の命令しか受け付けず、この世界の定義と戦術姫の概念を融合させることが出来る筈だ。そしてなにより………」
「ああ、分かった分かった。俺のBETAでも何でも好きにしろ。その代わり不知火達の補給を先にして貰う。弾薬に噴射剤に、お前らに当てはあるのか?」
「時に人間というのはお前達と戦うよりも実に与し易い。金を掴ませ買収し、情報を突きつけ脅迫し、心理を揺さぶり心を折る。株は良い。情報さえ集めれば楽に稼げる」
無表情のドヤ顔さながらの重頭脳級と手を組むことになる。
コイツが真っ当な(?)金儲けをしてることに驚いたが、コイツは人類の敵、BETAだ。
戦術姫はもしもの時コイツらを倒すための戦力になる。
……コイツの寝首を掻こうとして逆に殺られることにならないよう精々慎重に動くとするか。
「そうだ。何時までも重頭脳級なんて長ったらしい名前で呼んでられないから。ーー“レイン”。今日からお前の事をそう呼ぶよ」
「ふむ。ブレインからブを抜いただけの安直な名前だがまあまあ悪くはないな」
最も多くのBETAを殺した衛士と、最も多くの人類を殺したBETAの歪な同盟が始まるーー。