頼光さんの宝具による雷光が消えると、雷光が放たれた先にはの二人サーヴァント、ジャンヌ・オルタとカーミラの姿だけがあった。
他のサーヴァント達の姿はすでになく完全に消滅したようだ。まあ、頼光さんの宝具で完全な不意打ちで致命傷を負わせた上であの雷光の直撃を食らえば大抵のサーヴァントは消滅するって……ん?
「う、ぁ……」
いきなりカーミラが力なく地面に倒れると、そのまま彼女は立ち上がることなく身体を光の粒子に変えて消えていった。どうやらいくら防御していたとはいえ、戦闘系サーヴァントではないカーミラではガチの戦闘系サーヴァントである頼光さんの雷光の直撃に耐え切れなかったみたいだ。
これで残った敵はジャンヌ・オルタの一人だけ。しかも当のジャンヌ・オルタもカーミラのお陰で致命傷は避けられたもののいくらかのダメージを負っているようだった。
「く……! 私のサーヴァント達をこんなに簡単に倒すだなんて貴方一体何者なの?」
ほんの数十秒で自慢のサーヴァント達を五人も倒された上に自分も手傷を負わされたジャンヌ・オルタが怨敵を見る目で私達を睨み付けてくる。実際に彼女にしてみれば私達は怨敵なのだろうけど、やっぱりサーヴァントに敵意のある目で見られるのは心臓に悪い。
一体何者か、ですか……。さっきも言ったように私は医療スタッフだ。副業でマスターも兼業していますけどね。
そしてここにいる二人が私と契約をしてくれた英霊。源頼光さんとアルジュナだ。
「ふふっ。よろしくお願いしますね、ジャンヌ・オルタさん。……もっともマスターに敵意を向けた以上、大変短い付き合いになるでしょうけどね」
「………!」
私に名前を呼ばれて頼光さんが微笑みを浮かべてジャンヌ・オルタに挨拶をするがその微笑みは目が全く笑っておらず、それを見たアルジュナが僅かに表情を強張らせて頼光さんから数歩だけ距離をとった。
うん、分かる。分かるよ、アルジュナ。
あの状態の頼光さんって、アルジュナの父親のインドラ神の化身とか関係無くただひたすらに恐いよね。
「医療スタッフ? 衛生兵のこと? それに兼業って、衛生兵を兼ねたマスターってこと? ……あ、あはは」
ジャンヌ・オルタは一瞬訳が分からないという顔をすると、すぐに俯いて笑いだした。え? どういうこと?
「あははっ、何それ? せっかく甦ってこの、何もかもが間違った国に復讐できると思ったら……その矢先に片手間でマスターをしている衛生兵に、せっかく呼び出したサーヴァントのほとんどを消されて、ボロボロにされて……。本当、自分の無様さに吐き気を通り越して笑えてくるわ。ははっ。あはは……」
俯いたまま笑うジャンヌ・オルタの顔はここからでは見えないが、私には彼女が泣いているような気がした。
でもまあ、私には復讐者の気持ちは分からないが、漸く憎くて憎くて仕方がない対象に復讐できるようになって、それが上手くいきそうになったところで素性も、真面目に戦う気があるのかも分からない相手に邪魔された挙げ句、完膚なきまでにボロボロにされたら泣きたくなるよね……。
そう考えると何だろう。これは人理を守るための戦いの筈なのに、何だか苛めっ子になったような気がしていたたまれないんですけど。
「遺言はそれだけですか?」
……え?
声がした方を見ると、いつの間にかジャンヌ・オルタの隣に立っていた頼光さんが、抜き身の刀を振り上げていた。
ちょっ……! 頼光さん、待っ……!
私は思わず頼光さんを止めようとしたが、それより先に頼光さんの刀がジャンヌ・オルタの首に降り下ろされた。