突然だが貴方は神を信じますか?
……ああ、別に宗教の勧誘とかではないので安心してほしい。無理に答えてくれなくても結構だ。
ちなみに私は神を信じている。何しろこのFate世界にはサーヴァントとして現界した神という例もあるし、私自身神の化身や神の子供という設定のサーヴァント二人と契約をしているのだから信じざるを得ないだろう。
そして私は神に、特に運命とか幸運とかを司る神にそれこそ蛇蝎の如く嫌われているようだ。
だってそうじゃないとこんな……こんな「特異点にレイシフトした直後に敵のサーヴァントがいる戦場に転移する」なんて不幸、説明がつかないじゃないか?
……というか本当に何コレ!? 何でいきなりクライマックスな展開になってるの、私!?
とりあえず周囲を見回してみると目に入った敵のサーヴァントは六人。
まず「邪竜百年戦争オルレアン」の敵側のリーダーであるジャンヌ・オルタ。
バーサーク・セイバーことシュヴァリエ・デオン。
バーサーク・アーチャーことアタランテ。
バーサーク・ランサーことヴラド三世。
バーサーク・ライダーことマルタ。
バーサーク・アサシンことカーミラ。
特異点の冬木も中々酷いスタートだったけど、今回はそれに輪をかけて酷いよ! 何でスタート直後からオルレアンのボスとその部下のサーヴァント達とエンカウントしないといけないの!?
神様! そんなに私のことが嫌いなんですか!? 私がどんな罪を犯したっていうのですか!?
「……ねぇ。私は貴方に『何者か』って聞いたのだけど、そろそろ答えてくれないかしら?」
……はっ!? しまった。あまりの出来事に錯乱してジャンヌ・オルタ達のことを忘れていた。
し、失礼しました。私の名前は薬研征彦。医療スタッフだ。
「何ソレ? 変な名前ね?」
名乗ってすぐにジャンヌ・オルタに否定されるマイネーム。……私の名前って、西洋人にしたらそんなに変なのかな?
「それで? 変な名前の『マスター』さんは一体何をしに私達の前に現れたのかしら?」
………! ジャンヌ・オルタの言葉に私は、分かっていても一瞬体が固まるのを禁じ得なかった。
やっぱりジャンヌ・オルタは、私がマスターであることと、頼光さんとアルジュナが霊体化して私の側にいることを見抜いているようだ。
『……………』
ジャンヌ・オルタの言葉に彼女に従うサーヴァント達が臨戦態勢となり、それと同時に頼光さんとアルジュナもいつでも実体化して戦える準備をしたのが気配で分かった。
それでどうする? 今私がとれる選択肢は三つ。
一つは何とかジャンヌ・オルタ達を説得してこの場での戦闘を回避。
無理。ジャンヌ・オルタ達がそんな話に耳を貸すとはとても思えない。
二つはわき目もふらずにこの場から逃走。
これは一つ目より現実的だし、私としてはこの案を採用したいのだが、そうするとジャンヌ・オルタ達の追撃が行われるだろう。あの六人のサーヴァントの攻撃を気にしながら逃げるなんて危険なマネ、できることなら避けたい。
……と、なると残るのは三つ目か。
頼光さんとアルジュナと一緒にジャンヌ・オルタ達と戦って、隙ができたらこの場から離脱する。
危険だが現実的に考えて今はこれが一番確実な方法だろう。
全く。私は医療スタッフだ。バトル漫画の主人公なんかじゃないのに、どうしてこんな最初からこんな展開に巻き込まれているんだ?
「あら? また黙ったりして……ちょっと失礼じゃないの?」
………! 今だ! 頼光さん! アルジュナ!
「ええっ!」
「しっ!」
ジャンヌ・オルタの後半がやや苛立った声を合図に私は念話で頼光さんとアルジュナに作戦を送る。すると私と契約をした二人のサーヴァントは即座に作戦を実行してくれて、まずは実体化をしてジャンヌ・オルタ達六人のサーヴァント達に弓矢による先制攻撃を行った。
「っ!? アサシン!」
「くっ!」
頼光さんとアルジュナの先制攻撃にジャンヌ・オルタは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにバーサーク・アサシンことカーミラに声を飛ばす。そして呼ばれたカーミラは、自分の宝具であるアイアンメイデンを呼び出してはそれを盾の代わりにして、自分とジャンヌ・オルタ達を怒涛の勢いで放たれる無数の矢から守った。
やっぱりこんな不意打ちは通じないか。でもまあいい、ここまでは予定通りだ。
「……はっ! あっははは! 良いわよ貴方、凄く良いわ! こちらの言葉を無視していきなり奇襲だなんて最高よ! それだったらこちらも遠慮なしにヤッてあげる! ……お前達、いきなさい!」
私達のが次の手を考えているとジャンヌ・オルタは、狂喜と怒りが混ざりあった歪んだ笑みを浮かべてこちらにサーヴァント達を差し向けてきた。
よし。計算通り!
ジャンヌ・オルタは好戦的な性格だし、他のサーヴァント達も狂化の呪いもかかっているし、先制攻撃をしかけて挑発すればきっとこうなると思ったよ。
こちらに向かってきているのはシュヴァリエ・デオン、アタランテ、ヴラド三世、マルタの四人。ジャンヌ・オルタはその場を動かずカーミラも彼女に徹している。
「これで終わりね!」
ジャンヌ・オルタが早くも勝ち誇った顔をしているがその理由も分からなくもない。
向こうのサーヴァントの数は六人でこちらは二人。戦力比は三対一だ。普通に考えると先制攻撃を防がれた以上、私達に勝ち目はないだろう。
……………そう、普通だったらね。
だがジャンヌ・オルタ達が有利に見えた戦況はほんの数秒で逆転した。
「悪いが命を貰……ぐっ!?」
シュヴァリエ・デオンは死角から現れた「刀を持った頼光さん」によって斬り伏せられた。
「っ! しまった!」
アタランテは弓から矢を放とうとした瞬間に「弓矢を持った頼光さん」によって逆に射られた。
「これは……ぬう!」
ヴラド三世は背後に現れた「薙刀を持った頼光さん」によって腹部を貫かれた。
「…………………………はぁ。仕方ないか」
マルタは何かを諦めた表情でため息を吐いた後「斧を持った頼光さん」によって袈裟斬りにされた。
よし! よし! 作戦は大成功だ!
これが私の作戦。「先制攻撃の奇襲でジャンヌ・オルタ達を挑発して、こちらに突撃してきたところを宝具で出現させた頼光さんの分身で二段構えの奇襲をする」というシンプルなものだったが効果は予想以上で、四人のサーヴァント全員に致命傷を負わせる事ができた。
「な、な……!?」
「これは……!?」
味方のサーヴァント四人が全くの同時に戦闘不能になったのを見てジャンヌ・オルタとカーミラが絶句する。
お二人さん? 驚いているところ悪いけど、こちらにはまだ「とっておき」があるんですよ。……頼光さん!
「これで……終わりです!」
私の言葉を合図に「雷を纏った刀を構える頼光さん」が刀を振るって刀身から雷を放ち、ジャンヌ・オルタとカーミラ、致命傷を負って動けないでいるサーヴァント四人は頼光さんが放った雷に呑み込まれたのだった。